第014話 専属護衛が付くことになった
お読み頂き有難うございます。
宜しくお願いします。
夏になり、私は6才になった。
教育や鍛錬は継続中で特に変化はなかったが、何故か父様に呼び出された。
「フィリス、実は、お前に専属の護衛をつけようと思っている」
「父様、それはどのようなお考えなのでしょうか?」
「今後は交友関係も増え、単独での行動が増える。専属の護衛が必要になるということだ。カイにもダンテスがいるだろう?ダンテスもカイが6才の時に専属の護衛にしたのだよ」
「なるほど。そうであるならば承知いたしますが、一つ要望がございます」
「何だ?」
「護衛の選定には、私の意見も取り入れて頂きたいのです」
「それは今から話そうと思っていた。むしろ、命を預けることになるのだ。そうあるべきだ」
「父様、有難うございます」
こうして私付きの護衛を選ぶことになった。今回は新規採用するらしい。というのは、現在の護衛達から選ぼうとしたところ、希望者が殺到し、収拾がつかなかったからだ。ちなみに25名中19名が希望したらしい。希望しない6名のうち3名が専属だったことを考えると、大人気だな私……。
新規採用の募集内容は
「領主令嬢の専属護衛求む。条件は、王都の騎士学校卒、またはそれに準じる経歴を持つ15~17才の者」
である。
アルカドール領だけでなく、周辺の4領も含め募集をしたところ、1週間後には5名の応募があった。4名は男性で王都の騎士学校卒が2名、イストルカレン高等学校剣術科卒が2名。1名は女性で、王都の騎士学校卒らしい。父様が私に選定方法を聞いてきた。
「当然、武術の腕前を見て決めます。総当たりをやって貰えれば、選定できると思います」
5人にはうちの屋内鍛錬場に来て貰った。選定戦の説明を、うちの護衛の最古参であるオクター・ファンケルが行った。審判もファンケルが行うようだ。そして、父様と私、その他護衛達が見ている中で、選定戦が始まった。
現段階の実力では、アルカドール出身、騎士学校卒のアンガス・クリードと、ワンスノーサ出身、同じく騎士学校卒のクレリックス・ペントリアムが伯仲、他は似たり寄ったりといったところだったが……
1人、気になる人を見つけた。唯一の女性の、トリセント出身、騎士学校卒のレイテア・メリークスである。この人、非常に惜しいのだ。目ではどの剣筋も追えている。しかし、その後が対応できていない。多くは力でねじ伏せられている。力に力で対抗しても、女性じゃ不利でしょ。剣技や身体強化自体は他の人にも劣らないが、戦い方がなってない。
正直、この人に色々教えたくてウズウズしていた。
選定戦が終了し、結果は、アンガス・クリードとクレリックス・ペントリアムが3勝1分、ビリュース・レイバックが2勝2敗、レイテア・メリークスが1勝3敗、ドナルド・マクバーが4敗という結果だったのだが、私の心は決まっていた。
父様と相談し、結果を伝えた。
「発表します。レイテア・メリークスを私の専属護衛に採用します」
5人の他、選定戦を見ていた護衛達も驚いたようだが、流石に護衛達は、私が選定した結果に異を唱えることは無かった。ただし、当の本人達は、私に食ってかかった。
「何故ですか!私かクリードならともかく、何故この女が選ばれるのですか!説明して下さい」
「選定の理由は、将来性です。レイテア・メリークスは、現段階では戦い方がなっていませんが、私が鍛えれば、強くなるからです」
5人は、何を言い出すんだこの子供は、という目で私を睨んできた。説明を続ける。
「レイテア・メリークスは、剣技や身体強化自体は貴方達に勝るとも劣りません。また、剣筋を見極める良い目を持っています。しかしながら戦い方が下手で、力に勝る男性に力で挑んでいたから、勝てるものも勝てないのです。しかし、私が戦い方を教えれば、1年もすれば、貴方達より強くなるでしょう」
「聞き捨てなりませんな。令嬢である貴女が、言って良い言葉ではありません。謝罪を要求します」
男爵令息のクレリックス・ペントリアムがそう言った。では実力をもって証明しようと木剣を取る。
「では今から、私の言葉を証明して見せましょう。レイテア・メリークス以外の全員と戦いますわ」
男性応募者4人は逡巡した後、父様の方を窺うように見ると、父様は諦めたように言った。
「娘を納得させられたら、採用しようではないか。娘に怪我をさせても、こちらの責任だ」
それを聞いて安心したのか、4人は誰が初めに戦うかを決め始めた。しかしこちらの思惑は違う。
「あら、何をしてらっしゃるのかしら。4人全員で、一度に来てくださいな」
年端もいかない少女にこう言われ、馬鹿にされたと感じたのだろう、4人とも怒りながら襲ってきた。久々に手加減無用でやらせてもらおう。君らの動きはもう見切っている。
まず斬りかかって来たのはドナルド・マクバー。君はその素早さをもっと生かそう。
「おりゃー、えっ?がはっ!」
剣をいなして突進の勢いを利用し回転させ、地面に叩き付けた。
次に来たのはアンガス・クリードとビリュース・レイバックの2人。
「やーっ!」「このーっ!」
両側から突いてきたので左に高速移動し、追撃してきたアンガスをいなす。ここでクレリックスが
「せいっ!」
斬りかかってきたので大きく後退した所、ビリュースが斬りかかって来た。君は力に頼り過ぎる。
「ふんっ!……うわっ!がはっ……」
ほら、少しいなすと大きく態勢が崩れた。そこで胴に一撃を叩きこんで気絶させた。その様子を見ていたアンガスとクレリックスが少し冷静になったのか、互いに目を合わせる。
「あら、もう終わりですの?だらしないこと」
再び挑発すると、2人は一斉に斬りかかって来た。アンガスは上段から、クレリックスは横薙ぎに。先にアンガスを倒そう。高速で懐に潜り込み、そのままアンガスの横に移動した。君は対応力に難がある。
「えっ!…がっ!そ……んな……」
不意をつかれて一瞬固まるアンガスの胴を打つと、アンガスは蹲った。残りはクレリックスだ。一旦間合いを取ろう。
「まさかお嬢様がこれほどお強いとは思いませんでしたよ」
「あら、貴方はこれから倒されるのに、私の強さを測るとは、おこがましい」
嗤いながら挑発すると、今度はかかって来なかったが、怒っているのは明らかだ。君はプライドが高すぎるのか、相手を侮って判断が甘くなる時がある。例えばこんな風に!
「その程度!……えっ?ごはっ!」
私が見せ剣で突いた所をクレリックスが払った。ここで敢えて態勢を崩したように見せかけたところ、勝機と見たクレリックスは剣を振り上げ上段から斬りかかった。隙が出来た懐に、最高速で飛び込み打ちつけた。クレリックスは蹲り、気絶した。
「フィリス、以前見た時より更に強くなっているな……さて、4人の手当てだな」
「父様、私はレイテア・メリークスと話してきますわ」
私の戦いを見て呆然としているレイテアに、近づいて話しかけた。
「どうでしたか?貴方であれば、私達の動きは見えていた筈ですが……」
「……お嬢様は、なぜこんなに、お強いのですか?」
「まあ、色々ありますので。で、戦い方については、どう感じましたか?」
「お嬢様は私より非力です。そのお嬢様が、一度に4人を相手に勝利した……。相手の力に対抗せず、むしろ利用し、相手の隙を的確に攻撃しているように見えました……」
「そうですね。あれが女性なりの戦い方……とまでは申しませんが、似たようなものでしょう」
「……私は、貴女の様な戦い方が、出来るでしょうか?」
「それは貴女次第ですわ。私の護衛を務めながら、鍛錬していけますか?」
「……是非、そうさせて頂きます」
こうして、私の専属護衛が決定した。
お目汚しでしたが、楽しんで頂けたのであれば幸いです。
評価、ブックマーク、いいね、誤字報告を頂ければとても助かります。
宜しくお願いします。
(石は移動しました)