第186話 さつまいもの原種を発見した
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休日は終了し、平常の勤務の日だ。ルカについては正直心配な所はあるが、出来る事が無い以上、どうしようもない。今日は人材交流要員の定期視察……と銘打ってはいるが、王太子妃殿下との茶会が目的にしか思えないところが何とも言えない。
前回同様、王太子殿下以下が転移門に集合し、転移すると、やはり待っていたサウスエッド国王。懐妊中の王太子妃殿下に負担を掛けることは出来ないから、王太子妃殿下は城内で歓談しながら状況を確認し、王太子殿下や私は、街の方に出て状況を確認していった。
基本的には着々と技術を学んでいるようだが、成果として現れるまでには、数年ほどかかりそうだ。今回は昼食を城で取る為、早目に回って確認しているが、やはり王太子殿下が直々にやって来て激励すると、皆感激している。また、この際に、家族などからの手紙や荷物のやり取りを併せて行っていて、それも楽しみにしているようだ。やる気が維持できるなら、良い事だ。
私は王家の昼食会の方ではなく、王城の別室で宰相や宮廷魔導師長、他の重臣の方々と昼食を取っていた。話題は最近のロイドステア内の新魔法関係の話が多かったが、重力魔法については話が出なかったので何も言わず、氷魔法や雷魔法については、詳細は派遣されている方々から確認して欲しいということでお茶を濁した。
また、今回精霊術士2名を人材交流要員として派遣するので宜しくお願いする、と宰相に言われた。あちらでの業務内容について概要を話すと、魔法強化については相当驚かれた。まあ、こちらも2年後を楽しみにして下さい、ということで話題を終えた。
あと、王太子妃殿下の状況についても話題になった。基本的には国民に受け入れられている旨を話すと、皆本当に安心しているようだった。第2王女殿下は、こちらでも皆に愛されていたのだろうということが判った。
昼食後、帰国までに暫く時間が空いたので、一応精霊達にも警戒して貰いつつ、庭を見せて貰うことにした。内心、また業務が滞っていないか心配していたのだが、今回はそういうことは無かった様だ。ただ、庭の手入れ作業を見ていた所、駆除されていた雑草らしき草の葉の形に見覚えがあったので、地精霊に確認してみたところ
『あれは昼顔の仲間だね。根に栄養を貯めることもできるよ』
と言われた。
つまりあれは、さつまいもじゃないか?! と気付いたので、捨てる予定だった草を貰って収納した。雑草扱いだったということは、原種かそれに近い状態の筈なので、とりあえず美味しいさつまいもが出来る様に品種改良して、気候の合う所で栽培して貰うことにしよう。石焼き芋が懐かしい……。
帰る前に、宮廷魔導師長が2名の精霊術士を連れてやって来たので、改めて挨拶した。
「ロイドステア国の精霊導師、フィリストリア・アルカドールです。2年間宜しくお願いしますわ」
「ロストナ・ラゲールですっ!よ、宜しく、お願いします!」
「セナデア・ビークスです……。宜しく……お願いします……」
ロストナは風属性の12才、セナデアは地属性の11才だ。二人とも、かなり緊張しているらしい。セナデアの方は不安も強いようだ。まあ、これから他国に行くのだ。当然だろう。
「ロストナさんもセナデアさんも、これから他国で生活するのですから、不安に思っているでしょうが、あちらでは同じ職場で働く仲間と思って、気楽に接して下さいな。それに貴女達は、二国間の友好の証でもあるのですから、決して悪い様には致しませんわ。私の名に懸けて、誓いましょう」
と言って、出来るだけ親愛の情を込めながら微笑むと、力が抜けた様だ。では、王太子殿下達と合流するかな。
合流場所の転移門前に行き、暫くすると王太子殿下達がやって来たのだが……やはり国王と王妃も見送りに来ている。しかも国王はあからさまに心配して、まとわりつくように王太子妃殿下の近くにいたので、しまいには歩きづらいと怒られていた……。その親馬鹿全開な様を初めて見たロストナとセナデアは、唖然としていた。まあそうだろうね……。ということで皆集合したので、さっさと出発した。
ロイドステアに戻って来て、私は宮廷魔導師長と精霊術士2名を連れて、まずは大臣の所へ報告に行き、その後精霊課長の所に案内した。精霊課長は、3人に今後の予定などについて説明した。当座は他の新人と同様、魔力操作の練習を行い、アンダラット法が習得出来れば、その後は属性のエネルギーへの感受性を高め、来年の精霊術士集中鍛錬への参加により、魔法強化を習得して、精霊術士としての業務を本格的にこなして貰うという流れだ。その他、他の精霊術士の業務を見学したり、精霊課の資料も読んで勉強する時間も取るようだ。
「本当に、そんなに色々教えて貰えるんですか……?」
ロストナが尋ねた。まあ、基本的にこちらの国の精霊術士と同じ扱いだからね……。
「ええ。貴女方は、研修が終了して帰国した後は、数少ない精霊術士として、サウスエッド国で活躍する人材になるでしょう。その際に、頼りない様子を見せられては、ロイドステアも侮られてしまいますので」
実はこの辺りの話は、以前方針が政府内で検討されたのだ。精霊術士は増やすのが難しい。数人いる程度では国家としての力に影響を及ぼさないと考えられるので、ここはしっかり養成してやって、恩を売った方が良い、そしてその数人が活躍することで、その精霊術士が数十人いて、更には精霊導師である私がいるロイドステアの威徳を高めるだろう、という結論になったのだ。うちの国益にもつながるので、気にせずどんどん学んで欲しいものだ。
なお、二人の相談役はセフィリア・ブルードだそうだ。私は殆ど話したことは無いが、ウェルスカレン出身の21才で風属性。面倒見が良く、同郷の精霊課長と気軽に話しているらしいので、問題無さそうだ。セフィリアは今年、王都で風が関係する研究の支援を担当しているので、王都から離れる事は基本的に無いし、そういった点でも安心だろう。
業務が終了し、家に戻った。まだ少し夕食まで時間があったので、暗くならないうちに、さつまいもの品種改良に取り掛かった。まずは一度普通に生育させて、栄養を貯めた根っ子、所謂塊根部分を作る。抜いて確認したが、少し太い根っこにしか見えない。これまで単なる雑草として放置されていたのも仕方がないな。
ここからこの塊根に、地球にあったさつまいもをイメージし、この様に育って欲しいと強く願い、一旦埋めて苗を育てた。次にこの苗を植え、暫く育ててから抜いてみると……やった! さつまいもだ! 10本くらい採れたので、1本を蒸かして食後に出して貰うよう料理長にお願いした。急に仕事を頼んでごめんなさい。
夕食後、デザートの代わりに皮を剥いて切ってある蒸かしいもが出て来た。以前じゃがいもでやってもらったから、蒸かし方は問題ない様だ。甘い香りが漂って来る。
「フィリス、それは何だい?蒸かした馬鈴薯に似ている気がするけど……?」
「お兄様、これはサウスエッドで見つけた植物ですの。食せますので、試しに蒸かして貰いましたのよ」
さて、味は……美味しい! これだよ、これ。さつまいもよ、願いを聞いてくれて有難う!
「美味しそうだね。私も頂いていいかな?」
「ええ、どうぞ。甘くて美味しいですわよ?」
そう言って他に一切れ持って来て貰い、お兄様にも試食して貰った。
「確かに甘くて美味しいね。これは栽培できるのかい?」
「恐らく栽培は可能ですが、寒冷なアルカドールでは難しいと思いますので、検討致しますわ」
ということで自室に戻り、さつまいもを普及させるにはどうすれば良いか考えてみた。恐らく温暖な地域の方が育ちやすいのだろうが、見当をつけるにもそれなりの知識が必要だし、ここはいっそのこと、専門の人達に任せてみよう。確か農務省農業課は品種改良についても担当していたから、これを持って行けば、何かしらの対応はしてくれるだろう。
あと、そもそもの話だが、これは外来植物だし、政府の許可が必要となる可能性もある。そういった観点でも、一旦農業課に預けた方が良いだろう。農業課長はサーナフィアのお父さんだから、恐らく邪険にはしないだろうし、時間が空いた時にでも訪ねてみようかな。
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