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第143話 国王陛下が訓練を視察された

お読み頂き有難うございます。

宜しくお願いします。

数日間は通常の業務が続き、空いた時間は訓練場を見に行っていた。省定例会議でも、陛下が視察される日の行動予定などが話されていた。そして、今日は朝から視察を行う日だ。私は導師服を着て出勤し、大臣や精霊課長と共に馬車に乗り、訓練場に向かう。馬車の中で


「課長、精霊術士達の状況はどうだ」


「はい、当初は皆戸惑っていたところがございましたが、今では戦闘行動と連携した動作を行っております」


「そうか。明日は陛下が視察される。訓練の成果を発揮できるよう、点検を確実に行うように」


「承知致しました」


そのような会話が行われていた。




訓練地域に到着した大臣と私は、明日陛下が観閲される台上に移動した。台上には魔法兵団長もいた。


「なるほど。敵が砦を攻め、我が守る側だな。確かにこの場所であれば双方の動きが良く見える。ただ、この説明図は、横より下に立てかけた方が良いな。見比べるのに丁度良い」


「直ちに修正致します。おい、状況説明板をこの位置に設置しろ」


大臣の指導により、魔法兵団長が台上の配置などを変更していった。


暫くして、機能別の訓練が始まった。まずは、歩兵隊を想定した移動的が仮想砦に接近し、落とし穴で足止めをする間に、他の魔法で攻撃を行う場面。どうやら、落とし穴も結構遠くに作ることができるようで、地魔法分隊も仮想砦にいた。まあ、その方が安全だし、いいよね。


「ほう、従前より遠距離まで各種魔法が届いているな。これなら安全距離が取り易い上、効果的だろう」


「はい。精霊術士達の魔法強化により、射程が数倍に伸びております。地形・気象や兵の練度を考えない状態ですと、現在の様に、弓矢の射程より遠い所から魔法攻撃が可能です」


「それは素晴らしい。遠距離攻撃もさることながら、混戦状態の回避が容易となるな」


「その通りです。次は騎兵隊の突撃の状況です」


魔法兵団長がそう説明すると、暫くして、高速で動く的が仮想砦に迫って来た。ここで、拒馬が進路を遮り、横から突風が吹いたりしていた。的は下がって行った。


「なるほど。拒馬の構築が従前より短時間で行えるようだな」


「はい。今回は移動的ですので変化は見られませんが、実際の騎兵隊なら、突然拒馬が目の前に現れたならば、回避が困難であり、混乱は必至でしょう。そこを突風で煽り、落馬を強要します」


「騎兵隊は機動力がある上、重装備で防御力があるが、落馬させてしまえば脆い。効果的・効率的な運用だな」


「その通りです。敵騎兵隊の行動阻害は肝要ですし、魔法兵も限られておりますから、機を見て畳みかける様に運用しております。次は破城槌による攻撃や、梯子などで砦を登ろうとする者への対処です」


実際に破城槌と思われるものを持った人達が仮想砦の近くにやって来たところ、周囲を土壁に囲まれてしまった。これでは勢いがつけられないから使えない。破城槌を持った人達は、その場で動きを止めた。また、仮想砦の壁付近では、梯子に向けて魔法が放たれていた。


「ふむ、良く解った。従前はこれら全て、騎士団、歩兵団の支援として行って来たものであるが、ともすれば単独でもある程度可能になった、ということだな」


「はい、その通りでございます。勿論、騎士団や歩兵団の任務を蔑ろにするものではございません。むしろ、より効果的に支援できると考えております」


「そうだな、その方向で陛下や国防大臣と話をしよう。そもそも、今の運用では、継続するには魔力が持たんだろう。現状では緊要な時期に集中して運用するしかない。まずは交代で運用出来るよう、充足を上げんといかんな」


まあ、魔法兵団は充足率が低いからね……戦闘が長期にわたることを想定すると、本来は交代しながら魔法を使用したいところだろうが、現状では難しい。ここで陛下に役立つところをアピールして、充足を上げるための施策に持って行きたいところなのだろうな……。




機能別の訓練は終了し、一部行動が遅れた者などに指導をした後、一連の状況を流す、総合訓練を実施した。明日の陛下の視察は、この総合訓練のみとなっている。訓練が問題なく終了したのを確認し、私達は魔法省に戻った。帰りの馬車の中で


「導師殿、精霊課長、精霊術士達の助力で、魔法兵団がより実力を発揮できるようになりそうだ」


「大臣、お褒めに与り、精霊術士達も光栄に思う事でしょう」


「これも大臣が精霊術士集中鍛錬を許可して下さったおかげです。精霊課一同、今後も励みます」


「うむ。ところで導師殿、魔法兵団の充足率を上げる施策について、何か意見はありませんか?」


「そうですわね……根本的には、魔法士としての素養がある者が少ないことにありますから、初等教育からある程度魔法を学ばせることくらいしか、思いつきませんわ」


「やはりそうなりますな。平民には、一生魔法に縁がない者も少なからずいる。初等教育で魔力操作と基本的な魔法を学ばせるだけで、かなり違うのでしょうが……教育者が不足している」


「そこは政府や領主が、学校や教会毎に、近隣の魔法士を教員として雇用するのが妥当ですわね」


「問題はその予算になりますな……正直、軍の充足率向上という理由では難しい」


「その辺りは、魔法が生活に密着する環境が出来れば、可能かもしれませんわね。例えば、現在論文作成中の重力魔法などは、生活に使用できる面が多く、また、魔力消費量も少ないですから、早期魔法教育の切っ掛けにはなると思いますわ」


「なるほど。研究所の予算取りもそうですが、国民の魔法の素養を向上させる為にも、使えそうですな」


「はい。それに、幼少からアンダラット法を学んでおけば、魔力がより増加するという話もございます。魔力の少ない平民であっても、相応に魔法を活用出来る様になるわけですから、国力を高めるには良い事だと考えますわ」


「そう考えると、今回の視察は非常に良い機会なのでしょうな。ただ……人材もそうですが、教本などが満足に揃えられていないため、多くの初等学校などから要望が出ていましたな」


「教本ですか……紙であれば、近々ウェルスカレン公爵が、新規の紙製造事業を立ち上げられると思いますから、ある程度は解消されるかもしれませんわね」


「なるほど、そのような話もございましたな……それなら、実際に施策を上げるのは来年として、今年は種を蒔くことに致しましょうか」


「急いては事を仕損じますわ。確実に目標を達成する為に、周囲を固めて行くのは、宜しい事かと」


何故か来年の予算案の話をしていた。まあ、予算審議も近いし、仕方ないかな。




陛下が視察される日になった。私は魔法大臣と共に陛下に同行している。ちなみに精霊課長は現地で皆を激励している筈だ。陛下が観閲台に来られてから、魔法兵団長が報告し、総合訓練が開始された。


「ほう、魔法の射程が格段に上がっておるな。魔法大臣、これは精霊術士の魔法強化のためか?」


「恐れながら陛下、その通りでございます。射程については、従来の数倍となっております」


「これは、使用した者の魔力消費はどうなっているのだ?」


「変化しておりません。精霊術士は一定の魔力を精霊に与えておりますが、それだけでございます」


「ふむ……今後は騎士団や歩兵団との連携要領を変更する必要があるな。国防大臣、どう思う」


「恐れながら、敵の射程外から敵兵を漸減できることは非常に大きな利点となりましょう。また、従来は射程が短く、歩兵団と混交する傾向にあり、連携が取りづらい面がございましたが、任務に応じてある程度離隔することで、軍全体としての行動の統制がより容易になると思われます」


「方向性はそれで良かろう。今後の運用要領を、検討せよ」


「承知致しました」


「魔法大臣、魔法兵団の今後の運用で、懸念はあるか」


「恐れながら、やはり充足が低い事が問題と考えております。この調子で魔法を使用すると、半日で多くの者は魔力が枯渇します。このため、交代しつつ運用した方が望ましい所ですが、現状では、難しい所がございます」


「そうか。そうなると……根本的な解決を考えると、国全体としての魔法能力の向上が今後の課題だな。魔法教育の制度の見直しも含め、検討せよ」


「承知致しました」


「時に精霊導師よ、現在魔法強化が可能なのは11名という報告があったが、他の者も可能となるのか」


「恐れながら、その通りでございます。残り10名のうち9名は1か月もあれば可能でしょう。1名も、火山監視から帰ったばかりですのでこれから鍛錬致しますが、問題ないと思われます。その他、各領におります精霊術士についても、領主を通じ情報提供し、鍛錬すれば可能と考えます」


「精霊術士の確保や能力維持・向上に関して、考えはあるか」


「確保という点につきましては、精霊視を持つ者の見落としがあると思われますので、この機に各領との連携を深め、見落としを減少させたいと考えております。能力維持・向上につきましては、先日実施致しました精霊術士集中鍛錬を、数年に1回程度実施するとともに、王都でもある程度鍛錬出来る場を確保し、日々鍛錬の時間を設ける必要があると考えております」


「まあ、そのような所か。ただ、それ以外で……一般の者に精霊視を与える方策はあるか」


「誠に残念ながら、確かな所はございません。精霊に問いかけても、回答はございませんでした」


「そうか。魔法大臣、今の件も併せて検討せよ」


「承知致しました」


いきなり陛下からご下問が来たのでびっくりしたが、まあ、普通に答えた。ただ……やっぱり精霊術士を増やしたいと思うよなあ……。どこかで仮説を元に試してみる必要があるかもな……。




全般的には、陛下も魔法兵団と精霊術士の協同は高く評価されたようだ。何と、総合訓練が終了したところで、実際に魔法兵団や精霊術士達の所に直接来られ、皆をお褒め下さったのだ。一応精霊課長が受け答えしていたけど、皆結構緊張していたようだった。


ということで、今後も魔法兵団との協同訓練は定期的に行うことになった。また、工事現場での魔法強化による支援も、要領が具体化されて、来年以降の工事に反映されるという話だ。精霊課は大変忙しくなりそうだ。

お目汚しでしたが、楽しんで頂けたのであれば幸いです。

評価、ブックマーク、いいね、誤字報告を頂ければとても助かります。

宜しくお願いします。


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