第191話 重力魔法活用会議に参加した
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今日は第1回重力魔法活用会議だ。私は基本的に参加するだけなので、今の所は事前資料の見直しを行うくらいだが。会議の準備を行っている総務課はかなり忙しいようだ。また、私は巡回助言と重なっていたため不参加だったが、魔法省内でも事前のすり合わせが行われていたらしい。
今回の会場は、参加者が多いため、宰相府の大会議場だ。私は魔法大臣の入場前に入場し、着席した。既に魔法省各課長、魔法研究所長、地属性研究室長や、各省関係課長達が着席している他、今回はオスクダリウス殿下もオブザーバー参加している。そして、会議の長である魔法大臣が入場し、会議が始まった。
まずは、魔法大臣からの挨拶の後、総務課長の司会進行で会議が進められた。当初は地属性研究室長のビルゲルード男爵が、重力魔法の概要について、簡単に説明した。論文発表以降の研究は、基本的にはデータの精度向上を主体としていたため、論文の内容から大きな変化は無く、この段階での質問は無かった。
次に、各省から、今後の活用方法について出された意見を、総務課が概略まとめたものが提示された。人員輸送手段、重量物運搬手段、高所・低所移動手段、作業補助手段の4項目だ。これに基づいて、今回は魔道具開発の優先度がまず議論された。というのは、やはり魔道具は貴重であり、開発のリソースも当然有限なので、優先して魔道具化するものを決めておきたい、ということだ。
ここでかなり各省の意見が分かれ、色々話し合われたのだが、基本的には重要であり、かつ魔法の行使が長時間となるものを魔道具化するのが適切であるため、人員輸送用と、重量物運搬用の魔道具を優先して開発することになった。前世の位置付けで考えると、乗用車とトラックかな。私も移動用の魔道具はぜひ欲しいと前々から考えていたので、この方向性は有難い。材料は集まっているので、時間を見つけて車体の試作を進めていこう。
ということで、空動車(仮)と重空動車(仮)の仕様について、魔道具課長が意見聴取を行って、この議題は終了した。今後は、魔道具開発の深化に伴い、会議で検討されて行くだろう。
また、活用方法の4項目については、それぞれ分科会が出来ることになった。分科会については、各省担当者の他、現場で活躍する職人などを交え、随時行うようだ。各分科会の担任は、魔法省が行うと負担が大きすぎることから、人員輸送分科会を国防省、重量物運搬分科会を建設省、高所・低所移動分科会を商務省、作業補助分科会を農務省が行うことになった。分科会での検討結果は、今後の全体会議に合わせて取りまとめられ、発表される流れのようだ。個人的には、人員輸送分科会の話を聞いておきたいかな。
その他、重力魔法を対人攻撃などに使用するとすれば、どのようなものが考えられるか、という紹介があった。例えば、高所に持ち上げて落下させる、重量物を上から落とす、重力を強めて動きを制限する、などがビルゲルード室長から説明され、実際に人形などを用いて展示された。この際、口頭だけだったが、魔法を使うタイミングによっては、態勢を崩したりすることも出来るので、行動の阻害や、状況によっては人体に影響を及ぼすことも可能だと説明されていた。この辺りは、国防省はもとより、法務省なども興味深そうに聞いていた。今後は重力魔法を用いた犯罪が行われるかもしれないからね……。
最後に、次の全体会議を5月第1週に開催するということが総務課長から連絡され、会議が終了した。私は、全般の準備や司会進行を務めた総務課長、改めて重力魔法に関する説明を行ったビルゲルード室長を労って、会場を後にした。
昼食後、精霊課長が訪ねて来た。今回の会議に関する件らしい。
「導師様、今回の会議を確認した限り、精霊課の当座の業務としては大きな変化は無い様で、安心しました」
「そうですわね。今後、様々な魔道具や機資材が具体化するに従って、研究開発の支援などの業務は増えるでしょうが、今の所は考えなくても良いでしょう。後は魔法兵団が新たな魔法の運用を考えるかもしれませんから、そちらへの対応は必要かもしれませんが、それは現在と同様の、魔法強化による連携の枠内の話ですからね」
「承知致しました。そういえば、個人的な話ですが、氷魔法の発動に成功致しました」
そう言って精霊課長は、掌の上に少量の水を溜め、氷に変えた。
「まあ、おめでとうございます」
「先輩と後輩が雷魔法を習得しておりましたから、私としてもこれくらいはやっておきませんと」
精霊課長はそう言って微笑んでいた。なるほど、お父様達との付き合いを考えてのことだったのか……。
休日になった。今日はアンダラット先生達を迎えに行かなければならないので、鍛錬は早朝だけだ。朝食後、転移門を使用してアルカドール本邸に帰った。お父様達に挨拶をした後、馬車でアプトリウム子爵邸へと移動した。
子爵邸では、アンダラット先生達の他、子爵一家が待っており、私は挨拶をした後、研究所から来た担当者に現状を確認した。
「リーズメアラ嬢の状況と、魔力循環不全症の治療に関する研究について伺っても宜しいですか?」
「はい。リーズメアラ嬢については、やはり以前の状態より改善しておりました。今後も魔力操作の練習を続けていけば、完治も可能かもしれません」
「それは良かったですわ」
「有難うございます! これもフィリス様が施術を行って下さったおかげです!」
リーズは元気良く答えた。アプトリウム子爵夫妻は、元気そうなリーズを見て、非常に嬉しそうだった。
「それと導師様。導師様の施術によって、魔力循環不全症の症状が改善した理由についても、リーズメアラ嬢の協力を得て、ある程度推測することが出来ました」
「まあ! それでは、他の患者の方々についても、症状を改善させる方向性が見えた、ということですわね」
「はい。詳細はこちらの報告書に記載しておりますが、魔力循環不全症は、体の末端部分などにおいて、魔力の断絶とも言える状態が発生することにより、引き起こされているようです。これまでは、体内の魔素に隙間が出来、そこで魂による感化の対象から外れてしまうのでは、という仮説があったのですが、それが証明できず、また、治療法も検討できませんでした。しかし、導師様の施術によって一度全属性の魔力に影響されたことにより、隙間も関係なしに均された体内の魔素が、再び魂の感化に応じるようになったという状態が、今回の調査で観測できました」
なるほど。つまり、体の末端などで、属性魔素にならない魔素が多く残っていたのが、魔力循環が阻害されていた原因で、それを私が一度リセット……というより、記憶媒体の再フォーマットに近いかな? をすることで、正常化に近づいた、ということかな。
「では、今回来た意味があったということですわね」
「はい! 王都に戻り次第、論文を作成するとともに、可能であれば他の患者への治療も進めて行きたいところです。導師様には、是非ご協力頂きたい」
「承知致しましたわ。詳細は王都で調整させて下さいな」
こうして、魔力循環不全症に関する治療に関して、正式に協力することになった。
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