第190話 イクスルード領の巡回助言を行った
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今日は通常の業務だ。重力魔法活用会議の事前資料が届いたので、目を通した。今回については各省の管轄する内容でどういう活用できるか、発表していく場の様だ。
魔法省はとりあえず、重力魔法の概要と現段階で実施可能な事項を発表し、それを踏まえて他省が活用例を挙げていくらしい。総務省は基本的には無さそうだが、教育面で色々知識の更新がある様だ。財務省も基本的になし。今後の予算作成・執行の資料にするようだ。外務省も基本的に無いが、外交交渉のために状況を把握しているらしい。
国防省は、やはり兵站や人員輸送の面での活用を考えているようだ。建設省は、重量物運搬や、作業時の転落防止などを検討しているようだ。農務省は、開墾や山林開発などの際の重量物運搬、幾つかの農業技術への反映を考えているようだ。商務省は……馬車に代わる輸送手段や、前世で言うところのエレベーターの開発、鉱山の採掘技術への反映など、他より具体的になっているかな。法務省は……今後の各種法改正のために内容を把握しているようだ。さて、どういう風に会議が進むのかな。
後は、書類業務を行ったり、明日の巡回助言に備えてイクスルード領の資料を読んだりして、その日の業務を終えた。
今日はイクスルード領の巡回助言の日だ。イクスルードは容認派なので、改革派の所よりは気を使わなくて良いだろう。助手のラフトリーザ達とともに王都のイクスルード侯爵邸に向かい、転移門の所に案内されたが……今回は、以前のライスベルト様の時と同様に、ダリムハイト様がいて、同行することになった。
転移門を使って転移し、転移門のあった建物から出ると、灰が降っていた。ここからは建物などのせいか見えないが、確か火の精霊術士達が交代で監視している、活火山のティボルナ山があった筈だ。恐らくはティボルナ山から火山灰が出ているのだろう。ダリムハイト様が
「火山灰は、この付近では少量しか降らないが、風向きの関係で、東部には沢山降るんだぜ」
と言っていた。ロイドステア最南西の領でもあるし、丁度前世における鹿児島みたいな感じかな。行ったことは無いけど。
迎えに来た行政官に案内されて領行政舎に行くと、イクスルード侯爵や他の職員達が待っていた。挨拶をして会議室に向かった。最初は、行政官に領内の概要を説明して貰った。領内は大きく分けて、平地の南部、山地の北部に区分され、王都から隣国のネクディクト国まで行くことが出来る南西街道が、平野部に通っている。
領中心都市であるマルゴナ市は、概ね領の中心に位置していて、北の領境付近にはティボルナ山がある。今回は行く時間が無いが、ティボルナ山の中腹には、火の精霊術士も勤務する観測所があり、観測所に行く際は、基本的にマルゴナ市を経由するらしい。
その他、こちらでは降灰のためか、あまり小麦や大麦は育たず、畜産を主体としているらしい。軍馬などの育成も盛んだ。選りすぐりの名馬を王家に献上していることもあり、イクスルード産の馬は、一種のステータスになっている。アルカドール領は寒いから、領内で育成した寒さに強い馬を使うけれど。
いつもの様に準備して、風精霊と同化し、数百体の精霊を招聘する。今回については、確認事項は同じだが、耕作地は少な目で、火砕流台地のような地形も見られるから、地盤が緩く、土砂崩れが多いため、その辺りをよく確認して貰うことにした。
今回は、すぐに対応しなければならない事案は無かったが、やはり土砂崩れの前兆がある箇所が幾つかあったので、助言した。また、魔素だまりを発見したので、疫病などが発生することがないよう、注意喚起した。
その日は普通に夕食を頂き、早目に休んだ。
次の日早朝、レイテアと一緒に鍛錬していると、ダリムハイト様がやって来た。
「なあ、フィリストリア嬢、君の従姉から聞いたんだが、剣術も相当いける口なんだって?少し手合わせしないか?」
うーん、たまには違う人と鍛錬するのも悪くない。レイテアに目配せする。
「そうですわね……では、お願いしますわ」
ダリムハイト様は木剣を構えて私と向かい合った。審判はレイテアにお願いした。
「では、始め!」
「だあーーっ!」
ダリムハイト様は、合図とともに攻撃してきた。なかなか鋭い踏み込みだ……が、いかんせん動きが読めてしまったので、対応も楽だ。
「はっ! たあっ」
魔力の流れに逆らわず、かつ誘導して回転運動に変え、背中から地面に落とす。
「えっ? がぁっ!」
下は短い草が結構生えているので、直に後頭部をぶつけたりしない限りは問題ないだろう。
「まだ続けられますか?」
「……くそっ! もう一度!」
再び斬りかかって来るも、やはり動きが読める。剣筋が基本通りなので、視線や感情を読むまでもなく判るのだ。今度は剣を絡め取り、ダリムハイト様の喉元に木剣を突き付けた。
「ぐっ、全然かなわねえ! 何でそんなに強いんだ?」
「色々ございまして。さて、どうされますか?」
「……出直す。一つ教えてくれ。俺はどうやったら強くなれるかな」
「そうですわね……ダリムハイト様は、剣筋が型通りで綺麗なのは結構なのですが、それだけですと、先が読まれ易いのです。それでは一定以上の技量を持つ方には対抗できませんわ。ですので、今後は相手の攻撃に対応できるよう、経験と技量を積み上げていくべきかと。今の状態ですと、一定時間、攻撃を受け続けても態勢が崩れないようにする鍛錬などが宜しいかと思いますわ」
「……俺の剣術の先生と同じことを言うんだな。でも、受けるのは性に合わないんだよな……」
「戦場に立つならば、性に合わないことでも行わなければならない時がございますわ。いずれは国境警備を担われる方になられるのですから、是非励んで頂きたいですわね」
「そこも同じかよ……ははっ、それなら、気合を入れ直さないとな、有難う」
ダリムハイト様は去って行った。もしかすると、ダリムハイト様の剣術の先生は、案外私と似た考えの方なのかな? 機会があれば、一度お会いしてみたいものだな……。
朝食の後、いつもの様に聖堂に向かう。今回は3名の精霊術士候補を見つけることが出来た。その後は領行政舎に行き、昨日の続きを行った。昨日同様、地盤の緩い箇所が幾つかあったが、緊急の対応が必要というわけではなかったので、行政官達にお任せした。
その後、昼食を頂いている時に、イクスルード侯爵と話をした中で、領の食糧事情の件があった。
「うちは畜産業は盛んだが、なかなか主食となりうる作物を育てる事が難しい。農業は豆類や根菜が中心だが、穀物は蕎麦を作るくらいで、小麦や大麦は基本的には他領から買い付けているのだ。アルカドール領は、寒暖の違いはあるが、そういった点はうちとさほど変わらないと聞いたが、食糧事情についてはどうなのだろうか」
「確かにアルカドール領も、大麦を作っている所以外は、あまり変わりありませんわね。しかしながら、最近は、家畜の餌だった甜菜から砂糖を取るようになりましたし、馬鈴薯も食用にしておりますのよ」
「甜菜はうちでは作っていないが……あの馬鈴薯が食用になるとは……」
「最近、調理法の改善や品種改良を致しまして、非常に美味しくなりましたわ」
「なるほど……アルカドール領から、馬鈴薯を幾つか分けて貰うことは可能だろうか」
「それは私の一存では決めかねますので、領と直接話をして頂いた方が宜しいですわ」
いくら私が品種改良したとはいえ、既に領の財産だからね……料理のレシピくらいなら可能だろうけど、男爵芋や奥方芋は、当座は許可されない可能性があるかも。それだと何なので……そうだ、あれについても情報提供してみようかな。あちらなら大丈夫だろう。
「あと……先日私がサウスエッドに赴いた際、新種の芋を発見したのです。それについては、現在ステア政府の農業課に預けましたので、ご確認されては如何でしょうか。恐らく気候も地質もイクスルードならば丁度良い筈ですから、共同研究を申し入れれば、喜ばれるかもしれませんわ」
「ふむ……それはどのような芋なのですかな?」
「荒地でも育成が可能で、甘くて美味しゅうございました。甘藷と呼んでおります」
「なるほど。農業課に問い合わせてみよう。情報提供感謝する」
気候や地形が鹿児島に似ていたので、さつまいもを紹介してみたが……どうなるかな?
その後は、転移門を使って王都に戻り、魔法省で大臣や精霊課長に巡回助言の内容を報告し、その日の業務を終えた。
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