第129話 成果が出始めた
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暫くは鍛錬の日々だ。意識の波を感じる事に慣れて、自在に発動できるようにしたいところだ。名前も(仮)ではなく、自分の中で正式に決めることにした。名前を付けることでイメージを強める、これまでも行って来たことだが、仕組みが解ったことだし、いい機会だ。
そこで休憩の合間に考えてみたが、やはり魔力を主体としているし、単純に「魔力波」と呼ぶのはどうだろうか。色々応用も利きそうだし、あまり名前をひねると、後々命名に苦労しそうだ。
逆に、魔力波を応用して、体に取り込んだ属性のエネルギーを撃ち出す技は、ピンと来るものが無かった。あれは、構造上精霊導師か妖精王のみが行えるものだから、特別な名前でもいいだろうし……レイテアにも聞いてみよう。
「レイテア、少々伺いたい事があるのですが、宜しいでしょうか?」
「ええ、大丈夫ですよ。何でしょうか」
「今習熟のために鍛錬している、魔力を利用した技を「魔力波」と呼ぼうと思うのだけれど、どうかしら」
「波……ですか。なるほど、意識の強弱を把握するわけですから、存外しっくりきますね」
「ええ。具体的に名前が付いた方が、練習しやすいでしょう?」
「そうですね。魔力波……解りました。私も魔力波を発動できるよう、練習致します」
「ええ、あれなら私以外でも使えると思うのよ。頑張って頂戴。あと、実は、先日吸込岩に向けて放った技にも、名前を付けようと思うのだけれど、付けるとすればどんな内容が良いかしら」
「あれは……お嬢様にしか使えそうにないですからね……私としては、フェンシクル様が仰った「大自然の驚異」という言葉が、一番しっくり来ますね」
「そうですか……その言葉通りには付けられないですが、方向性はそちらで検討致しますわ」
ということで魔力波は決定、魔力波を応用したアレは、もう少し考えることにした。
合宿も17日目、2週目が終わろうとしていた。午前中は鍛錬の時間だ。意識の波を感じることにもかなり慣れた。魔力波も、発動までにタイミングを測る時間が小さくなっている。これなら、実戦でも労せず使えるだろう。
また、意識の波を感じる練習を続けたためか、どうも、人の感情についても、結構敏感になって来た。特に視線に乗って来ると、強く感じられるようになった。私はこう言っては何だが、色々な意味で注目を集める人間なので、少々困るかもしれない。
さりとて、敵意を察知できるという点では良い事なので、敵意以外をオミットできるような感じで、慣れて行けるよう練習して行こうと思う。あと、集中すると、心なしか、周囲の時間が少し遅く感じるようになった。これは感覚だけなので何とも言えないが、こういうことを突き詰めていけば、もしかすると通常の動作も、更に習熟できるかもしれない……が、こちらは要検討だな。
あの技について、空き時間に色々考えてみたが、フィアースの概念では、どうもしっくり来る言葉が見つからなかったので、オリジナル技になりそうなこともあり、日本的な名前にすることにした。大自然というのは、日本的には八百万の神で、普段は人に恵みを与えるが、災害なども同時に与える存在だ。
こういう神の二面性を、和魂、荒魂としていたところが思い出されたので、あの技については「荒魂」と呼ぶのが個人的にしっくり来た。まあ、他の人は「あらみたま」と発音しても意味が解らないと思うが。
あと、一応、属性毎に区分しておこう。先日の場合は地属性だったので「地荒魂」で、水属性なら「水荒魂」、風属性なら「風荒魂」、火属性なら「火荒魂」といったところか。これらの属性毎の特徴も合宿中に調べておきたいな。
とはいえ和合すると、威力が大きすぎるから、同化状態で属性のエネルギーを絞って、検討しよう。
午後は、精霊課長と共に、各組の状況を確認しに行った。とりあえず風組から回る。現場に着くと、全員が風の強い所にいる。3人以外も、ある程度アンダラット法を習得できたようだ。まずは組長のリゼルトアラに状況を報告して貰おう。私を怖がっている視線は感じるが、表面上は平静を保っている。
「……導師様、風組は順調ですわ。私以外も、アンダラット法は概ね習得できましたので、全員で風属性への感受性を高めております。精霊の声も、より明瞭に聞き取れますわ」
「それは良かったですわ。皆様の頑張りもそうですが、組長である貴女が積極的に鍛錬に取り組まれておりますから、順調なのでしょうね」
「……お褒めに与り光栄ですわ。では、失礼いたします」
まあ、長居しても困りそうなので、皆に挨拶をした後、そのまま水組の所に移動した。
水組の所へ行ってみると、静かな雰囲気だったのだが、私達が近づくと、水精霊が泉の方へ飛んで行き、雰囲気が騒めいた。すると、組長のマリーさんが水から出て、マントを羽織ってこちらに来た。
「導師様、課長、水組は異状ございません。鍛錬も順調ですわ。精霊が、お願いを良く聞いてくれるようになりましたの」
「それは良かったですわ。先程も、私達が来たことを、水精霊が貴女達に告げに行っておりましたものね」
「ええ、そうなのです。周囲の警戒などをお願いしておりましたの」
なるほど。水組の方は、魔法の支援が可能になるまであと少し、という所か。
「順調なようで安心致しましたわ。体調を崩さない様、引き続き励んで下さいませ」
そう言って、皆に挨拶をした後、火組の所へ移動した。
火組の所は、灯台に行って見ると、姿が見えなかったが、暫くすると、海岸の方から2人が上がって来た。私達に気付くと、小走りで近付いて来た。コルテアが報告した。
「別に怠けていたわけではないよ?鍛錬は順調だよ!」
「肌寒い所ですのに、水着で海に出られるなら、非常に暑い中励まれていたのでしょう。別に疑ってはおりませんよ。水分や塩分もしっかり摂っていますか?」
「それは勿論。来る途中に屋台があって、そこで軽食を買ってから来てるんだよ。なかなか美味しいんだ」
「そうですか。ところで、今は精霊にどのくらいお願いを聞いて貰えますか」
「私は聞いたらきちんと答えてくれる、という所かな。ラズリィは?」
「私は、屋台が開いているかどうか、見に行ってくれるようになったよ?」
「そうですか、順調ですわね。引き続き、励んで下さいな」
そう言って、最後の地組の所へ移動した。
地組の所へ行くと、2体の地精霊がいて、1体は砂浜に、もう1体は私達を案内していた。砂浜に到着すると、地組は全員頭だけ出して、砂に埋まっていた。私達は皆の前へ行き、しゃがんで話し掛けた。
「皆様お疲れ様。メグルナリアさん、鍛錬は順調の様ですわね」
「導師様、課長、巡回お疲れ様です。精霊も私達のお願いを良く聞いてくれるようになりましたわ。あと、パティさんについては、地魔法の強化が可能かもしれませんわ」
「あら、そうですの?パティさん、一旦そちらから出て、試して頂けませんか?」
パティが頷いたので、私は手を地精霊と同化させ、一旦パティに砂から出て貰う。護衛の中に、地属性の人がいたので、試しに地魔法を使って貰う。とりあえずは、普通の状態で……。
「導師様、では、あそこの岩に向かって土塊をぶつけます。………………やあっ!」
ふむ、これが普通の状態か。今はあそこにいる地精霊が事象変化を行ったようだ。次に、パティが一旦活性化し、精霊との約定に基づく文言を呟いた。
【精霊よ、我らの願いに応じ、力を与え給え】
すると、地精霊がパティの所へやって来た。パティがその地精霊に魔力を与えると、地精霊の色が鮮やかになる。あの本に書かれていた内容だ。
「魔法を使ってみて下さい」
「では、同じ魔法を行います。………………やあっ!」
すると、明らかに大きい土塊が、先程より高速で岩に飛び、先程は壊れなかった岩が壊れた。
「これは……確かに魔法が強化されている!成功だ!」
「パティさん、素晴らしいわ!」
「課長、導師様、有難うございます」
パティは照れながら言った。あと、パティが地精霊にもお礼を言うと、地精霊は魔力を貰って嬉しかったのか、礼を言って元気に飛んで行った。
「他の方も、パトラルシア嬢の行った魔法強化が、集中鍛錬の目標ですので、頑張って下さい」
精霊課長がそう言って、皆を激励し、私達は砂浜から出た。馬車の中で
「パティさんだけでなく、他の方も力が増しておりますわ。集中鍛錬が終了する頃が楽しみですわね」
「そうですね。とりあえずは魔法強化が可能なことが証明されました。後は、どの程度の威力の上昇が見込めるのか、1回の持続時間や効果の範囲などを検討せねばなりませんね。王都に帰りましたら、魔法兵課や魔法研究所と調整いたしますので、ご協力下さい」
「ええ。宜しくお願いします」
そのようなことを話しながら、公爵邸に戻った。
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