第100話 産業振興の話し合いをした
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さて、本来は休日だが、午前中には領の行政官達やセイクル市の商工組合支部長などがやって来て、産業振興に関する話し合いが行われる。いつもは数人しかいない談話室だが、10数人が入っている。
「では、産業振興に関する情報共有行いつつ、問題などがあればその都度報告して頂きたい」
司会進行役の行政官がそのように言うと、次々と報告されていった。
「砂糖に関してですが、もうすぐ甜菜が収穫出来るでしょう。工場についても設備は整いました。後は工員ですが、こちらは現在募集中です。今の所、所要数の5割です」
「5割か。最低可動人員はどのくらいいれば良いのだ?」
「7割いれば当座は動かせます。今後継続的に稼働させる場合は所要人員数が欲しい所です」
「運搬などの単純作業要員を、臨時に雇うことで、所要人員数を下げるなどは出来ませんの?」
「なるほど。そちらの方向も検討いたします。報告は以上です」
「製造した砂糖の流通経路や需要の把握はどうなっている」
「各領に確認したところ、卸せばそれなりに使用する、といった感触で、需要は曖昧です。流通経路は、少量では儲けが少ないです。ある程度の流通量が必要です」
「いっそのこと、最初は王都周辺のみの流通で宜しいのでは?そもそも需要が曖昧ということは、供給する必要もないということ。ならば、需要が見込めそうな王都に卸し、その様子を見て要望する領に卸していけば宜しいと思いますわ」
「フィリス、王都の需要が見込めそう、とはどういうことだ」
「先日茶会で砂糖について話しましたところ、王太子妃殿下が非常に興味を持たれておりましたわ。今回の収穫で、王家に砂糖を献上すれば、王太子妃殿下がサウスエッド風の様々な甘味を作り、それを見た者達が争うように甘味を作るでしょうから、王都で甘味が流行する筈ですわ」
「ふむ、なるほど。王都で甘味が流行すれば、それが波及して需要が増加するということか」
「その通りですわ。併せて、我が領でも甘味を作りましょう。そうすれば売り込めますもの」
「分かった。それについては後で商工組合とフィリスで話し合ってくれ」
「承知致しました」
「領主様、承知致しました。お嬢様、宜しくお願いします」
「砂糖の件は以上です。次は精霊酒について、お願いします」
「工場は、貯蔵庫を含め、完成しました。既に一部は稼働しており、工員も麦酒工房と連携して、確保しております。また、材料の大麦も、今年は豊作でしたから、特に問題ございません」
「流通や需要については、話を聞いた各領地の商工組合支部から、問い合わせが殺到しております」
「やはり新しい酒は人気があるな。大量に増産したいところだが、製造に年数を要するので、焦っても良くはならん。まずは着実に良い製品を作ることを心掛けよ」
「承知致しました」
「新しく考案された料理について、状況を報告して下さい」
「そばやうどんについては、店だけでなく、家庭でも作る者が出ております。また、馬鈴薯の料理も様々な物が考案され、定着しつつあります。魚料理については、まだ取り扱いに習熟した者が少ないのですが、プトラムの者を雇い入れて、セイクル市内で魚料理を取り扱う店が出始めました。また、すり身蒸しは取り扱いが容易ですので、こちらでも食材の一つとして認知されつつあり、需要増に伴い、プトラムでは製造工場を増設しようとしているようです」
「なるほど、順調なようだな」
「ただ、すり身蒸しの需要増に伴い、塩の製造が追いつかなくなる可能性があります」
「現在、塩の製造は、どのように行われておりますの?」
「砂に海水をまき、天日と風で乾燥させてから鹹水を作り、煮詰めて塩を取り出しております」
「……もしかすると、作業を魔法で行うことで、増産することが可能かもしれません。要領を検討したいのですが、宜しいでしょうか?」
「ふむ、フィリス、検討して、後日報告してくれ」
「承知致しました」
「ドミナス分領の水晶について、報告をお願いします」
「魔法に習熟した人材の育成が徐々に進んでおります。こちらが見本です」
「なるほど、この大きさの水晶は天然では少ないな。そしてこれは、水晶の馬か。中々の出来だ」
「これらは現在、元々水晶を取り扱っていたネストイル商会が主体となって王都に売り込んでおります。反応は上々で、噂が広がっており、他領からもドミナスに移り住む者が出始めております。この調子で更に盛り上げていきたいものです」
「それならば……定期的に技術を競い合う場を作れば、更に技術の向上が望めそうですわね」
「なるほど、水晶像の品評会を行うということか。それは良い宣伝にもなる」
「領主様、では、我々商工組合に品評会を主催させて頂けませんか」
「そうだな。詳細はオペラミナー太守達と協議の上、検討して報告せよ」
「承知致しました」
このような形で話し合いは終了した。私については、簡単に作れそうなお菓子を幾つか検討するということで、商工組合の担当者と話した。甜菜の収穫に合わせてまた帰って来よう。塩の件も考えないとな。
商工組合との話が終わったところで、お父様と私に、ミニスクス執政官が話し掛けて来た。
「領主様、お嬢様、今宜しいでしょうか」
「私は良いが、フィリスは……良いようだ」
「実は、私の娘の事で相談がございまして……7月に、娘が10才の誕生日を迎えるのですが、どうやら娘は精霊が見えるようなのです」
「ふむ。そうなのか」
以前お父様にはこっそり話しているが、知らないふりをしているようだ。
「恐らく精霊術士となると思われますので、お嬢様には今後ともお世話になります」
「私こそ、パトラルシア嬢にはお世話になっております。魔法省で一緒に勤務できて嬉しいですわ」
「ところで……パトラルシア嬢は、ここからどう移動するのだ?定期便を利用するのか」
「そうなのですが……それで、娘に一人で旅をさせるには心配で、私も一緒に行こうと考えております」
「執政官を20日以上不在にさせるのは望ましい事ではないな。誰か別の者ではどうだ」
「息子たちもまだ成人しておりませんし、頼れる者がいないのです……」
「それでは、私が転移門でパトラルシア嬢を王都までお送り致しましょう」
「あ、いや、お嬢様に御足労願うのは流石に……」
「それが一番負担が少なく安全だろう。フィリス、頼めるか」
「お父様、承知致しました。執政官殿、それで宜しいでしょうか?」
「は、はい。娘を、宜しくお願いします」
多分、パティのことで相談したくて、今日来たのだろうな。
皆が帰って、昼食を家族で食べている。
「話し合いに参加して、改めてフィリスの凄さが分かったよ」
「そうでしょうか?」
「だって、問題は殆ど、フィリス自身が解決するか、フィリスの助言で方向性が決まっていたからね」
「まだ色々問題点は出て参りますわ。私は、そのほんの一部を手助けしているだけですわ」
「出来ることはまだある……そうだね、私はもっと勉強して、父上の様になれるよう頑張らないと」
「カイ、私とて領主として完璧か、と問われるとまだまだだよ。勉強は何時まで経っても必要だ。それに、領主は一人で出来るものではない。家族や職員、領民が助けてくれるから務められるのだ」
「そうですよ、カイ。貴方はもう少し人に仕事を任せることを覚えて行かなければね」
「はい、父上、母上、今後もご指導をお願いします。フィリス、困った事があったら相談するよ」
「分かりましたわ、お兄様」
我が家は今日も仲良しだ。
お目汚しでしたが、楽しんで頂けたのであれば幸いです。
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