第180話 ミリナがやって来た
お読み頂き有難うございます。
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今日は年最初の省定例会議だ。改めて挨拶するとともに、年末から年始にかけての変化事項などが主体となって、会議が進んで行った。
その中で、魔力循環不全症に関する話もあった。魔力循環不全症については、元々一部の人間しか情報が伝わっていないこともあり、魔法研究所員が臨時で参加して、詳細に説明がなされた。まあ、基本的に貴族しか罹らない病気だから、外聞も考えると、一般にはあまり知らせたくない話だからね……。
なるほど……王都に3名、カルテリアに1名、ブラフォルドに1名、オクトウェスに2名、エルステッドに1名、リーデカントに1名、そしてリーズか。全員治療できればいいなあ。
その他、書類業務をやったり、来週巡回助言に向かうイストルカレン、ウェルスカレンについての資料を読んで、この週の業務を終えた。王都邸に戻ると、ミリナが明日の休日に、こちらに挨拶に来たいという先触れがあった。来週から魔法学校だからね……。
そうだ。来週の週末に、アルカドール領出身者のルカ、ティーナ、パティをここに招いて近況を話し合ってみようかな。月末にはパティが道路工事支援に出発してしまうから、その前にやっておくべきだろう。一応お兄様にも夕食の際に話をした後、茶会の招待状を準備した。
休日だ。ミリナは昼過ぎにやって来る予定なので、午前中は汗を流したり、本を読んだりして過ごした。昼食後暫くしてミリナが来たので、呼びに来たクラリアに案内され、応接室に移動した。
「カイ兄様、フィリス、お久しぶりです。これから宜しくお願いしますわ」
「ミリナ、久しぶりだね。学校でも宜しく頼むよ」
「ミリナ、昨年の武術大会以来ですわね。元気そうで何よりですわ」
と挨拶して、近況を話し始めた。概略は手紙でやり取りしていたが、やはり直接話しておきたいしね。
「領境に隧道が開通したり、新しい甜菜の栽培が始まったりで、お父様達はとても忙しそうだったけれど、伯父様やフィリスに感謝していましたわ。特に、加齢や怪我などの為に引退した冒険者達に働く場所を斡旋できそうだから、領としてはすごく助かっているのよ」
「うちとしても、ビースレクナと色々取引ができるから、お互い様ですわ」
「こちらも領内の街道を整備しているから、軽易に往来が出来るようになるよ。年内には塩なども取り扱えるようになる筈だよ」
「ええ、そういった生活基盤が安定することで、領民や冒険者達も住みやすくなって人口が増加するらしいから、今後は魔石発掘や再利用に充当する人員も増やせると言っていたわ」
「それは良かったわ。今後は新魔法を利用した魔道具が作られていくでしょうから」
「新魔法といえば……私も氷魔法を練習しているのですが、なかなか上達しませんの」
「そうなのかい?では、来週以降、学校の方で時間があれば私が教えようか?まだ学校でも氷魔法を教えられる教官が少ないからね」
「それは願ってもない事ですわ。是非お願いします」
「人に教えることも自分の練習になるからね。私からもお願いするよ」
そんな感じで和やかに話していたのだが。
「ところで、レイテアさんはいらっしゃるの?」
「ええ。今ですと、鍛錬をしているのではないかしら?」
「では、ご指南をお願いしたいのですが、大丈夫かしら?」
「本人に確認致しますわ。……恐らくは可能でしょうが、着替えはございますの?」
「当然、馬車に積んでおります。部屋さえ貸して頂ければ準備出来ますわ」
ということで、やる気満々のミリナが着替えている間に、庭で鍛錬をしていたレイテアに承諾を得た。一応、私も着替えて来ようかね……。
着替えて庭に戻って来た所、ミリナは既にいて、準備運動をしていた。さて、どのくらい腕を上げたのだろうか、楽しみだ。
暫くすると、レイテアとミリナが対戦を始めた。ふむ……剣の振りも身体強化も、上達しているな。ただ、まだまだ力の制御が甘いかな。無駄が多い。騎士学校で言えば、本科の1~2年くらいの実力、といった所か。年齢相応と言えるだろう。レイテアの方も、対戦形式をとっているが、こつを教えながら動いている。
30分程対戦していたが、ミリナの
「有難うございました……」
という言葉で、終了した。
「フェールミリナ様、上達されましたね。今後は柔軟性をもっと高めて、相手の動きをもっと制御できるようになれば、更に上達されますよ」
「……頑張って鍛錬したつもりでしたが……全く相手になりませんでした……もっと頑張ります……」
ミリナは休憩の為、座って休んでいる。私もレイテアと少し鍛錬するか……。
剣を使って暫く対戦したが、互いに一歩も譲らず、キリのいい所で終了した。ミリナは先程から目を離さず、私とレイテアの対戦を見ていた。ミリナの方へ行くと
「ねえ、フィリス、私とも対戦して貰えるかしら。実力差があるのは解っているのだけれど……」
「宜しいですわよ。少し呼吸を整えますわ………………、では、始めましょうか」
「宜しくお願いしますわ……はあっ!」
ミリナが斬りかかって来たので、いなしながら様子を見る。……?、どうやらミリナは何かを狙っているようだ……。よし、相手の狙いを読む練習をさせて貰おう。ということで、基本はいなしながら、態勢が変化する中でミリナの感情がどう動くかを、読み取っていく。
……ん?懐に入りたい?何をする気だ?試しにミリナの剣の流れを誘導して……間合いに入り、更に懐に入りそうになった時、ミリナの魔力が大きく変化した!こ、これは!
その瞬間、ミリナが魔力波を私に向けて放った!
ミリナと暫く対戦した後、話している。
「……折角魔力波が入ったと思ったのに……防がれるなんて……」
「まあ、対策位は用意しておりますわ。しかし、かなり流暢に魔力波を撃てるようになりましたのね……驚きましたわ」
「必死で鍛錬して、今では魔熊とまではいかないけれど、魔狼くらいなら倒せるようになったのよ?」
「それは……上質な毛皮が入手できて、皆様も喜んでいるでしょうね」
「ええ。倒したうちの1体は、何故かお父様が剥製にして、うちに飾っているわね……」
「ふふ、叔父様は貴女が成長したことを嬉しく思われているのね」
「そうみたい。だからもっと上達したいのよね……フィリス、助言を頂きたいわ」
「剣についてはレイテアが教えていた通りだと思いますから……魔力波については、剣を使う中での使用を考えているのであれば、その組み立て方をもっと鍛錬した方が宜しいですわね。相手が魔物であれば動きは単調ですから今のままでも十分ですが、人との対戦の際に使う場合は、体捌きと駆け引きをもっと上達させませんと、ね」
そう言って、私はレイテアと一緒に、剣と魔力波を組み合わせた取り回しをミリナに教え始めた。まあ、レイテアが魔力波を覚えてからは、結構やっているので、レイテアも慣れたものだ。ちなみに、人に魔力波を使う場合、相手が身体強化を使っていたりするとダメージが軽減される。今回の私については、簡易版魔力波をミリナの魔力波にぶつけたのだけれども。この場合、ほぼダメージが相殺出来る。こういったことが分かったのも、レイテアが魔力波を使えるようになったおかげだな。
「有難う、難しいとは思うけど、頑張ってみるわ」
「お役に立てるならば、何よりですわ。そう言えば……ミリナは最近、感覚が鋭くなったり、魔力の流れを感じやすくなったり、していませんか?」
「ええ、最近は魔力の流れが判るようになったのよ……もしかして、魔力波の鍛錬の効果なの?」
「恐らくそうだと思いますわ。悪い影響は無いと思いますが」
「身体強化が上手くなったし、相手の動きも把握し易くなったから、有難いわね」
「もっと馴染めば、意識を集中すると、高速の動きを制御できるようになったり、相手の視線や感情が把握できるようにもなるかもしれませんわ」
「剣術にも活かせそうだし、面白そうね」
そんなことを話し、体の手入れを行った後、ミリナは帰っていった。
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