第188話 カウンタール領の巡回助言を行った
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今日はカウンタール領の巡回助言だ。助手はリゼルトアラだ。
今回については、何らかの謀略が考えられているかもしれないということで、密かに警戒しながら王都のカウンタール侯爵邸へ向かったのだが
「導師様、いつもながらお美しいですな。今回の巡回助言、後学の為に私も同行させて頂きたい」
ライスベルト様が待っていた。どうやら、巡回助言に同行するつもりの様だ。まあ、自領なのだから問題ないとは思うが、魔法学校の方については、一応確認を取っておこうかな。
「それは結構ですが、学校の方は宜しいのでしょうか?」
「家の都合ということで、既に許可は頂いております」
「承知致しました。では、転移門を使用させて頂きましょう」
というわけで、同行者が一人増えたが、やること自体は変わらない。警戒しつつも転移門でカウンタール領中心都市の本邸まで転移して、行政官らしき人の案内で、領行政舎へ向かった。領行政舎の会議室では、カウンタール侯爵と他の行政官達が待っていて、挨拶をした。あと、侯爵の口からも、今回はライスベルト様も次期領主として勉強させるため、同席をお願いしたいと言われたので、この件は大丈夫だろう。
いつもの流れで、カウンタール領の状況を行政官に確認している中で、ある事を頼まれた。
「実は最近、アブドームからの移民が増えているのですが、入国の際に荷物に紛れていたのか、領内にアブドーム原産の毒虫が増えておりまして……もし可能であれば、駆除の協力を頂きたいのです」
「虫……ですか? 微細すぎる情報は、こちらが処理できないのですが……」
「虫1匹の場所を教えて欲しいというわけではないのです。どうもこの毒虫は、桑の葉を食するようでして……桑の木がある場所を、概略教えて頂きたいのです。当領にはあまり生えていない木ですが、山奥まで目星もなく探していくとなると、一苦労なのです」
後ろにいる精霊に確認すると、その程度なら可能のようだ。
「精霊もその程度なら可能だと申しておりますので、大丈夫ですわ。では、今回については、いつも行う情報収集に加え、桑の木が生えている地域も探しましょう」
「そうして頂けると助かります。なお、市街地については、発見し、既に伐採しております」
「よほどお困りなのですね……ちなみに、その毒虫とは、どのような虫なのでしょうか?」
「蛾の幼虫及び成虫です。幼虫は大人の掌に乗りきらないほどの大きさになり、繭を作って成虫になると、翅を広げると手を開いたくらいの大きさになります。幼虫は毒を吐き、成虫は翅の粉に毒があり、領民にも被害が出ております。アブドームから来た者にも確認しましたが、発見次第駆除していたそうです」
と行政官は説明した。あと、お目汚しですが……と断りを入れられて、その幼虫と成虫の死骸、そして繭の抜け殻を持って来た。それらは、どこかで見覚えがあった。暫く考えて、ああ、カイコだ! と思い出した。
確か小学校の社会見学で、養蚕農家に行った時に見たものに似ていた。ただし、あちらは白くて何だか可愛らしかった記憶があるが、こちらは茶色くて結構大きいから不気味だ。クワの葉を食べる所は同じなのだけれど……恐らくは毒蛾だったため敬遠され、家畜化されなかったのだろうな……。
ただ、毒さえ何とか出来れば、絹糸が取れるから大変な利益となる筈だ。この世界は、虫にも魂はないので、恐らくは改良が出来る筈だから、試してもいいかも……。
「……これは何と呼ばれているのでしょうか?」
「桑茶毒蛾と呼ばれております」
「この蛾の繭からは、織物に使えそうな糸が取れそうですが、そのようなお考えはございますか?」
「とんでもございません! 喩え毒が何とかなったとしても、そのような気持ち悪い糸など要りません!」
「導師殿、我々は一刻も早く、この忌々しい毒虫を我が領から駆逐したいのだ」
侯爵にまでそう言われて、この件についてこれ以上言うのはやめた。カイコの件は別の機会にしよう。まあ、念のため、精霊に頼んで卵と幼虫を探して貰って、サンプル程度に確保しておこうかな。
地図や筆記具などの準備を終え、早目の昼食を行政舎で頂き、作業を開始した。今回は精霊への指示内容に「クワの木の生えている地域」を追加して、早速調べて貰った。……やはり調査項目が増えたからか、いつもより風精霊が帰って来るのが遅い上に、クワの聞き取りは多少面倒だった。
とはいえ、さして問題なく助言1日目を終えた。2回目の助手となるリゼルトアラが、てきぱきと聞き取りをしてくれたおかげでもあるが。その後は侯爵邸に戻り、遅めの夕食となったが、侯爵家と一緒に頂いた。構成は、侯爵、侯爵夫人、ライスベルト様、弟君、確か私より2才下だったかな……に加えて、リゼルトアラと私だ。
「導師殿、今回は桑の木の場所まで調査して頂き感謝する。これで駆除が捗る」
「侯爵、お気持ち有難く頂戴します。明日も務めさせて頂きますわ」
「お二人とも、折角の食事ですし、娘が嫁いでしまって寂しかったところに、このような美しい方々がいらしたのですもの。そのような話より、もっと楽しいお話を致しましょう?」
侯爵夫人は、仕事の話を中断させ、気分良さげに私達に話題を振って来た。その辺りは特に問題無かったのだが、話題がライスベルト様の学校での話になった。
「うちのライスは、今年こそは首席を取ると言って、励んでおりますのよ?」
「昨年までは、氷魔法の習熟度でカイダリード殿に一歩譲っていましたが、今年は勝たせて頂きましょう」
「兄からも、ライスベルト様は良き好敵手であると伺っておりますが、互いに高め合う関係というのは、良きものですわね」
「確か、魔法学校の年末試験の最後に行われる魔法戦で、最終的な序列が付くそうですわね。ライスベルト様とカイダリード様の魔法戦、是非拝見したいものですわ……」
なるほど、そういうシステムなのか。可能であれば、私も見てみたいものだな……。
巡回助言2日目だ。今回はクワの木の調査のため、いつもより時間がかかりそうなので、早目に朝食を済ませ、領行政舎へ向かった。早速精霊を呼び出し、調査に行って貰う。今日は領の西半分だ……。
昼過ぎに漸く終了し、昼食を頂いてから聖堂に向かった。今回は……地の子が1人いた。12才らしい。これでこちらでの仕事は終了かな……と、侯爵邸まで戻って来て考えていたところ、ライスベルト様が
「導師様、実は是非お見せしたものがございまして……」
というので、私はライスベルト様に連れられ、庭の方までやって来た。少し離れた所に、的の様な円が書かれた岩がある。
「あの日見せて頂いた魔法、1本だけですが、漸く再現することが出来ました」
ライスベルト様はそう言って、氷の槍を作って放ち、岩を破壊した。私が以前、交流会の時に見せた魔法だ。恐らくは魔力量の関係で1本だけなのだろうが……努力して何かを成すのは素晴らしいことだ。
「今度の年末魔法戦、カイダリード殿に勝つことが出来たら、私を貴女との婚姻候補者として認めて頂けませんか」
「決定権は私にはございませんが……個人的には、検討させて頂きますわ」
「今はそれで結構です。では、王都に戻るまでの間、お寛ぎ下さい」
そう言ってライスベルト様は微笑み、応接室に私を案内した。暫くそこで侯爵達と歓談した後、私達は王都に戻った。なお、カイコの卵と幼虫も入手出来たので、収納しておいた。時間が空いた時に、改良しておこう。
報告通報等終了して家に戻り、夕食の際に、お兄様にライスベルト様の話をしたところ
「何! ライスベルトの奴……領巡回助言に同行して、フィリスを口説いていたのか!」
「もう、お兄様ったら……食事中ですわよ、落ち着いて下さいな」
「……ごめん、フィリス。でも、ますます年末魔法戦は、負けられなくなったな……!」
お兄様は、いつもの穏やかさは鳴りを潜め、闘志を燃やしている。やる気に繋がるのなら結構なのだが、私としては、景品にされた感があるので、少々微妙なところだ……。
お目汚しでしたが、楽しんで頂けたのであれば幸いです。
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