第187話 ビースレクナ領の巡回助言を行った
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今日はビースレクナ領の巡回助言だ。ビースレクナ侯爵であるフィルドナルド叔父様以下、知っている人が多いので、今回は気が楽だ。今回の助手であるサリエラは、まだ貴族対応は慣れていないからか緊張していたが、移動中の馬車の中で親戚の家だと伝え、また、魔物対応などの関係で、平民との距離が近い気風であると説明すると、安心したようだった。
いつもの様に王都のビースレクナ侯爵邸に到着した後、家令に案内され、転移門でビースレクナ領中心都市であるドルネク市の侯爵邸に転移した。そこから、待機していた行政官に案内され、領行政舎の会議室に移動すると、叔父様や他の行政官達が待っていた。
「導師殿、お久しぶりです。今回は巡回助言に来て頂き、誠に感謝します」
「侯爵、お久しぶりです。ビースレクナの発展に助力させて頂きますわ」
うーむ、相変わらず叔父様は精霊導師へのリスペクトが強い感じだな……。まあそこはスルーして、淡々と進めていこう。とりあえず、行政官の一人に領内の状況を説明して貰う。以前来た時と違うのは、甜菜の栽培を始めたことと、トンネルの開通に伴い領内の道路整備が本格化したことだろうか。
説明の際に叔父様から改めてお礼を言われてしまった。特に、ミリナの言っていた通り、引退した冒険者に仕事を斡旋できるのが凄く嬉しい様だ。経験豊富な人が近くにいたり、引退後の生活が安定することで、より冒険者達も働きやすくなるので、魔物対応に有利となるようだ。
冒険者組合などを通じてその状況が伝わり、冒険者が増加傾向にあり、また、ファンデスラの森を挟んで反対側にある国、アブドームからも、職を求めて移住する人が増えているらしい。その辺りもアルカドール領を参考にして、領法を見直しているそうだ。
ビースレクナの状況について確認した後、地図や記録用紙を準備して貰い、早目の昼食を取った。
昼食後、頭と風精霊と同化し、数百体の風精霊を呼び出すと、サリエラが
「すごい……」
と呟いていた。今回も、精霊達に説明をした後、担当を割り振って魔力を渡し、調べて貰う。暫くすると近場の担当精霊が戻って来る。私とサリエラは手分けして聞き取り、まとめていく。終了した精霊には再度魔力を渡して帰って貰う。暫くして作業が終わったが……うーむ。
「少々肥料過剰の農地が多い気がしますわね……精霊が申すには、今の半分で丁度良いという事ですわ」
ちなみに40か所ほどあった。他の領地と比べるとかなり多いと思うが、何かあるのかな?
「おや……これらは殆どが、甜菜の苗を育てている場所です!」
「なるほど……新品種の栽培を始めたばかりですから、適量が判らなかったのでしょうね」
「誤って不適切な量を指示していたかもしれません。直ちに確認し、今後は適量で栽培いたします」
その他は他領とも変わらない感じだった。ということで本日の分を終え、侯爵邸に移動した。
侯爵邸で、レーナ叔母様と従姉弟のワルターに挨拶し、案内された部屋で暫く休んだ後、叔父様達と一緒に夕食を食べた。
「王都でミリナにお会いしましたわ。相変わらずの様ですわね」
「うちの領の特性なのでしょうが、お転婆に育ってしまって……嫁ぎ先を探すのが大変ですわね……」
「学校では注目を集めているそうですし、案外懇意になる殿方がお出来になるかもしれませんわ」
「姉上と一緒になろうとする方がいるなら……相当な猛者なのでしょうね……」
「少なくとも、私と互角に戦える者でなければ、ミリナをやるわけにはいかん!」
という感じで、その場にいないミリナの話題が中心となった。ちなみに叔父様は、相当な剣の達人で、武術大会でも活躍したことがあるらしい。流石は魔物多発地域を治める領主、といったところだが……ミリナの未来の旦那様には、武術大会で活躍してもらわないといけないかもね……。
次の日朝食後、まずは聖堂の方に向かった。精霊術士候補を確認するためだ。7人の少女が集められており、早速確認したが……風が1人、水が2人いた。また、以前会った火属性の子、イレーラ・イスプルもやって来たので挨拶をした。来週の2月1日に洗礼を受けるので、それから王都に向かうそうだ。
その後は領行政舎へ向かい、昨日の続きを行った。今日についても甜菜の農地は肥料過多と言われた。まあそれは昨日から分かっていたことなので、対応は行政官達に任せている。その他は大きな問題は無かった。念のためファンデスラの森も確認したが、今の所ロイドステア側には魔物暴走の兆候は無かったので、巡回助言は終了した。
そういえば、折角早めに終了したので、魔物を的にして、荒魂を試し撃ちしてみよう。前々から試そうと思っていたんだけど、機会が無かったんだよね……。ということで、叔父様に頼んで早目の昼食を頂いた後、一応護衛達を連れた上で、近くの森にやって来た。風精霊に、近くにいる魔物の位置を聞いて、とりあえず各属性の精霊と両手を同化させて、軽く魔物に荒魂を当ててみたのだが……。
「導師様、これは一体?! 魔物が大量の血を吐いて死んでいます!」
そう、強靭な生命力を持つとされる魔物達が、小さい荒魂を当てただけで、全て死んでしまったのだ。もしかすると、荒魂は、生物に対して非常に有害なものなのかもしれない。魔物で試し撃ちをしておいて良かった。人に当てたら、酷い事になっていたよ……。
魔物の死体については、叔父様達に調べて貰うことにして、魔法省へ戻った。精霊課長には今回の精霊術士候補について連絡した。風の子は11才、水の1人は10才で洗礼済みだが、もう一人が先日10才になったばかりで、今度の2月1日に洗礼を行うため、イレーラと同じ時期に一緒に王都に移動するそうだ。一気に4人増えるよ。
今日は通常の勤務だ。微妙に溜まった書類を何とか片づけ、農業課長に会いに行った。
「これは導師様。本日はどのようなご用向きでしょうか? まさか娘がまた何か……」
「農業課長殿、サーナフィア嬢については、魔法強化も習得し、今年は井戸整備支援を担当されておりますのよ。立派に業務をこなされておりますわ。今日は農業課に関係する業務の話で参りましたの」
「ほう、どのような内容でしょうか」
最初は警戒していた農業課長は、業務上の話と分かり、多少警戒を解く。とりあえず、さつまいもを取り出して、話を進める。
「これは先日サウスエッドで発見した植物ですわ。あちらでは雑草として扱われておりましたが、精霊に確認したところ、芋の一種と分かりましたので、頂いて参りました」
「ふむ……これは……食用となりそうですが……」
「実は既に試食致しましたわ。蒸かしてみたのですが、甘くて美味しかったですわよ?」
「なるほど……では、これを栽培できないか、確認に来た、という訳ですな?」
「ええ、その通りですわ。基本的には荒地でも育ち、主食としても活用出来る筈ですから、現在土地が痩せている地域の活性化には非常に役立つと思いますわ。如何でしょうか?」
「その話が本当であるならば、非常に有用な植物ですが……アルカドール領で栽培しようとは思わなかったのでしょうか?」
「この植物はサウスエッドが原産地ですので、寒冷なアルカドール領では育てる事が難しいでしょう。ならばいっそのこと、こちらに預けた方が有効に活用できると判断致しましたわ。あと、この植物は外来種ですので、そういった意味でも、こちらを通した方が良いでしょうから」
「なるほど。そういった理由であるならば、この植物は農業課で預からせて頂きます。栽培法や適地を研究し、然るべき場所で栽培することに致しましょう」
こうして、農業課で管理している作物研究所で研究することになり、農業課長が呼んだ担当者にさつまいもと原種の雑草? を渡し、これまでのいきさつを話したところ
「それでは導師様は、この雑草を、このような芋が出来る植物に変えてしまったのですか?!」
「ええ。創世話の一節に、精霊が話し掛けることで植物が変化したという話がございましたが、あれと同様の事が、私には可能なのです」
「何と! では、現在我々が研究している品種改良などについても、可能なのでしょうか?」
「大幅な変化はやってみなければ解りませんが、多少の変化であれば、可能だと思いますわ」
「では、もし宜しければ、品種改良の研究に協力して頂きたいのですが……!」
「それについては、農務省から魔法省に依頼して頂ければ、大丈夫だと思いますわ」
「確かにそうですな。是非そうさせて頂きます! しかしこの話を知ったら、サウスエッドもさぞや驚くでしょうなあ。導師様のお力で、雑草が有用な植物に変わってしまったのですから」
ということで、さつまいもの研究や栽培については、農業課に任せることになり、作物の品種改良についても、幾つか協力をすることになった。あと、こういう風に品種改良して役に立てられそうな植物を見つけたら、今後も農業課に情報提供することになった。これで、国民の食生活が、更に豊かになればいいな。
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