第097話 神子との会談 1
お読み頂き有難うございます。
宜しくお願いします。
重力?魔法については、私も暫くの間は週1回魔法研究所に様子を見に行って、室長達の習得を支援することになった。まあ、私が発案したわけだし、そこは当然だろう。
ということで、通常通り朝に魔力操作の練習を見て、執務室に帰ると、ニストラム秘書官と一緒に、神官の方がいた。ニストラム秘書官が
「導師様、神子様の使者が、導師様にお伝えしたいことがあるということです」
神子様って、所謂カラートアミ教の教主猊下のことだよね……とりあえず、話を聞こう。
「使者の方、教主猊下が、私に何用でございましょうか」
「実は、2日後に、教主殿に来て頂きたいと、神子様が仰っております」
まあ、教主猊下が忙しいのは解るけど、決め打ちか。今はそこまで忙しくはないので、こちらの業務調整は大丈夫だろうが……何の用だろうか。
「2日後、と仰るということは、転移門での移動が前提ですわね。具体的な内容によるのでしょうが、その日にはこちらに戻れますの?」
「はい、神子様は、精霊導師となられた貴女と一度お話をされたい、ということでしたので」
察するところ、面接みたいなものか。本当にそれだけなら、その日で帰れるな。
「承りましたわ。ニストラム秘書官、業務調整をお願いします。私は、大臣に報告します」
とりあえずそこで話を終えて、教主猊下の使者は帰り、私は大臣に報告した。
教主猊下の所に行く日となった。いつものようにお兄様を見送り、導師服に着替えて……と、ここまでは普通通りだったが、今日は大聖堂の馬車が迎えに来た。一応聞いてはいたものの、やはり違和感がある。レイテアも護衛として御者席に乗っているが、居心地が悪そうだ。そのまま大聖堂に向かうと、入口には大司教台下が待っていた。
「導師殿、本日はお忙しい中、ようこそお越し下さいました」
「大司教台下、教主猊下が私をお召しになられたのですから、当然でございますわ」
そのまま、大司教台下に案内され、転移門の位置に移動する。
「こちらがクェイトアミ山と繋がっている転移門です。あちらでは、別の者が案内いたしますので」
「有難く存じますわ。では、転移いたします」
私とレイテアは、そのまま転移した。風景が変わり、目の前に神官がいた。
「導師様でいらっしゃいますか?私は案内をさせて頂く者でございます」
「精霊導師のフィリストリア・アルカドールです。ご案内をお願いします」
そのまま、案内役の神官の後に続き、暫く歩いた。
一応、カラートアミ教の組織などはある程度教わっている。ここは本部のあるクェイトアミ山の神域だ。
サウスエッド国とヘイドバーク国の境に位置し、前世でいうところのバチカン市国的な扱いを受けているそうだ。赤道に近い筈だが、高地にあるので、さほど暑くない。ただ、いきなりやって来て高山病にならないのは、この神域に何らかの力が働いていると思われるが、そこについては文献に載っていなかったので判らない。
神域内を統括するのは神域長で、組織的には大きく分けて神学部、浄財部、神殿部がある。神学部は、教義に関する研究や教育・伝道を司り、浄財部は、資産の運用や各国通貨発行の調整を司り、神殿部は、神域内施設や警備を司っているそうだ。
そして教主である神子は、代々神託により指名され、就任している。当代の教主猊下は、アドナーシェ・ユール・テムトックという方で、確かネルセーデルという国の出身だと聞いている。そんなことを考えながら、教主殿に到着した。ここの入口でレイテアは待機し、教主殿内に入る。教主殿自体はさほど大きくない。入口からすぐの所で、案内の神官が止まった。ノックをして
「神子様、導師様が来られました」
「お入りになって下さい」
中から穏やかだが、力強い男性の声がした。案内の神官が部屋の扉を開け「どうぞ」と言われたのでそのまま入る。特に指定は無いだろうから、最上位への礼を行うため跪く。暫くして
「ようこそいらっしゃいました、精霊導師殿」
と声がかかったので、こちらも挨拶を言う。
「ロイドステア国精霊導師、フィリストリア・アルカドールでございます。本日は教主猊下にお招き頂き、誠に恐悦至極に存じます」
「どうぞ、お顔を上げて下さい」
許しが出たので、顔を上げる。これはこれは、なかなか逞しいお方だな。
「本日はわざわざ転移門でお越し頂いたのですが、少しお話をさせて頂こうと思いましてね。ここでは込み入った話はできませんので、執務室の方に場所を移しましょう」
「承知致しました」
私は一旦謁見室から退室し、暫くして、神官の案内で執務室に向かう。神官が扉を開けたので中に入る。教主猊下が座っていたので、再び礼をしようとすると「先ほどの礼だけで結構です」と止められ、そのまま席に座る。修道女が、お茶を注いでくれた。
「さて、導師殿。これは一応貴女の為人を確認する、という意味で設定させて頂いたものですが、大まかな所はロイドステア国支部長から伺っております。ですので気楽に話を聞いて頂きたいのです」
と言われても、こちらとしては警戒しないわけにはいかないのよね。
「わざわざ教主猊下が、私などを直接確認されるのでしょうか?」
「おや、貴女はご自身を過小評価していらっしゃるようだ。貴女の存在は、既に世界に影響を与えつつあるというのに。恐らく今日のこの会談も、内容を知りたいと世界各国の諜報組織は考える筈ですよ」
なるほど、だから決め打ちの様に設定して、対応の暇を与えない様にしたのか。
「そのようにご配慮頂き、恐悦至極に存じます」
教主猊下は、ふむ、と呟き、私に言った。
「私が確認するのは、貴女が神の御意志に沿う存在か否か、それだけです」
「私が存在するのは、神の思し召しですわ。神の御意志に反するなど、考えたこともございません」
いや、実際神様が転生させてくれなかったらここにはいないし、逆らう気など毛頭ありませんよ?
「まあそうでしょうな。実は私はあまり話すことが得意ではありませんでな。貴女の話すことの真偽は判別できないのです。私が出来るのは、相手と剣を交え、資質を量ることだけでしてな」
すると、今までの穏やかな雰囲気が、突如武芸の達人のような雰囲気に変化した。
「あら、私に剣を取って戦え、と?これでも貴族令嬢として育てられたのですが」
「御謙遜を。貴女は何らかの武術を修めていらっしゃるように見受けられます」
ふむ、どうやらこちらの力をある程度読み取れるくらいの剣の達人ということか。さてどうするか。
「では、どう致しましょうか。ここで戦うのは難しいのでは?」
「こちらへいらして下さい」
執務室の隣の部屋に移動した。割と広い部屋だが、何もない。いや、剣が置いてあるな。
「こちらで少々手合わせして頂きましょう。私はこちらの木剣を使います。貴女は?」
「私はこちらの棒を使わせて頂きますわ」
異空間に収納されていた棒を取り出すと、一瞬驚いた顔をしたが、すぐに元の表情となり
「棒を使われますか。これは面白い。おい、入れ」
教主猊下が大声で入れと言うと、神官兵らしき人が入って来た。審判だろうか。
「神子様……精霊導師とはいえ、このような少女を相手に対戦なさるのですか?」
「まあそう言うな。だが、この方はお前の思うようなやわな方ではないぞ」
「……判りました。では、審判を務めさせて頂きます。魔法は使用しないで下さい。あと、多少の怪我ならすぐに治せますが、できれば怪我のないようお願いします」
「承知いたしました」「承知」
「では、こちらに立って下さい」
なし崩しに教主猊下との対戦をすることになってしまったが、これはこれで貴重な経験だ。
お目汚しでしたが、楽しんで頂けたのであれば幸いです。
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