第134話 変わった事、気付いた事
お読み頂き有難うございます。
宜しくお願いします。
今日からは通常の勤務だ。まずはパットテルルロース様の所に、精霊課長とともにお礼に行った。
「パットテルルロース様、お久しぶりです。精霊術士集中鍛錬が終了致しましたので、お礼に参りました」
「ご丁寧に有難うございます。成果はございましたか?」
「ええ。短期間に皆能力を大幅に向上させ、魔法強化も7名が可能になりましたわ」
「それは素晴らしい。我々も協力した甲斐があったというものです」
「大使殿、これは精霊課からの、御礼の気持ちです。受け取って頂けませんか」
「ほう、これは、蜂蜜ですか。ロイドステアでは蜂蜜は貴重だと伺っておりますが、宜しいのでしょうか」
「是非。ウォールレフテの味とは多少異なるかもしれませんが、ウェルスカレン領の養蜂家が丹精込めた物です。大使館の皆さんでお召し上がり下さい」
「では、有難く頂戴します。ふふ、久々に蜂蜜を使った料理が食べられると思ったら嬉しくなりました」
「喜んで頂けて幸いです。今後もお世話になることもございますが、宜しくお願いします」
パットテルルロース様は非常に喜んでいるようだ。良かったよ。
さて、執務室に戻ったが、確認する書類が溜まっている。今週末にはレイテアの披露会があるから早めに片づけてしまった方がいいな。前日には休みを取る予定だし、急な仕事が入る可能性もあるからね……。
と思って一生懸命書類を見ていると、ふと、何かが私を見ているような気がした。とはいえ、これは敵意などではなく、私を見守る様な、温かい視線だ。そうだ、この感じは……
「もしかして、お兄様?遠視で私を見ていらっしゃるのかしら?」
そう独り言?を言ったところ、視線を感じなくなった。どうやら正しかった様だ。その後は普通に書類を確認し続けて、何とか片づけ、遅めに帰宅した。
屋敷に入ると、お兄様が待っていた。
「フィリス、ごめん」
謝られてしまったが、私としては特に怒っているわけではない。精霊も似た様なものだし。
「お兄様、謝られなくても結構ですわ。私を心配されていたのでしょう?」
「そうなのだけれどね、やはり謝っておくよ。勝手に見るのは良い事ではないから。ただ、今日は休憩時間に、ふと、フィリスのことが心配になってしまったんだ。これからもたまに、見に行ってもいいかな」
「業務中でしたら、問題ありませんわ。見られて困ることはございませんし。ただ、私的な時間には、ご遠慮して頂けると……」
流石に着替えや入浴や花摘みとか、お兄様にも見られたくはないので。
「も、勿論だよ!そういった所は見ないと誓うよ!」
「なら結構ですわ。もう夕食の時間ですし、着替えて参りますので」
赤くなっているお兄様にそう言って、私は自室に向かった。
その後数日間、通常の生活を送っていたのだが、お兄様の一件で、私には日常的に何かしらの監視の目があることに気が付いた。敵意は感じず、ただ観察している様だ。気付けたのは、私が視線とそこに乗った感情に敏感になったためだが。今すぐどうという事は無さそうだが、一応お祖父様に相談してみた。
「ふむ……そうじゃな、恐らくは国内外の間諜やその協力者などの類じゃろうな。フィリスの立場であれば、常に情報収集されていると考えて間違いないからのう」
「やはりそのような者達ですか。私はどのように対応すれば宜しいでしょうか?」
「お前が人間社会で生活する以上、何かしらの監視や人の目を防ぐことは不可能に近い。世界中の国家を潰さんと無くならんじゃろうからな。出来る事は、お前に対して何かしらの謀略が企てられる可能性を、常に念頭に置いて行動することくらいじゃ」
「解りましたわ。お祖父様、有難うございます」
どうにもならないものは諦めて放っておこう。出来ることをやっていくだけだ。
今回の省定例会議では、精霊術士集中鍛錬の成果について話された。そこで、魔法兵課長がその成果を早めに確認させて欲しいと言ったことから、魔法兵団と精霊課で、協同訓練が行われる話になった。月1回行われている訓練を、協同訓練に充てたいということだ。
実は魔法兵課長と魔法兵団長の間で、事前に色々検討していたそうだ。詳細は後日連絡ということになったが、今の所、10月第2週を検討しているそうだ。当然この話は、精霊術士集中鍛錬の成果と共に、御前会議の場でも報告され、陛下も関心を持たれたようだった。こういった時流のようなものを抜け目なく利用する辺り、魔法兵課長も侮れないな、と思った。
今日も通常業務だ。資料を読んでいると、精霊課長が入って来た。
「導師様、ご相談がございまして」
「何でしょうか」
「実は、集中鍛錬で使用したような場所を王都でも見繕って、継続的に鍛錬を行おうという話が精霊術士達の方から挙がりまして、検討しているのです」
確かにその通りだ。数時間でも継続して続ければ、そのうち全員が魔法強化が可能となるだろう。問題は場所だが……地属性ならその辺りに作れそうだが、他は場所を選ばないとな。そろそろ冬に近いのもネックだ。風はどこでも厳しそうだし、水は温泉かな。逆に火の場合は、暖房の季節になるから楽だけど。
「季節柄、風はかなり難しそうですわね。地は庭の一角を囲んでしまえば容易に作成できますわ。水は近傍の温泉が宜しいと思いますわ。火の場合は、どこかの暖炉で宜しいのでは?」
「はい、風以外は導師様の仰るように、代替場所が選定できたのですが……」
「いっそのこと、どこかの部屋に風属性の力を集めて、疑似的に環境を作った方が宜しいのでは?」
「鍛錬の都度、風属性の力を集めるのですか?多くの人間と魔力が必要では?」
「では、暫くの間は私が集めますわ。精霊の力を借りれば、楽に集められますから」
「確かにそれが一番良いですね。ご協力、感謝いたします」
「では、鍛錬を始める時には教えて下さいな」
「はい。場所の都合上、来週以降になると思います。あと、報告ですが、火山監視の人員交代を行います」
「あら、次は……コルテアさんが行かれるのかしら」
「はい、その通りです。こちらに戻る者も、当初はアンダラット法の練習から行わせようと思います」
「では、最初に私が講義を行うということで、宜しいでしょうか?」
「いえ、次からは、精霊術士の間で教えて行こうと考えております。殆どの者がアンダラット法を習得致しましたし、いつまでも導師様に甘えているわけには参りませんので」
「そうですか、解りましたわ。では、こちらの本をお貸ししますので、参考にして下さいな」
「アンダラット子爵が執筆された本ですか!有難うございます」
そのようなことを話し、精霊課長は退室した。
今日の午後は久々に魔法研究所へ行くことになっている。重力?魔法の習得状況はどうだろうか。
研究所へ到着すると、所長が出迎えてくれた。挨拶を済ませると、地属性研究室へ向かった。
「室長殿、御苦労様です。久しぶりに拝見させて頂きますわ」
「導師様、お久しぶりです。私も新魔法を習得できました。ご確認下さい」
そして、実験場へ向かい、重力?魔法を披露して貰った。石だけではなく、自身も浮遊したり、何かを重くして地面にめり込ませたり、様々な事を行って貰った。
「素晴らしいですわ。もう使いこなされていますわね」
「はい、これも導師様のご指導のおかげです」
「ところで、この魔法は、結局どのような名前になりますの?」
「はい、当初は浮遊魔法と命名しようと考えたのですが、重くすることも可能ですし、重さを力と考えて『重力』と名付け、重力を操る魔法、即ち重力魔法としたいと思います」
なるほど。フィアースにおいては、重力に類する言葉が無かったから、新たに作ったわけね。で、重力魔法と命名した、と。かなり大掛かりな定義の変更だな……。
「解りましたわ。それで、重力魔法の論文の進み具合は、どのようになっておりますの?」
「来年の予算の審議が11月末にございますので、それまでには発表できるごとく、進めております」
実績を作って、来年の予算を多く獲得したいわけか。なるほど。
「それは大変ですわね。何かお力になれそうなことはございますか?」
「作成中の論文を時々見に来て頂ければ、助かります」
「そうさせて頂きますわ」
室長と話していると、オスクダリウス殿下がやって来た。魔法学校の授業が終わったようだ。
「教官殿……と、フィリストリア嬢ではないか!久しぶりだな」
「殿下、ご機嫌麗しゅう。私はここ暫く、精霊術士集中鍛錬に参加しておりましたので」
「ああ、聞いている。精霊術士が魔法を強化することが出来る様になったと、学校でも噂になっていた」
「あら、皆様耳のお早い事。その件については、来年にでも講義させて頂きますわ」
「ふむ、それでは、来年もまた講義を聴講させて貰おうかな」
そのような感じで、重力魔法の事も含め、色々話し合い、時間が過ぎて行った。
お目汚しでしたが、楽しんで頂けたのであれば幸いです。
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