第127話 西公府の観光をした
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合宿9日目……ではあるが、本日は休日になっている。精霊術士達は、概ね各組毎に公府を回ると聞いている。私も、早朝の鍛錬と朝食の後に、公府の主要な所を回る予定になっている。精霊課長が案内してくれると言ってくれたのだが、公爵からの
「導師殿の案内は、当家で行わせて貰いたい」
という一言で、公爵にお任せすることになった。まあ、色々あるからね……。
案内は、ペルシャ様が主に行って下さるようだが、チェルシー様も一緒に来ている。それに精霊課長と私の4人で馬車に乗っている。当然、レイテアや他の護衛も同行しているが、別の馬車で移動している。
「今日は、まず港周辺の市場や工芸品店を回って食事をした後、植物園の方をご覧になって頂こうと思いますの。宜しいでしょうか」
「宜しくお願い致しますわ。こちらは交易が盛んですから、市場などには様々な品があるのでしょうね」
「ええ、見ているだけで楽しいと思いますわ」
そのようなことをペルシャ様達と話しながら、市場へ向かった。
市場に到着すると、活気に満ちていた。人通りが多く、騒がしい。念のため、精霊にも警戒をお願いした。
「この通りは帝国からの交易品が多いですから、珍しい物もあると思いますわ」
ペルシャ様の案内に従い、歩いて行く。流石に多くの人が、こちらを見ている。
「ペルシャ姉様、今日はいつもより人が多いですわね」
「恐らくですが、フィリス様や精霊術士達が来られているからだと思いますわ」
「そうなのですか?それは申し訳ありませんでした」
「いえ、初めての試みですし、そもそもフィリス様が長期滞在するのであれば、誰でも観に来ますわ。念のため、護衛以外でも市場自体の警備も厳重にしてありますので、ご心配なく」
「お心遣い、誠に有難うございます」
実は色々準備をしていたようだ。公爵家と警備従事者達に感謝しつつ、せっかくなので楽しむことにした。帝国だと、うちの国では毛織物が有名だが、それ以外にも色々あるようだ。まあ、国土は広いらしいからね。装飾品なども、あまり見ないものが並んでいる。土産用に、幾つか変わったものを買った。
ふと見ると、ペルシャ様は書物を見ていた。本が好きと言っていたことを思い出しつつ、タイトルを見ると「ヴァルザー大陸の植生」という本だった。結構な値段に見えたが、結局買ったようだ。チェルシー様は、宝石などが並んでいる店を見ていた。どうやら、キラキラしているのを見るのが楽しいようだ。特に買わなかったようだが、まあ、そのうち色々な方から贈られるので、買う必要はないだろうからね……。
暫くして少し移動し、今度は食料品を売っている通りに来た。どちらかと言えばテトラーデに似ている感じかな。こちらは単に歩いているだけだったが、やはり色々な人に見られた。それから更に歩き、魚市場に出た……のだが、こちらに顔を出すと、これまでとは違い
「導師様が来られたぞ!」
という声が上がり、何故か多くの人々が私の近くに寄って来た。護衛達が前に出て、公爵側の護衛の一人が
「民衆よ、導師様にみだりに近づいてはならぬと、領主様が事前に達していた筈だが」
と咎めると、集まったうちの一人が
「申し訳ございません。ただ、導師様に一言お礼が言いたかったのです」
はて?私は何かやったかしら?護衛に礼を言いつつ、前に出て聞いてみた。
「そちらの方、お礼とは、一体何のことでしょうか?」
「昨日、吸込岩を導師様に壊して頂いたとのことで、皆感謝しているのです。昔から、漁の際に邪魔になっていて、壊そうにも、船で近づくことも出来ませんでしたので、困っていたのです。有難うございました」
「そうでしたの。皆様のお役に立てて、何よりですわ」
納得して、微笑みながら感謝の言葉を受け取り、解散して貰った。その流れで、魚市場を回ってみたが、立ち止まって魚を見ると、そこの店主がお礼を言うので「どういたしまして」と言いながら回る羽目になってしまった。
魚は、イワシやアジ、サバやカレイなどをはじめ、カツオやマグロなどもあった。マグロはどういう風に獲るのか聞いたところ、沖合いに出て、1本釣りをやっているそうだ。テレビで大間のマグロの漁法を観たことがあるが、あのような感じだろうか。ペルシャ様は特に魚には関心が無かったようだが、チェルシー様は、魚の目が面白いと言っていた。
そんな感じで市場を回り、馬車の位置に戻って来て、次は工芸品店の通りに移動した。ペルシャ様が
「品揃えが豊富ですし、この店に致しましょう」
と言って一軒の店に入った。確かに大きいし、これなら護衛達も楽だろう。中に入ると、チェルシー様が
「うちの領は、陶器や珊瑚、鼈甲の細工が盛んなのよ」
と説明してくれた。確かに、それらの品物が多い。家族への土産に何か買っていこう。色々考えた結果、珊瑚の帽子飾りを買うことにした。ペルシャ様は壺を見ていた。渋いな……。チェルシー様は、店から出て、隣の店の店頭に飾っていた、タイマイのはく製を見ていた。こちらの世界ではまだ問題ないのだろうけれど、地球では、絶滅危惧種になってたから、乱獲されないように気を付けないとな……。
昼時ということで、工芸品店を出て料理店に向かった。ペルシャ様が
「昼食は、名物というより珍味を食べて頂こうと思いまして」
と言った。店の前に来て、精霊課長も理解したような反応だった。何が出て来るのだろうか?
前菜の後、メインに出て来たのは、一見普通のステーキの様だが……?
「何やら、微妙に牛や豚とは違う味が致しますわね……」
「あっ、解った!これ、鯨でしょ!」
ああ、なるほど、クジラか。こちらの世界にも存在するというのは、図鑑に載っていたから知っていたのだが……日本では竜田揚げを食べた記憶はあるけど、ピンと来なかったよ。
「フィリス様、鯨を見たことある?ものすごく大きな魚なのよ?」
チェルシー様がそう言ったが……こちらの世界では、クジラは魚という概念なのか?
「見たことはございますが……鯨は魚で宜しいのですか?違う分類だと思っていたのですが……」
食べた感じ、確かに魚肉ではない。ということは、こちらでも哺乳類だと思うのだが……。
「あら、フィリス様、鯨が魚でないことをご存じなのですか?」
ああ、やっぱりクジラは哺乳類か。違う生き物なのかと思って焦ったよ。
「はい、私の聞き及んでいたところでは、鯨は、鰓でなく肺で呼吸を行うため、魚のように水中では生き続けられず、たまに鼻を出して呼吸するそうですわ。また、卵を産むのではなく、子供を産んで、母乳で育てるようですわ。そういった特徴から、分類上は魚でなく、どちらかというと牛や豚に近い生物で、肉も魚肉の調理法より獣肉の調理法が適している、と伺っておりますわ」
「へー、そうなんだ、知らなかったよ」
「……フィリス様、その知識をどちらでお知りになられたのでしょうか?鼻で呼吸するところや母乳で育てる、といった内容は、私が読んだ本にすら書かれていなかったことなのですが……」
あ、まずい、そこまでは知られていないのか。
「以前水精霊に、鯨について尋ねた時、そのように伺いましたので……」
今回も精霊知識にさせて貰おう。ごめんなさい。
「まあ、精霊は様々な事をご存じですのね。ただ、そういった知識が書かれた本がございましたら、紹介して頂こうと思っておりましたのに、残念ですわ」
とりあえずこの場はそこで終わった。その後は普通に会話しつつ、昼食を終了した。
昼食の後は、植物園に向かった。そういえば、以前茶会でエイムランデ様が言っていたな。
「この植物園は、公府の住民の憩いの場として整備しておりますの。多くの花が咲く頃には、催しを行っておりますのよ」
「そういえば、4月の終わり頃には百日紅が見頃だと、エイムランデ様が仰っておりましたわ」
「ええ、その通りですわ。今ですと、そろそろ萩が見頃になって参りますわね。その他、春は桃や芝桜、初夏には花菖蒲や紫陽花なども見頃ですわね」
「それは楽しみですわ」
ということで、植物園に入場し、歩いていると、やはり精霊が多い。もしかすると、精霊術士達もこちらに来ているかな。まあ、会ったらペルシャ様達に紹介しておこう……と考えていると、萩が植えてある所に着いた。確かに可愛らしく咲き始めている。周囲を見ると……やっぱりいるな……目が合ったが、身振り手振りで遠慮すると言って、どこかへ行ってしまった。仕方がない。
暫く萩を眺めていたが、確かに住民達もやって来て、花を眺めていたり、絵を描いたり、屋台で何かを買って食べたりしている。アルカドール領は、自然は豊かなので、基本的に公園や植物園を作るという発想が無かったが、セイクル市などには空き地を利用して公園を作ってもいいかもしれないな。
こうして植物園で暫くのんびりと過ごし、公爵邸まで戻って来た。
「ペルシャ様、チェルシー様、本日は有難うございました。楽しい一時を過ごさせて頂きましたわ」
「いえ、こちらこそ有難うございます」
「フィリス様、今度また遊びに行こうね!」
西公府での休日は、こうして終了した。
お目汚しでしたが、楽しんで頂けたのであれば幸いです。
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