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第116話 ロイドステア国王都魔法学校報道委員会 某委員視点

お読み頂き有難うございます。

宜しくお願いします。

今日から王都の収穫祭だ。これに合わせて魔法学校の方でも様々な催しが行われる。基本的には学生が主体となって学業や研究の成果を発表する場となっているけれど、商家の出の者達を中心として、屋台などを出す有志も多い。


魔法学校は文官志望の者も多いため、騎士学校などに比べて魔法以外の活動もかなり公認されているのだ。その中の一つが、私が所属する報道委員会だ。学校内の出来事を記事にして、月に1度、内容を学校各所にある掲示板に掲載するのだ。最初は友人に誘われて入会したのだが、今では結構気に入っている。性に合っていたのだろうね。ゆくゆくはステア政府の広報官室に勤めるのも……


……おっと、つい感慨深くなってしまった。この絶好の取材日和、休んでいる暇など我々には存在しない。今日は初日なので、3日のうちで例年最も混雑する日、素早く移動しないと、良い記事は書けない。既に委員会の仲間達は、各所で取材を始めている筈だ。私も負けられない。




実は今日は、取材の対象を決めている。氷の貴公子こと、カイダリード・アルカドール様と、その妹君である、精霊導師のフィリストリア・アルカドール様だ。約300年ぶりに誕生した精霊導師様は、学校を訪れた際には当然取材するべき存在だ。


昨年はこちらの体制が整わず、残念ながら取材できなかったが、特別講師に来て頂いた際は授業に参加出来て、授業内容を記事に出来たし、今回も、カイダリード様に事前に承認して頂いたため、距離を取った上での取材を認められた。


次期アルカドール侯爵であるカイダリード様は、学年首席となるくらい学業は優秀で、整った顔立ちと洗練された所作、人当たりが良く穏やかで、平民に対しても分け隔てなく接する様から、学校内の人気が非常に高く、密かに慕っている女子学生はかなりの数になる。私は平民だし、そんな大それた想いを持つ程身の程知らずな女ではないけれど、見る分には楽しませて貰っている。


そんなカイダリード様だが、こと、妹君絡みでは人が変わる。妹君は、アルフラミスの蕾と称される程の美貌の持ち主で、男子学生達は当然話題にするし、心を奪われてしまった者も数多い。だが、少しでもカイダリード様の前で不埒な話をしようものなら、温和な微笑みが極寒の視線に変わるのだ。妹君を紹介して欲しいと言う数多の懇願も、全て容赦なく斬り捨てたと聞く。


カイダリード様が氷の貴公子と呼ばれる理由は、本人が類稀なる氷魔法の使い手ということもあるが、妹君関連の対応が氷の様に冷酷だからだ、という専らの噂だ。そして、今回の妹君への取材についても「妹に少しでも不快な思いをさせたら、分かっているだろうね……」と、視線だけで殺されてしまいそうな威圧を受けた。当然!厳守しますとも!




妹君の到着予定時刻になり、カイダリード様は正門付近に移動した。正門は、上級貴族が馬車で来る際に使用する門であり、収穫祭においてもそれは変わらない。暫くすると、アルカドール家のものと思われる馬車がやって来て、一人の少女が降車した。当然、妹君であるフィリストリア・アルカドール様だ。


そして、カイダリード様は騎士の様に妹君を案内し始めた。それは一枚の名画の様に、素晴らしい光景だった。私に絵の才能が無い事が悔やまれる!


二人が移動する所を、私以外にも多くの人が見ていたが、不用意に近づく者はいなかった。事前にあった教官達からの厳しい通達のおかげもあるのだろうけれど……屈託なく笑う二人の笑顔、それを見た殆どの学生は昇天したかのように動きを止め、魅入られていた。私も気を張っていなければ墜ちてしまいそうだ。しかし、取材への使命感で私は耐えた。頑張れ、私!




幾つかの展示を回り、次は魔法研究所との合同発表の展示場だ。今回ここは、魔法研究所の人が氷魔法と雷魔法を展示している。風属性と水属性の学生の多くが、自分達も使える様になろうと見学に来ている。私は火属性だから関係ないけど、火にも新しい魔法が出来ないかな……。


等と考えていると、どうやら展示に問題が発生したらしい。雷属性の展示者が魔法を発動しようとしているが、なかなか発動できないようだ。非常に焦っている様が手に取るように判る。暫くして、何故か研究所の人がカイダリード様達の所へ行く。暫く話をした後、何故か妹君が展示場に上がった。疑問に思っていると、轟音とともに激しい稲妻が妹君から放たれ、的が黒焦げになった……。


激しい光と音に観客は暫く呆然としていたが、恐る恐る拍手をし始めた。私も我に返り、手帳に状況を記載していった。なお、後日聞いた話では、その後は展示者が展示できたようだが、雷の威力は妹君とは似ても似つかない状態だったそうだ。まあ、仕方ないよね。




また幾つかの展示を回り、今度は生活魔法研究会の展示教室にやって来た。いつもはあまり人が来ない所なのだが、今年は目玉となる展示があった。カイダリード様が研究・発表した「熱湯魔法」だ。通常ならば、お湯を沸かすには、薪を燃やすか、火魔法で熱するかのどちらかだ。それを、水魔法で行ったというのだから、驚かれて当然だ。


その学術性もさることながら、竈などの準備も火の後始末も要らず、ただ入れ物に入った水をたった数分でお湯に変えられるのだ、普及すればさぞかし生活を便利にすることだろう。特に、野外で炊事を行う国軍の人達は喜びそうだ。


そんなわけで、教室は混雑していたが、どうやら妹君が展示を見たいと言ったようだ。人ごみをどう処置するのかと様子を見ていると、研究会に所属する女子学生達が客に話をして、通路を開けて貰ったようだ。まあ、精霊導師様を通して欲しい、と言えば、普通に道は出来るよね。


それに、こういう時は近くでご尊顔を拝めるわけだから、むしろ幸運だよね。その証拠に、周囲の客は皆、展示ではなく妹君の方を見ている。展示をしていた男子学生など、妹君に声を掛けられて、水ではなく自分が沸騰してしまったかのように赤くなったよ。役得だねぇ。




そろそろ昼食か、というところで、カイダリード様達は学生会室に移動した。昼食は学生会長達と取るということは聞いていたので、本当は私も何が話されているか確認したかった所だが、許可される筈もなく、私は一旦離れて昼食を取った。再び学生会室に行くと、何やら騒がしい。話を聞くと、どうやら妹君が、何かの魔法の展示を行うそうだ。それは是非見たい!


早速展示場所に陣取って待っていると、妹君がやって来て、今から行う事の説明をして下さった。どうやら、薔薇の形をした水晶?を作るらしい。私や他の人が理解できていなかったので、更に説明してくれた。アルカドール領で最近始めた、魔法で水晶を加工する方法らしい。


説明が終わり、加工が始まった。砂のようなものを器で加熱して、暫くすると、何故かその塊が宙に浮いた。それからだんだん形が変わっていき、気が付けば薔薇の形になっていた。徐々に温度が下がっていき、私達の前に現れたのは、陽の光に煌めく、美しい薔薇の形をした水晶だった。妹君の素晴らしい技術に、観客は大きな拍手で応えた。


そんなこんなで、ただの見物にしては色々なことがあった気がしたが、カイダリード様に見送られて、妹君は帰って行った。しかし、これからが私達の本番だ。今日の感動を最大限文章にするという、大事な仕事があるのだから。


しかしなあ……それにつけても、何と言うか、その場の風景などを一瞬で絵にしてしまう魔道具とかないかなあ……。そういう魔道具があれば、もっと記事が面白く書けると思うんだけどね……いかんいかん、文章が思いつかなくて妄想に耽ってしまった。作業に戻ろう。


余談だが、妹君が作った薔薇の水晶は、学生会長が貰ったのだけれど、学生会長は大層お気に召して、自分の机に飾っているそうだ。そして、学生会長の婚約者である、エルムハイド・セントラカレン様などは


「婚約者としては、これ以上の品を贈らないといけないな」


と言って、収穫祭の日、帰って行ったらしい。こちらも出来れば続報を詳しく聞いてみたい所だわ。

お目汚しでしたが、楽しんで頂けたのであれば幸いです。

評価、ブックマーク、いいね、誤字報告を頂ければとても助かります。

宜しくお願いします。


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