第131話 慰労会を行った
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合宿20日目だ。今日は午前中に荒魂の特性を調べていた。前提条件なしで考えた場合の威力は、地、水、風荒魂は同等で、火荒魂は概ね2倍、地に風、火に水といった反発し合うような属性にぶつけると、3倍くらい威力が上がるようだ。そんなに大きくない山とかなら、風荒魂で吹き飛ばせそうだ……。
午後は体を動かしながら魔力波を放つ鍛錬を行った。ただ、相手が岩なのが難点だ。そろそろ動く的で試してみたいが、こればかりは諦めるしかない。ファンデスラの森に行きたい気分だよ。
公爵邸に戻ると、精霊課長が私を待っていた。
「導師様、昨日言っておりました意匠の図です。こちらにこの帯を装着したいと思います」
なるほど。基本的には精霊課の課章かな。装着する帯は準備してくれたのか。これならすぐできそうだ。
「では、早速今晩作りましょう」
「有難うございます。皆の励みになるでしょう」
レイテアのダンスの練習や夕食の後、記念章作りを行った。主な材料は金と魔法銀、ケイ砂だ。金と魔法銀は以前取っておいたものを使い、ケイ砂などは庭で地精霊と同化して、地下から取って来た。作る際に、試してみたいことがあったので色々やっていたら、案外時間が掛かってしまったが、いい感じの物が出来た。
その後数日は、魔力波の鍛錬を中心に行い、夜にはそれぞれの宿にも顔を出して色々話を聞いたりした。公平な目で記念章を渡す相手を選定しないといけないしね。
あと、正直な話、感覚共有して精霊の姿で話す方が、皆打ち解けてくれるのよね……。普段の私は、そんなに話しづらいかな。身分や容姿はどうしようもないとしても、もっと話しやすい雰囲気とか、醸し出した方がいいのだろうか?悩み所だ……。
合宿25日目、実質最終日だ。今日は午前中から各組を回り、その後精霊課長と表彰する者を決定することになっている。まずは風組の所に向かった。皆、鍛錬最終日ということで気合が入っているようだ。
「導師様、課長、ご機嫌麗しゅう。風組は異状ございませんわ」
組長のリゼルトアラが淡々と報告した。課長が尋ねた。
「風組で、魔法強化が可能となった者はいますか?」
「……まだそちらは試しておりません」
「では、5人全員に試して頂きましょう」
課長が指示を出して、全員に試して貰った。護衛の中に風属性の人がいたので、つむじ風の魔法を使って貰い、それを強化できるかどうかを確認した。リゼルトアラ達4人は、残念ながら強化できず、最後にフェルダナが試した。
【精霊よ、我らの願いに応じ、力を与え給え】
とフェルダナが言って、風精霊に魔力を与えると、これまでとは違い、風精霊の色が鮮やかになった。
「魔法を使って下さい」
護衛の人が再度つむじ風の魔法を使うと、これまでより明らかに強力なつむじ風が発生した。
「成功ですわね。フェルダナさん、おめでとうございます」
「フェルダナ嬢、おめでとう」
私達がそう言うと、他の精霊術士達から拍手が起こった。フェルダナは恥ずかしがりながらも
「導師様、課長、皆さん、有難うございます」
と応えていた。フェルダナも成長しているな……。
風組の所を離れ、水組の所に移動した。馬車を降りて近付くと、前と同様水精霊が知らせに行く。
「導師様、課長、お疲れ様です。水組は異状ございませんわ」
マントを羽織ったマリーさんが泉の囲いから出て来て報告した。課長が尋ねた。
「水組で、魔法強化が可能となった者はいますか?」
「はい、私とアリネラさんは可能ですわ。他の方は惜しい所ですが、成功には至っておりません」
「なるほど。では、2名に実際に見せて頂きましょう」
「承知致しましたわ。アリネラさんを呼んで参ります」
護衛の中にいた水属性の人に水球を放つ魔法を使って貰い、2名にそれぞれ試して貰ったところ、確かに水精霊の色が鮮やかになり、水球の威力も増加していた。
「マリーさん、アリネラさん、成功おめでとうございます」
「マルロアーナ嬢、アリネラ嬢、おめでとう」
「導師様、課長、有難うございます」
水属性は2名か。いい成果が出ているな……。
水組の所を離れ、次は火組の所へ移動した。二人とも、今日は灯台の中にいた。
「導師様、課長、火組は鍛錬に取り組んでいるよ」
「コルテア嬢、火組の方は、魔法強化は可能になりましたか?」
「そう言えば試してなかったよ。ラズリィ、やってみようか」
「組長、りょうか~い」
何だか火組も独特だな……。とりあえず、火属性の護衛の人に魔法を使って貰おう。灯台の外で、火属性のエネルギーを岩壁にぶつけて貰うことにする。まず、コルテアは、残念ながら成功しなかった。しかし、ラズリィについては、火精霊の色が鮮やかになり、使って貰った魔法についても、火属性の塊が強力になった。
「ラズリィさん、成功おめでとうございます」
「ラズリィ嬢、おめでとうございます」
「ラズリィ、やったな!これで他属性にも面目が立つな」
面目云々は関係ないが……成果が出ているなら、良い事だ。
最後に地組の所へ移動した。さて、魔法強化できる人は増えたかな?
「導師様、課長、ごきげんよう。地組は異状ございませんわ」
「メグルナリア嬢、地組で魔法強化が可能になった者は、パトラルシア嬢以外にいますか?」
「ええ、エナさんと、一応私も出来るようになりましたわ」
「ほう、一度、見せて頂けませんか?」
前回の要領で、メグルナリアとエナに見せて貰った。確かに魔法強化は成功していた。
「メグルナリアさん、エナさん、魔法強化成功おめでとうございます。特にメグルナリアさんは、成長が著しくて、素晴らしいわ」
「メグルナリア嬢、エナスジェラ嬢、おめでとうございます」
他の地組の人達も、砂に埋まっているが、祝福の言葉を掛けていた。メグルナリアは地組の中でかなり打ち解けた感じだ。仲良くやってくれるなら、それが一番だ。
帰りの馬車の中で、私は精霊課長と、誰を表彰するかで話し合っていた。
「魔法強化成功の該当者は、地で3名、水で2名、風と火で各1名です。私としては誰を表彰しても良いと思っているくらいですが……敢えて挙げるなら、パトラルシア嬢かメグルナリア嬢ですね」
「確かにそうですわね。パティさんは最初に成功させましたし、見た感じでは、更に力が増しているようでしたわ。メグルナリアさんは、こちらに来た時はアンダラット法も未習得でしたのに、魔法強化まで成功させたのですから、甲乙付け難いところですわね」
「はい。2名を表彰するという考えもありますが、今後も考えますと、1名にした方が有難みもございますので、1名に決めたいと思います。導師様であれば、どちらを選ばれますか?」
「そうですわね……私であれば……」
その後公爵邸に到着し、昼食後、記念章に記名などを行った後、精霊課長に渡した。私は慰労会の準備のため、一応準備していたドレスを、公爵邸のメイドに着付けて貰った。これまでは髪を整えるくらいしかやって貰っていなかったが、流石にドレスは一人では着られない。悪いと思いながら頼むと、途中で手が止まったりしてたどたどしかったが、何とか終わった。
私を見て興奮するのはやめて欲しかったのだが……こういう感情も受け流さないと、精神衛生上あまり宜しくないな……もっと精進しよう。
部屋で待機し、暫くするとメイドに案内されて、会場となっている大部屋に入ると、精霊課の人々や、公府の主要な役職の方々がいた。私の後に公爵が入場し、我々への慰労の言葉があった。その次に精霊課長が登壇し、公爵をはじめ、公府の方々への御礼の言葉を述べた。その後、特に鍛錬に励み、優秀な成果を上げた者を、この場を借りて表彰する、と告げた。誰が表彰されるか気になったのか、場が静まり返る。
「メグルナリア・ボルドバーム。前へ」
一瞬自分が呼ばれたことに気付かなかったメグルナリアは、隣にいたサーナフィアに肩を叩かれ、やっと気付き、前に出て行く。拍手の中、とまどった様子で精霊課長の前に出る。
「メグルナリア・ボルドバーム。貴殿は、精霊術士集中鍛錬の重要性を良く理解し、高い使命感と強い責任感を持って鍛錬に努め、優秀な成果を上げた。また、組の者を良導し、融和団結を図った。この功績により、記念章を添えて表彰する。ユレート歴1520年9月25日 魔法省精霊課長 ライトマグス・フェンシクル子爵」
メグルナリアが記念章を精霊課長から授与された所で、更に大きな拍手が起こった。メグルナリアは、皆に向けて礼をして、元の位置に戻った。精霊課長が降壇し、再び公爵が登壇して、慰労会が開始された。
私は公爵をはじめ、公府の方々に挨拶をして回り、一息ついたところで、精霊課長がやって来た。
「課長殿、挨拶と表彰、御苦労様でした」
「導師様こそ、挨拶回りは大変でしょう。それと、今日の盛装も、良くお似合いです」
「あら、お褒めに与り、誠に光栄ですわ」
暫く精霊課長とまったりと話をした後は、精霊術士達をはじめ、精霊課の人達の所へ、労いの言葉を掛けに行った。話に興じる者、食事を楽しむ者、様々だが、集中鍛錬が成功に終わり、皆満足そうであった。メグルナリアなどは、早速記念章を付けて喜んでいた。
あと、行政官夫人である、2人の精霊術士もこの慰労会に参加していたのだが、メグルナリアやロナリアは顔見知りのようで、思い出話をしていた。
最終的に選考から外したパティとも話をした。曰く
「まあ、あの人組長としても結構頑張ってたからね。私は一組員だったから、その点が弱かったかな」
と、一応納得はしてくれているようだ。機嫌を悪くされると、流石に心苦しいから、助かったよ。
あれ?リゼルトアラが私の所へ話に来た。先程言葉は掛けた筈だが、何の用だろう……?
「導師様、何故メグを表彰したのですか?以前貴女に指導されましたのに」
ふむ、これは……敵意や反感ではなく、単に疑問を感じているだけのようだ。普通に答えようかな。
「何故と申されましても、課長殿が仰った通りですわ。それに、あの件は既に終了していますので、考慮の対象外ですわ。むしろ、あの状態から挫けず努力された所は、個人的に評価しているくらいですのよ」
「……そうですか。疑問に答えて頂き有難うございます。失礼致しますわ」
リゼルトアラは去って行った。まあ、思う所はあるけれど、ああいう所に私情を挟むのは好きじゃないんだよな。あと、人事的にも、ここでメグルナリアが表彰されると、縁談の条件が良くなるのよね。特にこの集中鍛錬、成果を各領に周知するから、注目度が上がるだろうからね。こういった観点もあって、私も精霊課長も、メグルナリアを表彰する事で一致したのだ。総務課の担当者には頑張って頂きたいなあ。
宴も酣となった頃、公爵と目が合ったので、私が登壇して、締めの挨拶を行って、慰労会は終了した。
お目汚しでしたが、楽しんで頂けたのであれば幸いです。
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