第011話 助けた少年は公爵令息
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父様は、話の後、少年を案内していたようだ。で、私を見かけた、と。無視して欲しかった。
「フィリス、こちらはセントラカレン公爵家のヴェルドレイク殿だ」
ヴェルドレイクと紹介された少年は、私を見て驚いているようだ。こっちもびっくりだよ。
「……ヴェルドレイクです。事情があり、半月ほどお世話になります。宜しくお願いします」
少し間があって、上位者であるセントラカレン公爵令息から挨拶があった。とりあえず挨拶しなければ。
「お初にお目にかかります。クリトファルス・アルカドールの娘、フィリストリアでございます。宜しくお願いします」
平静を装い、礼の姿勢をとりつつ、挨拶した。セントラカレン公爵令息は、私を見て微笑んだ。昨日の件は秘密にして下さるようだ。助かった!
「フィリス、私はヴェルドレイク殿をご案内するよ」
と父様が言った。下がっていい、ということだ。
「では、父様、セントラカレン様、御前失礼します」
とりあえず部屋に戻った。
あの様子だと大丈夫だとは思うが、何かの拍子でボロが出るかもしれないので、気を付けよう。
部屋で本を読んでいると、昼食の時間になったので食堂に行くと、家族の他、セントラカレン公爵令息も当然のことながらいた。暫くは一緒に食事をとることになるだろう。
食事の際、セントラカレン公爵令息の話が少しあった。次男で、兄と妹がいるそうだ。現在10才で、ここにはアンダラット男爵を訪ねて来たという話があった。丁度午後、兄様がアンダラット先生の授業を受けるので、その際に併せて話を聞くそうだ。頑張って下さい。
午後の礼儀作法の授業が終わり、部屋で寛いでいると、セントラカレン公爵令息が訪ねて来た。予期していたので特に驚くこともなく、部屋に迎えた。異性と部屋で二人きりになるけれど、まだ双方子供だから大丈夫だろう。メイリースにお茶を準備させ、下がらせた後、話を聞いた。
「改めまして、昨日は有難う。君は命の恩人だ」
「昨日も申しましたが、通りすがっただけですわ。私としては、秘密にして頂けるだけで十分です」
「ふふっ、それにしても驚いたよ。まさか君がアルカドール侯爵令嬢だったなんて」
「私も驚きましたわ。こちらに来られるなど。確かに、貴方が公爵家の方ならば、然るべき対応ですが」
「まあ、そうなんだけどね。でも、君ともっと話したかったから、嬉しいよ」
「あら、私の様なじゃじゃ馬を気に掛けて頂けるのですか?光栄ではございますが、私はただの娘でございますわ」
「秘密裏に街を抜け出せる女の子の言葉じゃないね。まあ、その辺りは、聞かない方が良さそうだ」
「そうして頂けると助かりますわ。ところで、アンダラット先生からはお話は伺えましたか?」
「ああ、活性化の理論を教えて貰ったから、実践できるように頑張るよ。ところであれ、元々は君が発見したものだったんだってね。カイダリードが誇らしげに言っていたよ」
「あら、身内びいきな兄で申し訳ございません。私の他愛無い話を理論に昇華させたのは先生ですのに」
「こんな可愛い妹がいれば、兄としては自慢したくなるのも当然だろうね」
「では、セントラカレン様の妹様のお話も伺わなければいけませんね」
「……そうだね、その前に、僕のことは名前で呼んでくれると嬉しいな」
「では、私も名前で呼んで頂いても?ヴェルドレイク様」
「是非そうさせて頂くよ、フィリストリア嬢」
その後はメイリースが持って来たお茶を飲みながら、双方の家族のことなど、とりとめもないことを話し合った。意外に楽しむことが出来た。
滞在間、ヴェルドレイク様は基本的に活性化の練習をしていたのだが、アンダラット先生が習得するのに、試行錯誤していたとはいえ3か月かかったところを、たったの5日で習得してしまった。集中して練習したこともあるが、やはり才能があるのだろう。
それからは兄様の鍛錬に付き合ったり、時間が合えば私も話をしたが、基本的に真面目で優しい人柄であり、気負うことなく楽しい会話が出来た。兄様とも仲良くなったようだ。
また、セイクル市の執政官、領主に代わり市政を行っているミニスクス男爵が、ヴェルドレイク様に市内の案内をしたのだが、丁度時間が空いていたので、私も同行させてもらった。こういう立場で市内を見るのは新鮮だ。
「ではミニスクス執政官、客人と娘を頼む」
「領主様、かしこまりました。ではセントラカレン様、お嬢様、こちらへ」
馬車に乗り、窓から見える市内の主要施設を案内して貰いながら、当初の目的地である聖堂へ向かった。
「聖堂に到着しました。こちらが遺体安置所、こちらが礼拝所です」
任務とはいえ、亡くなった護衛達の冥福を祈りに来たのだ。表には出さないが、ヴェルドレイク様は悩んでいたらしく、まずこちらに来ることを希望したのだ。
迎えが来た際に遺体も引き渡す手筈になっている。祈りを捧げたのち、職人街に向かった。とは言っても、うちは技術的には遅れている方なので見せる所は無い気もするが、アルカドール領の紹介という観点で紹介するのだろうか。
「こちらが魔道具工房になります。セントラカレン領の工房と比べて如何でしょうか」
どうやら、国内最先端のセントラカレン領を少しでも参考にしたい、という魂胆だったらしい。ヴェルドレイク様も、気が付いた点を発言しているうちに、暗い気持ちが幾分晴れたようだ。
「そろそろお昼ですね。お食事を準備しておりますので、参りましょう」
私も話でしか聞いたことが無かった高級レストランだ。役得だな。
「アルカドール領は、牛が名物ですので、この機会にご賞味頂きたいと思いまして」
「アルカドール牛は王都で有名だし、うちの領でも高級店で取り扱っているよ。楽しみだ」
うち、田舎なので、基本的に食か景色くらいしか楽しみがないのよね。畜産業、特に牛肉は国内有数の産地で、日本で言うなら神戸牛みたいなステータスがあり、ステーキなどは、我が家でも特別な時しかお目にかかれない。乳牛も多く、チーズが名産品だ。
なお、農産物については、他領と比べて特別美味しいわけではないらしい。大麦やライ麦が主体で、小麦を他領から購入したりして、地球で言うところのパンやパスタなどを作っている。一般家庭はライ麦パンが主流らしいが、流石にうちは、小麦から作ったパンを食べている。前世のパンと比べると堅いが、子供の私でも問題なく食べられる。
パスタなども食べられるが、米飯やそばが無いのが、元日本人としては寂しい限りなので、何とかできれば、と密かに機会を探っているところだ。
とろける様に美味しいアルカドール牛を堪能した後、市場に向かった。
「綺麗な工芸品があるね。寄って貰ってもいいだろうか」
「宜しいですよ。……アルカドール領の北西部は国内有数の水晶の産地でして、良質の水晶が手頃な値段で取り扱われているのですよ」
どうやら、お土産を買うようだ。私がそう思っていると
「これ、貰ってくれないか。君に似合っていると思う」
「有難うございます。ヴェルドレイク様が我が領に来られた記念として、大切にさせて頂きます」
髪飾りを貰ってしまった。まあ、いいか。
このような感じで、ヴェルドレイク様はアルカドール邸に滞在し、半月後に到着したセントラカレン公爵家の迎えの馬車に乗って、帰って行った。ヴェルドレイク様がいた半月間は、私としても楽しく過ごすことができた。
次に会うのはいつになるかは判らないが、楽しみだ。
お目汚しでしたが、楽しんで頂けたのであれば幸いです。
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(石は移動しました)