第165話 アルカドール領に帰省した
お読み頂き有難うございます。
宜しくお願いします。
本話から、話の更新が3日に1回となります。
今日は休日、暫く王都を離れ、アルカドール領に帰る日だ。とりあえず、準備は終わっているので、馬車でパティを迎えに行って貰ったのだが……こちらに来たパティは、土産を沢山持って現れた。
「仰って頂ければ、私も向かいましたのに……」
「あまり貴女を頼りすぎると、便利過ぎて駄目になりそうで……」
その気持ちは判らないでもないが、その時々で最善の方策を目指すのが私の流儀だ。有るものは利用し、無くてもそれなりに最善を尽くす。でないと、色々厳しそうな気がするよ……。ということで、少しの間だが私が輸送する。王都の侯爵邸は暫く管理要員のみとなり、結構な大所帯が転移門を使って移動した。
お祖父様、お兄様、私が本邸の玄関を通ると、屋敷の全員が迎えてくれた。
「大旦那様、御曹司様、お嬢様、お帰りなさいませ」
「父上、カイ、フィリス、お帰り」
「お義父様、カイ、フィリス、お帰りなさい」
「今帰った。皆元気そうじゃの。やはりこちらは落ち着くわい」
「父上、母上、皆、只今帰りました。変わらず何よりです」
「お父様、お母様、皆、只今帰りました。まあ、私は度々帰っておりましたけれど」
挨拶を済ませて一旦部屋着に着替えるため部屋に戻る。ちなみに、パティのお父さんは既に来ていたのでそのまま、お父様や私に礼を言って、パティを連れて家に帰った。土産もあちらの御者に渡した。
そういえば、部屋着はこちらにあるのかな……と思ってクローゼットを開けると、沢山入っていた。しかもサイズも丁度だ……気にしないことにして、クラリアに手伝って貰い、早速着替えた。お父様から呼ばれているので、報告や領の状況を聞いたりするために、談話室に行こう。
談話室に行くと、既に全員揃っていた。構造上仕方ないのよ……。まあそこは当然スルーされて
「揃ったな。では、父上。あちらでの生活は如何でしたか。色々仕事を頼んでしまいましたが」
「久しぶりの王都を楽しめたよ。知人にも会えたからのう」
お祖父様は何だかんだと外出されていたからなあ。レイテアの件以外でも仕事があったらしいけど、私は聞かされていない。領地経営には、色々あるのだろう。
「それは良かったです。カイ、得るものはあったか?」
「はい。成績は変わりませんが、多くの教官達や書物から様々な事を学んでおります。魔法以外でも、法制度などの権威からご教授頂きまして、今後も活用していきたいと思います」
お兄様はあっさり報告したが、今年も首席をキープしたということだ。流石お兄様だ。将来領主となるのだから、法律の重要性を理解されているというのは良い事だ。領主自ら法を犯したりしたら、領地の経営などまともにできないからね。お兄様は、良き領主になるだろう……。
「そうか。学校側からも報告を受けているが、よくやっている。この調子で励むように」
「私も色々な所から貴方の事を聞いていますよ。優秀で羨ましい、と言われて、私も鼻が高いわ」
「父上、母上、有難うございます。あと1年、しっかり励みます」
「うむ。あと……フィリス。先日の海兵団の件、こちらにも概要は連絡されたが、詳しく話してくれ」
やっぱりか。まあ、報告する気ではいたので、王都でお祖父様とお兄様に報告した内容を話した。流石に落ち着いたので、泣いたりすることはなかったが、正直いい気分ではない。
「そうか……海兵団の体制がおかしくなっていた直接の原因が怨恨にあったとしても、付け入られた海兵団に問題があったのだ。それが改善に向かうなら、良い事だ。ただ……暗殺未遂に関しては、今後も起こる可能性がある。解っているだろうが、気を付けるように」
「貴女が簡単に死ぬ筈がないのは頭では解っていますが、心配してしまうのよ。狙う方が悪いのは当然なのだけれど、出来るだけ危険を避けて頂戴ね」
「お父様、お母様、いつも心配を掛け、申し訳ございません。出来る限り、気を付けますわ」
「お前が無事なら良いのだ。……我が領は、現在移民の流入が増加している。ノスフェトゥス方面からの移民は基本的に受け入れていないが、素性を偽って別方面から来る者もいる筈だ。警戒を強めよう」
私達の報告は終了し、お父様達は、アルカドール領の様子を話してくれた。開墾が1年でかなり進み、春から作物を植えていくそうだ。大麦などに加え、私が作って来たじゃがいもも植えていくらしい。じゃがいもなら、あまり土地が肥えていなくても育つからね。
甜菜は、様子を見ながら増やすそうだけど、品種改良種への切り替えを進めることで、当座の需要増には対応できるようだ。ちなみに、ビースレクナに植える分の種も、こちらにあるそうなので、後で早速品種改良しておこう。
ビースレクナとの流通路確保のため、年明けから領内の道路を一部整備するらしい。特に境界の山地からセイクル市、セイクル市からプトラム分領までの道路を整備して、塩などの流通が容易になるようにするのと、途中の宿なども商工組合が主体となって増やす予定だそうだ。輸送には人手が要るからね。トンネルは、今年最後の週に様子を見ながら作る予定だけど、気合を入れて作らないとな。
砂糖製造工場に続いて、精霊酒製造工場も、カルセイ町に作るそうだ。ただ、やはり貯蔵庫を作るには、かなりの作業量が必要で、帰省中に私が概略作ってくれると有難い、と言われたので、暇を見て作りにいこう。
あと、以前話のあった、ドミナス分領での水晶像の品評会を、年明けの週に行うそうだ。ちなみに名前は「精霊杯」だそうで、既に私も特別審査員に名前が挙がっているらしい。それは……行かないとまずいよね。
一応事前に私に了承を取って進めようとはしたらしいんだけど、丁度海兵団関連で取り込み中で、いつ連絡が取れるか不明だし、手紙なら帰省の際に話してもあまり変わらないということで、そのまま進めたらしい。まあ、最初の発案者は私だから、断れる筈もないし、そのまま進めて貰おう。
後は、お母様が概ね重力魔法を習得したということで、見せて貰った。
「ほら、このようなことも、出来る様になったのよ?」
「まあ、お母様が踊るように宙を舞われておりますわね」
「重力魔法の論文発表に伴い、我が領でも普及を始めることになった。エヴァには、セイクル市内の有志に重力魔法を教育して貰う」
「今は、配布された論文を読み込んで、どう教えるか検討しているのよ。フィリスにも、協力をお願いしたいのだけれど」
「ええ、政府の方でも重力魔法の研究の深化や普及に携わっておりますから、いつでも仰って下さい」
「宜しく頼む。しかし、氷魔法の普及の際に、初等学校などでも魔法の基礎教育を始めたのだが、それが重力魔法の方にも活かせそうだ」
「魔法省では、陛下から魔法教育の在り方を検討し、国民の魔法能力の向上を図るようにと言われているのですが、アルカドール領は、それを先駆けて行っているのですか。素晴らしいですわ!」
「そこは、コルドリップ行政官達が頑張ってくれたからだな。とはいえ、始めたばかりだから、今後も改善していくことにはなるだろうが」
「できれば、その内容を魔法省の方にも情報提供して頂けると有難いですわ」
「解った。政府が動いてくれるとこちらも助かる。特に、人材や教本の整備が捗るのは有難い」
ちなみにこちらでは、有志で教本を作成し、集落の魔法士、いなければ魔法を使える冒険者などを臨時雇用し、教育しているそうだ。なるほど。
「そういえば、毎年の巡回助言を、今回はフィリスが行ってくれるそうだな」
「ええ。アルカドール領は、今回の帰省に合わせて、王都に戻る前に行いますわ。あと、精霊視を持つ者の確認も行うことになっておりますが、何時頃になるでしょうか」
「2日後に、聖堂に集合するよう達している。そこで確認と鑑定を行う予定だ」
「陛下から、精霊術士を増やすように言われておりますので、こちらでも見つかれば良いですわね」
「……これまでは、各領主は精霊術士を見つけることに、あまり積極的ではなかったからな」
「?、それはどういうことでしょうか」
「これまでは、精霊術士を見つけても、実質ステア政府で使うのが主体だったから、殆ど領には利が無かったのだが、今後は魔法強化などが出来る様に鍛えて貰えると考えたなら、領としても得だからな。密かに精霊視を持つ者を囲って、領独自で隠れて教育することも不可能ではないが、それよりもステア政府できちんと教育を受け、経験を積ませた方が良いからな」
なるほど。これまで地方から精霊術士があまり採用されていなかったのは、領としてのメリットが少なかったという理由もあるのか。まあ、今後はきちんと鍛えるし、地方出身者の場合、退官後は出身地に戻る人が多いらしいから、領としてもメリットがあるわけね。一気に精霊術士が増えそうな気がするなあ。
その後も、暫く話をしているうちに昼になり、久しぶりに昼食を家族全員で取った。
午後は、甜菜の種を片っ端から品種改良していくうちに過ぎ、終了した頃には夕方になっていた。
お目汚しでしたが、楽しんで頂けたのであれば幸いです。
評価、ブックマーク、いいね、誤字報告を頂ければとても助かります。
宜しくお願いします。