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第148話 重力魔法の論文は進む

お読み頂き有難うございます。

宜しくお願いします。

今日の午後は魔法研究所に行く。災害対処の件で1日ずれたが、論文の助言なので、特に問題ないだろう。


いつもの通り地属性研究室に行くと、室長が待ち構えており、私が近づくと礼をした。


「室長殿、ご苦労様です。進捗は如何でしょうか?」


「はい、先日の御意見から、構成と検証内容を修正・追加いたしました。今回はそれをご確認頂きたく」


そう言って、修正された論文を渡してくれた。項目を見ると、確かに前回意見を述べた所が変わっている。


「では、確認させて頂きますわ」


そう言って読み始めた。基本的には、表現の修正が主体だ。読み進めていき、修正・追加された部分を読んでみた。最高速度は、重力魔法使用者の魔力によって差が生じるようだ。水平投影面積は、加速度に影響することが、検証結果から推測されている。加速度は、面積に比例し、質量に反比例するのか。室員を総動員して検証したのだろうな……。


「室長殿、加速度と魔力の間には、関係はございませんの?」


「実は、魔力が高い者ほど加速度は大きいという結果は出たのですが、少ししか差がなかったため、現段階では不明という扱いです」


「そうですか。水平方向の移動と鉛直上方向の移動は、特性は同じでしょうか?」


「それについては、同じ結果が出ております」


「あと、落下中の物体の落下を止める場合や、更に加速する場合は、どのような特性がございますの?」


重力加速度が解らないから、こういう形で聞いてみた。


「……それは検証しておりませんでした」


「安全面を考慮すると、この特性は必要になりますわ。可能であれば、追加した方が宜しいですわね」


「確かにその通りです。追加させて頂きます。条件が同じであれば、物は一定に落ちていきますので、そこがどう変化するかを検証したいと思います」


「宜しいと思いますわ。あと、先程の魔力と加速度の関係ですが、私も試してみましょう。自分で言うのも何ですが、魔力量は非常に大きいですので、参考にはなるでしょう」


「それは助かります。準備を致しますので、早速お願いします」


室長が言うと、早速室員に命じて、準備をし始めた。私については、現在の魔力量を計測した。269000という数値が出て、計測した人は顔が青ざめていた。約27万ね。また増えてるよ……。


準備が出来たとのことで、実験場に行き、室長から、色々注文されて重力魔法を使った。やっている途中に、新たな視線を感じたが、検証を優先した。


「導師様、資料集めは終了です。ご協力頂き、誠に感謝致します」


「お役に立てるなら幸いですわ」


そう言って、室長達は、データをまとめ始めた。これは、ここにいても仕方ない、と思っていた所、

恐らく先程から見ていた、オスクダリウス殿下が近付いて来たので、礼をした。


「フィリストリア嬢、御苦労」


「殿下、ご機嫌麗しゅう。こちらへは、やはり室長殿をお訪ねに?」


「ああ、論文作成の様子を見に来たのだが……今は忙しいようだな」


「そうですわね。ところで殿下は、論文はご覧になりましたか?」


「検証資料作成に参加しているからな。少し見せて貰ったが……この研究に参加させて貰って本当に良かったと思っている。自分が大きな歴史の転換点に立っているかのような気がしたよ」


「この魔法が色々な所で活用されれば、世の中が変わりますわ。まさに王家の方が先導するに相応しい、大事業となることでしょう」


「ああ、魔法学校を卒業後、俺がその事業を担当したいと父や兄に要望している。……それで、その時は……フィリストリア嬢、俺を助けて貰えないだろうか?」


「はい。必要とあらば、いつでもお呼び下さいませ」


そう言って微笑むと、殿下もとても嬉しそうに微笑んだ。




暫くは特に何もなく、通常の業務を送った。宮廷魔導師長が様子を確認し終えて、挨拶をして帰って行ったが、今の所、サウスエッド側の研修者も、問題なく知識習得に励んでいるようだ。なお、サウスエッドから研修に来る精霊術士は、2年ほどこちらにいることになるそうだ。その間に、魔法強化が出来るまでには実力を上げて貰わないとね……。


週末になり、帰宅後にお父様からの連絡の通り、一旦アルカドール領に帰った。今回は、お兄様は休日に用事があるため、同行していない。お父様やお母様と夕食を食べ、近況を話して、休んだ。




休日となった。午前中にビースレクナの行政官が、こちらを訪れることになっている。お父様の話では、この機会に、領の間の道路を整備しようと考えているらしい。まあ、隣なのに、交流があまりないのは寂しいよね……。


で、ビースレクナ的には、プトラムの塩に注目しているらしい。海に面しておらず、岩塩も殆ど採れないビースレクナは、塩を他領に依存しているそうで、プトラムから軽易に購入できれば非常に有難いらしい。まあ、交流が増えるのは良い事だし、私も協力できればいいな。


程なく、ビースレクナの行政官が到着し、私はお父様やうちの行政官達と、話を行うことになった。


「……やはり、平地の道路は現状でも可能だが、境界の山地が問題か」


「はい、領主様、我々もこの辺りまでは、自力で整備が可能ですが、ここからは人員面でも資金面でも困難です。更に、こちら側は警備上の問題もありますので……」


どうやら、アルカドール側もビースレクナ側も、境界付近の山地が邪魔で、双方の領にまたがる道路の整備が難しいらしい。大体10キートくらいだし……私が何とかするか。


「お父様……では、私がこの間に隧道を作りますわ。それなら如何でしょうか?」


「……フィリス、可能か?」


「やってみなければ何とも言えませんが……年末年始休暇の間に作ることは、可能だと思いますわ」


「おお、隧道ならば、冬季でも雪に悩まされることがない。入口の常時警備や、魔道具の照明を準備する必要はあるが、年間を通して使用が可能だ!」


皆は、雪が積もっても使えるような、広い道路を作ろうとしていたようだ。それはこの山地では非常に困難だ。こちらの世界では、トンネルは殆ど見ないから、この長さだと土木技術的に難しいのだろう。しかし、精霊導師の力を使えば、この程度ならば可能の筈だ。結局その方向で道路を整備することになり、ビースレクナの行政官は、帰って行った。他の皆も解散すると思ったのだが


「お嬢様、ご相談したいことがあるのですが、宜しいでしょうか?」


「コルドリップ行政官殿、ええ、宜しいですわ」


コルドリップ先生に呼び止められ、私は談話室に残った。何故か思い詰めているようだ。


「実は、色々検討したのですが……馬鈴薯を品種改良することは可能でしょうか?」


「それは可能ですが……理由を伺っても宜しいでしょうか」


「馬鈴薯を食材に使い始めてから、私は違和感……と申しますか、アルカドールの郷土料理に馬鈴薯は今一つ合っていないのではないかと思ったのです。そこで、お嬢様のお力で、アルカドールの郷土料理に合った馬鈴薯を作れないか、と考えるようになったのです。馬鈴薯は寒冷地に適しておりますし、腹持ちもいたします。人口が増加しているアルカドール領では、今後更に重要な作物になります故」


何で気付かなかったのか。じゃがいもは私が知っている限り、ほくほくとしてコロッケなどに合う男爵芋と、煮崩れしないから煮物向けのメークインがあった。今のじゃがいもは、一回り大きい男爵芋みたいな感じのものだが、煮物系料理が多いアルカドール領なら、メークインのようなじゃがいもがあった方が良い筈だ。しかし、それを前世知識など無いまっさらの状態から案出するのは、非常に大変な事だ。


「……素晴らしい考えですわ!確かに、アルカドール料理に合わせた馬鈴薯があった方がより美味しく頂けますわ。改良の方向性は如何致しましょうか?」


「は、はい……!料理人や郷土料理になじみの深い一般家庭の女性からも意見を集め、こちらにまとめております。ご覧下さい」


ふむふむ、やはり煮崩れしないものが欲しい、と。あと、今のじゃがいもは水っぽいか。その辺りも改良した方がいいな。よし、試しに作って、料理に使って貰おう。頑張るぞ!


「これらの貴重な意見を参考にして品種改良した馬鈴薯をお持ち致しますわ。休日であることは重々承知しておりますが、来週もう一度こちらに来て頂けないでしょうか」


「とんでもございません。お忙しい中、私などの話に対応して頂けるというのですから、有難い事です」


「私はコルドリップ行政官殿の飽くなき向上心、探求心に感動いたしましたの。今後も父を助け、より良き領政を行って下さいませ」


「何と有難きお言葉!今後もアルカドール家と領民の為に力を尽くしましょう」


こうして、コルドリップ先生からの意見を聞き、じゃがいもを品種改良することにした。やはり私の視点だけでは抜けがある。こういう感じで他の人とも意見交換して、より良い社会を作っていきたいなあ。

お目汚しでしたが、楽しんで頂けたのであれば幸いです。

評価、ブックマーク、いいね、誤字報告を頂ければとても助かります。

宜しくお願いします。


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