第124話 紙の作り方を説明した
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合宿2日目。今日は午前中に私の鍛錬場所に案内して貰う予定だ。とりあえずその前に、日課の早朝鍛錬をレイテアと行っていると、精霊課長が声を掛けて来た。
「おはようございます、導師様……何をなさっているのでしょうか」
「課長殿、おはようございます。日課の鍛錬ですわ。昨日、庭で行う許可を公爵から頂きましたので」
「あれはメリークルス殿だけの話だと思っていたのですが」
「私も行うとは言っておりませんでしたが……別に誰も困るわけではありませんからね……」
「確かにそうですが……」
「フェンシクル様?お嬢様はこの程度で怪我などなさる方ではございませんよ?」
「……はぁ、そうですね。導師様が常識外なのは今更ですよね」
改めてそう言われると釈然としないが……まあ、これが私なのだ。仕方がない。
ということで軽く汗を流し、朝食を頂いた後で、鍛錬場所へ案内して貰った。魔物が出ることは殆どないそうで、レイテアと数人の護衛が近くに待機しているが、何もない時は鍛錬などにいそしんで貰うことにする。
さて、まずは光魔法の検証を進めることにした。レイテア達にもサングラスを渡し、今から目に悪影響を及ぼすかもしれない魔法を試すので、私が良いと言うまで掛けるよう指示をした。
光を出す方向については、イメージの通りに指向出来る。問題は、レーザーを使う時だ。以前試しに、火精霊と右手を同化させて、自分でレーザーを作ってみたのだが、自分がイメージした通りの色、即ち単一波長に揃えられて、威力が非常に増すことが判ったので、魔法を使う時も、もっと色を揃えられるやり方があるのではないかと考えたのだ。
そもそもの話、魔法を使う際に実際に自然現象を操作するのは精霊なので、精霊がイメージし易い色をイメージする方が良いのではないか、という仮説を立てたので、それを試してみるのが、今回の目的だ。
そこで、火精霊達に、どのような色が明確に判るか聞いた所、精霊自身の色であればぶれることは無さそうだということが判った。確かに精霊達の色は単色に見えるし、それを形容詞にしてイメージすれば、同化した時と同様に、ある程度波長を揃えることが出来る筈だ。
今回は、エネルギーを拳大程度に集めて、放ってみよう。的はあの100クールくらい先の岩にしよう。波長のエネルギー差はとりあえず考えず、揃えることを前提にすると、一番揃え易いのは、自身の色、即ち「火精霊の赤色」だろう。これをイメージして、岩にレーザーを放つ!
「岩に風穴が開きましたわね……」
確か、以前やった時は表面を焦がす程度だった筈だが……恐ろしく威力が上がったな。
「お嬢様?今の魔法は一体何なのでしょうか?」
私の様子を見ていたレイテアが、いきなり遠くの岩に穴が開いたので、気になったのか私に聞きに来た。
「これは、火の属性の力が持つ熱を全て光に変えて、その光を一点に集中する魔法ですわ」
「火魔法は、他属性でも視認出来て飛ぶ速度が遅いため、避ければ何とかなると考えておりましたが……これは、狙われたら避けられそうにありませんね。正直な所、何も見えませんでしたから」
「相手を視認できない時や、雨が降っている時などは使えない事が弱点ですが、使いこなせれば非常に厄介な魔法ですわ。暗殺にも向いておりますし」
「護衛の仕事を増やすような魔法を開発しないで頂きたいのですが……」
「ここまでの威力を出せるのは、恐らく私だけだと思いますが、威力が小さくても、目に当たれば視力が低下したり、最悪失明することもあるでしょうから、周知する前に検討した方が宜しいですわね」
その後、「風精霊の緑色」「水精霊の青色」「地精霊の茶色」で試してみたが、威力が段違いなので、単色性は赤が一番良いという結論になった。
あと、精霊と関係ない普通の色でも、改めて試したが、威力は光に変換した火属性エネルギー量と魔力に影響され、貫通しない場合は、的に熱として吸収されたり、反射されるような感じだ。私みたいな魔力お化けでない普通の人がレーザーを放とうと思っても、「火精霊の赤色」の色指定をしなければ、単にエネルギーを集中させた魔法にしかならないようだ。
とはいえ、レーザー対策自体は検討したいし、その為には、自分以外にも光魔法を使ってくれる人がいた方が有難い。とりあえず、精霊色指定の話をせずに、火属性のルカとネリス限定で教えて、様子を見ようかな。
今日は午後から紙の製造について、ウェルスカレン公爵達に説明することになっているので、公爵邸に戻り、昼食後、談話室に行った。そこには、公爵、ペルスラムナ様と、恐らく行政官の人達がいた。
「皆様、お集まり頂いたようですわね。事前にお渡しした資料をご覧になりましたでしょうか」
「導師殿、本当に木材から紙が作れるのだろうか。もしそうなら、当家で製造法を検討させて頂きたい」
「当領でも、木綿の古着などを用いて紙を作っておりますが、正直需要に全く追いついていないのです。もしも廃棄する筈の大量の木で紙が作れるのであれば、安価で紙を流通させることが出来ます」
公爵や行政官の方がそう言った。では、実際に製造の要領を見て貰ってから話を進めよう。
「では、まず外で私が魔法を使用して木材から紙を作りましょう。それを見て、実際に製造可能かどうかを、皆様にご判断頂きたいと思います」
そう言って、皆さんと庭にやって来た。長時間になるので、椅子も準備して貰った。
「では、まず道具と材料を。こちらが木を茹でる鍋、……」
と、異空間から取り出して説明した。最初はいきなり取り出したのでびっくりした人もいたが「異空間収納の恩寵ですわ」と言うと納得したので、そのまま進めた。
「では、紙を作る工程を説明致しますわ。まずはこちらの薪を粉々にします」
そう言って、薪を地魔法で粉々にして、予め出していた容器に入れた。
「今使用したのは、地属性の物を砕く地魔法ですが、風車や水車などの力を利用して砕いても結構ですわ」
次に、桶に水と二酸化炭素を入れ、その二酸化炭素を更に水に溶かした。
「この水に、空気中のある成分を溶かしました。これは風魔法で行って下さい」
皆に炭酸水であることを皆に確認して貰った後、一旦異空間に収納した。次に、石灰石を細かく砕いて鍋に入れ、火魔法で加熱した。
「石灰石を火魔法で加熱し、水を入れます。激しく反応するので、この順番は守って下さい」
水酸化カルシウムの鍋に、チップを入れて蓋をした。
「この状態で、暫く加熱を続けます。今回はある程度加熱済みのものを準備しました」
調理番組宜しく、事前に準備していたものを異空間から取り出した。当然熱いままだ。そして今回は蒸気を出す小さい穴を付けることで、蓋を取れるようにした。無事蓋が外れ、煮立ったパルプが見えた。併せて、先程一旦収納した炭酸水入りの桶も取り出した。
「この状態で、地魔法を使い、木綿の様になった木の繊維を取り出します。これは、先程の桶に入れます」
繊維を桶に入れると、熱で蒸気が出たが、気にせず繊維を洗う。
「先程の水で、繊維をよく濯ぎます。石灰石を多く溶かした水は、人体に良くない影響を与えますので、その影響を弱めるために、泡の出る水で濯いでいるのです」
良く濯いだ後に、もう一度違う桶で繊維を濯いだ。次は枠の中に繊維を入れた。
「枠の中で、薄く均等に広げます。今は地魔法で行っておりますが、道具で行っても宜しいですわ」
薄く均等に広がったので、最後に水分を水魔法で飛ばした。
「このように、紙を作ることが出来ます。ただ、このままでは使用は出来ませんので、木綿製の紙などに行っている処置を施せば、使用に耐える紙になると思いますわ」
皆さんに近くで紙を見て貰い、意見を聞いてみた。
「なるほど……確かに紙だ。このままでは強度や墨の滲みが気になるところだが、それは従来の処置を応用すれば、何とかなりそうだ。行政官、どう思う」
「私もそのように感じましたが、紙職人にも確認したいと思います。また、導師様が仰る様に、大量生産を行う場合は、一部の作業を魔法以外の手段で行った方が効果的でしょう。こちらも検討致します」
「導師様、ちなみにこちらの鍋の残りは、どのように処置をしたら宜しいでしょうか」
「そうですわね。まずは地魔法で、内容物を水とそれ以外に分離します。鍋の水はそのまま捨てて頂いて宜しいと思いますわ。こちらの黒っぽいものは、乾燥させて、燃料にするか肥料にすれば宜しいかと」
「何と!これは肥料にもなるのですか。それは素晴らしい!」
「土壌や作物は選んで頂かなければなりませんが、元々は木と石灰石ですから」
「なるほど。それなら合う畑がございます。そちらでの使用を検討いたします」
そのような話をしていると、ペルスラムナ様が声を掛けて来た。
「フィリストリア様……これは……素晴らしいわ!これで本が沢山作れるのよ!領民達も安価で本を買えるようになるわ!有難うございます!」
こちらが引くような勢いで賞賛された。ペルスラムナ様って、おとなしい人のイメージだったのだが。
「……あ、あら、つい勢いづいてしまいましたわ。実は私、読書が大好きで、本に囲まれた生活に憧れておりますの。そして、出来れば領民にも本が読める生活を、と、常々考えておりましたのよ」
「それは素晴らしいお考えですわ。本には先人の知恵が詰まっておりますもの」
「その夢を叶える第一歩として、是非とも木材を原料とした紙の製造を事業化させたいと思いますわ」
このような感じで、紙の製造は実用化を検討することになった。
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