第149話 魔道具課への支援が始まった
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確か今週あたりから、魔道具課からの協力依頼が来るかもしれないという話だったが、今の所は無い。書類業務は終わらせたので、じゃがいもの品種改良を進めよう。既に本邸の方で何個か貰って来ているから、それを元に作ってみよう。
今回は、2つの方向性で品種改良を行おうと思っている。1つは、今の物を更に美味しくする、もう1つは、煮物に合うようにする、だ。前者は、少し小ぶりにして、デンプンを貯め込むように育って貰えばいいだろう。後者は、じゃがいもの細かい成分は知らないが、メークインの割としっかりした果肉を想像するに、細胞間の結び付きを強めれば良いのではないかと考えている。
そういうことで、魔法省の庭に出て、まずは前者を作ってみた。じゃがいもは成長が早いから楽だな。何回か試していると、良さげなものが出来た。家で試食してみよう。今日の所はこんなものか。
業務終了後家に帰り、厨房に顔を出して、試作したじゃがいもを幾つか蒸かして貰う。夕食の時に私の所に出して貰うのと、料理人の有志が試食することになった。まあ、こちらの料理人達は、じゃがいもを食べたことが無いから、参考なのだが。
ということで夕食時、私の所だけ、蒸かしたじゃがいもが別に並ぶ。お祖父様が
「フィリス、そんなに空腹じゃったのか?明日から料理を増やそう」
と誤解してしまった。そういえば説明してなかったよ、失敗。
「いえ、お祖父様、現在馬鈴薯の品種改良を行っておりまして、試食しているのですわ。報告しておらず、申し訳ございません」
「そうなのかい?では私も試食させて貰えないかな」
「いえ、お兄様には、更に美味しくなった馬鈴薯の料理に驚いて貰いたいので、ご遠慮下さいませ」
まあ、大丈夫だと思うけど、毒が入る可能性もあるから、お兄様には安全性を確認した後で食べて貰おう。そういうことで、幾つか試作したじゃがいもを食べてみたが、3代目以降は、非常にほくほくして美味しい蒸かしいもだったので、この芋を種にして増やして、持って行こう。しかし、あと1種類の方は、やって見ないと判らない。とりあえずメークインみたいな奴を目指そう。なお、料理人達は
「馬鈴薯がこんなに美味しいものだとは思いませんでした」
と言っていたので、とりあえずは問題ないだろう。
次の日も、時間を作って、じゃがいもの改良を進めた。今度は煮崩れしないものだ。まずは、とにかく現状から果肉をしっかり固めて貰ったもの、デンプンをほどほどにして、更に固めた物などを作ってみた。これらを、煮崩れしないか煮込んでみた。やはり、デンプン少な目で固めないと、煮崩れしやすいようだ。時間が来たので終了したが、明日以降もバランスの調整を行うことにした。
その後、2日を費やして、いい感じのじゃがいもを作ることが出来た。
今日はじゃがいもを増やそうと思っていたら、魔道具課長がやって来た。魔道具研究支援の件だろう。
「導師様、魔道具研究の件で参りました。今からお時間を頂いて宜しいでしょうか」
「ええ、宜しいですわよ」
「では、2階の作業室に参ります」
私は魔道具課長に案内され、作業室に入った。そこには、何名かの魔道具課の職員がいた。その中にはヴェルドレイク様もいた。
「現在、氷魔法と雷魔法の魔道具を試作しておりますが、想定した結果が出ておりません。発動過程を導師様にも確認して頂いて、何かしらの糸口にできればと思いまして」
「承りましたわ。では、実際に発動させて頂けませんか。精霊から話を伺いますので」
そして、実際に試作した魔道具を発動させたところで、精霊から聞いた話を伝え、また、精霊に質問することで、理解を深めていった。現状では、無駄が多すぎるそうで、今の話を元に構成を考え直すそうだ。
「導師様、有難うございました。氷魔法と雷魔法の魔道具の実現が近づきました」
どうやら、新しい魔法の魔道具は、構造が従来のものと異なってしまうため、非常に作成が難しいそうだ。
「いえ、私も今回初めて魔道具の作成の場を拝見させて頂きましたので、勉強になりますわ」
見ている感じ、魔道具というのは、魔石に意志を封じ込めるような感じだ。イメージを焼き付けると言ってもいいかもしれない。この封じ込める動作が、かなり緻密な魔力操作を要求する作業のようだ。正直、私では無理だ。しかし、何かの役に立つかも知れないので、暫く見学させて貰うことにした。課長は所用があるそうで席を外したが、代わりにヴェルドレイク様が付いてくれた。
「やはり、皆様魔力操作の技術は非常に高く、緻密な作業をされていますね」
「ええ。今はまだ見習いですが、私も早くあの域に到達したいものです」
「ところで、ヴェルドレイク様は、どのような魔道具を作りたいのでしょうか?」
特に考えなしに聞いたのだが、ヴェルドレイク様は暫く考え、言った。
「今は未熟故、どのような魔道具が作れるか判りませんが、人の役に立つものを作りたいですね」
「そうですか。ちなみに風属性の魔道具は、どのような時に使われていますか」
「換気をしたり、暑い時に微風を起こしたりしていますね。戦闘の補助にも使いますが」
「雷魔法の魔道具は、使いようによっては、光源や熱源、動力源、様々な所に使えますよ」
「……それは……本当でしょうか?全く想像がつきません」
「雷の素の性質に由来するものですから、深く関われば、解るようになると思いますわ」
「……私は雷魔法を少し発動できるようになった程度ですから、雷を出せるよう、もっと鍛錬します」
「別に雷を出せずとも良いですわ。例えば敵を攻撃する用途でも、この程度あれば十分。二つの指の先に雷の素を集め、相手の後頭部にでも当てれば、気絶しますわよ?」
そう言って右手の人差し指と中指で狭いV字を作り、指の先端の間に放電させた。即席スタンガンだ。
「それなら今の私にも出来ます。良い護身の術を聞きました……要は使い方次第ということですね」
「その通りですわ。貴方にはそれが出来ます。応援しておりますわ」
「貴女はいつも私に勇気と希望をくれる。その期待に応えられるよう、励みます」
そう言って、熱い視線を向けて来るヴェルドレイク様。感情を受け流すことは出来たが、そういう気にならなかったのは何故だろうか。……いかん、平常心が保てなくなりそうだ……
「そ、そのように見つめられると、困りますわ……」
「こ、これは失礼しました」
ヴェルドレイク様が視線を外してくれたので、平常心を取り戻すことが出来た。
その後、もう少しだけ作業室を見て、自分の執務室へ戻った。
今回の省定例会議は、やはり協同訓練に関することや、精霊術士の各種業務支援に関する内容が主に共有され、全体会議でも報告することになった。また、新魔法の魔道具の製作に関しても、報告するようだ。あと、私の山林火災対処についても紹介された。
次の日の全体会議では、精霊術士の各種業務支援について、関係する省からの質問が多かった。細部の調整は、精霊課長が行っているので、私からは何も言う事が無かったが、総務省、国防省、建設省、農務省、商務省から質問が来ていたからなあ……精霊課長も大変だわ。山林火災の件も皆の前で紹介されたりしたが、併せて火災予防に関して、宰相閣下からのお言葉があった。
その後数日間は、特に問題なく過ごした。空き時間に2種類のじゃがいもを増やしておいた。また、魔道具課の作業室にも顔を出してみると、雷魔法と氷魔法の魔道具について、調整してみたから確認して欲しい、という話があった。前回と同様に、発動した際の状態に関し、私を通じ、精霊とやり取りをした。
前回聞いた無駄の一部は改善されたが、新たな問題が発生したそうで、根気よくやらないと形にならないようだ。私ももっと魔道具に関して勉強した方が、仲介が上手く出来るかもしれないので、本を借りて、執務室で読んでみた。
魔石は、魔力・魔素との親和性が非常に高く、人のイメージを記憶させることが出来る不思議な石で、魔法を使う際のイメージを覚えさせておくと、相応の魔力を流すことで、その魔法が使えるのだ。この際、基本的には魔法の属性と同じ魔力を流すことになるが、必要な属性に変換する魔道具もあるそうで、そういった意味では属性不問のようだ。
そして、記憶させる際の作業は非常に難しいため誰でも出来るわけではなく、この技能を一定以上の水準で保有している者を「魔技士」と呼ぶ。うちの国は、毎年夏頃に魔道具課が試験を実施し、合格した者が魔技士と呼ばれている。
簡単で低威力の魔法であれば、魔石は小さくて済むが、複雑で高威力の魔法を記憶させる場合は、大きい物が必要になる。また、魔石は魔力や属性のエネルギーなどを一時的に蓄積することも可能で、この性質を利用して、長期間発動させる魔法を使わせることが可能になる。
精霊に居て貰いたい場合にも、魔石に魔力を注ぎ込むことで、一定期間は精霊がいる場所を作ることが出来る。例えば、王城の厨房がそうだ。毒見をしようとしたら、精霊がいなかったでは話にならないからね。
魔石はリサイクルが可能だけど、上書きしても前の記憶が完全になくなるわけではないので、誤作動をする可能性があることから、同じ魔法の再記憶以外は、短期間でのリサイクルはできない。更に、魔技士の持つイメージは、各々同じかどうかが解らないため、基本的に再記憶は同じ魔技士が行う。このような事情から、通常魔道具には、魔石を取り扱った魔技士の名前が記されることになっている。
魔石は、何も記憶されていなければ白い石だが、魔法を記憶させると、該当する属性の色に変化する。複数属性の魔法を記憶させると、黒くなり、使い物にならないそうだ。それと、魔素濃度が濃い所、ロイドステアならファンデスラの森などに置いておくと、魔石の大きさにより異なるが、一定期間で記憶が完全に消去されるため、魔石のリサイクルは、ビースレクナの主要産業の一つになっているそうだ。
改めて読むと、知らないことが結構あった。一応、記憶させる作業の要領も読んでみたが、やっぱり私には難しそうだ。何せ魔技士は、視力を魔力で強化して細かい作業を行う程だからね……。前世で例えると、時計職人みたいな感じかな。まあ、自分で出来ないことは出来る人にやって貰うしかない。人間はそうやって生きて来たのだ。その分私が出来ることを、やらせて頂きましょうかね。
お目汚しでしたが、楽しんで頂けたのであれば幸いです。
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