第098話 神子との会談 2
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審判の神官兵を挟んで、教主猊下と向かい合った。何も言わず双方構える。
「始め!」
私はとりあえず様子を見た。教主猊下は
「では、行きましょう。はっ!」
と一足飛びに間合いに入り、斬りかかった。速い!私はいなしつつ左に移動する。
「ほう、ではこれなら、はあっ!」
教主猊下は、斬撃と突きを組み合わせた連撃に入った。一撃は重く、鋭い。だが何とか対応は出来ている。
「どうしました?貴女は攻めないのですか?」
なおも連撃する教主猊下。……次第に、剣筋が読めて来た。ここだ!
「はっ!たっ、やあっ!」
力が乗る前の剣筋に合わせ、いなすとともに攻撃に移った。突き、打ちを繰り返して態勢を崩す。教主猊下が守勢から態勢を戻そうと力を込めた所を、転換の要領で躱し、そのまま力を利用して投げた。
「がはっ!」
背中を床に打ち付けた教主猊下の喉元に棒先を合わせた。
「しょ、勝者、導師様」
さて、一応私が勝ったわけだが、これはあくまで私の為人を知るためのものだ。正直、教主猊下も様子見で、本気ではなかったようだが……どうなるかな……。
神官兵が治癒を行おうとしたが、何事も無かった様に力強く立ち上がった教主猊下が私を見た。
「では、執務室に戻りましょう」
そう言って執務室に移動したので、私は棒をしまい、後に続いた。
「いやあ、私もまだまだですな。神子になってからも鍛錬を欠かしたことはありませんのに」
「いえ、お忙しい中であれほどの腕を保たれているのは、素晴らしい事ですわ」
教主猊下は、神官兵から出世して高位神官になり、神子の指名を受けたらしい。神子になったはいいが、基本的に神子はこの教主殿にこもって神託を待つ日が続くので、それならば、と執務室の隣の大部屋を鍛錬が可能な部屋にして、待機する時は、大体そちらで鍛錬しているということだ。
「しかし導師殿のあの動き、あれはどのようなものでしょうか?ユートリア大陸であのような動きをする武術は、見たことがありませんので」
「その辺りは、魔力の流れを見ながら動いておりますので、通常の武術とは異なるかもしれませんわね」
まあ、合気道云々より、こう言った方が判り易いし、ごまかしも効く。
「魔力の流れ……ですか、なるほど。私や多くの剣術の流派は、いかに早く、強く、相手の急所に攻撃するかを追求しておりますから、貴女の様に、相手に力を出させないような、相手の力を利用するような動きをされると、初見では対応が取り辛い」
「恐らくそうでございましょうね」
「そしてそれは、仮初めのものではなく、貴女の血肉となっている戦い方だ。そうでなければあのような流れるような動きにはならない。あれが貴女自身の考えであり、心構えであることが良く判りました。貴女は、神の御意志に沿う存在であると、認めましょう」
「私をお認めになって頂き、誠に恐悦至極に存じます」
良かった。とりあえず異端扱いなどにはならないようだ。
「しかし、その年でそこまで武術を修めなさるとは……やはり貴女は転生者のようですな」
え、教主猊下は私が転生者であることを知っていたの?
「っ、それはどういうことでしょうか……」
「ああ、これはここだけの話です。神は、転生者の存在を御言葉にされたことがございましてな。複数属性者は神の御意志で前世の記憶を引き継がれた存在であり、異端の存在ではない、という内容でした。ただしこれは、高位神官の間でのみ周知せよ、とも仰られていたそうです」
つまり昔、複数属性者が異端の存在にされそうになって、神様が否定したことがあった、と。理由まで言うと悪影響が出そうだから高位神官しか知らない情報にした、ということだろう。大司教台下も私が転生者だと知っていたが、敢えて口にしていなかった、というところかな。
「そうですか。精霊女王様からは、神は人に対して、明確に回答していない、と伺っておりましたので」
「まあ、回答先には明確に回答しておりませんからな。ということで、私どもは、貴女が転生者であるからという理由では、異端者扱いは致しません。ただ、現在の貴女の心をもって、神の御意志に沿う存在であると認めているのです。そのことは、ゆめゆめ忘れてはなりませんぞ」
つまり、今後私が道を踏み外した時は、何らかの対応を取る可能性がある、というわけだ。気を付けよう。
「御言葉、有難く頂戴します。今後とも、神によって生かされていることを忘れず、精進いたしますわ」
「そう考えて頂ければ幸いです。ああそうそう、もし貴女がロイドステア国の外で精霊導師として活動する際に、必要であれば、私達が管理している転移門の使用を許可いたしましょう。勿論相手国の承認を得ることが前提ですが」
何と!それは凄い。転移門を2回使用すれば、大抵の国に行けるというのは、非常に有難い。
「教主猊下のご厚情、誠に恐悦至極に存じます」
「それでは、本日の話は以上です。道中お気をつけてお帰り下さい」
「教主猊下の今後ますますのご健勝をお祈り申し上げますわ。では、御前失礼致します」
そう言って、私は教主猊下の前を辞した。執務室の扉が神官によって開かれ、そのまま退室した。案内されて教主殿の外に出て、レイテアと合流した後、転移門でロイドステアの大聖堂に転移した。
大聖堂で待っていた大司教台下に、帰って来たことを報告した。まだ午後に入った所だったので、馬車の行先を魔法省にして貰った。到着し、大臣の所に報告に行くと、すぐ陛下にも報告するように言われた。やっぱりか。
そのまま王城に行き、謁見の申請をしようとしたところ、今から執務室で話を聞くと言われ、侍従に案内されて、陛下の執務室に入った。挨拶の後、今回の件を報告する。
「ふむ、すると、神子殿は、そなたの資質を確認するために呼び出したのだな」
「はい、その通りでございます。また、各国の諜報活動を考慮し、急な日程となったようです」
「そうか。それで、神子殿にはどのように判断されたのだ?」
「現在の所は、神の御意志に沿う存在である、と仰られました」
「なるほど、今後もそなたのことを注視する、ということだな。心せよ」
「しかと心に刻み、職務に励みます」
「よし。この件は、問題なしとして各所掌に通達する。他に何か話はなかったか」
「教主猊下からは、今後精霊導師として活動する際に、必要であればカラートアミ教の転移門の使用を許可する、というお言葉を頂きました」
「そうか、これからは国外からの依頼が来ても、遠方を理由に断ることは出来んな」
「陛下の命がございましたら、いかなる場所にも赴く所存です」
「分かった。これからも励め」
「今後も陛下と国家の為、尽させて頂きます」
とりあえず陛下への報告は終わった。魔法省へ戻り、大臣にも報告が終了したことを伝え、その日の勤務を終えた。
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