第177話 王都の巡回助言を行った
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今日は普通の勤務だ。ちなみに、魔法学校や騎士学校は、来週から今年の授業が始まるらしい。
魔法学校も騎士学校も、学生の数は同じくらいの筈だ。平民の場合は10才になってから入学し、2年間の幼年課程を履修した後に、3年間の本課程を履修する。貴族の場合は12才になる年に入学し、本課程のみ履修することになっている。
1クラス40名が基準で、幼年課程は15クラス、本課程は20クラスあるから、本課程は基本的に貴族が4分の1、平民が4分の3らしいが、諸処の事情により途中で辞める者もそれなりにいるから、一概には言えない様だ。
なお、卒業後は騎士学校の場合、8割くらいが騎士団に入り、後は歩兵団、領軍、領警備隊、貴族の護衛などになることが多い。しかしながら、魔法学校については3割が魔法兵団に入れば御の字で、その他の人の多くは行政に携わる。まあ、お兄様のように次期領主だったり、故郷で行政官などを務める人、又はそういった人達と結婚する人が多いというのが実情だからね。
更には騎士団と異なり、魔法兵団には女性が多いが、25才までに殆どの女性団員が寿退職してしまう。故に魔法兵団は人手不足というわけだ。貴族枠は増やせないから、平民枠を増やさないといけないんだろうな……。
そのようなことを考えつつ、業務中は各領巡回助言の資料などを読んでいた。
業務が終了して家に戻り、夕食後に、今度は火精霊と感覚共有して、クロティナに会いに行った。部屋は確認していたので、中に入って様子を見た所、同室のレミファと話をしていた。どうやら、精霊課の仕事について話していた様だ。暫く様子を見ていると、クロティナがこちらに話し掛けて来た。
「精霊さん、何か用?…………、もしかして、導師様ですか?」
『クロティナさん、夜分失礼します。フィリストリアですわ。レミファさんも、今晩は』
「やはりそうですか、今晩は。レミファ、今導師様がこちらに来られています」
「導師様、今晩は。……火精霊で来られたのですか、残念です……」
どうやら、感覚共有の件と、恐らく私が様子を見に来ることは、事前に伝えられていたらしい。
『申し訳ございません。複数の精霊とは、感覚共有できませんの。ところで、調子は如何でしょうか?』
「ええ、大丈夫です。パティさんや他の方から親切にして頂いてますし。レミファ、導師様が、調子はどうか尋ねているよ」
「はい、私の方も問題ありません。むしろ、こんなに待遇が良い事に戸惑っています」
『問題ないのであれば良かったですわ。待遇の話については、慣れて下さいな。ただ、暫くは二人部屋ですから、他の方より窮屈かもしれませんが、新しい宿舎が建つまでですからね』
「いえ、とんでもございません。私もレミファも、兄弟と一緒の部屋でしたから、全く問題ありません」
『そう言って頂けると有難いですわ。ただ、暫くは精霊術士が一気に増加すると思いますし、パティ達も支援などで忙しいですから、お困りになることがありましたら、私にでも相談して下さいな』
「勿体ないお言葉です。レミファ、導師様が何かあったら相談に乗って下さると仰っています」
「い、いえ……そんな、恐れ多いです……」
『確かに身分や立場は違いますが、私自身は精霊術士達を仲間だと思っておりますわ。ですから、気軽に相談して下さいな。解決できるかどうかは解りませんが』
「……気軽に……というのは無理ですが、何かございましたら、相談させて頂きます」
その後、暫く話をして、家に戻った。クロティナはしっかりしていて、レミファはおとなしい感じかな。
今日は王城に用がある。というのは、巡回助言の一環で、まずは王都周辺の状況を確認するからだ。王都にも、農場や牧場などはある。郊外で生鮮野菜や牛乳、卵などを生産していて、王城をはじめ、各所に納入されている。小麦などは周辺の領から買うことが出来るが、傷み易い野菜や牛乳、卵などは遠方から運ぶと大抵腐ってしまうから、どうしても近傍で作る必要がある。
つまり、王家の方々をはじめとした、王都の食糧事情を守るために、王都に属する農場などを良い状態に保たねばならないわけだ。なお、アルカドール領から納入している牛肉はその例外で、異空間収納の恩寵を持つ人を高い報酬で雇って、輸送している。当然数が少なく、値段も高い。その他の高級食材の一部も、同様に生産領から卸されているそうだが、詳細は知らない。
まあ、建物なども見たりするけれど、誰かの目が届きそうだし、こちらが主体と言って過言ではない。ということで、私と風の精霊術士達は、王城にある、王都行政区画に向かった。
王都行政区画は、王都執政官以下で運営している、領行政舎のような場所だ。王都執政官は、領地を持たない法服貴族の中では唯一の伯爵で、立場的には領主とほぼ同格だ。それだけ、王都の運営は重視されているわけだ。
当然私も、何も言わずに取り掛かるわけにはいかないので、まず執政官の所に挨拶に行く。今の執政官は、アドリムバス・セントラーク伯爵で、宰相閣下の実の弟君に当たる。領主家では、嫡男以外は叙爵時に家名以外の姓に変えるのが、ロイドステアの慣例になっていて、ヴェルドレイク様も、叙爵されたらセントラーク姓を名乗ることになるのかな。まだ先の話だろうけれど。
精霊術士達には待機して貰い、私だけ案内されて、執政官の所に挨拶に行った。とは言っても、挨拶はすぐに終わり、会議室のような所へ案内された。そこには王都と直轄港プレドック周辺の地図が置いてあった。精霊術士達もこの部屋に案内されていた様だ。早速説明させて貰おう。
「これから私が風精霊を招聘し、指定した地域の様子を確認して貰います。内容は『農作物の生育や耕作地の状況』『水系の異状の有無』『大きな建築物の異状の有無』『その他、人間の生活に支障が及びそうな事項』になります。今回ですと、王都9区画、プレドック周辺で1区画、合計10区画を確認します」
簡単に説明した後、実際に頭を風精霊と同化すると、私の髪と瞳の色が緑色に変化したため、皆に驚かれたがスルーして、風精霊を集める。この際、あらかじめ数を指定すると、その通りに来るそうなので、今回から採用させて貰った。
集まった10体の風精霊にも、確認の要領を説明して、前回の様に風精霊達に整列して貰い、順番に地図を見せ
「この地域の情報をお願いします」
と言って、魔力を与えると、皆元気に飛んで行った。後は項目ごとにメモをする準備をして、暫く待つと、1体の精霊が戻って来た。さて、報告内容はどうかな。
『農作物及び耕作地、良し。水系、異状なし。建築物……壁に穴が開いてた。その他異状ないよ』
壁?どの辺りか聞いてみると、王都を囲っている壁に小さな穴が開いているそうだ。それは今すぐ確認して貰おう。
「執政官殿?精霊が申すには、この付近の壁に穴が開いているそうですわ」
「何と。今すぐ確認させましょう。他に異状はございませんか?」
「今は1体だけですので、これだけですが、他にも異状がございましたら、お伝えしますわ」
とりあえず、情報を持って来てくれた精霊に再度魔力を渡して、帰って貰った。その後、逐次精霊が戻って来て、情報を確認した所、農地の肥料がおかしい所が4か所、病気の鶏が5羽、街の排水溝が詰まっている所が5か所、農地の用水路の壁が破損している所が1か所、あと、プレドックの方では港の埠頭の一部に亀裂が入っていたらしく、全て報告させて貰った。
街壁の破損はあれ以外には無かったようだ。どうやら今回は、私が直接出向く必要は無さそうだ。精霊達には、改めて魔力を渡して、帰って貰った。私の方も、同化を解いて、執政官に助言の終了を告げた。
「導師殿、助言を頂き、感謝します。街壁の方は、以前塞いだ穴が、恐らく誰かの手によって開けられたようで、とりあえずは塞ぐとともに、警備態勢を強化します。他に助言を頂いた所も現在確認しておりますので、逐次改善させて頂きます」
「そうですか。お役に立てたようで、光栄ですわ」
そう言って、王都行政区画から魔法省に戻り、風の精霊術士達には、精霊課の会議室に集合して貰った。
「今後、私が実施する巡回助言は、あのように実施します。ただ、各領は広いですから、招聘する風精霊も数百体になりますので、一緒に来られる際は、驚かれないようにして下さい。質問はございますか?」
「導師様が今回使役したのは風精霊ですが、農地の様子など、地精霊が知っていることなども分かったのは、何故でしょうか」
「サリエラさん。精霊同士は、属性関係なく意思疎通し、協力できるからですわ。つまり、現地にいた地精霊に、風精霊が確認したのです。私が頼んだ事もあるのでしょうが、魔力を与えると、多少の無理でも聞いてくれますから」
「……ということは、私達が行う巡回助言でも、同様の事ができるなら、移動が困難な場所にわざわざ歩いて行く必要も無くなりますわね」
「ええ、リゼルトアラさん。ただ、対象が土地や水源など、必要な属性が確定している場合は、そのまま地精霊や水精霊に行って貰った方が良いと思いますわ」
「魔法強化が可能な精霊術士の要望を、どれだけ叶えてくれるか、確認した方が宜しいですわね」
「そうですわね。今の皆様ならば、以前より更に活躍できると思いますわ」
そのような感じで、各領巡回助言に関する話し合いは進み、幾つかの検討案が出され、終了した。
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