第017話 初めての茶会開催 1
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レイテアが来てから、私の鍛錬も充実してきて非常に嬉しい。徒手での鍛錬こそできないものの、魔力の流れを読んだ戦い方がかなり出来るようになった。
これなら暫くは魔物狩りに行く必要もなさそうだ。黙って行くのは流石に気が引けるし。とはいえ、剣では徒手の感覚が鈍るので、得物を棒に変えることにした。レイテアにとっても、柔軟性を高める良い鍛錬になるだろうから、得物を変更する理由付けとしてもいい感じだ。
「レイテア、今日から私は、剣ではなくこの棒を使います」
「棒?私は……構いませんが……実戦向きでないのでは?」
「あら、刃がないからと言って実戦に向かないわけではありませんわ。むしろ、刃が無い分自由度が高いですし、剣で棒を切られてしまうような立ち回りをするつもりはございませんわ。試してみましょうか」
そしてレイテアと対戦したが……
「お嬢様申し訳ありません。出過ぎた口を叩きました」
「レイテア、間合いが剣と異なる分戸惑ったでしょう?剣の間合いは他の護衛達と鍛錬出来ると思いますので、私とは棒を主体にしてやりましょう。柔軟な対応力が磨かれる筈ですから」
ということで、私は棒を使うことにした。ただ、本当に徒手の感覚を出すには、魔力を乗せることができないと駄目なんだよな。魔力は体から出るとすぐに魔素に変わってしまう。魔力が貯まる素材とか、今の所聞いたことがないので、解決できるかは難しいところだ。
ある時、母様に呼び出された。一体何事だろうか。
「フィリス。そろそろ貴女も、茶会を開いてみてはどうかと思うのよ」
「茶会?私が……でしょうか。では、近しい年頃の方をお招きすれば宜しいのでしょうか?」
「ええ。実は先日私が開いた茶会で、そろそろ貴女の年頃の子も茶会に慣れさせようという話が出たのよ。そうなれば、当然領主家である私達が先だって行わなければならないわ。最初は私が招待者と行う日を選びますから、それ以降の段取りと、実際の茶会を取り仕切ってみなさい?教えてあげますから」
「母様、解りましたわ。ご指導宜しくお願いします」
私は初めて茶会を開くことになった。そういえば、同世代の貴族の女の子とは殆ど会ってないな。会ったのは、母様の茶会に何度か顔を出した時だ。
アンダラット先生の娘さんのソルティーナ、ティーナと呼ばせてもらっているが、たまに会って話をする。ふんわりした印象の7才だが、実は先生に似て、魔法が得意なのだから侮れない。
後はアルカドール領北西部のドミナス分領太守、オペラミナー子爵の7才の娘さんのティルカニア。鉄や水晶などを産出する地域なのだが、荒くれ者が多いので、夫人とお子さんが一昨年セイクル市に越してきたのだが、その歓迎茶会で会った。兄様を見て一目ぼれしたような雰囲気だったが、特に肩入れも邪魔もする気は無いので、その辺りは好きにやって欲しい。
数日後、母様から茶会に招待する令嬢4名を教えてもらった。セイクル市在住の、年齢が近い貴族令嬢を選定したそうで、遠方の令嬢は、今後セイクル市に来た時に茶会を開けばいいだろう、ということだった。4人のうち、ティーナとティルカニアは知っているとして、あとの2人は初めて会う。
一人目はマールセレナ・アプトリウム。アルカドール領東側の港町一帯である、プトラム分領太守の6才の娘だ。こちらは先日太守夫人とともにセイクル市に越してきたらしい。
二人目はパトラルシア・ミニスクス。以前会ったミニスクス執政官の娘さんだ。先日6才になったらしい。
茶会は2週間後に行うことになり、4名には私からお誘いの手紙を書くとともに、母様やメイド長のキーファナ・メイバント、私付メイドのメイリースに相談しながら準備することになった。
母様には全般、招待者の経歴や嗜好、準備する話題などを教わった。茶会は、まずは出来る限り楽しんでもらえるよう心配りをすることが、開催者の心得だそうだ。その上で、とりとめもない話題の裏側に潜む情報を収集するとともに、可能なら味方に取り込めるよう、駆け引きするのが茶会の醍醐味だという。何か怖いのですが。
キーファナとメイリースには、会場の選定や飾り付け、お茶やお菓子の準備、それらに合わせて当日着るドレスなどの選定について相談した。
秋なので庭の紅葉が見えるテラスがいいとか、少し寒いので暖房用の魔道具も設置しようとか、茶葉は基本に忠実に、母様の故郷のテトラーデ産高級茶葉にしようとか、当日の天気に合わせてドレスは2種類準備しようとか、色々相談した。
通常の教育を受けつつ、準備やら招待者の事前情報の把握などをやっているうちに当日になった。今回の場合は最初なので、招待者4名が集まったら、最上位者であり開催者の私が会場に入場し、挨拶するそうだ。
その後、招待者が序列順に私に挨拶し、着席して色々話し合うそうだ。今回は概ね1時間。話題はそれなりに準備したが、相手によるので何とも言えない。まあ一応、私は領主の娘だから、気負わず笑顔で対応するよう、母様に言われたが。
本日は秋晴れ、明るい空色のドレスを着て、皆の到着を待った。
4名がテラスに集まり、メイリースが私を呼びに来た。呼吸や姿勢を改めて確認しつつ、テラスに入った。4名は席に座っていたが、私の入場とともに立ち上がり、礼の姿勢をとった。私は席の横に立った。
「本日はようこそお越し下さいました。私がクリトファルス・アルカドールの娘のフィリストリアですわ。皆様とはぜひ誼を深めさせて頂きたくて、お招きいたしましたの。どうぞお座りになって」
とりあえず簡単な挨拶をして、着席して貰い、序列順に、個別の挨拶を受けた。その際、名前が長ったらしいので、私のことはフィリスと呼ぶよう言っておいた。後は歓談か、なる様になれ。
「それにしても、フィリス様はお美しいですわ。それに私よりも大人びてらっしゃいます」
「セレナ様もとても可愛らしくていらっしゃるわ。まるで海に輝く真珠のよう」
2人して微笑む。ドレスが青色だったので海系で攻めてみたけど、セレナは港町にいたから、海が好きなのだろう。さて、他の人も褒めておこう。とりあえずルカかな。緑っぽいし、山の方で攻めてみるか。
「ルカ様も、山に咲く一輪の花のように可憐ですわ」
「フィリス様、お褒めいただき有難うございます。フィリス様こそ、澄み渡る秋空に輝く太陽のようにお美しいですわ。流石ステアのアルフラミスと讃えらえた方のお孫様。私など及びませんわ」
うーん、山からそっち方面に流したか。微妙に自慢げになってしまった気がする、しくったか。しかしルカさんや、よくもまあそんな歯の浮くような言葉を。私ももっと詩の勉強をすべきか。次はティーナだ。
「あら、有難うございます。ティーナ様も、以前お会いした時よりも、お綺麗になったのではありませんか。そよぐ風のようなさわやかさを感じますわ」
「フィリス様有難うございますね~。フィリス様も、ますますお綺麗になりましたよ」
まあ、薄緑系のドレスなので風っぽく無難に攻めた。最後にパティは……黄色か。
「パティ様は、先日誕生日だったのですよね、おめでとうございます。まさに今にも蝶になって飛び立ちそうな可愛らしさですわ」
とにかく時事ネタと、この辺りの蝶は黄色いのが多いから掛けてみた。
「……あ、有難うございます……」
受けなかったか?緊張しているようだし、様子を見ながら打ち解けて行こうかな。
お目汚しでしたが、楽しんで頂けたのであれば幸いです。
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(石は移動しました)