第117話 レイテア、因縁の対決
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今日は武術大会の日だ。早朝からレイテアは軽く体を動かしている。体調は万全の様だ。私はレイテアや応援の護衛達と会場に向かう。今回も予選は免除で、本選からだ。発表されたトーナメント表を見ると……シンスグリム男爵とは、勝ち上がれば決勝で戦うことになるようだ。なお、あちらも予選は免除だ。
今回は一般席だけでなく、貴族席も人が多い。やはり、レイテアとシンスグリム男爵との因縁の対決を見に来たのだろうか……見知った顔があったので、声を掛ける。
「ミリナ、お久しぶり。今回は来られたのね」
「フィリス、当たり前じゃないの。今日を見ずしていつ見に来るのよ。あの二人の再戦よ?」
「双方勝ち上がれば、の話ですけれど。まあ、よほどのことが無い限り、決勝戦がそうなるわね」
二人で話し合っていると、声を掛けられた。
「やっぱりいましたわ~フィリス様~」
「フィリス様、お隣宜しいでしょうか?」
ティーナとパティが来た。レイテアの応援をしてくれるようだ。
「ミリナ、こちらのお二方を紹介致しますわ。アルカドール領の頃からの友人ですの。ソルティーナ様はお父上の仕事の関係で王都に引っ越して、パトラルシア様は先日から精霊課で勤務しておりますのよ。ティーナ様、パティ様、こちらは私の従姉のフェールミリナ・ビースレクナ様ですわ」
ミリナが侯爵令嬢なので、慌てて二人が礼をした。ミリナは
「そこまで畏まらなくても宜しいですわ。貴女達もレイテアさんを応援に来たのでしょう?」
「はい、そうですわ~。私はソルティーナ・アンダラットと申します」
「私はパトラルシア・ミニスクスと申します。やはり知人がこのような大舞台で活躍するならば、応援するのが当然ですもの」
「そうですわよね、ところでソルティーナ様、貴女はアンダラット子爵の?」
「はい~、娘ですわ~」
「流石フィリス、そういう繋がりもあるわけね」
「ティーナ様ご自身も魔法の才能がおありですわよ。そういえばお二人とも来年魔法学校に入学されるのであれば、同級生になられるのですよね」
「そうなのですか。来年からも宜しくお願い致しますわ」
そんな感じで、予選を見つつ、4人で話し合っていた。
本選第1回戦が始まった。遠目だが、シンスグリム男爵は勝ち上がった様だ。レイテアは……あっさり勝ったな。ティーナとパティは、初めて見るレイテアの試合に、目を丸くしている。
「レイテアさん、物凄く強くない?」
「それはもう、大会二連覇は伊達ではございませんわ」
「久しぶりに見ましたけれど、更に強くなられているわ!レイテアさ~ん!」
「……ミリナ様、レイテアさん贔屓なのですね~」
「ミリナは領地の特性上、剣を嗜んでおりますから、剣で活躍する女性を好ましく思っているのですわ」
特に問題はなさそうだった。そのまま順調に勝ち上がり、気づけば準決勝も終わり、レイテアとシンスグリム男爵が決勝戦を戦うことが決まった。激励に行ってみるか。
控室に行くと、既にレイテアのお父さんも来ており、話していた。
「レイテア、体調は良さそうだけれど、どうかしら」
「お嬢様……自分でも緊張しているのが判ります。ただ、あの方との試合はこれが最後になりますし、悔いのないようにしたいと思っています」
武術大会は、3回優勝すると殿堂入りで、それ以降は大会には出られない。二人とも2回優勝しているので、どう転ぼうが二人の試合は最後になるのだ。
「それが分かっているなら、まずは平常心ね。大丈夫、魔力の循環は良好よ。あとは深呼吸でもして、お父上と、いつものあれでもやってみたら?まずは自分自身に勝ってから試合に臨みなさい」
「導師様……有難うございます。レイテア、まずは深呼吸だ。すうーっはぁーっ」
お父さんは自分が深呼吸し始めた。すると、何かがツボにはまったのか、レイテアが笑い出した。
「ははは……、もう、お父様ったら、私が深呼吸しないと意味がないじゃない」
笑い終わると、レイテアは深呼吸を始めた。後はお父さんに任せようか。私は席に戻った。
決勝戦の場である中央試合場に審判達が配置され、選手の入場が告げられた。レイテアとシンスグリム男爵が入場し、中央で挨拶をしている。二人とも堅さは見えず、気合十分の様だ。
二人とも剣を構え、試合が開始された。当初は様子見となっていたが、シンスグリム男爵が斬りかかった。レイテアが剣筋に剣を合わせ、いなそうとするも、そこを狙ってシンスグリム男爵が剣を払う。レイテアは態勢を崩されないよう剣を正中に構え直しつつ、攻め込もうとしたが、それより先にシンスグリム男爵が踏み込み、立て続けに突いて来た。
レイテアは必死に躱したり剣を合わせて軌道を変えるが、シンスグリム男爵に隙は生じない。ここで一旦レイテアが大きく下がると、それに合わせてシンスグリム男爵が突きに入った。
ここで、移動時の重心のぶれが生じたのか、シンスグリム男爵に隙が出来、レイテアが払いつつ右に回り込んだ。胴を薙ごうとしたところ、剣で受けるシンスグリム男爵。一進一退の攻防に、観客の応援に熱が入る。
その後も双方果敢に攻め合うも、大きな隙が生じずにいたが、次第にシンスグリム男爵の態勢が有利になって来た。長時間の打ち合いで、レイテアの体力が削られたのだろう。
しかし、尚も必死に食らいつくレイテア。斬りかかったシンスグリム男爵の剣をいなして態勢を崩す。ここで、これまでなら追撃していた筈のシンスグリム男爵が一旦間合いを取った。傍目には解りづらいが、疲労が蓄積し、態勢の維持が難しくなっていて、間合いを取らざるを得なかったのだろう。恐らく、次で決着がつく。
シンスグリム男爵が動いた!今までで一番鋭く、重い一撃だ。
レイテアはいなそうとするも、間に合わずに剣で受けざるを得ない。そして足が地に居付いた瞬間を狙って、シンスグリム男爵は突きに入った!
これは躱せない!
そう思った瞬間、何と、レイテアは、左手を剣から放して体をひねりながら、柄で突きをいなし、そのまま右肩からシンスグリム男爵に当て身を食らわせ、転倒したところに剣を突き付けた。そう、これは、あの時に私が見せた、一か八かの返し技。レイテアは、この土壇場で、それをやってのけたのだった。
審判がレイテアの勝利を宣言した。レイテア、三連覇おめでとう!
レイテアは、倒れたシンスグリム男爵に手を差し出した。そのまま立ち上がったシンスグリム男爵は、レイテアと握手を交わし、互いの健闘を讃え合っているようだ。拍手と歓声が二人を包む。本当に素晴らしい試合だった。
そのまま表彰式と閉会式に移った。表彰式では、通常の賞金などの他、レイテアには3回優勝を果たした、所謂「殿堂入り」に対する褒美が与えられた。それは、男爵位の叙爵だった。……これは、暫くはレイテアの周囲が騒がしくなりそうだ。……今は私の隣のミリナがうるさいが。
インタビューなども終わり、レイテアを迎えに行くと、既に騎士学校の女子学生達に囲まれていた。
「決勝戦、本当に凄かったです!」
「あの最後の技、以前導師様が使ったものですよね!あそこで出すなんて凄すぎですよ!」
「こんなに素晴らしい方に教わっているなんて、それだけで感動ですよ!」
皆自分がどれだけ感動したかをレイテアに伝えている。いつの間にかやって来ていたレイテアのお父さんも、その熱気に押され気味だった。暫くすると、レイテアが私達に気付き、学生達に礼を言って近付いて来た。私はお父さんに前に出て貰う。
「レイテア、おめでとう」
「お父様、見守っていてくれて有難うございました」
両手を取って、レイテアを祝うお父さんと、感謝を伝えるレイテア、言葉は少ないが、今回の優勝だけではなく、これまで過ごした時間全てへのものだろう。
暫くするとお父さんが両手を離し、私の方を見た。レイテアは私に近寄って来る。
「レイテア、三連覇おめでとうございます。まさかあれを真似されるとは思いませんでしたわ」
「お嬢様、有難うございます。とっさに出てしまったのですが、運良く決まりました」
「あれは、貴女が試合中、シンスグリム男爵の態勢を崩し続け、疲労を蓄積させていたからこそ決まったものですから、運だけではございませんわ。あと、貴女はこれから大変よ?叙爵のお披露目の準備は、うちが進めさせて貰うとしても、礼儀作法なども覚えて貰わなければなりませんし、恐らくですが、縁談も殺到しますわよ」
「そんな……面倒事ばかりではないですか!今から爵位をお返しして来ます!」
青い顔をして、本当にどこかに走り出そうとしたレイテアだったが……もう遅いって。
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