第137話 精霊課長とお父様
お読み頂き有難うございます。
宜しくお願いします。
出勤して暫くすると、精霊課長がやって来た。
「導師様、先日申していた、風属性の鍛錬をこれから行いますので、ご協力をお願いします」
「承りましたわ。実施場所はどちらですの?」
精霊課長に案内され庁舎の外にある精霊課の倉庫に来た。どうやら先週、中を整理して清掃したらしい。リゼルトアラ達風組がそこで待機していた。では、早速同化して、風属性のエネルギーを集めますか。
「集めましたわ。如何でしょうか」
「これなら大丈夫だと思います。導師様、ご協力感謝致しますわ」
リゼルトアラ達は倉庫の中で、鍛錬を始めた。今日だけなら大丈夫だが、締め切っていても分散してしまうから、明日以降もやるなら、その都度集めないとな。
「導師様、集中鍛錬の成果が概ねまとまりましたので、ご確認下さい」
「有難うございます。執務室で確認致しますわ」
「あと、先日話のあった魔法兵団との協同訓練を、来週行うことに決定しました。今の所、魔法強化が可能な者は全員参加予定です」
「そうですか。私も視察させて頂きましょうか」
「是非そうなさって下さい。実は、陛下が視察されるというお話がございまして」
「……それは大事ですわね。まあ、その日に合わせて視察することになりますわね」
「はい、当然大臣も来られますし、国防大臣も来られるとか」
えらく大所帯だな。警備も大変だろうな……。
「ところで、場所はどちらで実施されますの?」
「王都郊外の、ステアシード訓練場になります。そちらに3通りの距離の標的を設置し、攻撃します。また、移動標的を準備して、攻撃していきます」
確か移動標的って、従来の地属性の魔法を利用した魔道具だったっけ。かなり大掛かりだな。
執務室に到着し、精霊課長は戻った。私は資料を確認させて貰う。精霊との意思疎通という観点からの魔力や属性への感受性の位置づけや、感受性を効率良く高める手法、強化が有効となる時間などが書かれていた。
あと、来週の訓練の課題なども記載されている。1体の精霊に強化して貰った場合の有効範囲や強化の度合い、魔法の種類は強化に影響を及ぼすか、などを調査するそうだ。まあ、この辺りもまとめた上で、各領主に情報提供するのだろうね。
資料を読みながら色々考えていると、何やら外が騒がしくなった。と思ったらニストラム秘書官が部屋に入って来て
「導師様……アルカドール侯爵がお見えです」
と言って、お父様を部屋に連れて来た。本当に来たよ。
「フィリス、午前中の話し合いが終了したので、寄らせて貰ったぞ」
「まあ、お疲れ様です。こちらへどうぞ」
執務室のソファにお父様を案内する。当然何も言わなくても、お茶が出て来る。
「すまんな。手続きに必要な書類に不備があったらしく、一度仕切り直して午後に再度話し合いを行うので、時間が空いてしまった。やはり事前調整がないと、齟齬が起こる可能性が増える」
「それは仕方ございませんわ。ウェルスカレンの行政官殿も、こちらに来られるだけで大変でしょうに」
「そう言えば、その行政官から、紙事業の方は順調だと言われたな。本当にお前は、関わる先々を発展させていくな。父として誇らしいと思う反面、多くの者に付け狙われそうで、心配だよ」
「私は変わったことを知っているだけですわ。発展するのは、皆様の努力あってのものです」
「それでも、私は心配だよ。……ところで、いつも昼食はどうしているのだ?」
「いつもは執務室で頂いておりますが……」
「ならば、今日は宰相府の方でどうだ。あそこは、領主が使用できる食堂があってな。先触れを出すと、準備する仕組みになっているのだ」
「そうなのですか。では、お供いたしますわ」
たまにはこういう日もいいだろう。
通常の貴族用食堂より豪華な内装の食堂で、お父様と昼食を頂き、そのまま別れて魔法省の執務室へ戻って来たら、ニストラム秘書官に呼び止められた。
「導師様……侯爵が来られそうな時は、先に言って頂けると非常に助かります」
どうやら、出すお茶の格が違うそうで、事前に知らないと面倒らしい。今日は仕方なく私と同じ、職員(大臣級)用の物を使ったそうだが、本当は客(領主)用の1個格上の茶葉を使うそうだ。
「あら、それは申し訳ございませんでした。父は明後日まで、商務省の方で話し合いがございますの」
「では、明後日までは、来られる可能性があるわけですね。承知致しました」
食堂の件と言い、あまり気にしていなかったが、やはり領主と言う地位は大きいなあ。お父様が来ると、私よりもむしろ、周りが大変になるわけか。気を付けよう。
午後は通常の業務だ。書類を読んでいると、精霊課長が入って来た。
「導師様。来週の魔法兵団との協同訓練の資料をお持ちしました。ご確認下さい」
「課長殿、有難うございます。……あら、やはり魔法兵団側も力を入れているようですわね」
「はい。陛下が魔法兵団の訓練を視察されることはあまりございませんし、当然でしょうな」
騎士団の大きな訓練は良く視察されるそうだが、魔法兵団は戦闘支援部隊という認識があり、騎士団との協同訓練の時くらいしか視察の機会がなかったそうだ。まあ、魔法兵団自体、充足率が低いらしいからなあ。
騎士団・歩兵団・海兵団は殆どが男性なのだが、魔法兵団は、半数が女性だ。魔法の使用に男女差がない上、下級貴族令嬢の間では、結婚前の箔付けとして結構人気の職場らしい。そういう意味でも、女性ばかりの精霊術士とは比較的相性がいい。
「そういえば導師様、今日アルカドール侯爵がこちらにお越しになったとか」
「はい、明後日まで商務省の方で話し合いがございまして。今日は時間が空いた為に来られましたの」
「そうですか。もし明日か明後日こちらにお越しになった際は、ご挨拶をさせて頂きたいのですが」
「課長殿は、父と面識がございますの?」
「ええ。魔法学校の学生時代に、お世話になった先輩なのですよ」
「まあ、どのようないきさつで交流されていたのかしら」
「同じ研究会だったのです。魔法戦闘研究会という会がございまして」
なるほど、部活の先輩後輩か。しかし、魔導師で実際に戦場で活躍されていたお父様はともかく、課長が魔法戦闘とは……なんかイメージに合わないな。
「何と申しますか、今の課長殿からは考えづらいですわね」
「私もそう思いますが、入学当初、先輩に目を付けられて、強引に入会させられたのですよ。「貧弱なお前を鍛え直してやる」と仰られて……今では笑い話ですが」
「それは……当時の父が大変失礼を……申し訳ございませんでした」
「いえいえ、確かに当初は絶望しておりましたが、面倒見の良い方でしたし、実際に魔法の腕も格段に向上しましたので、有難かったですよ。まあ、試験休みの時の山籠もりはもう勘弁して頂きたいですが」
うーん、実は若い頃お父様は結構ガキ大将みたいな感じだったのかな。案外お父さんと気が合うかもね。会うことは無いだろうけど。
あと、魔法省では魔法課長も同じ会の先輩後輩の間柄らしい。何か面白い話が聞けそうなので、帰ったら夕食の時にでも聞いてみよう。
夕食時、お父様に精霊課長から、学生時代お世話になった、と聞いたことを話した。
「そう言えばライトは精霊課長だったか。時間があれば行こう」
「課長殿も喜ばれますわ。それと、お父様達は魔法戦闘研究会という所に入られていたそうですわね」
「父上、本当ですか?あそこは戦闘訓練さながらの激しい活動を行うことで有名なのですが」
「今でもそうなのか。当時は若い事もあり、色々愚かなこともやったが、楽しかった」
多くの学生は、何かしらの魔法に関する研究会に入って自学研鑚に努めているようだ。お兄様は、生活魔法研究会に所属していて、先日見せて貰った発表のように、生活に役立ちそうな水魔法や氷魔法の研究を行っている。
「クリスは子供の頃は色々騒ぎを起こしていたからのう……エヴァには本当に感謝しとるよ」
「父上、それは今言わないで下さい」
何やら面白そうな話が聞けそうだが……お母様のいない所で聞くのもアレだな。
「そういえばお父様、試験休みの山籠もりとはどのようなものなのでしょうか」
「ああ、私が言い出して始めたものだな。6月第3週が前期試験で、第4週が試験休みなのだが、暇なので、デカントラル領の山地まで身体強化しながら駆け足を行い、そのまま5日程山で過ごし、皆で魔物狩りを行っていたよ。たまに盗賊がいたのも一興だったな」
「あれは父上が始めた行事だったのですか?死者が出ていないのが不思議な荒行と言われていますよ」
「いや、有志の支援を陰ながら受けていたし、安全管理も行っていたぞ?今でもその筈だ」
確かにその内容なら、普通にやれば死者が出ても不思議ではない。支援があるとはいえ、過激だなあ。しかし、昔の事を語るお父様は、本当に楽しそうだった。
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