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第120話 ロイドステア国行政府魔法省精霊課付精霊術士 リゼルトアラ・ヘキサディス視点

お読み頂き有難うございます。

宜しくお願いします。

悔しい!悔しい……っ!何であんな子がいるのよ!


これまで幾度となく口にした言葉を、私は心の中で呟いていた。




私はリゼルトアラ・ヘキサディス。ヘキサディス伯爵家の娘だ。小さい頃から伯爵令嬢として誇り高くあるよう育てられ、また、精霊が見えると両親に話してからは、特別な存在として周囲から大事にされているという実感があった。その思いが変化したのは、9才の時だ。


私は第3王子殿下が主催する交流会の会場に入り、近くにいた伯爵子息達から声を掛けられ、話に興じていた。私は自分で言うのも何だが見目が良い。美人のお母様に似て顔立ちは整っているし、たまに精霊が触って来るからか、髪はいつも艶やかだ。交流会で素敵な男の子と仲良くなったり、もしかすると殿下に見初められるかも?などと考えて参加していたところ


「あれがアルカドール侯爵令嬢……なんて美しいんだろう……」


誰かの呟きに、会話が止まり、全員が入口付近に注目した。そこには、どのような美術品も色褪せてしまうほどに美しい、一人の少女がいた。外見だけでなく、その所作も洗練されており、見る者を惹き付けてやまない魅力に満ち溢れていた。


私と話していた令息達も、あの子の方を見てしまい、話にならなくなったので、私は頭に来てその場を離れた。確かに、陛下があの子を「アルフラミスの蕾」と呼んで、その美しさを褒めたのは聞いていたけれど、私はそれ以上に美しいと自惚れていた。しかし、誰に聞いても、あの子の方が美しいと言うだろう。私も見惚れてしまった位なのだから。それが何より悔しくて、暫くは隅の方で心を落ち着かせていた。


殿下への挨拶も、特に見初められることなく普通に終わったが、幾分落ち着いた私は、目ぼしい令息を探した。見た限りでは、前情報通り、アルカドール侯爵令息が私の好みだった。すぐ近くにあの子がいるのが気に入らないが、せっかくの場なので話し掛けようと考えた所、まさにその付近が騒がしくなり、様子を見た。どうやら魔法の腕を競う話になったらしく、的の方に移動して、令息達が次々と魔法を放っていく。


そこにあの子が魔法を放ち、的を全て破壊してしまった。私はその光景に驚愕し、そしてあの子に恐怖した。あの子の後ろに精霊がいるのは、単なる偶然ではなく、膨大な魔力を持っているからだということを、その魔法で思い知ったからだ。


その後、アルカドール侯爵令息に近づこうとしたが、あの子に微笑みかけられ、足が竦んでしまい、近づくのをあきらめた。周りを見ると、同じ様な令嬢が何人もいた。この場において、特別なのはあの子であって私ではない。それに気づき、やり場のない怒りを覚えた。




それから暫く経って私は10才となり、洗礼と鑑定を受け、正式に精霊術士になった。伯爵令嬢の精霊術士は暫くいなかったため、大臣からも声を掛けられ、私はやはり特別な存在なのだと思っていた。しかし年末年始休暇で帰省し、家族団欒の中にいた私の所に、耳を疑う情報が入って来た。


「ノスフェトゥス軍がアルカドール領に攻め込みましたが、撃退したようです!どうやら、アルカドール侯爵令嬢は精霊導師だったそうで、その力でノスフェトゥス軍を蹴散らして司令官を捕縛したそうです」


「それは誠か?……直ちに戦闘の詳細と、アルカドール侯爵令嬢周辺の情報を探れ!」


「承知致しました!」


お父様は家令とそのようなことを話し、執務室に入ってしまった。私も休暇の気分では無くなり、自分の部屋に戻った。精霊導師は、精霊を使役して自然すら操ることが出来る存在で、エスメターナ様から数えて約300年ぶりに誕生したことになる。国としても最重要人物扱いだろうし、主要な貴族はあの子を取り込もうとする筈だ。今後は派閥などの勢力図が変わることになるだろう。お父様が情報を探らせたのはその為だ。


「また、あの子が特別に……」


私はそう呟きながら、怒りに震えていた。




精霊課で、伯爵令嬢として相応しく勤務できるよう、平民達に身分の違いを教えてやっているうちに、メグやサーナという同志もできたし、勤務にも慣れて来た。地方巡回は面倒だったが、行く先々で歓迎され、やはり私達あっての精霊課だと思っていた、のだが……。


「何なんですの、この出頭命令は!」


地方巡回から帰って来て数日後、王都邸に届いた精霊導師からの命令書を読んで、床に叩き付けた。確かに通常であれば、上位の身分の人物が同じ職場に着任したならば、挨拶に行かねばならない。しかし長期出張から帰って疲れているところで、こちらからあの子に挨拶するのは嫌だったので、無視して帰ったのだ。とにかく3人で示し合わせ、文句を言おうと思って、休暇後、出頭場所である会議室に入った。


暫くすると、あの子が入って来た。悔しいが、以前にも増して美しい。しかしそれとこれとは話は別だ。挨拶をせずに休暇に入った理由を問われて、打ち合わせ通り、課長のせいにした。あの子が着任したことなど、貴族どころか平民すら話の種にする程だし、知らない筈はないが、弱味を作る必要はない。


そう思っていると、休暇取得や報告の話になった。何故子爵に伯爵令嬢である私が従わなければならないのか、文句を言ったのだが、規則でそうなっているからと言われ、返答に困ってしまう。メグ達も反論しようとしたが、規則で定められている以上、反論のしようが無い。


規則違反で処分する可能性がある、と言われ、逆上した私は、処分すればいい、と言ってしまったが、実際に何らかの処分を受けると体裁が悪い。特に、現在婚姻相手の調整中であるメグには痛手だ。あの子はそれを知りつつ話していて、また、精霊導師としての力を使うと言われ、思わず文句を言った。


すると今度は、自分とヘキサディス家、どちらを取るか陛下に聞くと言う。着任以降の話を聞くだけでも、陛下があの子を取るのは明白で、そんなことになれば、最悪家が取り潰しになってしまう。その上、心がすりつぶされそうな恐怖感が私を襲い、震えが止まらなくなった。


今後身分を理由に規則を破るようなことがあった場合、私達は終わる。私は泣き出したくなるのを堪えながら、声が出なかったので首を必死に縦に振って、あの子に従った。




何とか解放され、3人で今後について話し合った。解っているのは、表立ってあの子に逆らってはいけないという事だ。正直、私達より年下の10才の少女が、あそこまで直接威圧して来るとは思っていなかった。精々、今後は挨拶をするように、と注意される程度だと思っていたのだ。


しかし、良く考えると、あの交流会の時も、あの子は自分の力を私達に見せつけ、平然としていた。つまり、元々力の行使をためらわない人間だったわけだ。それに気づいていれば、もう少し対応が変わったかもしれないが、今さら言っても遅い。


あの子はその気になれば、国すら滅ぼせる力を持つと聞く。法的にも、職場では公爵相当の身分であり、侮辱しただけでも罪に問われる可能性があるから、私達では抗いようがない。精霊達にも話を聞いたが


『愛し子に従うよう、主から言われている』


と言われた。私達が反抗の意思を見せると、すぐに伝わるということだろう。陰口や独り言すらまともに呟けない。悔しいが、家が取り潰されてしまうかもしれないと思うと、どうしようもない。




仕方がないので、恭順の姿勢を見せることになった。精霊課長の所へ行って、今後は上司である貴方の指導に従う、と告げた。その際、今後は精霊術士も魔力操作の練習や、集中的に鍛錬する期間を設け、能力を伸ばしていくという話を聞いた。


精霊術士は、他者の使う魔法の強化が可能だということが最近分かったそうで、今後は一層精霊術士の活躍の場が増えるらしい。そうなれば、メグやサーナのような子爵令嬢であれば、少なくとも分領太守夫人、うまくすれば伯爵夫人になれるかもしれない。


私など、公爵・侯爵夫人を狙える可能性が高まるのだから、将来を考えるなら普通に利のある話だ。特にメグは、やる気になっているようだ。これに関しては、素直に話に乗っても良いのだけれど……気に入らない。




家に帰って、そのまま部屋に戻ると、改めて今日の事が思い出された。


あの子は、両親に手紙を出すと言っていた。恐らく両親は謝罪の手紙を書くとともに、私を叱責するだろう。そうでなければ、どうなるか解らないのだから当然だけれど、納得がいく筈もなく、悔しさだけが募っていく。


何であんな子がいるんだろう!誰よりも美しい上に、強大な力を持っている。あの子の前では誰もが色褪せてしまう。神は不公平よ!!




……暫く心の中で文句を言い続けると、漸く落ち着いて来た。しかし、あの、私など有象無象でしかないかのような態度を変えてやりたい。あの子には何か意趣返しをしてやらねば気が済まない。……ならば、もっと精霊術士としての力をつけ、あの子に認めさせてやろう。


私は、ヘキサディス家のリゼルトアラなんだから!

お目汚しでしたが、楽しんで頂けたのであれば幸いです。

評価、ブックマーク、いいね、誤字報告を頂ければとても助かります。

宜しくお願いします。


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