第136話 レイテアの披露会 2
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レイテアの披露会の日だ。早朝に日課の鍛錬を行った後に体の手入れを行い、朝食を済ませてからレイテアは念入りに化粧と着付けを行う。会場である我が家は、手早く大部屋と広間を片付ける。なお、テーブルなどの大物は、私が異空間に一旦収納している。
前8時、つまり地球で言うところの午後3時半頃に開始なので、その1時間程前から招待客が来始める筈だ。宿泊している客人達も、その頃には顔を出して、準備した軽食を食べたり、歓談して待機する感じだ。しかし、私については微妙な立場なので、開始直前に会場に入ることになる。ということで、のんびりと部屋で待機して、本を読んでいた。
クラリアが呼びに来たので、私は入場した。暫くして、お父様がレイテアの叙爵を改めて紹介し、レイテアが叙爵の抱負と、集まった人達への感謝の言葉を述べた。また、レイテアのお父さんも、今後もレイテアを宜しくお願いします、と簡単に挨拶し、お父様の音頭で披露会が始まった。
私はトリセント伯爵やレイテアの御両親に挨拶をした後、暫くのんびりしていた。すると、レイテアとレイテアのお父さんがダンスを踊り始めた。練習しただけあって、なかなかうまく踊れている。レイテアのお母さんは、それを見て嬉しそうに笑っている。そのような中、私に近づいて来た人がいた。
「あら、騎士団長殿。ご参加頂き、アルカドール家の者として感謝致しますわ」
「導師様、本日も誠にお美しい。最近では、貴女見たさに魔法省の警備に就きたがる者が多いのですよ」
「まあ、それは光栄ですわね」
「そう言えば、聞きましたぞ。今後、精霊術士と魔法兵団が協同して、新たな魔法運用を検討するそうですな。導師様が来られてから、時代が目まぐるしく変化しているようです」
「私ごときが時代を変化させるなど。精々、元々才能を秘めた方々の後押しをしただけですわ」
「そうですな。騎士学校も、貴女の指導のおかげで変わった。先日視察に行って驚きましたぞ。女子学生が実力をつけ、男子学生は抜かれまいと一層鍛錬に励んでいる。今年の卒業生は例年になく優秀な者揃いになるでしょう。うちの奴らも、手ぐすねを引いて待っておりますよ」
「まあ、頼もしい事。そういえば、シンスグリム男爵はどうなされていますか?再び副団長に配置されたと伺いましたが」
「ええ。元々自分に厳しい奴ですが、変に人を見下す所があった。ただ、メリークルス殿に負けたことで、そういう悪癖が無くなった様です。あの様子なら、真に人の上に立てる人間になれるでしょう」
「そうですわね。最初の試合は、レイテアを格下と侮って負けておりますからね。先月の試合は、結果としてはレイテアが勝ちましたが、シンスグリム男爵があそこで勝負を決めに行ったこと自体は良い判断でしたわ。あれ以上試合が長引くと、態勢を崩され続けて、見えにくい所に溜まった疲労のために、今度はレイテアが有利になっていたでしょうから」
「ほう、遠目だったでしょうに、そこまでお分かりになられるか。貴女が精霊導師でなかったら、騎士団にお迎えしたいところだ」
「あら、レイテアを勧誘されるのは、諦めましたの?」
「いやいや、諦めてはおりませんよ。そもそも、貴女にも護衛は必要でしょうが、強くなくとも、気が利く者なら誰でも良い。こう申しては何ですが、メリークルス殿の実力を生かせる場とは言えませんな」
「そこまで断言されたのは初めてですわ。ですが、私とて、レイテアが納得しないなら手放す気はございませんわ。もう家族に近い間柄ですから」
「そうでしょうな。しかし、彼女には是非就任して頂きたい職があるのですよ」
「あら、何か具体的なお考えがございますの?伺っても宜しいでしょうか」
「実は、次期騎士団長の相方になって頂きたいのですよ」
「……それは、シンスグリム男爵とレイテアとの婚姻、ということでしょうか?」
「そうです。奴はこれまで女性に興味が無く、30近くになっても独り身です。武術大会で殿堂入りをしたら、強引に婚姻させようとしておった位でしてな。しかし、メリークルス殿に対しては、違う様だ」
「まあ、何か具体的な事でもございますの?」
「例えば、試合の後、仲間内で奴を慰めていたのですが、その場の勢いでメリークルス殿のことを侮辱した者がいたらしいのです。その時奴は烈火の如く怒り出した上、逆にメリークルス殿を賞賛したそうです。また、ステア政府内でメリークルス殿を見かけると、挙動不審になったそうです。その時隣にいた者が言うには、まるで恋をした少年の様だった、と」
「確かにその様にも取れますが、単に好敵手として尊敬しているだけかもしれませんわよ?」
「そのような可能性もありましたので、先日鎌を掛けて見ました。メリークルス殿は、現在婚姻の申し出が殺到して大変らしいぞ、と。奴は、その日は一日中上の空でした」
「まあ、部下の注意力を散漫にして、悪い上司ですこと。でも、レイテアの婚姻相手として、シンスグリム男爵なら、年齢が少し上であること以外は理想的かもしれませんわね」
「ちなみに、メリークルス殿の方は、婚姻に関してどのような考えを持たれておるのですかな?」
「正直、あまり興味を持っておりませんわね。剣術一筋ですもの。でも、普通の殿方ならいざ知らず、シンスグリム男爵なら、婚姻後も剣を取ることを許して下さいますわよね」
「恐らく。むしろ、二人で対戦していそうですな」
「あと、実は私もレイテアに一度、シンスグリム男爵が婚姻相手だったら、と冗談交じりに聞いたことがあるのですが、私などよりもっと相応しい方がいらっしゃるのでは?という答えでしたわね」
「ほう!脈はあるかもしれませんな。奴をもっとけしかけて、婚姻を申し込ませましょう!」
「ですが……本当に申し出は殺到しておりますから、その中の一人を選ばれるかも知れませんわよ?」
「では、来年の武術大会の試合の内容で相手を決定する、と宣言するというのは如何でしょうか。メリークルス殿であれば、そう言ってもおかしくない実績を上げられましたからな。相手の選定に難航していらっしゃるようですし、丁度良いのでは?」
「それも一案ですわね。試しにレイテアやご両親などにお話ししてみますわ。もし本当に宣言が為されたならば、そちらはその方向で進めれば宜しいのでは?」
「有難い。そうさせて頂こう。来年の武術大会が楽しみだ」
そう言って騎士団長は去って行った。
暫くするとレイテアがやって来た。
「お嬢様、随分と長い間、騎士団長様とお話しになっていましたね」
「まあ、色々興が乗りましたの。ところでレイテア、婚姻の件なのですが……」
「お嬢様までその話ですか?昨日さんざん両親から言われましたよ。しかし、婚姻と剣、どちらかを選べと言われたら、私は剣を取りますよ」
「それは承知しておりますわ。ですので、婚姻後も剣術を続けられる殿方と婚姻しては如何でしょうか」
「しかし、そのような都合の良い方がいらっしゃるでしょうか。私もそろそろ行き遅れですし」
「婚姻の申し出が殺到して、選定に困っている方の言葉ではありませんわね……」
「世界各国の高貴な殿方から婚姻を申し込まれているお嬢様に言われたくはありませんがね」
「……まあ、話を戻しますが、婚姻を申し込まれている方に、来年の武術大会に参加して頂いて、剣術が好きで、レイテアが剣術を続けても許容されそうな方を選ぶと言うのは如何でしょうか。あまり拒否を続けても宜しくありませんし、こちらから条件を付けて、ご両親や申し込まれた方を納得させてみては?」
「なるほど。それならば、私も納得できそうな気がします。両親とも相談してみます」
その後、披露会は盛況の中、トリセント伯爵の祝福の言葉で終了した。私はその日のうちにトリセント領参加者を領まで送り届け、翌朝お父様と行政官以外のアルカドール領参加者を送り届け、出勤した。
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