第144話 訓練は無事終了した
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宜しくお願いします。
今日は、魔法兵団の方は訓練資材の撤収や整備をやっているが、精霊課は訓練参加者を対象に、検討会を行っていた。特に、魔法兵団との協同訓練は今後も行うし、今回不参加の者に対して準備させることなども含め、皆で話し合うことになったのだ。司会は運用班長、書記は資料班長が行っている。
「では、今回訓練において役に立った事や困った事を上げて下さい」
すると、多くの意見が上がった。書記もまとめるのが大変そうだな……。
「では、まとめますと、役に立った事では、魔法強化の詳細が把握できたこと、が最も多い意見でした。また、魔法兵団の訓練実施規定を頂けたこと、どういう時に魔法を使うか現地で教育をして貰ったこと、などがありますね。なお、あちらの独身男性を把握できたというのは削除します」
会議室に笑いが起こる。まあ、やはり独身女性が多いから、そういう視点もあるのだろうな……。
「困った事としては、野外用洗面所が少ない、専門用語が解らない、誰に質問すれば良いか判らない、精霊がすぐに見つからない時があった、などが上がっています。あと、変に言い寄って来る男性がいた、というのは、あちらに苦情を出しますので、後で状況を教えて下さい」
まあ、訓練中にナンパはまずかろう……。
その他、次回の準備事項などが話し合われた。そろそろ終わりそうな頃に
「導師様、ご指導お願いします」
と、こちらに振られたので、一応気になっていたことを言わせて貰おう。
「まずは皆様、初めての協同訓練、御苦労様でした。陛下もとても評価しておられましたし、今後は更に精霊課が重要視されていくでしょう。それを踏まえて私から2点、述べさせて頂きますと、1つ目は、各精霊術士の間で、魔法強化の範囲が異なっております。これを把握し、異なる原因を明らかにして、出来れば範囲を広める方策を案出して下さい。2つ目は、今後更に精霊術士は注目されますので、警護の態勢についても、更に気を付けねばならない、ということです。何か危険な目に遭いそうな時でも、精霊にお願いして、助けを呼ぶようにして下さい。例えば私を呼んで頂ければ、すぐに対処致しますわ」
皆、真剣に聞いてくれているようだ。警護については、継続的に言うことで、自覚を高めて貰おう。
「導師様、有難うございました。では最後に、課長、お願いします」
「今回の協同訓練、皆良くやってくれた。今回は精霊術士が11人しか参加できなかったが、他の者にも訓練成果を普及させ、来年には全員が魔法強化を行えるようにして貰いたい。また、魔法兵団との協同だけではなく、地属性・水属性の者は建設省から、道路や堤防、水路や井戸の工事支援の話が来ているし、風属性の者は商務省や農務省から、帆船や風車の研究開発、建造時の動作確認の支援などが来ているし、火属性の者は、商務省から、冶金・鍛造に関する研究支援の話が来ている。国民の生活に大きく貢献していくことになるので、これまで以上に忙しくなって来ると思うが、頑張って貰いたい。この件について、何か質問がある者はいるか」
「課長、これまでやって来た各領の巡回については、どのようになるのでしょうか」
「運用班長、その件だが、大幅に見直しを進める予定だ。必要な仕事ではあるが、現状では費用対効果が悪い。当分の間は、導師様にお任せすることになると思う。導師様であれば、転移門で各領に転移して、現地で精霊と感覚共有することで、情報収集が簡単に出来るからな。出来ればその際に、各領で見落としていたであろう、精霊視を持つ者を見つけることが出来れば、精霊術士を増員して、巡回にも人を回せるようになるだろう。また、能力の向上した精霊術士であれば、巡回においても、効率が上がる筈だ」
この件については、精霊課長が各領と調整して、了解を得ている。私としては、風精霊と感覚共有して飛んで行こうと考えていたのだが、大抵の領は、実際に来て欲しいと言って来たので、こういう話になったのだ。だから、年が明けたら逐次巡回することになる。大体週に2領行く予定なので、24領だと約3か月かかる。早い所精霊術士を増員して、近場の巡回をやって貰おう。
「導師様にはご負担を掛けますが、宜しくお願いします」
「ええ、承りましたわ」
「あと、導師様も仰られたが、警護体制は今後強化する。警護班の者は、騎士団などとの調整を頼む。また、精霊術士達も、自覚を持った行動を取り、行先の明示、連絡体制の確保、外出時の護衛の同行など、これまで以上に気を配って貰いたい。以上」
課長の言葉により、検討会は終了した。なお、本日は魔法兵団本部で打ち上げがあり、訓練参加者は招待されている。私も大臣と共に顔を出す予定だ。
業務が終了し、魔法兵団本部へと向かった。到着すると、会場に案内されたが、会場に入る前に
「受付の方、ご祝儀としてこちらを持参したのですが、準備して頂けますか?」
と、異空間から取り出した物を受付に渡しておく。
「これは……皆が喜びます。直ちに準備しましょう!」
ご祝儀を受付に渡し、入場した。大臣も私のすぐ後に入場し、打ち上げが始まった。まずは大臣が登壇し、本訓練が大成功に終わったことを褒め讃え、今後益々の活躍を期待するという旨の話をされた。私も一言話すことになっており、登壇した。まあ、簡単に話しておこう。
「皆様、初めての試みとなる協同訓練、お疲れ様でした。本訓練においては、魔法兵団と精霊術士が協同することで、格段に効果的な活躍が期待できることを証明しました。また、魔法兵団と精霊課の間に縁が生まれ、絆となることで、今後更に発展する事でしょう。この場においても、是非融和を図って頂きたいと思います。ただし、節度は持って頂くよう、くれぐれもお願い致しますわ」
ここで笑いが起こる。まあ、10才の少女がこんなこと言うのはおかしいかもね。あと、紹介かな。
「今回の訓練の大成功を祝し、祝いの酒をお持ちしました。アルカドール領で製造を開始した、精霊酒です。お酒を嗜まれる方は、是非お試し下さいな」
酒が置いてあるコーナーに、樽と柄杓とグラス?が準備され、受付が手を上げる。歓声が上がる中、降壇する。そして、魔法兵団長が開始を宣言し、祝宴が始まった。
「あれが噂に聞く精霊酒ですか。私も一杯頂きましょう」
大臣がそう言うと、近くにいた者が酒を準備しに行った。
「是非感想をお願い致しますわ」
そう言えば、水はあるようだけど、氷はあるかな。一応見に行ってみよう。
「うおーっ、何だこの酒、すげー美味い!」
「かーっ、効くーっ!……おおっ、導師様、このような酒を有難うございます!」
樽は既に多くの人達に囲まれていた。やっぱり氷は無いか。ちゃちゃっと作ってしまおう。
「お喜び頂けて光栄ですわ。あと、この酒は、そのまま飲む他、濃ければ水や果汁などを入れて薄めたり、氷などを入れると、また違った味わいですわよ」
空いた入れ物に、小さい氷の塊を山盛りで作っておく。まあ、後は自分達で作ってくれ。ちなみに、大臣用の酒を作りに来た人は、何種類か作って帰って行った。あと、意外だったのが、ロナリアが早速飲みに来ていたことだ。実は酒好きだったのか……。
「この芳醇な味わいと強い高揚感……これまでの葡萄酒や麦酒と全然違いますわ……導師様、この酒は、王都での入手は可能ですか?」
「ロナリアさん、精霊酒は製造が始まったばかりですので、出回るのは数年後ですわね。これは試飲用に、私が熟成を早めたものですの。本来は暗所にて数年保存し、熟成させるものなのですよ」
「そうですか……ではその時を待ちます。……はーっ、美味しい……」
明日は休みだからいいけど、あまり飲み過ぎないようにね……。
その後は魔法兵団長と話したり、精霊術士達がいる所を回って話したりした。魔法兵団長は、大層機嫌が良かった。精霊課長も精霊酒を持ってやって来て、二人で飲み出したので、私はお暇した。
精霊術士達は……リゼルトアラとメグルナリアは、大臣や主要な方々に挨拶をして回っていた。フェルダナ、ラズリィ、サリエラが、料理を取りながら話していたので、寄ってみると、料理の品評をやっていた。慰労の言葉を掛けてその場を離れた。次は……マリー、アリネラが女性兵士と思われる人達と話していたので、寄ってみたところ……
「まあ、本物の導師様だわ!近くにいらっしゃると、一層お美しい……」
と、女性兵士達に囲まれてしまった。マリーが慌てて
「皆様、導師様に失礼ですわ。導師様、申し訳ございません」
と、間を取ってくれたので助かった。お礼と皆に慰労の言葉を掛けて、その場を離れた。後は……エナ、エルスラ、パティがいる所に行ってみた。こちらも女性兵士達と話していたが、先程の様に囲まれることはなく、まったりと話していた。
とりあえず慰労の言葉を掛けて、暫く話を聞いてみた。やはり、訓練中の苦労話が主体だった。女性兵士の話で特に印象的だったのが、野外用のトイレが全て使用中で、仕方なく周囲を土壁で囲み、穴を掘って埋めたという話だった。やはり苦労しているなあ……庁舎勤務は有難い。
「導師様、あの精霊酒、凄い人気ですわね……私も飲んでみようかしら」
「エナさんは成人されていますから問題ないとは思いますが……強い酒ですので、果汁などで割られた方がいいと思いますわ」
この世界は15才で成人となり、飲酒も可能だ。15才のエルスラや、他の成人女性も飲みたいと言い出したので、何人かで人数分を作って持って来たようだ。
「へー、これが精霊酒ですか。麦酒とは違いますね」
「材料は同じなのですがね。エルスラさんは、飲酒されたことはあるのですか?」
「麦酒は付き合いで何度かありますが……まあ、これも試しに飲んでみようかと思いまして」
皆に行き渡り「美味しい」「私には強いかしら」「泡が無いけど、これもあり」などの感想があった。
「フィリス、これが今うちの領で作っているお酒なのね……」
「ええ、色々な飲み方が出来るお酒ですから、需要は高いと思いますわ」
「私も父に連れられて建設中の製造工場を見に行ったことがあるけど……何だか誇らしいわね」
「故郷の人達も頑張っておりますし、私達も今後一層励みませんとね」
パティと目が合い、二人で笑い合った。
こうして。打ち上げも盛況のうちに終了し、私は家に戻った。
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