第150話 品種改良したじゃがいもは好評だった
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週末ということで、今回も本邸に転移した。今回はお兄様も一緒だ。明日の試食に付き合って貰おうかな。お父様にも事情を話し、試食会という形をとることとなった。
休日になった。朝からコルドリップ先生が料理人を連れてやって来た。
「コルドリップ行政官殿、休日の所御苦労様。こちらが品種改良した馬鈴薯です」
「お嬢様、このような早期の対応有難うございます。……2種類の馬鈴薯があるのですか!」
「ええ、こちらは蒸かしたり、すりつぶして使う料理に適していますわ。そしてこちらが、煮崩れしないものですわ。用途に応じて使って頂こうかと思いますの」
「承知致しました。では、厨房をお借りしても宜しいでしょうか?」
「ええ、うちの料理人も作らせて頂きますわ。父に許可を頂きまして、昼食を試食会とすることに致しましたの」
コルドリップ先生達は、じゃがいもを入れた籠を持って、厨房に行った。私は昼まで暇なので、ついでだから、今集まっている甜菜の種を品種改良しておこうかな。
昼になり、試食会の準備が整った。今回は立食形式で、家族や料理人だけではなく、暇な使用人達にも協力して貰うことにした。大広間にテーブルを設置し、じゃがいもを使った料理が所狭しと並べられる。
「お嬢様、準備が整いました」
「では皆様、品種改良致しました2種類の馬鈴薯、これまでの馬鈴薯と比較してみて下さいな」
こうして、品種改良したじゃがいもの試食会が始まった。基本的には、これまでのものより味が良くなっていることが評価されているようだ。また、煮崩れしたじゃがいもに潜在的に不満を持っていた人が多かったのか、煮物に入れたじゃがいもは、非常に賞賛された。
「フィリス、この芋の油揚、以前は調味料が無いと味が薄かったけれど、これは何も付けずに食べても非常に美味しいよ」
「お兄様、そう言って頂けて、私も品種改良を行った甲斐がありましたわ」
「フィリス、この煮崩れしない馬鈴薯は良いな。我が領の料理と非常に調和している感がある」
「お父様がそう仰るなら、間違いございませんわね」
「フィリス、この蒸かし牛酪、馬鈴薯が牛酪の味に負けていないわ。新しいアルカドール領の名物になれる潜在力を持っているわね」
「お母様にご協力頂ければ、実現は可能ですわよ」
という感じで、家族にも非常に好評だった。ただ、一部の者から「酒が欲しかった」という文句が挙がったが、それは酒場の方でやって貰うことにしよう。
「お嬢様、このような素晴らしい馬鈴薯を作って頂き、誠に感謝しております」
「コルドリップ行政官殿、私が領の為に働くのは当然のことですわ。領民の食生活が少しでも豊かになるよう、今後も宜しくお願い致しますわ」
「はい、雪が融けましたら、早速こちらの馬鈴薯を育てて、近隣に配布いたします」
「では、王都である程度増やしておいて、年末に帰った時に、お渡ししますわ」
「それは助かります。いくら馬鈴薯でも、雪の中では育ちませんからな」
「そうそう、この2つの馬鈴薯、良い名前を考えて頂けるかしら」
「名前が無いと、取扱いに困りますからな。承知致しました」
こうして、じゃがいもの品種改良は成功し、王都に戻った。
今日は11月1日、合同洗礼式の日だ。私は朝から大聖堂に赴いている。3度目になると慣れたもので、洗礼の後に私が前に出ると、狙っていたかのように近寄って来る。そこの君達、何で男の子が出て来るのか……どうやら私が目当ての様だ。お引き取り願おう。
気を取り直して、自己申告で精霊が見えるという少女達を集め、属性毎にまとまってもらい、いつものごとく、感覚共有して話し掛ける。火……いない、風……いない、水……いない、地……、1人手を挙げた。地精霊を動かしてみたが、その子はきちんと地精霊を目で追っている。間違いない。
こうして、1名の精霊術士候補を見つけて、鑑定を行って貰い、精霊視を持つことを確認した。魔法省に戻ってから、精霊課長に1名の地属性精霊術士候補を見つけたことを連絡した。
暫くは通常の勤務が続いた。空き時間にじゃがいもを増やして、異空間に収納した。この植物の育成もだいぶ慣れたな……。他にも品種改良出来そうな植物を見つけたら、やってもいいかな。
今日は重力魔法の論文を見に行く日だ。ロイドステアは、前世のように学会があったり、論文の審査があるわけではない。ステア政府に申請するとともに、作成者が検証結果や論理の整合性などに基づいてまとめた文書を、関係諸掌に配布することで、発表されたことになる。
当然内容に誤りがあることも少なくないが、前世のように、多くの人が審査した上で発表出来る態勢を作るのは、現状不可能だ。他国の事は知らないが、恐らく似た様な状況だろう。何にせよ、今は知識を積み上げていく方が先決だ。
ということで、現在論文を読ませて頂いている。前回追加を要望した点についても記載され、今後の研究や技術の発展性が感じられる、非常に興味をそそられる論文だ。
「室長殿、私が言うのも憚られますが、短期間にも関わらず、とても素晴らしい論文を作られましたね」
「いえ、これも導師様のご指導と、ご協力頂いた殿下や、研究室全員の努力の賜ですよ」
「この論文を読めば、重力魔法の仕組みはもとより、実際の生活などへの応用、今後の課題などが理解できますもの。この論文はロイドステアを更に発展させることでしょう」
「有難きお言葉です。今後は知識の深長を図るとともに、魔道具などへの応用や、各種制度なども変えていく必要性があるでしょう。我々も、更に励ませて頂きます」
「私も応援させて頂きますわ。ところで、この論文の配布先はどのようになっているのでしょうか」
「論文を登録する総務省文書課は当然として、現在のところ、宮廷図書室、ステア政府各省、魔法省各課、魔法学校、魔法兵団本部になっておりますが、要望次第では、後日各領主にも配布するかもしれません」
「各領主にも配布した方が望ましいですが、紙の量と、印刷所の都合もありますものね」
そのようなことを話していると、オスクダリウス殿下がやって来た。略式だが礼をする。
「フィリストリア嬢、教官殿、御苦労様。論文の方はどうなっているだろうか」
「殿下、論文は概成といったところです。ご確認頂けますか」
殿下は室長から論文を受け取って読み始めた。私もついでに、誤字チェックなどをやっておこう。
暫くすると、殿下が論文を読み終えたのか、紙を置いて、室長に感想を言った。
「教官殿、素晴らしい内容だった。俺も重力魔法について更に理解を深めることが出来た」
「お褒めの言葉を頂き、誠に有難き幸せでございます」
「ところで、重力魔法を発見したいきさつが無いな。フィリストリア嬢が精霊から聞いて試してみたのだろう?記載した方が良いのではないか」
……確かにそれは、疑問が出て当然だな。これまで無かった概念だからね。しかし……。
「……そこは、私が精霊から聞いて、殿下や室長殿が試した、という内容を記載するべきですわね」
「確かにそれでも間違いではない……今後の重力魔法の展開を考えると、その方が良いかもな」
私が重力魔法を作って研究させた、となるよりも、地属性研究室が作った、というように話を持って行った方が政治的に通りがいい。予算の配分などを考えても、その方が今後の為だろう。
「承知致しました。今から差し込む文章を書きますので、ご確認下さい」
暫く待っていると、室長が手早く文章を書いて持って来た。殿下と私が読んで、幾つか修正を行い、論文に差し込んで、原稿が完成した。印刷には1週間ほどかかるそうだ。
お目汚しでしたが、楽しんで頂けたのであれば幸いです。
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※牛酪=バター