第138話 協同訓練前の鍛錬等々
お読み頂き有難うございます。
宜しくお願いします。
今日は通常の勤務だ。昨日と同様、同化して倉庫に風属性のエネルギーを集め、風組の鍛錬環境を作る。どうやら、リゼルトアラは、今週中に魔法強化を成功させ、来週の協同訓練に参加したいようだ。まあ、陛下も視察されるし、彼女の性格からすると是非参加したいだろうしなあ。
他の組も、様々な所で鍛錬を行い、魔法強化に挑戦したり、出来る者は更に熟練度を高めているようだ。
地組は敷地内の一部を塀で囲って、その中に、たこつぼの様な穴を掘って入っていた。見せて貰ったけど、モグラを連想させ、悪いが少し笑ってしまった。やはり囲いは必要だろう。
水組は、王都郊外にある温泉に行っているそうだ。水組には、集中鍛錬の時に温泉を気に入った者が多いらしく、嬉々として向かって行った。元日本人としては、ご相伴に与りたいところだ。
火組は、コルテアが火山監視に向かってしまったので、現在はラズリィしかいない。一人で暖炉に当たりながら鍛錬しているそうだ。そのうちもう一人が戻って来るだろうけれど、それまで寂しいだろうと思って鍛錬を覗いてみると、楽しそうに精霊と話していた。余計な心配だったようだ。
執務室に戻ると、王家の侍従が秘書室にやって来ていて、ニストラム秘書官と業務調整していた。どうやら、再来週辺りに、サウスエッドに派遣している者の様子を見がてら、あちらの国王陛下達との茶会に参加するという話があるらしい。で、細部日程を調整中、と。
つまり私は、輸送支援兼枯れ木ということかな。王太子妃殿下の体調は良いらしいし、あちらさんも会いたいだろうからね……。ついでなので、私はいつでも対応すると言っておいた。
午後も書類業務を行っていると、魔道具課長が入って来た。
「導師様、ご相談がございまして、参りました」
「ということは、以前仰っていた、魔道具の研究への協力……でしょうか?」
「はい、氷魔法と、最近実用化された雷魔法について、魔道具課の者に習得させ、その後、魔道具を作成していこうと思いまして」
「……それで、私はどのような事を協力すれば宜しいのでしょうか?習得であれば、魔法研究所に通われた方が、場所なども確保できますし、作成に関しては、私は門外漢ですわよ?」
「はい、魔道具を試作した際に、精霊から意見を伺いたいのです。意図した効果が発揮されていれば良いのですが、そうでない場合、精霊に確認できるなら、非常に有難いですから。しかも、精霊術士の方は魔法に関してはあまり得意でない方が多いですが、その点導師様の場合、開発された方ですから、精霊の言葉の意味もよくお分かりになるのでは、と思いまして」
なるほど。そういう話なら、私が最も適任と言うことになる。
「解りましたわ。ちなみに魔道具の作成は、いつ頃から始められそうですか?」
「習得については、先月から何名かを魔法研究所に派遣しておりまして。早ければ今月の下旬ですね」
「あら、準備の宜しい事で。あと、この件を大臣にお話はされましたか?」
「これからお話ししようと思っております」
「では、私も一緒に参りましょう」
私は魔道具課長とともに大臣室に入って説明し、大臣の了承を得た。一応こういう機会を作っておかないと、また私がしゃしゃり出て何かやらかした、とか思われる可能性があるからね……。今回はあくまで協力側なのですよ、ええ。
次の日も風組の支援を行った後、通常の業務を行っていた。午後の業務中に、また外が騒がしくなった。もしや……と思った時、ニストラム秘書官が、お父様を連れて部屋に来た。
私は、ニストラム秘書官に、精霊課長を呼ぶよう指示して、お父様をソファに案内した。お茶が出て来たが、お父様は香りを嗅いだとたん
「ふむ、前回とは違い、今回は準備していたようだな」
と呟いた。うーん、違いの解る男だ。
「お父様、話し合いの結果はどうでしたか?」
「ああ、正式な許可はまだだが、道筋は付けてきた。来年収穫分から輸出できそうだ」
「それは良かったです。ちなみに、国内の需要はどのような感じなのでしょうか」
「お前の読み通り、王都の需要が非常に高まっている。今の所は大丈夫だが、国内全体で甘味の人気が高まった場合は、正直国外に輸出するのは難しかったな。ビースレクナも生産できるよう交渉して良かった」
「それは宜しゅうございました。ところで、我が領からウェルスカレンまでの輸送は、どうなさるのでしょうか。かなり大量に運搬すると思われますが」
「プトラムから、船を使ってウェルスカレン港まで運び、大型船に積み替えて輸出することになった。航行の申請書も、併せて提出してある」
なるほど。それなら大丈夫そうだ。砂糖はそれほど重くないけど、馬車で運ぶのは大変だからね。異空間収納を使える人が沢山いれば別だろうけど、確か領にも100人くらいしかいなかった筈だ。しかも、収納量が少ないから、こういう仕事には不向きだ。
そのようなことを話していると、扉がノックされ、精霊課長……と、魔法課長が入って来た。
「アルカドール侯爵、本日はご挨拶を……」
「ライト、マルダー、堅苦しい挨拶はいい。せっかくだから座れ」
おや?お父様の雰囲気が変わったな。もしかすると私は席を外した方がいいかな?
「お父様?私は席を外しましょう。旧交を温めて下さいませ」
「そうか。有難く、この執務室を使わせて貰おう」
「では、私は失礼いたしますわ」
私は執務室を出て、課長達のお茶の準備をしているニストラム秘書官に、暫くお父様達に執務室を使って貰うよう伝え、また、私は精霊術士達の鍛錬の様子を見て来ると告げた。とりあえず風組かな。
行ってみると、みんな黙々と鍛錬を行っていた。あまり話し掛ける雰囲気ではなさそうだったので、地の方に向かった。こちらは、近づくと話し声がしたので、囲いの中に入ってみた。
「皆様、調子は如何でしょうか」
「その声は導師様ですか?ええ、問題ありませんわ」
メグルナリアが答えた。顔の向いている方に回り込んでみると、みんな結構顔が汚れていたので、一瞬吹き出しそうになったが、笑っては申し訳ないので、耐えた。
「来週の協同訓練までに、魔法強化ができる様になりそうな方はいらっしゃいますか?」
「……エルスラさんは可能性があると思いますわ。他の2名は、今月中なら大丈夫そうですわ」
やはり事前にアンダラット法を習得していたかどうかは大きいようだ。
「そうですか。順当な所ですわね。ところで、この施設は急造ですが、今後も使う予定はございますか?そして、改良すべき点などはございますか?」
今度の協同訓練で成果が出せたら、予算を付けて貰うのもいいかもしれない。
「実は先程、その件について話していたのです。特に予定が入ってない時は、今後も1時間でもやらせて頂けると有難いというのが、皆の意見でしたわ」
「そうですか。運用班とも協力すれば、可能だと思いますわ」
「あと、施設の改良すべき点については……皆さん、意見はございますか?」
「やはり、汚れ易い点を何とかしたいですわ。汚れた格好で宿舎まで戻るのは、恥ずかしいですし」
エナが言った。ここから出る時は、予め汲んでおいた桶の水で顔を洗うが、服は汚れたままだ。こんなところで着替えるわけにもいかないだろうし、気になるだろうな。
「更衣室が欲しい、ということでしょうか」
「はい。それと、可能であれば、冬はもう少し温かい方がいいですわね。今はまだましですが、一番寒い11月頃は、ここでは体調を崩してしまいます」
「そうですわね。それについては方法を検討しないと難しいですわね。早めに精霊課長殿に申した方が良いと思いますわ。来年の予算に計上することも可能かもしれませんし」
発熱系の魔道具を地中に埋めれば何とかなるかもしれないが、いかんせん金が掛かる。それに1~2ヶ月使えないだけだと、必要性の面から落とされる可能性もあるから、現状では改善できるかは不明だな。
その他、少し雑談をして、鍛錬場を離れた。執務室に戻ると、3人の笑い声が聞こえた。相当盛り上がっている様だ。せっかくなので、秘書室で歓談させて貰った。ニストラム秘書官の旦那さんのニストラム男爵は、国防省に勤務しているらしい。息子さんは来年騎士学校に入学予定だそうだ。娘さんは私より2才下で、結構お転婆らしい。なるほど。
暫くすると、話が終わったのか、3人が出て来た。
「フィリス、私は屋敷に戻る。執務室を使わせてくれて有難う」
ついでなので3人でお父様を見送った。まあ、私は家で会えるわけだが。
「導師様、有難うございました。久しぶりに先輩と話が出来ました」
「…ど、どうし、さま、ありが、とう……ござ…ます」
「どういたしまして。では、私は戻りますわ」
部屋に戻り、暫く書類に目を通していると、業務終了の時間となり、帰宅した。夕食後、お父様と行政官達をアルカドール領まで送り、お母様に挨拶をした後王都に戻り、休んだ。
お目汚しでしたが、楽しんで頂けたのであれば幸いです。
評価、ブックマーク、いいね、誤字報告を頂ければとても助かります。
宜しくお願いします。