第156話 お祖父様とお出かけした
お読み頂き有難うございます。
宜しくお願いします。
今日は省定例会議が行われた。いつもの各課からの状況報告の後、大臣が予算審議への対応を労っていた。また、先日の疫病を未然に防止した件も紹介された。私の所には、クインセプト伯爵からお礼の手紙が来ており、疫病の兆候は見られないということで、通常の態勢に戻したことが書かれていたため、その件を報告しておいた。あと、陛下の最後のお言葉を今度の予算審議に反映させる為、色々な所から情報収集をするように大臣が仰ったが、皆何故私を見るのだ。いや、ネタは探せばあるのだろうけどね。
次の日は全体会議だ。こちらでもやはり予算審議の慰労や、疫病の話が出た。なお、次の全体会議は第2週の週末に行うそうだ。それ以降は年末年始休暇に入る人も多いためらしい。私もその一人だ。地方出身者は移動所要が大きいので、元々長めに取れる傾向だし、私については領の事業を色々手伝いたいというのと、ついでにアルカドール領の巡回助言をやっておきたいからだ。
お兄様も学校が休みに入るし、丁度いいだろう。なのでパティにも休みを長めに取って一緒に移動するよう言っている。どうせ来年は忙しいだろうし……。お父さんが心配していると言うと、皆納得すると思うよ、多分。
忙しかった数週間が終わり、のんびりした週末の夕食を家族で食べていた時、お祖父様が言った。
「フィリス、最近仕事が忙しかったじゃろう。明日どこかに気晴らしに行かんか」
お出かけに誘われてしまった。明日は特に用事は無いし、行かせて貰おう。
「お祖父様、有難うございます。ちなみにどちらに行かれる予定なのでしょうか」
「今の所、博物館や観劇を考えておる。屋外はまだ寒いからのう」
「あら、面白そうですわね。……お兄様も如何ですか?」
「私も行きたいのはやまやまなのだけれど、試験が近いので、家で勉強するよ」
「申し訳ございません。お兄様の状況も考えず、はしゃいでしまいました」
「いいんだよ、これは仕事を頑張ったフィリスへの、祖父君のご褒美なのだから。楽しんでおいで」
「お兄様、有難うございます。お祖父様、宜しくお願いします」
ということで、お祖父様と出かけることになった。
休日となり、軽く汗を流した後、外出の準備を整え、玄関に行くと、お祖父様が待っていた。
「今日も輝くように美しいな、フィリス。さあ、行こう」
と、エスコートするような感じで話し掛けて来た。
「ふふ、お祖父様ったら。ええ、行きましょう」
差し出されたお祖父様の手を取って、馬車に乗って出発した。
今から行く王立博物館は、ユートリア大陸を中心とした動物の標本などを展示していたり、ロイドステア国建国以前の文化に関する展示を行っているそうだ。文献では目にしたことはあるが、実際にそういったものを目にすると、感慨深いものがある。
前世だと、美術館とか動物園とかの施設もあったが、美術品は大抵貴族が個人的に収集しているし、生きた動物を飼育して見世物にする文化がないので、動物園もない。農務省には、生きた動物を飼育する研究施設があるそうだけど。
博物館に到着し、お祖父様にエスコートされながら、展示物を見て行く。当然レイテア達護衛も近くにいるが、目立たないようにしている。休日だから人が多いかも、と思っていたが、案外多くない。
「王都出身者は初等学校で平日に授業の一部で来るから、休日には地方出身者が来ることが多いのう」
なるほど、そういうことね。棲み分けが出来て混雑しないなら、良い事だな。
しかし改めてこのような場所に来ると、一言で犬、猫、牛、馬、猪、鹿、熊等と言っても、色々な種類がいる。魔物化すると区別なしに「魔何某」と呼んでいるけれど、細かい戦い方が違ってたりする可能性もあるのかな。まあ、その辺りは機会があれば冒険者組合にでも聞いてみるかな。
そのような事を考えているうちに、ロイドステア国以外の国の珍しい動物を展示した場所に来た。ユートリア大陸内では、単に種類が違っている動物が展示されている程度だったが、他大陸は
「まあ、これは、象ではございませんか」
何と、象の絵と実物大の模型、説明文が展示してあった。以前お祖父様から頂いた本に、少し書いてあったので、存在は知っていたが……見た感じ、アフリカゾウに似ているようだ。メリゴート大陸やイオンステ大陸に生息しているらしい。この模型は、サザーメリド国にいたものをモデルに作ったそうだ。
「?、フィリスは、象を見たことがあるのかね?」
「……実は……前の世界に似た動物がおりまして……」
と、お祖父様にしか聞こえない様に耳元で説明した。お祖父様は少し残念そうに
「そうじゃったか……もっとフィリスの驚く所を見たかったのう……」
と言っていた。ご期待に沿えなかったようで、申し訳ありません……。
その他、サイ、カバ、キリン、ライオンやトラに似た動物の展示もあった。こいつらが魔物化したら、さぞかし大変だろうな……。他の所も見てみよう。次はヴァルザー大陸……帝国の所か。見た感じではオーストラリアっぽいな。カンガルーとかコアラに似た動物の模型が展示されている。
「これらは、腹の袋で赤子を育てる習性があるそうじゃ」
「そのようですわね。ちなみにこの長尾驢は、拳闘は行いませんの?」
「それは聞いたことがないが……まあ、あるとすれば闘牛のような娯楽になるのかのう」
動物ではないが、ダチョウに似た鳥も展示されていた。オーストラリア風なら、エミューかもしれないが。
「帝国では、この鳥を馬の代わりにする地域もあるそうじゃ」
「あら、それは面白そうですわね。でも、馬より乗るのが難しそうですわ」
「それは、あのような階段を使うらしい。階段が無ければ、柵を使うそうじゃが」
乗る時に使う階段も置いてあった。まあ、うちの国だったら今後は重力魔法で乗るのかな。
動物の展示を見終え、昔の文化などを展示している所を見た。大きく分けて、カラートアミ教設立以前、つまり前ユレート歴と、設立後のユレート歴に分かれている。前ユレート歴は石器や簡単な土器を使っていて、独自の文字もあったようだが、カラートアミ教設立後は、武器が石器から銅器や鉄器へと、食器などが土器から陶磁器に進歩したようだ。
また、言葉も現在のものに統一されたようだ。ただ、以前の文字も、研究している人達は少ないがいるらしい。自費で作成した本を売って、研究の足しにしているそうだ。まだ数冊あったので、何となく買ってみた……安くは無かったが。時間がある時に読んでみよう。
博物館を出て、昼食を食べに料理店に行ったが……まあ、高級店だよね。お祖父様と一緒に入ると
「これはアルカドール卿、お久しぶりでございます。本日はお孫様とご一緒ですか。ご案内致します」
と、恐らく店長らしき人がやって来て、お祖父様に挨拶をして、個室に案内してくれた。
「お祖父様は、こちらの店の方とはお知り合いですの?」
「ああ、以前アルカドール牛などの販売促進を行っておったからのう」
なるほど、そういう繋がりか。結構昔の話だったと聞いているけど、今でも親しそうな感じだったな。
食事は普通のコースだったが、アルカドール牛のステーキも出た。久々に食べたが、非常に美味しかった。暫くすると、先程の店長さんが顔を出し、料理の感想を聞いたり、昔の話などをして盛り上がっていた。お祖父様は、お祖母様と結婚されて以降も領主の仕事で何度か一緒に王都に来ていたそうで、その際はこちらで食事をしていたそうだ。なるほど、行きつけの店でもあったわけね。
その後は、劇場に観劇に行った。今やっている演目は、両親を魔物暴走で失い、跡を継いだ若き領主が善政により領地を発展させるも、それを良く思わない周囲の領から攻められてしまうが、それを逆に撃退してしまう。根本的には王家の悪政により地方が困窮していることが原因だと理解した領主は、王家に反旗を翻す。最初は小勢力だったが、次第に他の領を味方に付け、遂に王家を打倒し、自分が新たな国王として即位する、という話だ。
ぶっちゃけ現ロイドステア国の建国史を基にした話だけれど、定番の演目として、定期的に公演しているそうだ。何だかんだと活劇が多かったので、案外面白かった。
ちなみにこの演劇、当たり前だがエスメターナ様(役)が出て来るのだが、本人が観たら激怒するかもしれない。というのは、若き領主には、領政を補佐する幼馴染がいたのだが、周囲の領に攻められた際に領主をかばって戦死してしまう。
その幼馴染を慕っていたエスメターナ様(役)は、その遺志を受け継ぎ、兄を支えていくという話になっていたからだ。本当にその幼馴染がいたかどうかは知らないけど、精霊女王様や水龍様の話を聞く限り、エスメターナ様は違うよね……。まあ、言える話じゃないけど。
馬車に乗って帰りながら、お祖父様と演劇について感想などを話した
「史実を基にしておりましたが、実際に人が演じた物を見ると、新鮮な感じが致しましたわ」
「まあ、史実はあれの通りではないじゃろうが、演劇は楽しめるのが一番じゃな」
「そうですわね。ただ、当時の方々があの演劇を観ると、複雑な心境になるかもしれませんわね」
「お前の場合、そうも言っておれんかもしれんのう。確か領の方では、有志がトロスの役を題材にした演劇を作っておるそうじゃからな」
「……それは……当然私役の方も登場致しますわね……」
「女主人公じゃったぞ?ただ、配役が難しいと言っておったから、公演は少し先じゃろうが」
「正直、恥ずかしいので公演して欲しくないのですが……駄目ですよね……」
「あれはクリスが言っても止まらんじゃろ。力ある者の宿命とも言うべきものじゃからな」
どうやら、それについては考えても意味がないようだ、諦めよう。
お目汚しでしたが、楽しんで頂けたのであれば幸いです。
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※ 長尾驢=カンガルー