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第153話 疫病が発生しそうだった

お読み頂き有難うございます。

ブックマーク数が1000を超えたようです。

有難うございます!

今後も宜しくお願いします。

今日は休日だ。軽く汗を流し、朝食後にじゃがいもを増やそうかと思っていた所


『愛し子~助けて~』


と、風精霊がやって来た。以前こんなことがあったな……あれは確か……


『ここから北西の所の森で、大きな魔素溜まりが見つかったんだよ~。疫病になっちゃうよ~』


やっぱりか。北西?ではセントラカレン領か?


「距離はどのくらい離れておりますの?」


『え~と、ここから500キートくらいかな』


ということは……セントラカレンを超えて、クインセプトか。確かあそこも精霊術士はいなかったっけ。


何にしろ、すぐに対処しなければならない。ここは、困った時のお祖父様だ。お祖父様の部屋へ向かう。


「お祖父様、申し訳ございません、緊急事態が発生致しました」


「何じゃ」


「実は、風精霊が私を訪ねてきまして……クインセプト領付近で疫病の兆候があると」


「何と。すぐに対処せねばならんな……よし、今からセントラカレン公爵邸へ行くぞ」


「お祖父様もですか?」


「なに、タレスと話をつけるなら、儂がおった方がいいじゃろ」


「確かに……お祖父様、お願い致します」


「では、すぐに支度をしよう。おい、カールダラスはおるか」


お祖父様は、家令のカールダラスを呼んだ。馬車の手配などを行うのだろう。私はとりあえず、導師服に着替えることにした。着替えて玄関に行き、暫くすると、レイテアと馬車が来た。お祖父様も着替えてきたようなので、馬車に乗ってセントラカレン公爵邸に向かう。


公爵邸に到着し、レイテアがインターホンのような魔道具を鳴らすと、使用人の誰かが出た。緊急の用事と言うことで、先触れはないが、宰相閣下に取り次いでもらう。暫くすると、使用人が出て来て、格子扉を開けて、馬車を先導し、邸内を案内してくれた。談話室のような所で待っていると、宰相閣下がやって来た。


「導師殿……と、グラスか。何があった」


「宰相閣下、お休み中、先触れもなく、大変失礼の事と存じますが、危急の用件にて参りました。実は先程、私の元に風精霊が参りまして、ここから北西に約500キート程の場所に、魔素溜まりが発生し、疫病の兆候があるとのことでした」


「……分かった。直ちに対処すべき案件じゃ。そなたは至急現場へ向かってくれ。移動手段じゃが……」


「可能であれば、クインセプト領の転移門を使用したいのですが……」


「フィリス、確か今は、クインセプト伯爵邸は、改装工事中の筈じゃ。転移門は使えんじゃろう」


「では、ここから走って行くしかございませんわね。今からですと、夕方くらいには到着できるかと」


私がこう言ったところ、お祖父様が宰相閣下を睨んだ。宰相閣下は少し考えた後、言った。


「……途中までは、うちの転移門を使うといい。うちの本邸からクインセプト伯爵邸までは200キート程だ。そこでクインセプト伯爵と合流し、以降の対処をすれば良かろう」


「それであれば……昼頃にはクインセプト伯爵邸に到着できると思いますわ」


「よし、それで取り掛かってくれ。儂は、こちらからクインセプト伯爵に連絡しておこう」


当座の対応要領が決定し、私は家令に案内され、転移門へと移動する。今回は単独行動となってしまうので、レイテアにその旨を伝え、案内役の使用人とともに、公爵邸本邸へ転移した。転移後、転移門の建物から出た所で、概略の行き方を案内役から聞き、早速風精霊と両足を同化させ、ついでに姿を消して、移動を開始した。中央街道を北に向かって進めば、クインセプト伯爵邸だ。




昼前に、クインセプト領の中心都市らしき所に到着した私は、そのまま外壁を超えて中に入り、概ね中心の方へ移動した。恐らくクインセプト伯爵邸と思われる一番大きな館を発見したので、正門まで行き、姿を現して同化を解いた。呼び鈴を鳴らすと、家令らしき人がすぐにやって来た。


「精霊導師のフィリストリア・アルカドールですわ。危急の用件にて、領主殿の元に参りました」


そう言うと、既に話は通っていたらしく、すぐにクインセプト伯爵の所に案内された。


「導師殿、お待ちしておりました。此度は我が領のためにご足労頂き、感謝致します」


「伯爵、以降の行動ですが、これから精霊に聞きながら正確な場所を確認し、問題無ければ浄化致します」


「……なるほど。では、その場所に行くまでは同行させて頂きましょう。付近の地理が解らなければ、住民達を巻き込んでしまう恐れがありますからな。ちなみに導師殿は、馬には乗れますかな?」


「実は……乗馬については心得がございませんの。身体強化を行い、走って行きますわ」


「それは……我々の馬に乗って行かれては如何かな」


「申し訳ございません、殿方に乗せて頂くのは……」


「貴方、導師様に無理を言っては駄目よ。私が導師様を乗せて行きましょう」


どうやら、伯爵夫人は乗馬が出来るらしい。有難く伯爵夫人の申し出を受け、出発することになった。準備をする間に、異空間に収納していたパンなどを食べておいた。


伯爵と領警備隊らしき人達の一団は、伯爵夫人の馬に乗った私が先導し、周辺の地図を持って現場へ向かった。精霊の話によると、概ね80キート程とのことで、3時間で汚染源のある森に到着した。馬から降りると、確かに異様な感じがする。ここで汚染源を確認しよう。


「異質な気配がする。やはり導師殿の仰る事は正しかったようだ……この付近に集落はあるか?」


「10キート程北に、1つ集落がございます。後は……西に20キート程行った所に1つ村がございます」


「よし、それぞれに使いを出せ。暫くの間、この付近に近づくなと。あと、この付近に水源はあるか」


「……沼が1つございます。川はございません」


「今から導師殿が浄化するが、その沼は、当分の間立入禁止だ。浄化後、縄で表示しろ」


伯爵が指示を出している間に、私は風精霊と感覚共有して周辺を探る。2キート程先に、小動物の死体が幾つもあった。恐らくここが大元だろう。周囲には、動物も人もいないようだ。感覚共有を解く。


「伯爵、この方向、2キート程先に、魔素溜まりの中心らしき場所を発見致しました。付近に住民はおりませんわ。恐らく、半径500クール程は汚染されておりますわね」


「……やはり導師殿に浄化して貰わないと被害は拡大しそうですな。宜しく頼みます」


「承知致しましたわ。では、皆様はここより離れて下さいませ」


私がそう言うと、皆は中心とは逆の方向に移動した。私は中心に向かう。途中から顔の前で何かが弾け出した。恐らく、汚染された地域に入ったのだろうが、構わず中心に移動し、和合を行う。


【我が魂の同胞たる火精霊よ。我と共に在れ】


汚染範囲は中心から半径500クール程だが、念のため半径1キート程浄化しよう。周辺の火属性のエネルギーを活性化させるとともに、火精霊を呼び寄せ、最大火力で一気に燃やし尽す!


【躍れ!同胞達よ】


雪が積もっておらず、乾燥していた森の汚染地域は、数分で灰と化した。




火種を全て消火し、和合を解いた。魔力は半分くらい残っているようだ。避難して貰った伯爵達と合流し、浄化が終了したことを伝えた。伯爵は暫くここで状況を確認し、所要の処置を行った後、伯爵邸に帰るらしい。私は、伯爵夫人の馬に乗って、先に戻らせて貰った。既に夜中になっていたので、その日は伯爵邸に御厄介になった。


朝になり、朝食を頂いた。その頃には伯爵は帰って来ており、併せて状況も確認させて貰った。浄化は問題なく、沼の立入禁止処置も終了したが、暫くは領行政舎で疫病対策本部を作り、様子を見るという。


「導師殿、此の度は本当にお世話になりました。疫病が広まっていたらと考えるとぞっとしますよ」


「そう仰って頂き、光栄に存じますわ」


「ど、導師様?有難う……ございます」


伯爵令息は、8才らしい。可愛らしいお礼の言葉に私が微笑むと、真っ赤になっていた。


「もう……うちの子は……お恥ずかしい」


「いえ、素直な方ではございませんか。ところで伯爵、問題無ければ私はこの後、お暇させて頂きますわ」


「はい、本来であればうちの転移門を使って頂きたかったのですが……」


「事情は伺っております。自力で帰りますわ」


「そう言えば宰相殿から、帰りもセントラカレンの転移門を使用して欲しいとの伝言がございました」


「解りました。そのように致しますわ」


こうして私は朝食後、伯爵達に見送られ、セントラカレン公爵邸に向かった。




昼前に公爵邸に到着し、インターホンらしき魔道具で呼び出すと、暫くして家令らしき人が出て来て、案内してくれた……のだが、何故か転移門のある離れではなく、本邸内だった。談話室のような部屋に入ると、セントラカレン公爵と公爵夫人のレクナルディア様がいた。


「導師殿、疫病を未然に防いでくれて感謝する。もし発生していたら、我が領にも被害が出ただろう」


「公爵、私は当然のことをしたまでですわ。しかし、そのお言葉、誠に有難く存じますわ」


「そう言って頂けると助かる。ところで、御礼というにはささやかだが、食事をしていかないかね」


「いえ……転移門をお借りできるだけで十分でございます」


「そう言わないで頂戴。私達としても、貴女をただ通すだけというのは、心苦しいのよ」


まあ、貴族社会って、そんな感じだもんね……仕方ないかな。


「では、ご厚情、有難く頂戴しますわ」


ということで、セントラカレン家の昼食にお邪魔してしまった。公爵、レクナルディア様、エルムハイド様とライスエミナ様がいたわけだが……当たり障りない会話をしていたつもりだけれど、ライスエミナ様の視線が冷たかった。私が一体何をしたというのか。


昼食後、転移門を借りるために離れに移動しようとしたところ、ライスエミナ様が近づいて来て


「貴女、最近オスカー殿下を誑かしているようですわね」


と言って来た。いや、確かに最近重力魔法関連で会うことが多いけど、こっちにその気は全くない。


「……誤解ですわ。仕事でお会いすることはございましたが、私にその気は一切ございませんわ」


「嘘おっしゃい!最近オスカー殿下とお話しすると、いつも貴女のことばかり!立場を利用して、近づいているのでしょう!」


「確かに殿下が立場上私を気になさるのも理解できますが、恐れ多くて私から近づくことなどございませんわ。それよりもライスエミナ様、それほど殿下をお慕いなさっているのであれば、私などを気にするより、もっと積極的に殿下とのお時間を作るなりなさいませ。その方がよほど建設的ですわ」


「建設的って……貴女、本当にオスカー殿下の事は何とも思っていないの?」


「尊敬はしておりますが、恋愛という意味では全く考慮にございません」


「……そう、その言葉、信用するわよ。私の邪魔はしないでよね」


ライスエミナ様は、そう言って去って行った。正直、こういう恋愛感情は、昔から理解できない。勝手にやって貰いたいところだ。




精神的に疲れたが、転移門で王都に戻り、セントラカレン家の馬車で送って貰って宰相府に行き、宰相閣下に報告を済ませ、お礼を言って自分の執務室に戻った。書類業務を片付けて早目に帰宅し、お祖父様にお礼を言った後、早目に休ませて貰った。寝るのが一番だ。

お目汚しでしたが、楽しんで頂けたのであれば幸いです。

評価、ブックマーク、いいね、誤字報告を頂ければとても助かります。

宜しくお願いします。


※ キート:フィアースでの距離の単位。1キートは約0.9km

  クール:フィアースでの距離の単位。1クールは約0.9m

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