第115話 魔法学校で展示を行った
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今週末の3日間、16日、17日、18日は祝日となり、ステア政府や公的機関は基本的に休みだ。とはいえ、収穫祭があるので、王城勤務者や、一部の政府関係者は休みではない。私は基本的に休みだが、最終日の18日に、王城で開催される宴には参加することになっている。去年は不参加でも良かったのだが、今年からは政府で勤務しているから、頭数に入ってしまうのは、仕方がない。
ということで、収穫祭で皆が浮ついていたのだが、私はその流れには乗らず、ある文書を作っていた。思えば、初めて精霊導師として発出する文書なのだが、それがこれか……少々もの悲しい気もするが、このくらいしておいた方がいいだろう。19日の前3時に会議室に出頭、と。
省定例会議の際にも、この時期は例年通り、浮かれて事案が発生することが多いので、十分注意するよう大臣から改めて注意喚起があった。特に飲酒してトラブルが発生するらしい。私は未成年だから飲めないが、一応気を付けておこう。
15日の帰宅時は、受付に寄ってレイテアの参加手続きを済ませたり、ドレスを受け取って代金を支払ったりした。ドレスはもう自分の給金から支払っているが、やはり高いな……。でも大体1回しか着ないというね……この文化は正直好きになれないよ。今はまだ成長期だから買い替えなきゃいけないのだけれど、成長が止まったら、せめてアレンジとかで許して貰えないかね、ほんと。
収穫祭初日だ。今日はお兄様に呼ばれているので魔法学校に行く。毎度のことながら、レイテアは調整の為屋敷で残留だ。魔力循環は良好、と。代行の護衛を連れて、出発した。
魔法学校に到着すると、お兄様がやって来て迎えてくれた。来年は学生会なので対応ができなさそうだけど、今年はまだ大丈夫の様だ。今年の学生会長は、レナスフィリア・ウェルスカレン様らしい。実は今日は、何故か学生会から昼食に招待されている。なお、ウェルスカレン様は、ヴェルドレイク様のお兄さんと婚約されたそうなので、ヴェルドレイク様やお兄さんも来るかもしれないな。
お兄様と展示を見て回ったが、やはり今回も多くの人から見られているようで、仕方ないとは思いつつも面倒だな……と思っていた。そんな中お兄様が
「今回は、世話になったフィリスを是非連れて来て欲しいと頼まれてね……」
と言って、私を案内してくれたのが「魔法の発展性について」という展示場だった。どうやら、魔法研究所との合同展示らしい。そこでは、氷魔法と雷魔法の展示を行っていた。どうやら、30分毎に、氷魔法と雷魔法を実演しているようだ。丁度、氷魔法の展示を行う様だ。あれは……確か水属性研究室の人だったよな。確かに氷魔法を使っている。だけど……正直お兄様の方が上だな。
「お兄様が実演されては如何でしょうか?」
「その話もあったのだけれど、フィリスといられる時間が減るから断ったよ」
「確かに、お兄様の努力の成果を、敢えて衆目に晒す必要もございませんわね」
まあ、魔法研究所の研究員たちも頑張っているのは理解できた。来年はもっと凄い魔法を使えるだろう。もしかすると、重力?魔法も展示するかもね。さて、次は雷魔法だな……あれ?稲妻が出ない。確かあの人、この前は成功していた筈だけど……何か私の方に走って来る人がいる。嫌な予感がするな……。
「導師様、申し訳ありませんが、彼の代わりに雷魔法を展示して貰えませんか?」
「私が展示する趣旨が理解できないのですが」
「彼も練習では上手くいったのですが、本番に弱くて……」
これ込みで私を呼んだのか? お兄様は……機嫌が悪いな。事前調整は無いようだ……仕方がないか。
「私にも教えた責任というものがございますから、承りますが……今回限りですわよ?」
「有難うございます! ではこちらへ」
ということで、研究員の代わりに台上に上がり、的に向かって強力な雷を放ってあげましたよ、ええ。ついでに、研究員を激励してみたが……次以降はきちんと出来るかな? 拍手を浴びつつ席に戻った。
「放っておいても良かったのに、フィリスは本当に優しい子だね」
「一応知人ですし、先程も言いましたが、教えた責任もございますので。あと、あのままではお兄様の機嫌が悪くなるではありませんか。久しぶりに一緒にいるのに、私はその方が嫌ですわよ」
「ふふ、それもそうだね」
機嫌を直したお兄様と、手を繋いで他の展示を見て回った。
「あら、あの教室は、人だかりが出来ておりますわね」
「あそこは生活魔法研究会の展示教室になっているんだよ」
「まあ、お兄様の所属する研究会ではございませんか。是非拝見させて頂きたいのですが」
「……人だかりがあるからどうしようかと考えていたのだけれどね。では、案内させて頂くよ」
まず受付にお兄様が顔を出し、少しやり取りのあった後、数人の女子学生が人ごみの中、道を開けてくれた……確かにこれは案内するのに迷う所だよな……。その後、衆人環視の中、展示内容をお兄様が説明して行った。中でも、コップに入った普通の水を展示員が魔法で熱湯に変えていた展示があったのだが
「この、水を熱湯に変える水魔法は、私が研究したものなんだ。水分子の熱運動を増大させる仕組だよ」
「何と素晴らしい発想でしょうか!流石はお兄様ですわ」
「色々フィリスに教わったからね。有難く活用させて貰っているよ」
そう言って、お兄様が展示員の男子学生に礼を言っていた。本来お兄様はここにいるべきところなのだろうが、私の案内の為に代わって貰っているのだろう。私も微笑んで感謝しておいた。
実はこの熱湯魔法が今回の人だかりの原因だったようで、周囲は、この発表を見に来た水属性の人達が殆どだった。どうやら、水を沸騰させるには、これまでは何かを燃やして熱するしかなく、画期的な魔法だった様だ。まあ、熱運動とかの概念はまだ無い筈だからね……。
この魔法を応用すると、湯沸かし器などはもとより、電子レンジ的な魔道具も作れそうだから、本当に生活に役立ちそうだ。魔法研究所の職員も見に来ていて、必死にメモを取っていた。家族が活躍しているのは、やはり誇らしいものだ。
その他、色々な展示を見て回って、結構な時間が過ぎた
「そろそろ昼食の時間かな。学生会室はこちらだよ」
お兄様に案内されて、学生会室のプレートがある部屋に入ると
「魔法学校へようこそ。お待ちしておりましたわ」
と、ウェルスカレン様が声を掛けて来たので、挨拶を返す。
「ウェルスカレン様、本日はお招き頂き、真に有難うございます」
「今回は非公式ですし、そんなに畏まらなくて結構ですわ。そもそも貴女の方が地位は高いでしょうに」
「公式の場ではございませんので、今は単なる侯爵家の娘ですわ」
「それもそうですわね。では、そちらに座って下さいな。実は私、貴女ともっとお話ししたかったのよ」
それから少し話をした。レナ様は、かなり魔法が好きな方で、私の氷魔法を見てから、話す機会を狙っていたらしい。風属性だし、雷魔法を覚えたがるかもしれないな……様子を見ておこうか。
そうしているうちに、また誰か入って来た。
「エル! ……と、ヴェル、いらっしゃい」
レナ様の婚約者である、エルムハイド・セントラカレン様と、ヴェルドレイク様がやって来た。ヴェルドレイク様はともかくとして、エルムハイド様は初対面なので、礼をしておこう。
「おや、貴女はもしかすると、アルカドール侯爵令嬢かな。初めまして。私はエルムハイド・セントラカレンです。弟がお世話になっているようですね」
「お初にお目にかかります。フィリストリア・アルカドールですわ。こちらこそ、ヴェルドレイク様には良くして頂いております」
ヴェルドレイク様とは、会釈をする。そういえば、久しぶりに会った気がする。
昼食が来たので頂くことになった。見ている限り、婚約者間の仲は良さそうだ。そういえば、エルムハイド様も魔法は得意だと聞いているし、話が合うのかもな……。あちらの邪魔にならないように、ヴェルドレイク様やお兄様と話を始めた。
「ヴェルドレイク様は、お仕事はどのような状況でしょうか」
「そうだね。先日、魔技士の資格も取れたので、魔道具の研究の仕事を手伝うかもしれないな」
「それはおめでとうございます。今後は益々ご活躍されますわね」
「君の方こそ、色々聞いているよ?雷魔法を実用化したり、新種の地魔法を考案したりしているそうじゃないか。私も、雷魔法の魔道具など、研究させて貰おうかな」
「その際は、何かしら助言が出来ると思いますので、お声掛け下さいな」
「是非そうさせて貰うよ」
「フィリスは、それ以外にもアルカドール領で、砂糖や新しい酒の事業を立ち上げたりしていますよ」
「お兄様、私は口を出しただけですわ。実際に努力されているのはお父様や領の方々ですよ」
「確かにそうだけど、フィリスあっての事業だからね。あと、アルカドール領のドミナス分領の水晶や水晶像が、王都で販売され始めているのですが、あれも元々はフィリスの考案なのですよ」
「あの像は素晴らしいよ。特に母上が気に入っていてね。うちの公府でも、そのうち取引が始まると思うよ?あと、兄上の婚姻に関する記念品の作成依頼も行うかもしれないな」
「それは光栄ですわ。領民も、誇らしく思うでしょう」
「あら、あの水晶の像、フィリス様の所のものだったの? あれ、どうやって作るのかしら?」
話を聞いていたらしいレナ様が話に加わって来た。かなり好奇心旺盛な方だな。
「あれは、地属性の方と火属性の方の共同作業で作成しているのです。珪砂や石英を火魔法で加熱し、その間に地魔法で成形したり、不純物を取り除いたりするのですわ」
「面白そう! 一度作成している所を見てみたいわね」
「昼食後、お時間を頂ければ、私がお見せすることは出来ますわよ」
うっかりそう言ってしまったことから、突発的な展示をやることになってしまった。まあ、宣伝と思おう。
材料のケイ砂を地精霊と同化して探して来て、器も土を固めて作った。準備は整った。案外人が多いな。一応これからやることを説明してから、それぞれの段階の説明をしながら、作業を始めた。
「では、これから、水晶の薔薇を作成いたしましょう。まずは加熱です。暫くお待ち下さい……そろそろ水晶になるように想像しつつ、不純物を取り除きます……では成形します……」
今回は、変な形にならないよう、重力? 魔法も併用して浮かせている。だんだん薔薇の形になっていくので、観客が驚いている。よし、こんなものかな。
「では、もう一度水晶を確認して……ゆっくりと冷却しますので、暫くお待ち下さい…………完成です」
拍手が鳴り響いた。セールスに反映されたらいいなあ。さて、この薔薇は……。
「レナ様、どうぞ。手慰みですが」
「え?このような素敵な物、嬉しいけれど悪いわ。どうしましょう」
「貴女の為に作成したのですわ。元手も掛かっておりませんから、問題ございません」
「そういうことであれば、有難く頂きますわ。今度何かお礼をさせて頂戴」
「分かりました。楽しみにさせて頂きますわ」
そんな感じで、多少の突発的事項はあったが、問題なく終了した。明日は武術大会だ。
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