表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

184/414

第179話 セントラカレン領の巡回助言を行った

お読み頂き有難うございます。

宜しくお願いします。

今日はセントラカレン領の巡回助言だ。王都から転移門で移動する。


今回助手として同行する風の精霊術士は、リゼルトアラだ。先日も結構積極的に話していたし、恐らく問題ないだろう。魔法省から、2台の馬車に乗ってセントラカレン公爵邸に向かう。程なく到着し、扉の所で待っていた家令に案内され、転移門に移動し、セントラカレン領公府の公爵邸へ転移した。


転移門の前に待機していた行政官らしき人に案内されて馬車に乗り、公府の領行政舎へ移動した。領行政舎の会議室には公爵、エルムハイド様や数人の行政官が待っていた。


「公爵、今回は巡回助言で参りましたわ」


「導師殿、宜しく頼む。地図や資料が必要であれば、この者達に言って貰いたい」


「有難く存じますわ。では、準備を始めましょう」


ということで簡単に要領を説明し、行政官達には地図を持って来て貰い、20キート四方単位で領地を区切って貰い、番号を付ける。流石公爵領だけあって広く、900近くの区域が出来た。これは……セントラカレン領は人口密度が高いし、畑なども多いから、今日全て聞き取るには明らかに時間が足りない。今日の午後と明日の午前、2回に分けて行おう。


その方針を皆に説明すると、特に異論は出なかった。領地を2分割して、今日は東側、明日は西側ということにした。それでも400以上か。助手がいてくれて良かったよ。




早目に昼食を頂いた後、本日分の作業を開始した。さて、風精霊を招聘しよう。


頭を風精霊と同化させ、風精霊を区域の数だけ呼び出すと、結構広い会議室だが、風精霊だらけになった。リゼルトアラはその状況を見て、目を丸くしているが、気にせず風精霊に要領を説明した。とりあえず200番までの状況は私に、それ以降はリゼルトアラに話して貰って、帰る際に私に話し掛けて貰うようにした。


私は精霊に地域の割り振り及び魔力譲渡を次々と行い、その合間に結果を書く用紙を他の人に準備して貰った。


暫くすると、近場の担当だった精霊からボチボチ戻って来た。私とリゼルトアラは、次々と風精霊から確認して行く。確認の終わった精霊は、再度私がお礼を言いつつ魔力を譲渡すると、嬉しそうに去って行った。精霊達の報告を全て聞き終えたのは、夕方だった。やはり2回に分けて良かったよ……。


今回の結果をまとめたところ、大きな問題は無く、肥料の不足又は過剰が22か所、用水路の破損が5か所、道路のひび割れが10か所だった。一先ずこれらを行政官達に伝え、その日の業務は終了した。




夕食を公爵一家と共に頂いた。リゼルトアラも一緒にいるが、緊張している様だ。レイテアは護衛達と一緒だ。私は公爵やレクナルディア様と話をしている。話題は主にセントラカレン領の事だ。


「セントラカレン領は産業が発展しておりますし、農業についても、領内だけでなく王都にも多くの農産物を卸しているそうですし、羨ましい限りですわ」


「王家をあらゆる面で支えるのが、我がセントラカレン家の伝統だ。一部の生鮮食品以外は陛下に献上することを考え、最高のものを作れるよう、何時も心掛けている」


「素晴らしいお考えですわ。道理でこちらの野菜も、王都と同様に美味しく感じる筈ですわ」


「そう言って頂けるのは有難い。農場の者達も一層励むことだろう」


「……ただ、この野菜の美味しさを判らない者もおりますの。恥ずかしながら」


レクナルディア様は、ちらりとライスエミナ様の方を見た。彼女の皿にはニンジンだけが残っていた。


「成長されるとより美味しさが解って来るのではないでしょうか。ただ、当面は調理法などを工夫されると宜しいかと思いますわ」


「ほう、例えばどのような調理法があるのかね?」


「そうですわね……人参であれば、甘味の材料に使うのは一つの手ですわね。砂糖漬けにしたり、焼き菓子などに混ぜ込むなどの方法がございますわ。もし興味がございましたら、アルカドール領の甘味研究所に問い合わせて頂ければ、調理法をお教えできると思いますわ」


「まあ、それは面白いですわね。確認させて頂きますわ」


「なるほど。ちなみに他にはどのような方法があるのかね。我が領では、野菜や根菜については焼いたり煮たりする他、塩漬けにして食しているが」


「……例えば、小麦の麦皮と塩を混ぜたものを発酵させ、そこに大根などを漬けると美味しいですわね」


「なるほど。参考にさせて頂こう」


「また、これは調理法ですが、天婦羅にするという方法もございますわ」


「ふむ、確か西公領で見られる料理だな。元々帝国料理の一つで、魚介類の調理法と聞いている」


「ええ。多少油の温度は異なりますが、同様の要領で調理すれば、茄子や人参、玉葱、牛蒡、蓮根、南瓜など、様々な野菜や根菜はもとより、茸なども美味しく頂けると思いますわ」


ちなみに、西公領で魚介類の天ぷらは食べた。キスの天ぷらは絶品だった。


「……導師殿、もし良ければ、野菜の天婦羅について、うちの料理人に情報を教えて貰えないだろうか?丁度、西公領出身の者がいる。その者ならば、野菜の天婦羅についても、理解できるだろう」


「宜しいですわ。夕食後にお時間を頂ければ、お話しさせて頂きましょう」


夕食後は暇だったので、依頼を受けることにした。




公爵邸の調理室で、西公領出身の料理人に、野菜の天ぷらの話をした。


「確かに野菜でも天婦羅は可能だと思いますが……こちらではお勧めできません」


「何故でしょうか」


「実は、天婦羅を作る時には、帝国から輸入した油吸収用の紙を使っているのです。この国では、西公府周辺くらいしか出回っておりませんが……あれがないと、油が必要以上に残ってしまい、べとついてしまうのです」


なるほど……こちらで天ぷらが流行っていない理由はそれかもしれないな……油だけなら何とかならないものかね……そうだ!油って、確か火属性だった筈!


「…………では、油切りを魔法で行うのはどうでしょうか?」


「魔法ですと!?」


「ええ。油は火属性ですから、火属性のものを移動させる魔法で、油切りが可能な筈ですわ。網などに乗せてから、油を分離して下に落とすのです。丁度貴方も火属性ですし、如何でしょうか?」


「確かに……それならば、出来そうな気がします!」


それから、野菜の天ぷらを作る時の注意点などを話した。あと、天ぷらに付ける塩が、普通の海水塩だったので、ついでに選り分けしておいた。




次の日、朝食を頂いてから、すぐに領行政舎に向かい、西側の巡回助言の準備を行った。とはいえ、昨日と作業はほぼ同じ、ただ聞いてまとめる時間がかかるだけだ。私とリゼルトアラは、今日もそれぞれ200体以上の精霊から話を聞き、内容をまとめた。肥料の不足又は過剰が8か所、用水路の破損が6か所、道路のひび割れが15か所あった。


あと、北西街道の分領にある砦が老朽化していて、脆くなっていると精霊に言われた。この砦は、各街道沿いの領境界付近に作られているものの一つで、他国の軍が国内に侵攻した場合に備えたものだ。平時は街道の警備拠点に使われてはいるが、攻め込まれない限りは優先度が低くなるわけだ。その辺りは、領主の判断に任せるしかない。


「公爵、以上の結果となりましたわ。各場所の詳細の位置については行政官殿達に確認して下さい」


「導師殿、精霊課の方々、感謝する。砦については、老朽化していることは分かっていたのだが、中々予算の都合がつかなかったのだ。ただ、精霊に指摘されているのであれば、数年内には改修に着手しなければなるまい。その他の件については、直ちに改善させて貰おう」


「そう仰って頂き、誠に光栄でございますわ」


これで終わり……と行きたいところだが、あと一つ、やることがある。精霊視を持つ少女の判定だ。領行政舎から聖堂に移動して、待機して貰っていた子達の判定をいつも通りに行ったところ、精霊視を持つ子が2名いた。一人は水属性11才、もう一人は地属性の10才だ。所要の準備を行った後、精霊術士として勤務することになるだろう。


その後、遅めではあったが昼食を頂くことになった……のだが


「ほう、これが野菜の天婦羅か!何とも味わい深い。野菜の旨味が凝縮されているではないか」


そう、あの料理人さん、野菜の天ぷらを作ってしまったのだ。元々魚介類の天ぷらを知っていたとはいえ、流石はセントラカレン家の料理人だわ……。


「揚げているのに油臭くないわね……しかもこの塩、天婦羅の味を更に引き立てているわ」


「油は魔法で処理されたと思いますわ。あと、この塩は、通常の塩から苦みを除いた、精塩ですわ。精塩については、アルカドール領で生産しておりますので、興味がおありでしたらお問い合わせ下さい」


「魔法を料理の仕上げに使うとは……良いことを伺いました……レナに話すと喜ぶかもね」


公爵、レクナルディア様、エルムハイド様は、野菜の天ぷらを美味しそうに食べ、賞賛している。そして、興味が湧いたのか、ライスエミナ様も、ニンジンの天ぷらを恐る恐る口にした。


「……美味しい……」


「それは宜しゅうございました。流石はセントラカレン家の料理人、素晴らしい腕前ですわね」


天ぷらが大好評のうちに、昼食は終了し、食後に軽い茶会になった。そこで話題になったのが、昨年までの巡回助言と今回の巡回助言の違いだ。去年までは領地の主要な地域を順に精霊術士が回って行き、その場で精霊達に状況を聞きまわっていたため、数週間はかかっていたのだが、今回はこれで終了だ。労力も費用も全く違う。


「是非来年以降も導師殿に巡回助言を行って貰いたいのだがね……」


「残念ながら、来年以降は私が担当するのは、王都から離れた領だけになる予定ですの。ただし、精霊術士の巡回指導自体も要領を検討しておりまして、以前より効果的・効率的になる予定ですわ」


公爵は残念そうな顔をしていたが、諦めて貰った。


それから暫く話をした後、王都に戻る時間となった。


「導師殿、今回の巡回助言は、非常に有難く、また、新しい調理法も教えて頂いた。感謝している」


「公爵、そう仰って頂けて、誠に光栄ですわ」


転移門で見送ってくれた公爵達に挨拶をして、王都のセントラカレン公爵邸まで転移し、公爵家の馬車に乗って魔法省まで戻り、大臣や精霊課長に内容を報告し、業務を終えた。

お目汚しでしたが、楽しんで頂けたのであれば幸いです。

評価、ブックマーク、いいね、誤字報告を頂ければとても助かります。

宜しくお願いします。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ