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第170話 プトラム分領に視察に行った

お読み頂き有難うございます。

宜しくお願いします。

トンネル工事も終わったし、今日から暫くは特に用事が無い。市内の様子を確認してもいいかもな……と朝食の時に考えていると、お父様が


「フィリス、明日からプトラムの視察に行くので、一緒に来ないか?あちらからも是非に、と言われていてな。隧道工事があったので、お前には言っていなかったが、予想以上に早く終わったからな」


「まあ、是非ご一緒させて頂きますわ。丁度予定をどうしようか考えておりましたの」


「エヴァは年末の婦人会行事などがあるので一緒には行けんが、カイには勉強のため、同行して貰う」


「年末の奉仕活動は、婦人会の重要な行事なので、会長の私は外せないのよ……残念だわ」


「父上、分領の状況が確認できる機会を頂き、有難うございます。フィリス、宜しくね」


「ええ、お兄様。宜しくお願いしますね」


ちなみにお兄様は、こちらに帰って来てから、領行政舎に行ったり、セイクル市内を色々視察して、領地経営の勉強をしている。私が言うのも何だが、休みだというのに大変そうだ。


プトラム分領へ行くには、馬車で2日かかる。移動が往復で4日間、視察が1日で計5日だ。お父様、お兄様、私とプトラム担当の行政官が1つの馬車に乗り、後は使用人が5名程、護衛が10名程来るらしい。今日の所は、視察の準備を……とは言っても服の準備くらいだが……を行い、レイテア達と鍛錬などをして過ごした。




次の日、私達はプトラムの視察へ出発した。道中は暇かと思ったのだが、行政官がプトラムの状況を説明してくれたので、案外面白かった。あと、この機会にということで、休憩時間などに、お兄様の魔力波習得状況を確認した。練習を続けているらしいが、まだ習得には至っていないようだ。これは慣れとひらめきが重要だと思うので、慣れて貰うしかないかな。


途中の町で1泊し、2日目夕方に、プトラム分領太守邸に到着した。入口で、太守であるアプトリウム子爵夫妻が待っており、私達が馬車から降りると礼をした。


「御苦労。明日、分領の状況を確認させて貰うので、宜しく頼む」


「お忙しい中、分領の視察に来て頂き、誠に有難き幸せでございます。今日の所は我が家でお休みになって下さい。こちらへどうぞ」


子爵に案内され、邸内に入る。使用人達が礼をしていた。セレナやリーズもいた。私達は、それぞれ部屋に案内された……のだが、お父様と私、レイテアは、話があると言って、何故か談話室に案内された。


アプトリウム子爵夫妻とリーズがいるから、先日の件かな?リーズの魔力循環は、先日より良くなっている。これなら暫く頑張れば大丈夫かな……と考えていると、子爵から


「実は先日、下の娘がお嬢様やそちらのメリークルス男爵に、大変お世話になったそうで、改めましてお礼を申し上げたいと思いまして、お呼びしたのです」


と言われた。話を聞くと、リーズは魔力循環不全症という病気だそうで、これまでは週に数回は体調不良となるところ、暫く良好で、また、今回の年末年始の帰省においても、これまでは2日も馬車に揺られると、大抵体調を崩していたにもかかわらず元気なので、昨日話を聞いて、私達の話を知ったそうだ。


「お嬢様は娘の恩人でございます!本当に、有難うございました」


涙ながらに子爵夫妻にお礼を言われ、軽い気持ちで施術してしまったことに罪悪感が湧いて来た。


「いえ、このような重大事に、説明もせず勝手に施術を行ってしまい、申し訳ございませんでした」


「とんでもございません。これまでも娘を医者に見せても、根本的な改善は出来ず、せいぜい体力を向上させる程度しか対処法が無いと言われまして、それでも成人まで命があるか判らず、生きられたとしてもろくな嫁ぎ先が無いだろう、と言われておりましたの……その状態を改善して頂いたのですから、フィリストリア様への感謝はあっても、文句など恐れ多い事でございます」


「そう仰って頂けるのであれば、私も施術した甲斐がございますわ」


「今でこそ健康だが、娘も生まれた時には、病気ではないものの、体質上命の危険があったのだ。運良くその危機は脱することができたが、子爵夫妻の気持ちは痛いほど解る。リーズメアラ嬢が快方に向かうなら、喜ばしい事だ」


そう、私も変な体質だから、色々家族に心配掛けてるんだよね……すみません。そうだ、念のためにご両親にも言っておこうかな。


「今後、健康になって行くと思いますが……リーズメアラ様にも申しましたが、暫くは自力で魔力循環を強める努力をしなければなりません。恐らく体が覚えてしまえば普通の方と同じようになるのでしょうが、それまでは、リーズメアラ様自身の頑張りと、ご家族の支えが必要ですわ」


「勿論です!フィリストリア様と、レイテア先生に習った体操などをしっかり行って、頑張ります!」


やる気に満ちたリーズの決意の言葉でその場が和み、改めてお礼を言われて、一旦部屋に戻った。とはいえ、魔力循環に関しては、私の考えが甘かった……と反省した。




部屋着に着替えて暫くすると、使用人が夕食に呼びに来たので、案内されて食堂に移動した。食堂は、テーブルが2列になっていて、上座がお父様と子爵、そこから序列順に並んでいた。私の向かいはセレナだ。リーズの隣にいる男の子は、セレナ達の弟なのだろう。双方軽く挨拶をして、夕食が始まった。


料理は、通常の魚料理の他、私が以前教えた海鮮料理が並んでいる。ウニもナマコもカニも、どれも美味しいし、カマボコも、ただ白いだけではなく、赤や茶色のものもあって、見た目にもいい感じだ。


「時々セイクル市の方でも魚介類を食するようになったが、やはりこちらで食べると新鮮度が違うな」


「ええ、領主様。特に、お嬢様からご教授頂いた食材と調理法は、観光客にも人気でして、今年は宿を増やす話もあるのですよ。また、塩の買い付けに来る商人が増えております」


「今年中には、領東西街道を整備するので、更に流通が増える筈だ」


「あの山地の道路を整備されるのですか?ビースレクナ側の出資があっても大変なのでは?」


「実は既に、境界付近を通る隧道が概成したのだ。後は街道を整備し、警備態勢を整えるだけだ」


「何と……それではこちらも色々準備せねばなりませんね……」


せっかくの美味しい料理だったが、話題が仕事の話ばかりだったのが玉に瑕だ。




食事が終わり、部屋に戻ると、暫くしてセレナとリーズが訪ねて来た。


「フィリス様、リーズの体の事ですが、本当に有難うございました」


「セレナ様、先程ご両親からもお礼の言葉を頂きましたし、こちらが恐縮してしまいますわ。それよりも、せっかくですから何かお話ししましょう。好きな甘味などはございますか?」


「フィリス様、私、卵蒸しが好きです!」


「……ふふっ、そうですね、私は乳糖泡をたっぷり乗せた小麦粉焼きが好きですね」


せっかくなので、女子トークに変えさせて貰った。私の場合は今の所、ショートケーキかな。




次の日、朝食をとった後、最初の視察場所である港に向かった。ここは、砂糖を西公府の港まで運ぶための船を発着する場所で、できれば大きい船で運びたいので、拡張工事を行っているそうだ。


「現在、工事が難航しておりまして……人員を多数増加しなければ拡張は難しい状況です」


現場の工事担当者が言うには、港付近の岩は、水属性のエネルギーも多く含んでいるため、地魔法では移動が難しく、非常に多数の魔法士で一斉に行わなければ動かせないそうだ。うーん。


「お父様、もし宜しければ、私が助力致しましょうか?」


「……そうだな、可能ならば、頼む」


お父様自身は、私の力に頼り過ぎることをあまり良くは思っていないようだが、領としての必要性の方が重視されたのだろう、私の申し出を採用した。私は工事担当者から、図面を見せて貰う。どうやら、港付近の海底にある岩などを削って、船底にぶつからない様にする工事らしい。その程度なら、同化で十分だろう。右手を地精霊、左手を水精霊と同化させ、早速指定された海底の岩を削ってしまう。水が綺麗だから、削れた様子が見えた。


「これで宜しいのでしょうか?」


「凄い……流石精霊導師様だ……では、重ね重ね申し訳ございません。これとこれ、あと、あちらの方も削って頂けないでしょうか」


実はもっと削りたい場所があったようだ。ついでなので、色々やっておこう……。


「太守様、これなら埠頭を整備すれば、今後は漁港としてだけでなく、普通の港としても使えますよ!」


どうやらこれまでは、この港は小さい漁船しか使えなかったようだが、今回私が海底を削りまくったので、大きい貨物船なども普通に使えるようになりそうだ。流石に東公府や西公府の港には及ばないだろうが、それでも海運が使えるようになるのは、非常に有難い筈だ。


「何と……まさかここまでやって頂けるとは……有難うございます」


「……砂糖の輸送が滞りなく進みそうで、安心致しましたわ」


ということで、ここの視察は終わり、次にカマボコの製造工場にやって来た。


「これがすり身蒸しの工場ですか。あの魚がすり身蒸しに……」


お兄様は、昨日食べたカマボコが、どのように作られているか興味があったらしい。


「はい、御曹司様。あれは介党鱈と申しまして、この付近で良く獲れる白身魚です。このように加工することで、取扱いが容易になり、消費量が格段に向上しました」


「消費量を上げるには、加工して流通させるのが良いようだね」


もしかするとお兄様は、カマボコに限らず、他の食材なども色々加工することを考えているかもしれないな。まあ、もし相談されたら、何かしら助言できるように、考えておこう。


ここで昼食を取り、出来立てのカマボコを食べたりした。出来たてはやはり美味しい。




最後に、港から少し離れた所にある、塩製造工場に向かった。小高い岬に、風車が設置されているのが見えた。最初に、その風車の近くまで馬車で上がった。


「ふむ、風車による海水の汲み上げは、上手くいっているようだな」


岬の下を通って、スクリューポンプが設置してあり、それを風車が回すことで、海水を汲めるようになっているのだ。汲み上げた海水は、魔法で作った石の水路を通って少し下にある海水貯蔵用の水槽に流れていき、そこで真水と濃い塩水に魔法で分けられ、濃い塩水から水を魔法で蒸発させ、塩を取り出す仕組だ。


「従来の方法より、手間がかからず気象にも左右されず、大量に製造可能ですので、今では全てこの方法で塩を製造しており、他領からも商会の買い付けが進んでおります。また、分離後の真水を生活・農業用水として利用しておりまして、住民も喜んでおります。お嬢様の発案で、分領は変わりました」


「……様々な要素が偶然合致しただけですわ。そうそう、精塩の製造は、どうなっておりますの?」


精塩というのは、海水塩からより分けた塩化ナトリウム、つまり前世でいうところの食塩だ。


「精塩の製造は、こちらで行っております。なお、今の所は、通常の塩と半々で製造しておりますが、最近は精塩の需要が高まっておりまして、精塩の比率を上げる予定です」


「精塩を分離した後の残りは、現在どのようにしておりますの?」


「使い道がございませんので、海に帰しております」


「……今ここにある分を頂いても、宜しいでしょうか?」


「勿論構いませんが、どうされるのでしょうか」


「色々試してみたいのです。何かしらの使用法は、見つかると思いますわ」


というか、にがりとして使いたい。うちの領は大豆も結構作っているし、豆腐を作ることが出来れば面白そうだ。捨てる予定だったにがりを、幾つかの大きな袋に入れて貰い、異空間に収納した。


こうして、プトラム分領の視察は終了し、この日はアプトリウム子爵邸に宿泊し、次の日出発した。2日かけて移動し、2日目の夕方、家に帰って来た。なお、お父様は、帰るなりお母様のご機嫌を取っていた。まあ、あの恨めしそうな雰囲気を見ては、そうしたくなるのも判る。

お目汚しでしたが、楽しんで頂けたのであれば幸いです。

評価、ブックマーク、いいね、誤字報告を頂ければとても助かります。

宜しくお願いします。


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