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第158話 海兵団への改善要望 2

お読み頂き有難うございます。

宜しくお願いします。


今回は性的に不快な表現がございます。ご注意下さい。

調査団は、朝から総司令部本部庁舎の転移門に集合し、海兵団本部へと転移した。なお、私は導師服で参加している。私の格好を見た精霊課長は


「お気持ちは判りますが、海兵団を潰さない様、お願いします」


と小声で言って来た。私の本気度合いが判っているのは、流石気配りの人だ。転移門を出てからは、調査団長である監察官が先導して、海兵団長室へ移動した。昨日連絡しているので、慌ててはいないようだが、移動中には多くの視線を感じた。恐らく私を見ていたのだと思うが、半分は物珍し気な視線、半分はエロ視線だった。


どうやら私は、舐められているらしい。私が彼らの立場なら、危機感が溢れ出していると思うがね……。




海兵団長室に到着し、監察官、私と精霊課長が入室した。流石に団長は緊張しているようだ。挨拶を済ませ、本題に入る。


「団長、先日の精霊術士への暴行事件に関連し、団の規律が乱れていないか、調査に参りました」


「監察官、先日の事件は犯人を引き渡しました。それで終わりではないのですか?」


「いえ、以前から精霊術士に対して、性的嫌がらせが頻発していたという情報があります。細部調査を行い、問題があれば改善せよ、と総司令官から命令がございました」


そう言って、監察官は、命令書を団長に見せた。


「総司令官命は了解しました。しかし……男達の中に、あのような可憐な女性達がいれば、注目するのは当たり前ですし、中には劣情を催す不届き者もいる事でしょう。しかしそれは軍の特性であり、仕方がないのです。そこは割り切って頂かねば、困ります」


「そうですか。では、そのような所に、貴重な人材である精霊術士を置くことは出来ませんわね」


「貴女は、国防の一翼を担う海兵団を侮辱されるおつもりか!」


「それはこちらの台詞ですわ。か弱い女性を襲う事件があったにもかかわらず、そのような事を申しますか。……監察官殿、私は海兵団一つ程度でしたら、いつでも潰せますわよ?」


事の重大性が理解出来ていない海兵団長に強い殺気を放ちながら、魔力を活性化した。海兵団長は「ひいっ」と悲鳴を上げ、硬直した。


「ど、導師様、お怒りをお鎮め下さい!」


精霊課長が必死に私を宥める。大丈夫、こちらの本気度合いを見せているだけです。魔力を鎮静化させて、威圧を解く。


「……団長、残念ながら、今の導師様への発言だけを見ても、隊紀粛正の必要ありと判断します」


「わ、私の言葉は真実ではないか!何が悪いのか!」


「真実だからこそ、問題なのですよ。少なくとも今後は、軍と精霊術士との連携が更に重要となります。それは予算審議を見れば明らかです。そのような情勢下で、部隊がこのような問題を起こしながら、何も危機感を持っていない貴方のような指揮官がいては、導師様や精霊課の方々から失われた信用は到底取り戻せません」


「監察官殿、ここにはもう用はございませんわ。現場の人々から話を伺いましょう」


「ど、導師様? 用が無いとはどういうことですか?」


「貴方とお話ししても無駄だということが判った、ということですわ……団長殿」


誰にでも判るように、侮蔑の眼差しを団長に向けると、流石に危機感が湧いたのだろう。


「ま、待って頂きたい! 調査に協力させて頂きます!」


「そうですか。では、案内の出来る方を付けて下さいな。それともう一つ、お願いがあるのですが」


「何でございましょうか?」


「こちらに来るまでの間、私に対して、多くの者が不埒な視線を向けて参りましたの。私がこの基地にいる間は、そういう者達に、何かしらの仕置を与えても、宜しいでしょうか? ああ、命までは取りませんわ」


「そ、そんな……導師様の様な方を見て、何も思ってはいけないというのは……」


「誰も何も思うな、とは申しておりませんわ。男性のそういった感情が制御出来ないことも承知しております。しかし、この時期に私が来た事に対して、何の危機感も持たないのであれば、認識が甘すぎる、と申しているのですわ。そもそも、視線を受ける相手が、何も言わないからといって、気付いていないわけではありませんし、相手にも感情があるのだということを、知って頂かなければなりませんわ」


「導師様の仰る通りですね。そもそも、導師様は王家の方々に次いで、我が国にとり大切なお方です。本来であれば、そのような視線を向けた時点で、本当に首が飛びますよ?」


「……解りました。ただし、仕置は明日からにして頂きたい。本日中に全員に達しますので」


「ご協力、感謝致しますわ。ではお二方、参りましょう?」


私達は団長室から出て、待機していた人達と合流した。暫くすると


「団長から案内を申しつかりました」


と言って、一人の兵士がやって来た。私達は、その兵士の案内で、精霊術士達の宿舎に移動した。




宿舎に到着し、私とカリータさんは、被害者に話を聞き、精霊課長と監察官達は、その他の精霊術士に話を聞きに行った。被害者は、最初は口をつぐんでいたが、やがて、少しずつ話し始めた。


「あの日は……月報をまとめていて……帰るのが……遅くなったん……です。暗くて……怖かったん……ですが……一応基地内……ですし……大丈夫……だろう……と…‥」


そこまで言ったところで、被害者は泣き出してしまった。カリータさんが慰めている。彼女は、精霊課の相談員を務めている。前世で言うカウンセラーのような感じで、優しく頼りがいのある女性だ。正直、私が話し掛けるよりもずっと安心だろう。


暫くすると、少し落ち着いて、引き続き状況を話してくれた。帰り道に、突然酔っぱらった兵士が抱き着いて来て、地面に押し倒された。声を上げて、何とか逃げ出そうともがいたが、強い力で押さえつけられて逃げられず、絶望しかけたところに、悲鳴を聞きつけた衛兵がやって来て、兵士を取り押さえてくれたということだ。正直居たたまれないが、このような事態を今後引き起こしてはならないと、改めて思った。




被害者には、引き続き休んで貰い、私とカリータさんは、精霊課長達に合流した。こちらは、うって変わって、精霊術士達の怒りの声が響いていた。


「何で塞いでも塞いでも穴が出来るんですか! 私達は一体何でここにいるんですか!」


どうも、最初はこの部屋に集まって貰って、普通に事情聴取をしていたらしいのだが、次第にヒートアップしていったようだ。それほど不満が溜まっていたに違いない。暫く口を挟まずに、じっと聞いていた。


状況としては、性的な発言や視線は恒常的にあり、屋上に干していた下着は大抵無くなるので、部屋干ししかできず、更衣室や浴場の脱衣室には覗き穴のようなものが何個もあるそうだ。その上、職場では必要無いのに体を触ろうとする、外出先では馴れ馴れしく寄って来る、少し話しただけの兵士と、何故か深い仲になっているという噂が流れている、用を足そうとすると誰かが付いて来て音を聞こうとする、等々、セクハラの事例集を聞かされている様だった。


流石に直接関係を持とうとする者はいなかったので、まだ我慢していたが、先日の事件が起こってしまったことで、限界が来たようだ。最後には精霊術士達は怒りながら泣いていた。本当、よくここまで頑張ったよ。


今日の所はカリータさんに慰めて貰いつつ、話を聞いて貰うことになり、それ以外の者は、その部屋を出た。とりあえず、話を聞いていた監察官達に、感想を聞いてみた。


「正直、悔しいやら情けないやら。彼女達は何も悪くないのに、何故ここまで苦しめられているのか、と思いました。こんな状態は、絶対におかしいです」


一人の監察員がそのように言うと、他の人達も、次々と同様の感想を言った。悔し涙を流す人さえいた。


「こういった状況では、国軍との協同も考える必要がありますし、海兵団に精霊術士を配置するなど、とてもできません。今こちらにいる精霊術士達は、全て精霊課に戻します。また、海兵団から『代わりを寄越せ』と言われておりますが、少なくとも、この状況が改善するまでは、拒否致します」


「精霊課長殿の仰る通りですわ。これについては、誰であろうと承諾して頂きます。異を唱える方がもしいらしたら、私に仰って下さいな」


「承知致しました」


「ただし、国軍全体がおかしいわけではございません。現に貴方達は彼女達の状況に心を痛めて下さっています。また、多くの兵士達にも、直接の咎は無い可能性があります。一方の見解だけでは、本質を見失いますわ。現場の確認を進めるとともに、多くの兵士達から状況を聞き取って、総合的に分析致しましょう」


「ええ、では私達総司令部組は、兵士達の聞き取りを中心に進めましょう」


「私と導師様は勤務環境の確認と、併せて精霊術士の配置換えの準備を致します」


概略の役割分担を決め、私は精霊課長と共に、精霊術士の勤務場所へ移動した。

お目汚しでしたが、楽しんで頂けたのであれば幸いです。

評価、ブックマーク、いいね、誤字報告を頂ければとても助かります。

宜しくお願いします。


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