第104話 光魔法を開発してしまった
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休日だ。今日は何も予定が無い。たまには早朝だけではなく、日中も鍛錬に励もう。レイテアなど、あと2ヶ月で武術大会だ。他の護衛とも鍛錬しているが、私も混ぜて貰おう。
休憩の合間に、騎士学校の状況についても確認した。授業は順調で、着実に成果が出ているためか、各学生のやる気も高く、また、毎年少なからず発生していた、怪我などによる途中退学も、今年はまだ見られないようで、学校長や主任教官などにも感謝されているそうだ。近頃は、男子学生の方でも、女子学生の授業内容を一部取り入れたりして、切磋琢磨しているらしい。あと、武術大会についての話も聞いた。
「騎士学校の学生は、武術大会の裏方の手伝いをしているのです」
どうやら、毎年開催前と終了後の会場の清掃や、列整理などの手伝いをやる代わりに、試合を見学させて貰っているらしい。それは知らなかった。
「では、今年は教え子たちが見ているというわけですか。格好悪い所は見せられないわね」
「はい。3連覇できるよう、最高の状態に持っていきたいと思います」
今のレイテアには、私から教えることは何もない。結果が出せればいいなあ。
いい汗をかいて、入浴や食事を済ませ、部屋でぼんやりしていた。ふと、照明が気になった。こちらの世界の照明は、油を使うランプか、火魔法を使用した魔道具だ。それなりの貴族の家は大体魔道具の照明で、電力ではなく、火属性のエネルギーを魔石に集めることで光を出す、白熱電球に似た感じのものらしい。
光自体には、属性はない、というか、4属性全てが混ざっているらしい。まあ、そうでないと、いずれかの属性が光を感じられなくなってしまうかもしれないし。ただ、光に変換するには、火属性が一番やり易いようで、そういった意味では、光は火属性の仲間であるとも言えるわけだ。光の大元である太陽を見ても、想像がつく。
そういえば、火属性のエネルギーは、基本的に少し光を出していて、集めることでそれが明確に判る。白熱電球などは熱運動に基づく熱放射の際に光を放射するから光るのだが、何故分子が無くても火属性のエネルギーは光るのか。疑問に思ったので、火精霊に聞いてみた。
『ん?何かを熱くしなくても光は出せるけど?』
は?火属性のエネルギーは、熱運動なしに光を放射できるの?LEDや、有機ELなどと同じかそれ以上に、変換効率高いかも?なんか凄くエコだなぁ。
…………待てよ?これ、使えないだろうか。明かりとして非常に有用だろうし、敵に襲われた時に使えば目くらましにもなる。もし光を1方向に絞って放出できるなら、誘導放射云々をすっ飛ばして、レーザーを作る事もできそうだ。
色々構想をまとめ、試してみようとして、気が付いた。実験や練習の時は、きちんと目を保護しないとまずい。先にサングラスを作ろう。本当は周波数に合わせないといけないけど、厳密なものは作れないから、とりあえず不純物を入れた石英ガラスを作って、適当に削ってグラスの部分を作ればいいか。つるは魔法銀でいいや。
幾つかサングラスが完成したけれど、夜遅くなったので、休むことにした。
次の日、通常通りに出勤し、魔力操作の練習をやった後、執務室を閉め「立入禁止」と書いた紙を貼った、サングラスをかけて、光魔法の検証を行うことにした。まずは、熱に使うエネルギーを電磁波、すなわち光のエネルギーに変換することだ。イメージは熱運動を止め、放射状に光を放出する、みたいな感じだろうか。
やってみよう……えいっ!……うーん、少し光が強くなった気はするが、これは違うな。
待てよ?そもそも周囲に伝えるのは、エネルギーであって熱運動ではないのかもしれない。何せ分子がないのだから。ということは、元々熱運動ではなく、殆どが赤外線として放出されていて、一部が可視光として放出されているのではなかろうか。それならつじつまが合う。
つまり、やることは可視光線の波長帯に固定して、光を放出することだ。確か可視光線の波長帯は400~800ナノメートルくらいだっけ?細かい数字は覚えていないが。しかし、数字で言われても、精霊には解らない筈だ。いっそのこと、全て白い光で、とか、全て赤い光で、とか、色で指定するのはどうだろうか。とりあえず白い光でやってみよう……えいっ!
瞬間、白く強い光が、火属性のエネルギーを集めていた私の掌から溢れた。いやー、サングラスを掛けていなかったら、酷い有様になっていたところだった。
その後、試行錯誤して、7色それぞれの色を出したり、一度に出したり、前面や後面など、範囲を指定したり、一定の方向だけに出せることが判った。この分だと、イメージ次第でレーザーも可能かもしれないが、流石に広い所でないと、怖くて実験できない。後でこっそり王都の外に出て試してみよう。
しかし、これなら私が試す以前にも、誰か試していそうな気はするのだが……恐らく、これまで試した人は、光の性質を知らなかったため、色の指定をせず、単に光が強くなるようイメージしただけだったのではなかろうか。属性のエネルギーが少し活性化することで、多少光は強まるかもしれないが、それでは役に立たないから、今は研究されていないのかもしれない。
まあ、地球では、光は善で闇は悪、のように宗教的な影響があったりしたから、何だかんだと研究したかもしれないけど、こちらの世界は、光は単に太陽や明かり、それらが照らす範囲で、闇は光が届かないか、光が反射しない空間や領域といった自然現象であって、別に善悪やら、神の特別な力が宿っているとか、神様から言われているわけでもないのに意味不明な妄想をする人はいないからね……。
ということで、夜にこっそり王都の外に出て、レーザーを試してみた。レーザーの場合は、方向を明確に示すことと、色を強烈にイメージすることが必要な気がする。また、火属性のエネルギーを一度に多く光に変換することで、出力を上げることができるようだ。
拳大の大きさを光に変換したもので、100クール先の岩の表面を焦がす程度だったが、頭くらいの大きさを変換すると、岩を穿った。20クールくらいに近づいて、頭サイズに集めて発射すると、岩を溶かしながら貫通した。もっとイメージを強めれば威力が上がりそうだし、極めると非常に恐ろしい魔法になるな。自分の近くから発射しなくても良さそうだし。
まあ、魔力が通常の人なら、現状だと攻撃するにも相当近づいて、エネルギーをかなり集めて放射する必要があるので、対処のしようはいくらでもあるのだが。
あと、練習をする時に目を労わらないと、知らずに目にダメージが蓄積する可能性がある。念のため、目に魔力を通して治癒しておこう……。
執務室で書類業務を行っていると、精霊課長が入って来た。
「導師様、魔法学校から、臨時講師の依頼が来ております」
「私にでしょうか?」
「ええ。毎年この時期に、私や精霊術士が臨時講師として、魔法学校の1学年に、精霊に関する基礎知識を講義していたのですが、今回は、導師様がいらっしゃるのであれば、是非導師様に講師をお願いしたい、との学校側の強い要望がございまして」
「それは……どのような内容を講義すれば宜しいの?あと、大臣に許可を得た方が宜しいのでは?」
「教育自体は、要綱がございますので、それに合わせたものになります。また、大臣は了承済みです。……ただ、今回は一つ問題があります。講義を行う事自体は問題ないでしょうが、あちらとしては教育要綱の内容以外にも、様々な質問をしたいようです。しかしながら、導師様にとっては何でもない事でも、学生に話すことを避けた方が良い知識もございますから」
「それは……確かにその通りですわね」
「ですので、その判断が出来る者を同行させ、話せない事項は拒否できるという方向で調整しております」
「それなら安心ですわね。承知致しました」
その後、こちらの要望が通り、精霊課長が補佐に付くことになった。講義は3週間後だ。とりあえず教育要綱は読んでおかないとな……。
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