第192話 3伯爵領の巡回助言を行った
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今週は巡回助言が3領ある。ワンスノーサ、トワイスノウ、トリセントだ。基本的には公爵・侯爵領より伯爵領は狭く、頑張れば1日で助言は終了出来る。とはいえ、何か緊急で対処しなければならない事があった場合に困るから、2日間で予定を立てている。
また、そろそろ王太子妃殿下の出産予定日が近づいているので、急な予定変更があるかもしれないことを念頭に置く必要がある。まあ、災害発生時など、私がどうしても対応できない場合は、魔導師達が魔力を供給する手筈になっているから、心構えだけの問題かな。
ワンスノーサとトワイスノウは順調に終了した。ワンスノーサは特に問題無く、トワイスノウは以前私が浄化した森も順調に回復中で、異状は無かった。2領とも改革派ということもあり、結構警戒していたのだが、表面上は友好的に対応して貰えた。それどころか、2領とも一部で甜菜を栽培しているためか、品種改良した甜菜を栽培させて欲しいと言って来たが、これについてはアルカドール領と交渉して欲しいと伝えておいた。特にワンスノーサ伯爵は、現農務大臣でもあるので、ごり押しさえなければ、普通に交渉出来ると思うし、ね。
また、精霊術士候補についても、各領で1名ずつ見つけることが出来た。
少々変わった出来事があったのは、トリセントだ。元々体制派だし、レイテアの件もあって、伯爵や主要な方とは面識もあるため、安心してやって来たのだが……。レイテアが久しぶりに帰ったことで、レイテアの活躍を聞いていた知人達が大勢訪ねて来たのだ。そのため助手のフェルダナが結構怯えていた。まあ、武術大会3連覇した知人が帰って来たら、会いたくなるよね……。
ただ、こちらも仕事でやって来ていることも理解してくれているようで、初日の巡回助言が終わった所で、トリセント家で護衛を担当する代わりに、レイテアは知人達との宴会に行ってしまった。流石に領主直々に頼まれては、私としても許可を出さないわけにはいかず、レイテアもばつの悪そうな顔をしていたが、知人達と話せるのは楽しみのようだった。
また、トリセント自体も他とは違った特徴がある領だったので、そういった所にも注意して助言を行った。
トリセント領内には、2つの国王直轄地が存在する。1つはアドガス。この国唯一の金鉱山があり、商務省の隷下組織が運営するとともに、陛下や王太子殿下が数年毎に視察される地域だ。産出した金は、金貨や装飾品の材料となっているほか、余ったものは金塊として王城に保管されているらしいが、実物は見たことが無い。それと、銀や銅も産出するらしい。
抽出法が気になったので聞いてみたところ、以前は前世で言うところの灰吹法が行われていたらしいのだが、ある時、トリセントにいた地の精霊術士が、人体と環境に悪いという話を地精霊から聞いたため、抽出方法を検討した結果、金や銀が多く含まれている土を集め、強く加熱した上で、魔法で抽出するという方法にしたらしい。確かに地精霊が金や銀を知らない筈はないから、抽出をイメージ出来れば、魔法として成立するよね。実際私も、同化して地中から金を集めたりしているし。
そういうことでロイドステアとして非常に重要な地域なのだが、金に目が眩んだのだろうか、100年ほど前、当時の領主と鉱山運営組織の長が結託して、金の横流しを行っていたという事件があった。そして、発覚した時に前の領主家が取り潰され、現在のトリセント家が拝領されたという話がある。トリセント家の初代当主は、当時騎士団長だった方だそうで、実直で王家への忠誠も厚く、その流れで、現在も体制派となっているらしい。
だから、金鉱山を不正に運営しているという兆候の有無も、是非確認して欲しいと伯爵自身から言われていた。疑惑など全くない、というアピールでもあるわけだが。まあ、正直な所、精霊に判る内容は、強い悪意など、非常に抽象的かつ限定的なのだが、領行政舎に配置されている商務省連絡官が、心配そうな表情をして私を見ていた。
それと、アルカドール領にも関係があるが、北東方面の有事に対応するために、トリセント領内には歩兵団第1歩兵隊約1万4千名が駐屯する、国王直轄地のガスマークがある。当然駐屯地だけではなく、兵士達を支える軍属達も住み、生活基盤を支える町や、訓練施設なども近傍に存在する。ガスマークについては、領行政舎に配置されている連絡士官曰く、かなり近隣住民とのトラブルがあるそうで、そちらも出来れば確認して欲しいとのことであった。
従って、二つの国王直轄地については、強い悪意の有無も精霊に確認して貰ったのだ。幸い、強い悪意は発見されなかったので、二人ともとりあえずは安心したようだった。
色々な意味で念入りに確認したため、巡回助言は1日では終わらなかった。まあ、宿泊は決まっていたし、特に問題は無い。それに、レイテアの予定もあるからね……。なお、レイテアが知人達に会っている間は、トリセント伯爵が警護人員を増やしていた。対応有難うございます。
次の日、朝食を頂いた後、当初は聖堂に行って精霊術士候補の確認、その後は領行政舎に向かい、残りの巡回助言を行った。レイテアは少々だるそうだったが、流石に勤務中は気を引き締めて護衛に就いていた。精霊術士候補は2名見つかり、巡回助言も大きな異状は発見されず、無事に終了した。
今日は午前中に魔法教育について会議がある。事前資料は頂いていたのだが、巡回助言があったためあまり読めていない。会議の前にざっと目を通し、参加させて貰った。資料を読んだ限りでは、アルカドール領での取り組みについても、反映されているようだった。以前お父様に話しておいて良かったな。
内容としては、初等・中等学校において、魔法の基礎的な知識及び実技、特に魔力操作や初歩的な魔法について学ばせる方向で話が進められた。今回については、モデルとなるカリキュラムを作成することに重点が置かれていた。
ここで一例として提示されたのが、現在アルカドール領で試行されているカリキュラムだ。元々は私が要望した、氷魔法の普及のために考えられていたものだが、他の属性の人達からも要望があったため、全ての属性で行うことになったと聞いている。コルドリップ先生、苦労しただろうなあ……。
初等学校は市町に設置されており、平民は6才になる年から4年間、週1回通う事が義務付けられている。初等学校が無い村や集落は、教会か集落長の家が代替施設となっている。簡単な読み書き計算を教えており、それなりに学べば最低限の社会的な生活は可能らしい。
中等学校は、初等学校卒業後、任意で更に4年間、週一で通うことが出来るもので、読み書き計算に加えて簡単な歴史や法制度などを学ぶ。行政舎などで働く場合は、中等学校卒業が最低限の条件だそうだ。とは言え、子供達は基本的に親の手伝いや弟妹の世話などを行っているので、初等学校に通う事すら嫌がる親もいるらしい。
ここに魔法教育を追加するわけだから、教育を受ける側にも相応のメリットが無いと反発されるわけだが……アルカドール領では、それまで半日授業だったところを、魔法教育を含めて1日授業にしたらしい。その分、子供達には昼食を領の経費で準備したそうで、これで親からの反発も無く、余裕を持って授業を進めているそうだ。
ただしこれは、最近の産業振興によって経済力が上がっているアルカドール領だから出来たことであって、国全体で簡単に出来ることではない。現段階では、時間の延長は各領の自主裁量ということにして、細部の教育項目などを話し合った。
午後には省の定例会議があった。重力魔法活用や教育制度の今後の方向性や、魔力循環不全症の論文作成などについて話された。また、精霊術士が年当初の予想通り、大幅に増加していることも話題に上がった。その他、王太子妃殿下が出産された場合の業務予定の変更などについても、検討されていた。まあ、国を挙げてお祝いするし、国の将来にも大きく関わって来る案件だからね……。
聞くところによると、側近や結婚相手にする目的で、王太子妃殿下のご懐妊以降、子供を作ろうとしている貴族家の方々が結構いるそうだし、色々な意味で大変だな。
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