第176話 新しい年の勤務が始まった
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年末年始休暇が終わり、今日から通常勤務だ。早朝鍛錬、朝食の後お兄様を見送り、魔法省からの送迎の馬車に乗って、魔法省に出勤した。大臣に、年明けの挨拶と休暇間異状が無かったことを報告し、業務を開始した。とはいえ、溜まった仕事は殆ど無く、挨拶回りの対応が中心になった。
魔道具課長、魔法兵課長、総務課長は普通に挨拶して終わったが、魔法課長は……幾分ましになったかな。あと、精霊課長は3名の精霊術士を連れて挨拶に来た。当然、私と一緒に王都に来た3名だ。
「導師様、今年も宜しくお願いします」
「課長殿、こちらこそ宜しくお願いしますわ」
「御存じでしょうが、本日配属された精霊術士です。皆、導師様に挨拶を」
「クロティナ・シャノンです。改めまして、宜しくお願いします!」
「れ、レミファ・モプタスです。宜しく……お願いします」
「デラーナ・テイマーです。宜しくお願いします!」
「こちらこそ、改めまして、宜しくお願いしますわ、クロティナさん、レミファさん、デラーナさん。ところで……皆様の相談役は、どなたになりますの?」
「今回については、恐らく精霊術士が短期間に多数増加することになりますので、そのままパトラルシア嬢にやって貰うことになりました」
「でしょうね……あと、もう一人のラステナ・ハートムさんは、2月の洗礼後にこちらに来られる筈ですので、併せて準備の方をお願いします」
「承知致しました」
その後、3人は精霊課に帰って貰い、精霊課長は話があるということで、そのまま残った。
「2点お話がございまして……1つは、精霊術士達の宿舎の事です」
どうやら、私が今回各領で精霊視を持つ少女を見つけていくと、当座の部屋数が足りなくなるそうだ。
「年末に、早速4名を見つけられたと聞いて、総務課の方に相談に行ったのですが……宿舎を1棟増やす場合は、半年程必要という話でした。勿論、精霊術士の数が増えること自体は、陛下の御心に沿うことですし、宿舎の工事はすぐに取り掛かって頂けるそうです。ただ、今回の巡回助言で発見できた者は、新しい宿舎が出来るまでは、暫く2人で1部屋に住んで貰うことになります」
「暫くは我慢して頂くしかございませんわね」
無い袖は振れない。仕方のない事だ。
「あと1つの話ですが……巡回助言の際、1名精霊術士を助手に連れて行って頂けないでしょうか」
どうやら、今後の巡回助言の要領変更の参考にしたいそうだ。で、通常の職員だけでなく、精霊術士も連れて行って、精霊の使い方を検討する、ということらしい。
「それは構いませんが……風属性の方でお願いしますわ。今回私が直接使役するのは風精霊ですので」
「それなら大丈夫です。風属性は、工事支援はございませんので」
「そうですか。私も、何百体もの精霊の相手を一人でするよりは良いですからね。ところで、予算は大丈夫でしょうか?1名増やすと宿泊費が増額となるのでは?」
「そこは大丈夫です。基本的には導師様以下、全員が領主邸で宿泊となりますから」
政府の課長職以上が公務で各領地に行く場合、基本的には領主邸に宿泊することになっていて、その際に御礼として支払う額は、最上位者の役職・爵位と宿泊日数によって政府規則で定められているらしい。つまり、最上位者と宿泊日数に変化なければ、多少の変更は問題ないようだ。
これは精霊術士集中鍛錬の際も同様だったようで、私は知らなかったが、課長が西公邸の家令に御礼を払っていたそうだ。ただ、災害対処の際などは、この規則は適用外……というか無料だそうだが。
「初めて知りましたわ。まだまだ私も勉強不足ですわね」
「まあ、こういった業務は下々が行うものですから。知って頂くに越したことはございませんが」
ということで、今週、まず王都で行う際に、来られる風属性の精霊術士達に要領を見せ、後はセントラカレン領を皮切りに、毎週2~3領に行くので、そこに1名ずつ助手として連れて行くことになった。
とは言っても、基本的に連れて行くのは、魔法強化が可能な者、つまり、しっかり精霊と意思疎通が出来る者に限るのだが。今だと、該当するのは5人だけだ。これから採用する精霊術士達も、早目に実力を高めて貰う必要があるかな……。
「そういえば、今年は精霊術士集中鍛錬を実施致しませんが、この分ですと、来年早々に行う必要がありますわね」
「はい。そちらの方も現在検討しようとしておりますが……今の所、場所は東公領になりそうです」
「鍛錬に向いた場所があるという事でしょうか?」
「……いえ、次は当然我が領だ、と東公からのお言葉がございましたので」
「……課長殿も色々大変ですわね……」
まあ、政治の世界は面倒だわ。先日聞いた話もあるし、警戒は必要だろうな……。
巡回助言のため、各領地の資料を読んでいると、ニストラム秘書官がお茶を持って入って来た。
「導師様、お茶をお持ちしました」
「有難うございます。今年も忙しいと思いますが、宜しくお願いしますわ」
「こちらこそ宜しくお願いします……ところで導師様、制服の丈が少々短いですわね」
「そうかしら?……あら、確かに座っていると結構足首が見えますわね」
「それはいけません。制服を変えた方が宜しいですわ」
ということで、お茶を飲んだ後に総務課に連れて行かれ、採寸を行った。ちなみに身長は178トーチ、約160センチだった。週末には新しい制服がうちに届くそうで、クラリアにも言っておかないとな……。そう言えば……導師服も、サイズを合わせて貰った方がいいかもね……今夜にでもやって貰おうかね。精霊に言っておこう。
業務が終了して家に戻り、夕食後、地精霊と感覚共有して宿舎の方に様子を見に行った。とりあえずパティのところに顔を出すと、何だかあまり元気が無いようだ。
『パティ、フィリストリアですわ。元気が無いようですが、どうかなさったの?』
「……フィリス……いえ、少々お腹が空いただけよ……」
どうやら、ダイエットのため、食事を減らしている様だ。
『痩せることも大事ですが、体を壊しては、元も子もありませんわよ?』
「小麦や大麦を使った料理を食べ過ぎない様にして、体を動かせば、すぐ元通りになるって、精霊が言ってたから、とりあえず頑張るわ……。太って制服が着られなくなるのは嫌だもの……」
私は制服を作り直したが……身長が伸びたからなんだよね……言わない様にしよう……。
『ところで、3人の様子は如何でしょうか?』
「今の所大丈夫よ……。ただ、私は月末には道路工事の方でこちらを離れるから、それまでに、ある程度必要なことを教えることにするわ……」
今回は、王都~セントラカレン~ウェルスカレン~イクスルードを通る西方街道の修繕があり、2名の地の精霊術士が支援に行くが、うち1名がパティだと聞いている。半年の予定だそうだが、早目に帰って来て欲しいものだ。
『今年は精霊術士が大幅に増加すると思いますので、生活や勤務の体制が大きく変化して大変かもしれませんが、宜しくお願いしますわ』
「そうね……。今の所、クロティナさんとレミファさんが同部屋で、デラーナさんは一人部屋だけど、2月に来る人が、そこに入ることになるそうよ……」
『解りましたわ。有難うございます。今日の所は、デラーナさんに挨拶させて頂きますわ』
パティはかなりだるそうなので、とりあえずデラーナに挨拶をしてから家に戻ることにした。デラーナの部屋に行ったところ、デラーナは何かを読んでいた。
『デラーナさん、今宜しいでしょうか?』
「あら、精霊さん、何か用?」
『デラーナさん、私はフィリストリアですわ。今、地精霊と感覚を共有しておりますの』
「ええっ!フィリストリア様?!どうしようどうしよう……」
デラーナは気が動転してしまったらしい。暫く待っていると、動きが止まり、何故か礼をした。
『デラーナさん、落ち着いて下さいな。あと、礼も不要ですわ。精霊の体を借りているのですもの』
「しかし……無礼があってはいけませんし……」
『デラーナさん、誰かからの手紙を読む時に、礼をしながら読みませんわ。そういうものですよ』
「なるほど……確かにそうですね、解りました」
電話の方が喩えとしては判り易いが、ここには電話はないからね……。まあ、道端で、携帯電話で話しながらペコペコする人はたまに見かけたけど……。
それから、デラーナと少し話をして、宿舎を離れた。今の所は問題無さそうだ。家に戻って暫くすると、例の精霊達がやって来て、また採寸して貰い、就寝した。朝起きた時にはサイズ調整が終わった導師服が置いてあった。有難いことだ。
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