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第162話 海兵団への改善要望 6

お読み頂き有難うございます。

宜しくお願いします。

今日は週末だ。溜まった書類などを片付け終わる頃には、業務時間が終わっていた。屋敷に帰ると、テトラーデから、寒天が届いていた。乾燥がうまくいったので、送ってくれたようだ。ゼリーや羊羹などを試しに作って、今度の帰省の際に寒天と一緒にレシピを渡そう。テトラーデ側でも、料理に使えないか、検討してみるそうで、今度巡回助言に行った時にでも、聞いてみよう。


夕食後、風精霊と感覚共有して、精霊術士達の宿舎へ顔を出してみた。彼女達の様子はどうだろうか。とりあえず、フェルダナの部屋に行った。


「導師様、様子を見に来られたのですか。大丈夫だとは思いますが、部屋に行ってあげて下さい」


配置換えに際し、精霊課長から大まかな状況は皆に説明されている。私が来た理由も察してくれたようだ。フェルダナの案内の元、一人の部屋に行き、フェルダナがもう一人も部屋に呼んで来てくれた。有難う。


『夜分失礼します。フィリストリアですわ。大丈夫だとは思いましたが、様子を見に参りましたの。調子は如何でしょうか』


「導師様、随分可愛らしいお姿になっておりますね。私達は大丈夫ですよ。皆様が色々気を使って下さるのが心苦しいくらいです」


「昨年一昨年はこちらにおりましたし、基本的には問題ありません。ただ、こちらは以前とは様々な状況が変わったのが解りました」


『そうですわね。暫くはのんびりと魔力操作の練習などを行って下さいな』


「はい、そうさせて頂きます。それと、精霊課は、以前より明るい感じがします。昨日今日と過ごしてみますと、皆さん精霊とだけではなく、互いの会話も増えておりますし、笑い声も増えたように感じました」


『そこは色々新しい事を始めておりますし、情報交換・共有も頻繁に行う必要がございますから』


「そのようですね。皆様の話を聞いているうちに、何だか楽しくなって来ましたもの」


「そういえば、先日の導師様のご活躍をお話ししましたところ、皆様驚かれていましたよ?」


『あら、嫌ですわ。結局有耶無耶になってしまいましたから、消化不良気味ですのに』


「最初は皆様にも信じて貰えなかったのですが、導師様と同郷の……パティさんが言うには、小さい頃から護衛達に混ざって鍛錬していたということでしたので……それでやっと信じて貰えました」


……パティにも言ってなかった筈だが……実はバレていたのか。やはり我が友、侮れないな。


その後も、精霊術士集中鍛錬や、魔法兵団との協同訓練の話などをした。この様子なら、大丈夫だろう。




休日については、体を動かしたりして過ごした。夜には、水精霊と感覚共有し、昨日同様、宿舎に様子を見に行った。今日は、ラクノア達と一緒に、私も以前連れて行って貰った公園に行って、精霊達と戯れて過ごしたそうだ。こちらも大丈夫そうで、安心したよ。


週が明け、今週で今年の政府の業務はとりあえず終了だ。書類も片づけ、何をしようかと考えていたところ、軍総司令部憲兵隊長が入って来た。


「導師様、先日の暗殺未遂の件について、報告に参りました」


概要が判ったので、報告に来たそうだ。なお、先程陛下に報告したそうだ。仕事を増やしてすみません。


まず、団長は、全く関係がなかった。やはり気が動転して逃げただけらしい。まあ、それは置いといて、吹き矢の男は、海兵団本部の新兵教育班長だそうだ。で、素性を隠して海兵団にいたが、実はノスフェトゥス国の者で、アルカドール領に攻めて来た第1軍第1団長のフォルクロス・マルダライク伯爵の血縁者らしい。


元々はスパイとして活動していて、金をばらまいてコネを作りつつ情報を集めていたが、トロスの役以降、ノスフェトゥスは政情不安になり、マルダライク伯爵家が没落したりしたため切捨てられ、私を非常に恨んでいたらしい。


それで、憂さ晴らしにコネを使って新兵教育班長となり、坊主憎けりゃ袈裟まで憎いとばかりに、精霊術士に対して悪感情を持つよう工作していたそうだ。新兵を教育する立場であれば、効果は大きく、併せてコネも使って各方面に工作したため、結果として1年半ほどで、精霊術士への悪感情を団内に定着させたらしい。


……ということは、私への怨恨が元で、精霊術士達は、あんなに苦しんだの?


そう思った時、思わず殺気を放ってしまい、憲兵隊長を委縮させてしまった。彼は報告に来ただけだ……落ち着こう。これは私が防止したり解決できる類の話ではない。どうしようも無かったのだ……。


暫くすると落ち着くことが出来た。憲兵隊長に謝罪して、報告の続きを聞く。


そんな中、私が海兵団基地にやって来たので、恨みを晴らすべく、試合に乗じて暗殺しようとした、ということだった。彼は、もう暫く背後関係を洗った後、処刑されるそうだ。単なるスパイなら、生かしておけば捕まったスパイの交換などに使うことが出来るそうだが、私を暗殺しようとしたので、処刑以外の選択肢は無いらしい。なお、この件は、基本的には家族以外への口外は禁止とのことだった。




私は、帰宅後に、お祖父様とお兄様に暗殺未遂の概要を話した。


「それは災難じゃったのう。しかし、それはどうしようもない。そして、たまたま規律が乱れておった所に運悪く噛み合ってしまったのじゃ。お前は何も悪くない」


「フィリスは出来ることを頑張っていたじゃないか。今回だって、きっと海兵団のためになっている筈だよ。精霊術士達は確かに不幸だったと思うけど、どうか悲しまないで」


話しているうちに、思わず泣いてしまった私を、お祖父様とお兄様は、優しく慰めてくれた。有難う。


その日の夕食はあまり喉を通らなかったが、心配を掛けてもいけないし、何とか食べて、部屋で休んだ。




今回改めて思ったのは、何かを行うと、必ず利を得る者と不利になる者がいて、味方も敵も、増えていくということだ。特に王族や貴族は影響力が大きいわけだから、敵を作ることを恐れていては何もできない。覚悟しなければ、生きてはいけないのだ。……まあ、徒に敵を増やすのは愚か者なのだが。そういった意味では、前世基準なら、今回行った仕置などは間違いなく駄目なのだが……価値観が違う所もあるので、状況によりけりな所もある。


この世界に転生してすぐの頃は、単に合気道を極めたい、としか思っていなかったが、今は自分に与えられた立場や役割を果たす事も、同様に重要だと考えている。また、そういったことも大局的に見れば修行の一環であるのだと、最近は強く感じている。今後もこの方針で生きていこうと思う。


翻って、今回私は、所々で感情を制御出来ていなかった。前世に比べてあまりにひどい状況だったのもあるが、結局のところ、私も同じ目に遭っていたかもしれないと、共感してしまったのだ。私は現在、力も地位もある。だからあまりセクハラに遭わないだけで、実際には多くの女性が苦しんでいるのだろう。


私が声を上げることで、多少は状況が改善するかもしれないが、特に男性達からは反感を買うだろう。それでも、私は声を上げたい。性欲の対象としてではなく、人間として見て欲しいのだ。性欲を否定するつもりはないが、それだけでは単なる動物だ。人間とは言えない。


セクハラなどは、結局の所相手を同じ人間として見ていないから起こる事であって、互いに尊重し合い、意思疎通が確実にできていれば、そうそう起こらないと思う。しかしながらこの世界の女性は、ともすれば自己主張が許されない状況に陥るから、セクハラという認識すらされないのだ。


前世では、文明が発展することで、男女の立場がある程度均等化されていたと思うが、この世界なら、魔法や魔道具などを発展させることで、女性の立場が向上するのだろうか。そういった意味では、精霊術士の活躍の場が増えることも良いかもしれない。


条件付きだが、レイテアの様に、女性でもやり方次第で、剣術などでも男性に引けを取らないことを証明できるなら、更に良いかもしれない。今回私が試合をしたのは、あの場では余興と言ったが、実際の所、女性を無条件に見下す行為に、少しでも疑問を持って貰いたかったからだ。それが成功したかどうかは解らないが、少なくとも海兵団で精霊術士が働ける状態に戻ればいいな。


私は、世の中を変えるために力と地位を使っていくべきなのかもしれない。神様もそれが目的で私を貴族の家に生まれさせた可能性もある。ただ、そうなると、必然的にどこかで大きな反感を買うことになり、私だけでなく、家族や親しい人達にも何らかの危害が及ぶかもしれないのだ。


今回の様に、起こった後に事実を知り、嘆くことになるのかもしれない。そうであるならば、今後はより一層、確固たる信念に基づいて行動したい。貴族という存在は、そうあるべきなのだと思う。でなければ、特権に振り回されて自滅するだろうから。


そのようなことをベッドで寝ころびながら考えていた。




あまり寝付けないまま朝になってしまった。ただし、休むまでのことはないと思うので、普段通りの行動をとった。とはいえ、今年最終週にそこまで詰まった仕事は無く、時間が空いたので、じゃがいもを増やしたり、魔道具課の方に様子を見に行った。


どうやら、雷魔法の魔道具が完成したようで、共通部分の製作要領をまとめており、この調子なら、来年から様々な雷魔法の魔道具を見ることができそうだ。ヴェルドレイク様も、共通部分から先の部分の製作要領を検討していた。


「こちらが護身用魔道具の製作要領ですのね」


「はい。これは緊急時にも使用できるよう、取扱いを軽易に行えるようにすることと、魔力の少ない者でもある程度の威力を出せるよう、効率化することが研究命題となっています」


「これは何時頃完成予定なのでしょうか」


「1月中には完成できると思います」


「そうですか。物騒なこともございましたし、可能であれば、精霊術士達にも携行させたいですわね」


「王都であれば、使用の機会は無さそうですが、用心に越したことはありませんからね」


「精霊課長にもお知らせしておきますので、その際は宜しくお願いします」


スタンガンに似た魔道具があれば、あのような事件を少しでも防止できるかもしれないからね……。




今日は今年最後の省定例会議、明日は御前会議だ。今回の話題は、やはり海兵団から配置換えした精霊術士達の件だ。こちらの雰囲気にも慣れてきており、来年からは本格的にアンダラット法の練習、そして属性感受性の向上により、他の精霊術士同様、魔法強化が出来るようになって貰うようにするそうだ。


また、配置換えの件については、国防省から大臣に連絡があり、改善策の案がまとまったら、こちらにも資料を送ってくれるそうだ。そこでもし、追加事項などがあれば、追加して貰いたいとのことだった。それと、逃げた海兵団長は、先日更迭され、新たな人が海兵団長となったそうだ。


なお、私の暗殺未遂についても、大臣から、もう少し慎重に行動するよう注意があった。神妙に聞いておこう……。


御前会議でも、精霊術士の件は話され、政府内についても、女性職員の扱いに問題が無いか、総務省の方で検討してみるそうだ。そういう雰囲気になってくれるのは、有難い事だ。

お目汚しでしたが、楽しんで頂けたのであれば幸いです。

評価、ブックマーク、いいね、誤字報告を頂ければとても助かります。

宜しくお願いします。


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