第123話 合宿が始まった
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紙の製法について試行錯誤をしたり、レイテアの披露会の準備をしているうちに、精霊術士集中鍛錬、つまり合宿に行く日となった。私達は、計画通りにウェルスカレン公爵本邸に移動すると、恐らく公爵家家令と思われる人が私達を待っていた。各属性組毎に馬車を掌握したり、案内人と話をする間に、私と精霊課長は、ウェルスカレン公爵に挨拶に向かった。
「公爵、此の度は、精霊術士集中鍛錬にご協力頂き、誠に感謝しております」
「導師殿、精霊術士達の能力を向上させるという初の試みに、我が領を選んで頂けるなど、光栄の極みだ」
そのような感じで、私達は暫く話して、皆の所へ戻った。
その後、予定通りそれぞれの宿に向かい、私は宿で荷物を取り出して渡した。その後は荷物整理や着替えを行い、昼食後にそれぞれの鍛錬場所に行くことになった。私と精霊課長は、巡回して様子を見るのだが……まずは、一番危なそうな風組の所へ行くことにした。精霊課長が、場所の説明をしてくれた。
「ここは、朝夕以外は海風又は山風が絶えず吹き込んでくるのです」
風組の馬車の付近に馬車が止まり、降りると、確かに風が吹いている。風組を探してみると
「この私に対して、その様な態度を!」
危惧した通り、リゼルトアラが案内人に文句を言っていた。一先ず精霊課長に任せることにした。
「リゼルトアラ嬢、どうかされたのでしょうか?」
「どうかされたって…………っ!い、いえ、何でもございませんわっ!」
リゼルトアラは、精霊課長、と私が来ているのに気付き、態度を変えた。まあ、解っているなら私からは何も言うまい。その後、私と精霊課長が同席しているところで、改めて場所の説明を受け、一応全員鍛錬要領に納得したのを確認して、私と精霊課長は、水属性の鍛錬場所へ向かった。
「この近くには、温かい湧き水が出ておりまして、それを利用して、風呂に似た水溜りを作っております」
なるほど、少し手を加えたのか。まあ、川や泉をそのまま使うと、地域住民から汚しているとか苦情が来てもいけないからね。さて、どのくらい温かいのかね。体調を崩さないようにして貰いたいのだけれど。
現場に到着すると、マリー達が場所を確認していたが
「……一度清掃を行った方が宜しいのではございませんか?」
サーナフィアがマリーにそう言っていた。うん、そう言いたくなる気持ちは解る。落ち葉はともかく、虫が浮いている所に入りたくないだろうからね。私は早速、水精霊と手を同化させて、水溜りを清掃した。ついでに、水属性のエネルギーを周囲から集めておいた。その方がやり易いだろう。
どれだけ効果があるかは判らないが、使用しない時に、板で蓋をすることにして、当座の対策とした。後は、気になった都度清掃を行うことになったようだ。水組は、一度試しに鍛錬を行ってみるそうだ。
私達は、地組の所へ向かった。地組の鍛錬場所は砂浜だそうだ。まあ、その方が穴掘りが楽だろうからね。到着してみると、既に地組は鍛錬を始めていた。メグルナリア達は楽な姿勢でアンダラット法の練習をしており
「あら、課長……と導師様、巡回お疲れ様です。我々は鍛錬に励んでおりますわ」
メグルナリアの前に移動すると、私達に気付いたメグルナリアから報告があった。組長としての自覚はきちんとあるようだ。私は地精霊と手を同化させ、こちらも同様に地属性のエネルギーを周囲に集めておいた。アンダラット法を習得しているパティとエナは砂に埋まって鍛錬していた。ここは問題ないだろう。
護衛達に警護を任せ、最後の火組の所へ向かった。火組はすぐ先の灯台だそうだ。そのまま歩いて灯台へ行く。
灯台は、一言で言えば大きい照明用の魔道具で、火魔法で常に明かりが灯っている状態らしい。その近くに火組にいてもらうわけだ。まあ、安全柵を超えなければ、焚火をするより安全らしいし、いいと思う。灯台の上に登ってみると、火組がいた。コルテアから報告があった。
「導師様、課長、火組は異状ないよ。しかしここ、暑い」
常に明かりを灯しているのだから暑いだろう。ここに長時間いるのはサウナにいるようなものだ。適宜部屋から出たり、水分と塩分を補給するよう指示をして、私達はウェルスカレン邸に戻って来た。
精霊課長は、基本的には各組の鍛錬場所を巡回し、状況を確認したり、何か問題が発生した際は対処するのが仕事だ。私は、たまに精霊課長と一緒に巡回指導を行ったり、ウェルスカレン公爵達に産業振興に関する助言を行う他は自由なので、鍛錬を行うことになる。その他、レイテアのダンスの指導もお祖父様に頼まれている。
今日については、鍛錬時間としては中途半端なので、部屋の中でレイテアとダンスの練習を始めたのだが……。
「やはり、男性に相手をお願いした方が宜しいですわね」
私は男性パートでも踊れるので、レイテアの相手をやりながら指導しようとしたのだが、レイテアの身長が私よりかなり高いため、レイテアが私を見下ろしながら踊る格好になり、そのせいで姿勢が悪いのだ。これでは効果的な練習は望めないので、背の高い男性に相手役を頼もうとレイテアと話していた時に
「導師様、少し宜しいでしょうか」
と、精霊課長が入って来た。
「導師様が鍛錬をされる場所が決まりましたので、報告に参りました」
おおっ、明日から早速鍛錬させて貰おう……精霊課長から場所について説明を受ける。
「ということで、明日ウェルスカレンの家令に案内して頂きますので……」
なるほど、明日が楽しみだ。……そういえば、精霊課長は背が高いな。物のついでに聞いてみるか。
「課長殿、調整有難うございます。ところで……つかぬことを伺いますが、課長殿は……舞踏はお得意でしょうか?」
「舞踏ですか?嗜み程度には出来ますが……それが如何しましたか?」
「実は、レイテアの叙爵の披露会が今月末に行われるため、この期間中にも舞踏の練習をやって貰おうと思っていたのですが、相手役がおりませんの。私が相手を出来れば良かったのですが、レイテアより背が低いため、レイテアの姿勢が悪くなってしまいまして、困っているのです。もし宜しければ、相手役になって頂けないでしょうか」
「お恥ずかしい話ですが、お手伝い頂けないでしょうか」
「分かりました。こういった空き時間であれば、宜しいですよ」
「有難うございます」
「いえいえ、導師様にはいつもお世話になっておりますので」
こうして、鍛錬が終わって少し空いた時間などに、課長にダンスの練習に付き合って貰うことになった。ちなみに、嗜み程度とか言っていたが、課長はダンスが物凄く上手かった。いい人材を見つけられて良かったよ。レイテアも飲み込みは悪くないし、これなら本番までには様になるだろう。
ウェルスカレン邸にお世話になっている間、私については公爵家の方々と一緒に夕食を食べることになっている。ということでここには、公爵、公爵夫人のエイムランデ様、長女のペルスラムナ様、三女のチェルシアーナ様がいる。レナスフィリア様は王都にいるから、当然ここにはいない。まあ、今日については、私がここにいる理由である、精霊術士集中鍛錬の話題が中心となった。
「そのようなことを行うのね。行うとどうなるの?」
「精霊との意思疎通を行いやすくなるため、精霊にお願いを聞き入れて貰いやすくなるのです。そうなると、今後は精霊に魔法の行使を助けて貰うことも出来るようになるのです」
「そうなんだ!じゃあ精霊術士がもっと活躍できるわね!」
チェルシアーナ様は、好奇心旺盛なのか、何でも興味深そうに聞いて来る。表情も豊かで、話していて楽しい。
「チェルシー、客人の前であまり騒いではいけませんよ」
「はぁい」
エイムランデ様に窘められて一旦静かになったが、暫くすると
「では、フィリストリア様は、ここで何をやるの?」
と聞いて来た。特に隠す必要もないので、普通に答える。
「魔法や魔力操作の研究などですわ。あとは、ご依頼の件ですわね」
そう言うと、今度は公爵が内容を聞いて来た。
「導師殿、何か良さそうな案が思い浮かびましたかな?」
「ええ、お時間を頂ければ、お話しさせて頂こうと思っておりますが、何時頃が宜しいでしょうか」
「明日の午後は可能だろうか?」
「ええ、問題ございませんわ」
「お父様、私もそのお話を伺いたいのですが、宜しいでしょうか」
「そうだな、ペルシャも聞かせて貰うといい。導師殿、構いませんかな?」
「勿論ですわ」
「……何かお仕事の話になってつまんない。ねえ、フィリストリア様、後でお話に行っていい?」
「チェルシー、導師殿はお疲れだろうし、迷惑になってはいけないよ」
「少しだけにするから、ね?」
「ええ、構いませんわ」
「導師殿、申し訳ない」
どうもチェルシアーナ様にとって私は、遊び相手に見えるようだ。まあ、年も近いし、こういうのもありか。
夕食が終わり、チェルシアーナ様が私の所にやって来て、色々話していたが、眠気には勝てないようだった。まあ、しっかり休んで、しっかり成長して下さいな。
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