第126話 試し撃ちを行った
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この日は1日中、意識の波を感じつつ、体を動かす練習をした。暫くやっていれば、実戦でも使えるようになるだろう。まあ、対象は魔物にしたいところだが、この付近にいるのだろうか。
公爵邸に帰り、レイテアのダンスの練習の際に、精霊課長に近くに魔物が出る地域は無いか聞いたが、残念ながら、近傍には殆ど出ないという話だった。実戦で試すのは、先になりそうだ。
今日は午前中に各組の状況を確認し、午後には試し撃ちを行うことになっている。火組を最後に確認して、そこで昼食を取ってから、試し撃ちという流れで進めることにした。
まずは遠くの風組から確認しよう。精霊課長やレイテアと共に馬車に乗り、風組の鍛錬場所に向かい、様子を見たところ、みんな真面目に鍛錬していた。リゼルトアラなどは、フェルダナがアンダラット法を習得しているのを見て、自分も習得に躍起になっているらしい、と、精霊課長が言っていた。
まあ、成果も出つつあるようだし、前向きな考えなら結構なことだ。風組の皆に声を掛けて、最後にフェルダナに声を掛けた。
「フェルダナさん、調子はどうでしょうか」
「導師様、こちらで鍛錬を始めてから、より精霊の言葉が聞き取れるようになったと思います」
「そうですか、恐らく属性の力への感受性が高まっているのでしょうね、良い事です」
「有難うございます。引き続き頑張ります」
現在はフェルダナだけだが、アンダラット法の習得状況次第で、来週から他の者も感受性を高める鍛錬に加入する予定だ。サリエラももうすぐで習得できそうな感じだから、3人になるのかな。
次は水組を確認に行った。とりあえずマリーに様子を聞いた所
「水に浸かっている間は湯浴みのようで心地良いのですが、上がってから暫くは寒いので、体調を崩さない様気を付けさせています」
と言われた。虫の件は大丈夫そうだ。こちらはマリーとロナリアがアンダラット法を習得している。ロナリアに、属性への感受性に関して確認すると
「精霊の声が良く聞こえるようになりましたし、何だか肌艶が良くなりましたわ」
前者は鍛錬の成果だと思うけれど、後者は温泉の効果なのかもしれないな。精霊課長に話しておこう。あと、来週からは全員水に浸かって鍛錬をするそうだ。まあ、ここの場合はそうなるだろうね……。
次は地組を確認に行った。驚くべきことに、メグルナリアがアンダラット法を習得しており、パティやエナと一緒に砂に埋まっていた。鍛錬は順調のようだ。地組の皆に声を掛けたが、メグルナリアも含め、皆和気藹々と鍛錬しているらしい。アンダラット法を概ね習得した者は、来週から感受性を高める鍛錬に加入するようだ。ただ、多くの人から苦情が上がった。
「たまに人が近くを通った際に、砂に埋まった姿を見られるのが恥ずかしいのですが……」
精霊課長に聞いた所、基本的には敷地内は立入禁止にしているが、敷地外からは見えるかもしれないそうだ。あと、漁をしている人からも、見られる可能性があるようだ。護衛達とも相談して、土壁で周囲を覆うことにした。地精霊と同化し、早速壁を作る。帰る際に元に戻せば、問題ないだろう。
「もっと早くフィリスに頼んでおけば良かったわ……」
パティがそう呟いていた。壁を作ることに気付かなくてごめん。
最後に火組を確認に行った。灯台に行くと、二人は汗だくで休憩中だった。二人ともアンダラット法を習得しているので、火の近くで感受性を高める鍛錬をしているのだ。コルテアに調子を尋ねると
「暑い以外は問題ないよ。精霊の言葉も良く聞こえるようになったよ」
「それは良い事ですわ。不足しているものなどはございませんか」
「身体を冷やすのに丁度いいから、たまに海に入りたいんだけど、水着で鍛錬してもいいかな。明日は休みだから町で買えるし」
「解りました。海に入るのであれば、そこの階段を下りた所……あの付近なら大丈夫でしょう。護衛達にも、話を通しておきましょう」
精霊課長も了承したし、問題ないようだ。精霊術士達の確認を終了し、午後に試し撃ちを行う場所を確認することにした。灯台から少し離れた所に来て、沖に見える岩を確認した。
「あれが吸込岩でしょうか?岩と言うよりも、最早島ですわね。ここから距離が2キート程離れているのであれば……庁舎より大きいでしょうか。船の航行には、支障が出そうですわね」
「はい、航路的には問題ないのですが、漁をする際には、漁師達の負担になっています」
「確かに、多少壊れても問題無さそうですし、今も近くに船がございませんわね」
念のため、あの付近にいる生物達を、一旦避難させるよう水精霊に言っておいた。
昼食は、火組と地組は合同で取っているので、そこに混ぜて貰った。その中で
「導師様は、午後に灯台の近くで何をするのでしょうか?」
と、質問されたので、属性のエネルギーを集めて、魔力で押し出して岩に当てると説明した。ちなみに、午後には各組にいる資料班の人達も現場に来ることになっている。まあ、彼らは見たいだろうしね。
「私達も、その試し撃ちを見せて頂いても宜しいでしょうか?」
ラズリィが言った。まあ、灯台付近であれば、危険は無さそうなので、了承した。
その他、明日の休日の予定などを話しているうちに、昼休憩は終了した。
私は念のため体操を行って、自身の魔力の流れを確認したが、全く問題なく、試し撃ちに取り掛かることにした。精霊課長やレイテアと一緒に試し撃ちの場所に行ったところ、風組と水組も来ていた。
「後学の為、導師様の実験を拝見したいと思いましたの。宜しいでしょうか?」
リゼルトアラが言った。まあ、他の人にも了承しているし、断る話ではない。
「あまり面白いものではございませんが、安全に気を付けて頂ければ、宜しいですわよ」
と言って、予め決めておいた場所に移動し、岩を確認した後、和合を始めた。
【我が魂の同胞たる地精霊よ。我と共に在れ】
和合を初めて見た資料班の人達が「おおっ!」と叫んだり、精霊術士達の一部が「ひっ!」と悲鳴を上げていたが、気にせず周囲から地属性のエネルギーを吸収し始める。一応説明しておくか。
「現在は、地精霊達と全身を同調させた上で、地属性の力を体内に集めているのですわ」
暫くして、十分集まったので、両足を大きく開き、しっかり地面を踏みしめて固定し、右手を吸込岩の根元に向けて、左手を右手に沿えて方向を固定する。後は、意識の波を感じ、タイミングを掴むだけだ。
「これから地属性の力を高め、吸込岩に向けて放ちます」
と、注意喚起を行っておいて、波を感じていると、タイミングが掴めて来た……よし、ここだ!
「はっ!!」
その時、強烈な光と共に、地属性のエネルギーが光線の様に右手から放出され、真っ直ぐ吸込岩に向けて飛んで行き、根元付近に当たった途端、爆発が生じた。何秒かの後に爆発音が聞こえ、水蒸気らしきものが岩周辺に立ち込めたが、暫くすると晴れていった……が、吸込岩は跡形も無かった。
少し波が発生したが、見えている限りでは沿岸に被害はなさそうだ。和合を解く。魔力が一気に減った様だ。3分の1程度かな。
「試し撃ちは終了ですわ……皆様、どうなさったの?」
……皆、驚きのあまり放心しているようだ。私的には、ちょっと強い爆発程度だったのだが、この世界の人には少々刺激が強すぎたようだ。様子を見ていると、何人かが動き出した。
「導師様!魔法ではあのような遠方に大爆発を起こすなど到底出来ません!一体どのようにして属性の力を撃ち出しているのですか?」
と、資料班の人達に囲まれた。それを見て精霊課長も動き出し
「皆落ち着け!導師様が困っているだろう。これから質問の時間を作るから順番に質問しろ」
と抑えてくれたので、資料班は落ち着いた。ちなみに、精霊術士達は……
「さ、流石、導師様ですわ……ど、どこの国も、ロイドステアに攻め込もうとは、思いませんわね……」
と、口を引き攣らせていたリゼルトアラを筆頭に、かなり引いていたかもしれない。
精霊術士達には鍛錬に戻って貰い、私は、資料班の人達から質問攻めにされた。発勁(仮)の仮説を元に、順序立てて説明して、一応納得して貰った。その後は、一度岩の付近を見に行った。両足を水精霊と同化させ、念のため両手を地精霊と同化させて、現場まで走って行った。
結構深い所までエネルギーが突き進んでいたようで、岩を超えてかなりの範囲で海底がえぐれていた。根っこの方を狙って良かったよ。あと、海面下に、岩が所々に残っていたので、船の航行に支障が無いよう、地精霊の力で付近の海底と同程度に均しておいた。
後片付けも終わり、公爵邸に帰ることになったが、その前に、一応執政官に状況を話しておこうと精霊課長が言ったため、公府役場に寄った。執政官に会って状況を話したところ
「まさか本当に吸込岩を吹き飛ばされるとは思いませんでした」
と言われた。周辺を均したので、船の航行も可能となった旨を伝えると、大変感謝された。
帰りの馬車の中で、私の事を良く知っているレイテアはともかくとして、精霊課長も結構落ち着いていたので、気になって今回の事を聞いてみた。
「そうですね……驚きはしましたが、どちらかというと抗う事など及びもしない感じを受けました。何と言いますか、例えて言うならば、大自然の驚異、といった所ですね」
なるほど、そういう風に感じたのか。まあ確かに、災害などは自然の一面だしね……。何にしろ、私はああいったことも出来るということが判った。瞬間的な攻撃力なら、和合して自然を操るより上だから、魔物暴走など、大量に魔物がいる状況などなら使えそうだ。使わない事が望ましいが。
なお、その日の夕食時に、公爵から吸込岩を吹き飛ばした件について、礼を言われたが、夕食後にチェルシー様が部屋にやって来て、どうやったのかを色々聞かれ、夜更かしする羽目になった。とほほ。
お目汚しでしたが、楽しんで頂けたのであれば幸いです。
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