第140話 私以外でも魔力波を使えるようだ
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日課の早朝鍛錬をレイテアや護衛達と行っていたところ、レイテアが言った。
「お嬢様、そろそろ魔力波が使えそうな気がしますので、試し撃ち用の岩を作って頂けませんか」
「解りましたわ。では、その辺りに作りましょう」
地精霊と同化して、美観的に問題無さそうな所に岩を幾つか作る。その後、レイテアは魔力波の練習を行い、早朝鍛錬は終了した。魔法省の庭にも作っておこうかな。
出勤後、風組の支援を行って、ついでに岩を作り、業務を行った。その日は特に何もなく終わり、次の日も何事もなく過ぎた。しかし、その次の日に、執務室にレイテアがやって来て
「お嬢様、遂に魔力波の発動に成功しました!」
と言った。岩を作った所に行くと、一つの岩が破壊されていた。
「確かに破壊されておりますわね。レイテア、もう一度行うことは可能でしょうか?」
「はい、可能です。こちらの岩で試しますので、お嬢様、ご確認下さい」
レイテアがそう言って、岩に手を当て目を閉じ、暫くして気合を込めると、岩が砕けた。
「素晴らしいわ、レイテア。確かに魔力波ですわ」
「お嬢様、有難うございます。お嬢様に比べると威力は小さいですが、これ単体でも使えますし、剣術と組み合わせることで、新たな可能性が開けそうです」
「ええ、貴女の剣術は、更に進歩するわよ。……そういえば、最近感覚が鋭くなっていないかしら?」
「実は、最近魔力の流れのようなものを感じられるようになって来ました。また、集中すると、時間の経過が遅くなったような感じがしますね。これは、魔力波の練習の影響なのでしょうか?」
「恐らくそうだと思うのですが、確かだと言うには、習得者が少ないですからね……」
「私としては、役に立つので有難いです。ちなみに、お嬢様には一体どのような変化が?」
「私については、魔力の知覚は元からですが、時間の感覚はレイテアと同様ですね。あと、人の視線やそこに乗った感情に敏感になりましたわ。危険察知には役立つのですが、いかんせん、雑多な視線が多すぎて、大変ですわ。最近は視線を受け流すのに慣れましたが」
「それは……常に注目を浴びるお嬢様は大変ですね。……そう言えば最近、早朝鍛錬でお嬢様と対戦している時、先読みされて膠着状態になることが殆どですが、あれはその影響でしょうか?」
「ええ。まだまだ体と連動していない所はありますが、慣れれば対戦では非常に役に立つでしょうね」
「では、私もその域まで到達しないと、お嬢様に置いて行かれますね。今後も励みます」
「ええ、期待しているわ。あと、出来れば騎士学校で、習得出来る余裕のありそうな学生がいたら、魔力波習得の要領を教えて頂戴。ただし、剣術の習熟が前提ですが」
「そうですね。現在の4学年辺りですと、何人かいそうですので、話してみます」
4学年というと、テルフィなどがそうかな。覚えたがっていたし、丁度いいな。
しかしこの、時間や視線についての感覚に関しては、恐らくだが、地球においては、何十年も修行をした結果漸く身につく境地のようなものではないかと思うのだが……魔力がある分、習得が早いのかもね。
その後、砕いた岩を元の土に戻して片づけて、執務室に戻った。
今日は、午後に魔法研究所に行く予定だったので、出発しようとしたところ、精霊課長がやって来た。
「導師様、今日は私も魔法研究所に用事がございまして。同行して宜しいでしょうか?」
「宜しいですわよ。では、参りましょう」
私は精霊課長と一緒に馬車に乗って、魔法研究所に向かった。馬車の中で
「ところで……、差し支え無ければ、用件を伺っても宜しくて?」
「実は、個人的に氷魔法を習得したいと思いまして、要領を伺いに行くのです」
「そうでしたの。では、アンダラット法から学んだ方が宜しいですわね」
「はい。実は導師様にお借りした本で、現在練習しているのです。習得はまだ先ですが」
「自己を高めるのは良い事ですわ。頑張って下さいませ」
そのような話をしているうちに、到着した。
精霊課長は水属性研究室、私は地属性研究室に向かった。研究室に入ると、室長が論文を作成していた。
「室長殿、御苦労様です。調子は如何でしょうか」
「導師様。お忙しい中、有難うございます。論文作成は概ね順調ですが、理論の説明に齟齬があるかもしれませんので、ご意見を頂きたいのです。こちらが今作成中の論文です」
渡された論文を読んでみる。重力の説明は……もう少し細部を定義した方が判り易いかもしれないが、とりあえず読み進めよう。魔法の理論自体は、これで問題ないだろう。従来の地魔法による地属性物質の移動と、重力魔法を使用した移動の違いも書いてあるな。
前者は物質の質量に、後者は水平投影面積に比例して魔力消費が大きくなるということだ。これも問題ないと思う。しかし……重力魔法って、かなり魔力消費が少ないのね。これは産業革命レベルで生活が変わるかもな。これで魔石が何とかなれば、乗り物とかエレベーターとか作り放題じゃないか。そこを考えるなら、移動速度も必要か。ここにはまだ書かれてない。確認してみようか。
「室長殿、重力魔法の魔力消費が水平投影面積に比例することは感覚的に想像できるのですが、移動速度や輸送能力は同じなのでしょうか?面積が大きいほど、移動する力が大きそうな気がします。例えば、棒を立てて移動させるか、寝かせて移動させるかで、消費魔力しか違いが無いとは、思えませんから」
「……その通りですね。その辺りの検証を追加します。従来の魔法との差異にこだわり過ぎていました」
「この魔法は移動や運搬手段にも使用できますから、そういった話をすれば、価値を強調出来ますわ」
「確かにそうですね。将来を見据えて論文を作成いたします」
その後も論文を読んだり、地精霊に実際に確認したりして、微修正を加えた。その後、精霊課長と合流して、魔法省に戻った。
休日になった。今日はお兄様に、魔力波について教えるという話をしている。また、以前興味を示していたミリナには、手紙で要領を伝えている。レイテアが習得した、と書いておいたから、魔法学校に来る頃には、ある程度覚えるかもね。さて、とりあえず談話室でお兄様と話をする。
「お兄様、まずは魔力波の概念などを説明して、それから庭で私が実演しますわ」
「ああ、宜しくね」
それから、脳波の話、魔力と脳波の関係、脳波をどうやって感じるか、などの話をした。
「そんなことが出来るんだね。しかしフィリスの前世の世界は、本当に凄いね。聞いていると、何だか世界の理を全て知った気分になるよ。最初に聞いた時、私はあまり解らなかったけれど、父上達の顔が青ざめていった理由が、今なら解るよ」
「まあ、魔法などが無い分、科学で発展した世界でしたから。ただ、それが良いか悪いかは、意見の分かれる所ですわね。皆が幸せに暮らせるのが、良い世界だと思いますわよ」
「大丈夫だよ。私はフィリスがそばにいるだけで、幸せになれるから」
「……もう、お兄様ったら。続きを説明しますわ」
引き続き、魔力操作により魔力放出を集中させる方法などを話し、後は庭に出て、先日作った岩を魔力波で破壊した。お兄様にはとりあえず、魔力を活性化させることで、意識の波を感じ取り易い状態を作り、実際に感じ取れるかを試して貰ったが、今日の所は成功しなかった。
「お兄様、これはいつでも出来ますので、時間が空いた時にやって頂ければ、習得は早まりますわ」
「そうだね。あと、これは想像だけれど、魔力波は他にも色々応用が出来そうな気がするよ」
「ええ。私も思いついたら試してみますが、お兄様も習得されましたら、色々試して下さいな」
「ああ。フィリス、今日は有難う。これからも頑張るよ」
「応援しておりますわ」
お兄様が魔力波を使えるようになるのは、いつ頃かな。
お目汚しでしたが、楽しんで頂けたのであれば幸いです。
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