第183話 ウェルスカレン領の巡回助言を行った
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今日は通常の業務だが、書類仕事を早々に片づけ、ウェルスカレンの資料を読んでいたところ、精霊課長が2名の少女達とともにやって来た。
「導師様、新たに配置されました精霊術士です。二人とも、導師様にご挨拶を」
「ルイーズ・アンドルです!宜しくお願いします!」
「ベローナ・ダクランです。宜しくお願いします」
「では改めまして。精霊導師のフィリストリア・アルカドールです。宜しくお願いしますわ」
ルイーズは元気な11才で水属性、ベローナはややおとなしい感じで、10才の地属性だ。2名は当初、魔力操作の練習や精霊課の規則などを覚えたりすることが勤務内容になる。アンダラット法を覚えれば、属性への感受性も高めていく予定だ。
業務を終え、家に戻ると、3名から茶会に参加するという手紙が届いていた。ただ……パティはダイエット中だから、太りそうなお菓子を用意するのは可哀想かもしれないな。……そうだ!おからクッキーを作って出してみよう。研究所から来た料理人におからクッキーのレシピを渡して、おからを準備しておけば、作ってくれるだろう。
今日はウェルスカレン領の巡回助言の日だ。前回と違い、ウェルスカレン家とは現在友好関係にあるから、気楽にやれそうだ。ただ、今回の助手のラフトリーザ・イノウザンドは……男爵令嬢なのだが、精霊とはよく話をするが、人とは殆ど話さないタイプのようで、これまで私も話をしたことが無い。指示には従ってくれるようなので、仕事自体は進める事ができるとは思うが。
転移門でウェルスカレンに移動した私達は、ウェルスカレンの行政官に案内され、領行政舎に到着した。玄関には、公爵とペルシャ様が待っていて、挨拶を交わした後、会議室の様な部屋に移動した。そこで、行政官の一人から、軽く領の状況を確認し、地図や記録用紙などの準備を終え、早目の昼食を取った。
「では、本日は領の西側の確認を行います。ラフトリーザさんも補助をお願いします」
ラフトリーザが頷いたことを確認し、頭を風精霊と同化させ、精霊達を呼び出した。いつもの要領で精霊達に確認内容を伝え、魔力を与えて担当地域を割り振り、飛んで行って貰った。暫くすると、近場の担当から続々と戻って来る。
私とラフトリーザは状況を聞き取り、問題無ければ再度魔力を与えて帰って貰った。まとめたところ……本日は耕作地や水路などに是正の箇所はあったものの、行政官達に伝えれば終了する内容だった。ということで、本日の仕事を終了し、公爵邸に向かった。馬車の中で
「話には聞いていたが……多い時で一か月近くかかっていた巡回助言が、数日で終わるというのは驚きだな」
「今回は巡回助言の要領を全面的に見直している所でしたので私が参りましたが、来年以降は元の様に精霊術士達が伺うことになります。ですが、期間の短縮や精度の向上は見られると思いますわ」
「私達は精霊が見えませんので、情報を受け取るだけでございましたが、それよりも、フィリス様の趣が通常とは違い、緑の髪と瞳になっていたのが、印象的でしたわ……」
「私は精霊と体を同調して一体化させることが出来るのですが、それを行った際には、髪と瞳の色がその属性の色に変化するのですよ。今回は風精霊でしたので緑色、というわけです」
公爵やペルシャ様とそのような話をしていた。なお、一緒にいたラフトリーザは無言だった。
西公邸に到着し、暫くして夕食になった。私は西公家の方々と、それ以外の人達は別室で食べた。話題は紙製造工場の話や砂糖の輸出に関するものが主体だったが、いつもは色々話をして来るチェルシー様が、今回は無言だった。夕食後、部屋で休んでいると、チェルシー様がやって来た。
「フィリス様、……その……カイダリード様って、どんな方?お姿は拝見したことがあるけど……」
どうやら、お兄様と結婚の話が出ているため、気になっているらしい。まあ、一生を左右する話だし、当然だろう。基本的には自慢の兄だが、人には相性というものがあるからなあ……とりあえずは表面的な所から紹介しておこうか。
「そうですわね……優しく真面目で、努力家ですわ。魔法学校でも学年首席を取っておりますし、次期領主として常に励まれております」
「わ、私と……カイダリード様は……仲良く出来そうかな……」
「そこまでは私も判りませんわね……実際に話してみないことには」
「やっぱりそうよね……ちなみに王都では、カイダリード様はどのように過ごされているの?」
それから暫く、チェルシー様とお兄様の話題で盛り上がった。
次の日、朝食をとった後、とりあえず精霊視を持つ少女を判定する為、聖堂に向かった。集まっていた十数名の少女達に対して、いつもの様に判定すると、今回は2名反応があった。一人は火属性の10才、もう一人は風属性の11才だ。二人とも、鑑定で精霊視を持つと判定されたので、所要の準備を行った後、精霊課で勤務することになる。
それから引き続き、領行政舎へ移動し、残った東半分の確認のための準備を行った。準備が整い、同化して風精霊を呼び出す。呼び出した精霊達に、確認内容と担当区分を伝え、魔力を与えて向かって貰う。暫くすると、次々と精霊達が戻って来る。それをラフトリーザと手分けして内容を聞き取り、終わった精霊達に再度魔力を与えて帰って貰う……さて、今回も大きな問題にならないものばかり……だったら良かったのだが
「何と!テイペル川の堤防に亀裂が見つかったと?」
「ええ、早急に対処した方が宜しいと思いますわ」
「あの付近の工事を行ったのはかなり昔でしたから、老朽化していたのでしょう……」
「堤防のこの場所が決壊した場合、稼働し始めた紙製造工場にも影響が出ますぞ」
「先程風精霊に気象についても確認しましたが、数日後から雨が続くそうですわ」
と、大騒ぎになった。緊急性も高いし、私が直接補強した方が良いだろう。
「公爵、差し出がましいのは重々承知しておりますが、私が応急的に補強工事を致しましょう」
「おお、導師殿、それは助かる!今決壊されては困る堤防部分だけで良いので、補強して頂きたい」
ということで私達は、亀裂が入っていると言われた堤防まで馬車で移動した。なお、地精霊には飛んで先行し、付近の堤防の状況について、調べて貰っている。1時間ほどして、問題の場所に到着した。
「確かに亀裂が入っている……この状態でテイペル川が増水し、堤防が決壊していたら、紙製造工場への被害も甚大だっただろう」
「先行させた地精霊に確認しましたが、ここ以外にも幾つか脆くなっている箇所があるようですので、まとめて補強させて頂きますわ」
「では、あの付近までの補強を頼みたい。後はこちらで点検し、補強工事を行う」
「承知致しましたわ。今から作業を行いますので、離れていて下さいな」
皆が離れたのを確認し、地精霊と和合を始めた。
【我が魂の同胞たる地精霊よ。我と共に在れ】
和合が完了し、まずは堤防の状態を把握した。確かに堤防内部の盛土部分の多くの箇所に隙間が出来ている。全体的に引き締めを行おう。
堤防の指定された範囲を浮遊しながら引き締めを行い、表面を改めて岩化していった。当然亀裂部分も元に戻した。1時間程で、作業は終了した。
「おお、亀裂も無くなり、弱化した堤防が補強された!導師殿、感謝する」
「公爵、最早紙製造事業は、貴領のみならず、国家的な事業でもありますわ。その損失を未然に防止できましたことは、ステア政府としても僥倖でしたわ」
そうして、西公領についても巡回助言は終了し、私達は王都に戻った。
お目汚しでしたが、楽しんで頂けたのであれば幸いです。
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