第175話 王都に戻った
お読み頂き有難うございます。
宜しくお願いします。
今日は、領行政舎へ行って、巡回助言の一環として、領内の状況を確認することになっている。
まずは会議室に、事前に頼んでいた、20キート四方くらいの枡目と番号を表示して貰った地図を机の上に置いた。後は、詳細な地図を持って来て貰った。アルカドール領は領地が結構広いけど、手つかずの土地が結構あるから、問題が発生する要素があまり多くない。つまり、集落は勿論の事、畑や牧場なども領地面積に比して少ないから、今日中には捌けるだろう。今後は増えていくだろうけどね。では、始めるか。
頭を風精霊と同化させ、風精霊を呼び寄せる。暫くすると、何百体もの風精霊が集まって来た。部屋の中が精霊だらけだが、私以外には見えていないので、気にせず進めよう。まずは皆に説明する。
「これから、指定した地域の様子を確認して貰います。内容は『農作物の生育や耕作地の状況』『水系の異状の有無』『大きな建築物の異状の有無』『その他、人間の生活に支障が及びそうな事項』ですわ。その地域にいる、他の精霊とも協力して、確認して下さいな」
簡単に説明した後、風精霊達に整列して貰って、順番に地図を見せ「この地域の情報をお願いします」と言って、魔力を与えると、風精霊達は、すごい勢いで飛んで行く。全ての地域の担当を決めたが、何体か残ってしまったので、御礼を言って解散して貰ったが、その精霊達は残念そうに去って行った。次の機会があったら宜しくね……。
筆記の用意をして暫くすると、早速帰って来た風精霊がいた。この近くだから、すぐに帰って来ても不思議ではない。その風精霊は
『農作物及び耕作地、良し。水系、異状なし。建築物、異状なし。その他異状ないよ』
と報告してくれた。帰る時に、もう一度魔力を与えると、嬉しそうに去って行った。
その後も次々と風精霊が帰って来る。異状が無い時はそのまま帰って貰うが、異状が発見された時は、細部の場所などを確認し、行政官に情報提供をする。解り易い所なら良いが『この付近の農場は肥料が少ない』というような情報は、詳細な地図が必要になるから結構大変だった。
昼過ぎまでかかって、漸く風精霊から話を聞き終えた。……全ての番号をチェックし、抜けの無いことを確認する。結果としては、農場の異状などが11か所、水路や堤防のひび割れが5か所、壊れそうな橋が3か所あった。これらは行政官に処置して貰おう。
ただ、セイクル市から100キート程離れた所に、土砂崩れが起こりそうな場所が1か所あったという情報が上がったので、そちらは私が今から向かうことにした。導師服に着替えさせて貰い、報告してくれた風精霊の案内で、両足を他の風精霊と同化して走って移動し、小一時間で現地に到着した。
とりあえず同化を解き、案内の風精霊に魔力を与えてお礼を言うと、嬉しそうに去って行った。さて、この付近の地精霊に詳細を確認しようか。丁度私に気付いた地精霊がふわふわ飛んできたので、尋ねてみる。
『土砂崩れ?えーと……ああ、あそこの山の斜面がかなり危ないね。強い雨が降ると、崩れるよ』
確かにあまり木が生えておらず、山肌が見えている。近くに集落は無いようだが、下に道路が通っているから、崩れると厄介だ。当座は崩れないよう補強しておいて、後は植林でもして貰おうかな。崩れそうな山の斜面の下に移動し、地精霊と和合を行う。
【我が魂の同胞たる地精霊よ。我と共に在れ】
和合して、枠を作るように、山の斜面の一部と、その中も岩化していく。後で木を植えられるようにしておかないとね……。危なそうなところを補強し、地精霊に再度確認すると『これなら当分は大丈夫だよ』と言われたので、和合を解いた。
持って来た地図で帰り道を確認し、再び風精霊と両足を同化して、セイクル市まで帰った時には、夕方だった。
「お嬢様のおかげで、今年も領の経営は問題無さそうです。土砂崩れの予防までして頂けるとは……有難うございます」
「土砂崩れについては、あくまで応急処置ですので、出来れば植林などを行って、補強して下さいな」
「承知致しました」
いやー、危ない場所が見つかれば、後はお任せしようと思っていたのだけれど、今回の様に緊急対応しないといけない場所もあるわけだから、私自身もきちんと動けるようにしておかないといかんね……。
こうして、アルカドール領の巡回助言については、終了した。何だかんだと結構魔力を使ったから、早目に休ませて貰った。
今日は王都に出発する日だ。私やお兄様、使用人や護衛の他、ルカ、パティ、精霊術士候補3人を一緒に連れて行かなければならないので、かなり大所帯だ。ルカとパティには自分の家の馬車で来て貰って、精霊術士候補3人については、指定した場所にうちの馬車で迎えに行くことになっている。
水属性のレミファ・モプタスはセイクル市在住なので、家に迎えに行くとして、火属性のクロティナ・シャノンはカルセイ町から朝一の定期便でセイクル市まで移動すると聞いているから、停車場に行く予定だ。地属性のデラーナ・テイマーは、セイクル市から少し離れた集落に住んでいて、親にセイクル市まで連れて来て貰って、昨日は知人の家に泊まっているという話なので、そこに迎えに行く。どの子も荷物は少ないそうなので、そこは気楽だ。
また、午前中にリーズがこちらに顔を出した。流石にすぐ治るものでもなく、あれから一度体調を崩したりはしたものの、魔力循環自体は良くなっているので、頑張って欲しいものだ。
そう言えば、領から料理人を何名か、王都の侯爵邸に派遣して、今作られている料理をあちらにも普及することになっている。なお、暫くの間は、普及要員を1年毎に交代していくらしい。領の方も、逐次進歩しているからね……。
ということで、午後に入った所で、商工組合から、3名の料理人が派遣されて来た。うち1名は、甘味研究所の人だ。少し体型が戻った様なので、引き続き頑張って、健康を維持して貰いたいものだ。
「これから1年、宜しく頼むよ」
「御曹司様やお嬢様の為に料理を作れるとは、この上ない幸せでございます」
「そう言って頂けて嬉しいですわ。あと、王都の料理についても、学んで頂けると有難いですわ」
「はい。聞けば、王都は今、サウスエッドの甘味が流行しているというではありませんか。あちらの甘味の良い所を取り入れて、更に発展させたいと思いますので、宜しくお願いします」
落ち着いたら、ティーナやミリナなども呼んで、茶会などを開いてもいいかもね……。
料理人達には談話室で待機して貰い、暫くすると、3名の精霊術士候補がやって来たので、対応しよう。
「3名とも、無事に来られた様ですわね」
「お、お嬢様!この度は、精霊課で働けますことを、誠に光栄に、思います」
「よ……宜しく……お願いします」
「が、頑張ります!」
クロティナ、レミファ、デラーナは緊張しているようだ。まあ、私も一応領主の娘だからね……。
「もうすぐ全員揃いますので、こちらの談話室でお待ちになって下さいな」
と言って案内すると、動きはぎこちなかったがついて来てくれた。後はルカとパティか。
……暫くするとパティがやって来た……が、うーむ。
「パティ様、少々ふっくらされておりませんか?」
「ふぃ、フィリス様、それは言わないで!」
どうやら、お菓子の誘惑に勝てずに、太ってしまったらしい。これは王都でダイエットだな。
「まあ、王都で運動などをされれば、すぐに元に戻りますから頑張って下さいな。あと、精霊術士候補達も来られておりますので、挨拶をしておいて下さい」
そう言って、談話室で待機している精霊術士候補達に挨拶をして貰った。暫くするとルカもやって来たので、改めてお兄様を呼んで、転移門へ向かった。家族や使用人達に見送られ、王都へ転移した。
王都の侯爵邸には、ルカのお祖父さんが迎えに来ており、お兄様と私に挨拶をした後、馬車に乗って移動した。パティ達は、うちの馬車で宿舎まで送った。一応、私も乗っていたが、説明などは、精霊術士の先輩となるパティに基本的にお任せした。宿舎に到着すると、管理人が出て来たので、後はパティと管理人に任せて、私は家に戻った。
夕食時、早速食後のデザートにプリンが出て来た。どうやら、王都側の料理人達も、かなり興味を持ったようで、作っている所を食い入るように見ていたらしい。作る練習をするのはいいけど、食べ過ぎないようにして欲しいものだ。
お目汚しでしたが、楽しんで頂けたのであれば幸いです。
評価、ブックマーク、いいね、誤字報告を頂ければとても助かります。
宜しくお願いします。