第111話 新人精霊術士達と出かけた
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今日はパティ達と街に遊びに行く日だ。私はレイテアと馬車に乗り、精霊課所属の精霊術士の殆どが住む上級職員用宿舎に移動した。入口に到着すると、3人は既に待っていた。早速馬車に乗り込み、出発することになった。ラクノアが御者に行先を伝えていると、サリエラが話し掛けて来た。
「前から思っていましたけど、導師様って、いつも精霊が傍にいますよね。私には風精霊しか見えませんけど、全ての属性の精霊が付いているんですよね、凄いです!」
『愛し子ほど魔力の高い存在は、人の中にはいないからね。僕ら精霊にとってはとても心地いいんだ』
風精霊がサリエラに説明した。サリエラは少し考えて、言った。
「愛し子って、導師様のことですか?」
うっ、確かに違和感あるよね……人に言われると恥ずかしいので、あまり突っ込んで欲しくないのだが。
「精霊女王様の加護を得た人は精霊達からそう呼ばれるらしいわ。フィリスは、精霊はともかくとして、人に言われるのは恥ずかしいみたいだけど」
パティ、やっぱり知っててからかっていたのか。ぐぬぬ……。
この話題を終わらせるべく、説明が終わったラクノアをすぐに馬車に乗せ、出発した。
「今から、どちらに向かっているのでしょうか」
「とりあえずは工芸品店です。店頭に色々面白そうな品が並んでいるのですが、これまではお金が無くて買うことが出来なかったんですよ」
精霊術士は、私ほどではないが結構給金が入るらしい。親に仕送りなどしても、まだ平民としては破格の額を小遣いに出来るそうだ。嘘をついてでも精霊術士になりたい子が後を絶たないわけだ。まあ、貰っている分、国の為に色々働いているんだけどね。
工芸品店の品揃えの話をしていると、その店に到着した。馬車は路側で待機し、護衛3人のうち、レイテアは私達と同行し、他2名は店の近くで監視体制を取るようだ。念のため、精霊達にも周囲を警戒して貰っておこう。
「王都の工芸品店ともなると、やっぱりセイクル市とは品揃えが違うわね」
「流石に物流の差は如何ともしがたいですわ。しかし、我が領もそれなりの良さがありますわよ」
「そうですね。セイクル市の工芸品店は、お嬢様を題材とした絵や彫像が売っていますからね」
「いえ、そうではなく、素朴な温かみがある品が多いと言いたかったのですが……」
「アルカドール領の工芸品店には、そのような物が売っているのですか……流石導師様です……」
ラクノア、変に感心されても困るのだけど……?
そのような話はともかく、確かに洗練された品が多い。パティは、刺繍の棚を非常に興味深そうに見ている。自分の刺繍の参考にするのだろう。サリエラは、からくりのおもちゃに興味があるようだ。ラクノアは、動物の置物をじっと見ている。私は、店内を見ていると、ある絵画を見かけた。それは、誓約の樹を描いたものだった。大樹への愛情を感じる作品だ。店の人に聞いてみると
「すみません。あれは売り物ではないのです」
と断られた。何年も前に、この店で働いていた妖精族が描いたものだそうだ。気になったのだが、訳ありそうだし、込み入った話を聞くのもなんなので、そのまま店内の散策に戻った。
結局私は何も買わなかったが、他の3人は、気に入ったものを買ったようだ。
次は、一般向けの服飾店に行った。私はこれまで、普段着を買ったことが無い。知らない間にクローゼットの中身が変わっているのだ。メイリースからは
「お嬢様くらいの方でしたら、どこもこのような感じだと伺っております」
と説明を受けたことがあるが、少なくともパティは自分で選んで買っているらしいから、一般的でないことは明らかだ。さて、この世界の普通の服飾店はどうなっているのだろう。
と、身構えたものの、さほど前世の服飾店とイメージは変わらなかった。ただ、店内の私達以外の店員と客が、私を見て驚いたようで、注目を浴びてしまった。いや、確かに買う必要はないかもしれないが、見るくらいなら別にいいでしょうに……。
ということで、他の3人について回って、様子を見ることにした。この世界の布は、基本的に羊毛か綿織物だ。どこかにあるかもしれないが、今の所、絹織物は見たことがない。合成繊維は当然ない。色も、単一色で染色されている。精々、刺繍などで違う色の部分を作るくらいだ。
ドレスになると、複数の色の布を組み合わせて作るものもあるので、また違うのだが……ここにはそういう服は無い。とは言え、セイクル市のものより洗練されていそうな雰囲気があり、パティは3着買っていた。サリエラとラクノアは1着買った。なお、ここは下着も売っていたが、今回は誰も買わなかった。まあ、1人で選びたいだろうからね。
そろそろ昼食ということで、予約を入れておいた料理店へ向かった。ラクノアが一度食べておきたいということで選んだ店だが、少し高めの店らしい。そういえば、精霊術士になると、定期的にマナー講習を受けさせられるらしい。週の食事のうち何度かは講習のための食事になるそうで、平民であっても、それなりにはマナーを身に付けることになる。
食事は普通のコース料理を選んだ。アルカドール牛ステーキが出るコースもあったが、高いのでパスだ。とはいえ、普通のコース料理でも大変美味しかったので、私を含め、皆満足したようだった。ただ、今は食後のデザートが付いていないが、将来は普通に付くようになるかもしれないな、と思った。
食事が終わり、次は公園に行くことになった。この公園は元々エスメターナ様が整備した公園らしい。そのせいなのかは知らないが、かなり精霊達が多い。空気も澄んでいるような気がした。サリエラもラクノアも、この公園はお気に入りで、ここでよく精霊達と話をしていたそうだ。まあこんなにいれば、ねえ。
精霊達と話をしながらまったりしていると、何かを探しているらしいお婆さんがいたので、話し掛けた。
「お婆さん、どうなさったのでしょうか?」
「えっ?……貴族のご令嬢様……。財布を落としたので探しているところです」
「それはお困りでしょう。手伝わせて下さいな」
お婆さんは断ろうとしたのだが、一人で探すのは難しいだろうから、やんわりと説得し、落とした財布の特徴を聞いた。
「なるほど、この位の大きさの黒い財布ですね。承りましたわ」
私は地精霊と感覚共有し、お婆さんの行動範囲にあたりそうな所を探してみると、確かにその特徴の財布が落ちていた。そのまま重力を操作し、財布を浮かせて元の所に戻る。
「お婆さん、この財布でしょうか?」
「ひいぃっ、私の財布が浮いてる!」
しまった、お婆さんを驚かせてしまったようだ。
「驚かせた様で申し訳ございません。私は、フィリストリア・アルカドールと申します。精霊導師の任に就いております。これも精霊の力ですの」
「貴女が精霊導師様……助けて頂いたのに、こちらこそご無礼を致しました。有難や有難や……」
その後、恐縮したお婆さんが私に礼を言って去って行った。パティが
「感覚共有って、あのようなことも出来るのね」
と呟いていた。今回は地精霊を使ったから、パティなら見えるよね。
最近は、感覚共有時にも、和合や同化までの力は無いが、多少の属性の操作が出来るようになったのだ。正直、先日の講義の際に質問された、諜報活動や危害を加えるどころの話ではなく、暗殺すら可能なのだが、やる気も対象もないのが幸いだ。
その後、ひとしきり公園を楽しみ、3人を送って行った。宿舎に到着し
「導師様、今日は楽しかったです」
「こちらこそ、色々案内して頂いて、有難うございました」
と御礼を言って、家に帰った。
お目汚しでしたが、楽しんで頂けたのであれば幸いです。
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