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第6話

 2週間後、俺は第一種運転免許(限定)と銃砲刀剣類所持ライセンスを取得した。本来自動車の免許は18歳以上の年齢制限があるが、魔術学園では学生のうちからインターンとして各所で活動しなければならないので、あらゆる制限に関係なくライセンスを得ることができるのだ。

 そして免許取得の翌日――つまり今日、俺は先日アリスが購入したベントレーのフライングスパーに乗り下道で東中野にある魔術学園を目指していた。

 免許取り立てなのに2500万の高級車はマジで緊張する。しかも俺の車じゃねーし朝ラッシュだし。

 でも朝の満員電車に乗るよりは遥かにマシだ。寿司詰めで息苦しいし加齢臭のオッサンが近くにいたら息が詰まるし、痴漢とか疑われないように気を張りつめる必要もある。あんな疲れる登校をするよりは全然いい。

 大江戸線麻布十番〜東中野間外回りで根を上げている俺にとってはメトロ東西線や総武線各駅停車、JR横須賀線に乗る人はマジですごいと思う。混雑率200パーセント近いこれらの路線に比べれば大江戸線はほんの少しはマシだ。

 とはいえ満員電車は嫌だし特にアリスはちっこいから窒息しかねない。だから今日からは車登校だ。アリスも免許は持っているが身長が小学生なので視界が悪すぎるため運転はしたくないという。俺は2週間でアリスの便利な足になったんだな。

 カーナビを使いつつ下道で事故なく魔術学園東中野キャンパスに到着した。アリスは首都高を使ってもいいと言ったが、俺は下道も覚えたかったので今日は下道を利用した。明日は首都高を使ってみるが、金を払うのはアリスだし下道と5分くらいしか変わらないらしいので下道を使うべきだな。



 2週間通って魔術学園にもだいぶ慣れてきた。他の高校にはない独特すぎる雰囲気とノリ、特殊な教科と実践……そのすべてが俺の新たな日常生活になりつつあった。

 朝来るとクラスメイトから「おはよう」と言われる。俺はまずそこに感動した。前の高校ではサッカー部のくせにネクラキャラだったので、誰にも「おはよう」なんて言われたことはなかった。ましてや女子になんて。

 だが今の俺には京篝と杉野亮二すぎのりょうじという昼飯を一緒に食う仲のいい友達もいる。こいつらが本当に良いやつで、魔法の授業や実習の班をつくるときにいつも声をかけてくれるし、俺がわからないことを的確に噛み砕いて教えてくれる。

 担任の代々木先生は魔術実践の担当教諭で、明るく陽気な楽しい授業は毎日の楽しみの1つでもある。代々木先生は先生なのでもちろん魔法に精通しているが、俺の自慢の幼なじみもクラスの中では群を抜いて優秀だ。

 魔法は24のルーン文字の組み合わせによりその規模や性質が変化する。たった1文字違っただけで魔術が成立しなかったり、まったく別の系統の魔法になったりする。まあプログラミングみたいなもんだな。

 アリスはそんな繊細な術式を誰よりも速くかつ正確に、そして極小に練り上げることができる。この極小ってのがポイントで、小さければ小さいほど必要になる血液の量は少なくて済むし、術式を刻んでいることがバレにくい。それはつまり魔術師であることがバレにくいということであり、潜入任務において重宝される。アリスの術式は顕微鏡を使わないとマジでわからないくらい小さい。さすがはバレット・スミスといったところか。手先が器用すぎるんだよ。



 放課後。俺とアリスは代々木先生と共に魔術学園の地下武器庫へ訪れていた。先週銃刀ライセンスを獲得した俺の武器選びのためだ。

 機動力を捨ててまで重装備はしたくないが、近距離ショートレンジでも至近距離クロスレンジでも戦えるようにしたいと言うと、代々木先生は「それなら拳銃とナイフがオススメだよ〜。初心者でも扱いやすいし、民間の警備会社ではそれが基本装備だし〜」と。

 拳銃の方は見た目のかっこよさと性能面から日本の自衛隊で現役バリバリのシグ・ザウエル社のP420M18を選んだ。日本で最も多く流通している9ミリパラベラム弾が15発も入り、重さは前モデルのP320よりも30グラム軽い700グラム。射程距離は50メートル。ハンドガンなので取り回しはとてもよく、グリップは大中小の3段階から太さを調節することができるので手によくフィットする。

 刃物系の方はナイフをオススメされたが、アリスが「使いこなせるようになったらこっちの方が強いから」と言って無理やり日本刀を選ばされた。まあかっこいいからいいけどさ……でもこんな長いの、マジで使いこなせないぞ。



 次に向かったのは同じく地下1階にある射撃訓練場。ライセンス講習会で銃火器の扱い方は教わっていたので、アリスと早速30分間撃ち込みをした。10メートルの的であれば基本的に真ん中付近に着弾するようになったが、20メートルや30メートルまで離れると少しの体の揺れで着弾点を大きく変わるのでまだまだ練習が必要そうだ。あと体幹のトレーニングも。

 対してアリスは50メートル離れた人型の的でもほぼ狙い通りに射抜いていた。マジで自衛隊レベルだぞアリスの射撃の腕前。



 そして本日最後の予定は目白道場への入門である。

 目白幸隆めじろゆきたか72歳。通称爺さん目白は3人の子どもと7人の孫と3人のひ孫を持つ高等部1年生。そう、72歳なのに高校1年生なのだ。

 歳で鈍ったものの第六感(直感)と剣術・剣技は未だに世界トップレベル。元プトレマイオス候補で、二つ名には魔女殺しのサムライや大剣豪などがあり、妖刀村正の現在の保持者でもある。

 プトレマイオスってのは魔法管理機関(MMO)のイギリスにある総本部(魔法院)の内部組織の1つで、魔術師や能力者の魔法や能力を用いた犯罪行為の抑止力として法院が定めた48人のこと。

 使用する魔術や能力が強力な上に、その権威が広く認められている(もしくは将来認められそうな)者のみが選出される。つまり爺さん目白は世界に10万人いるといわれている異能力者の中でも2桁台に君臨していた猛者というわけだ。しかも爺さん目白は異能力の中でも最強といわれる第八感覚や大魔法を使えないというのでさらに驚きだ。

 そんな過去を持つ爺さん目白は第二の青春を謳歌するためにこの学園に入学したという。たしかにこの学園じゃなきゃ70過ぎのおじいさんを入学させることはないな。

 そして今日、俺は爺さん目白の道場に入門した。入門理由は日本刀を使いこなせるようになるためである。目白道場は目黒にあり普段は小中学生を中心に剣道を教えているようだが、魔術学園の生徒に対しては特別に真剣を使った剣術や剣技を教えているという。

 とはいえ今日は入門手続きのみ。修行は明日からだ。今日は家に戻ってアリスと宿題でもやろう。



 実はアリスは料理が上手。昼こそ温かいのを食べたいということから学食だが、俺よりも早く起きて朝ごはんを作ってくれるし、夜なら俺のリクエストに答えてかなり凝ったものでも作ってくれる。マジで母さんみたい。



「今日はハンバーグをつくるわね」



 アリスは半分振り返りつつ、小学生が使うちっちゃなエプロンを首にかけお腹の前で帯をリボン結び。台に乗ってニコニコ笑顔で料理を開始する。

 ちっこい小学生の幼妻が夫のために一生懸命料理を作る。そんなシチュエーションの漫画を読んだことがある。俺たちは夫婦ではないが、俺はそれに似たシチュエーションを毎日体験している。

 魔術学園に転校してなかったら俺はずっと一人暮らしだったから相変わらずコンビニ弁当ばっか食っていただろう。コンビニ弁当は食い続けてると日に日にテンション下がってくからな。手作り料理を毎日食べられるのは本当に幸せだ

 ちっちゃいおしりをふりふり。黒いポニーテールをぷらぷらぷら。ノリノリで楽しそうにお料理している。そしてあのうなじ……小学生体型に不釣り合いなくらいのエロスを感じる。アリスは体こそロリだが、時々所々にエロスを感じてしまう。なんでだろう……?

 って俺は何を考えてんだ。こいつは幼なじみだぞ。そういうのはなしだ。



 しばらくして、



「できたわよ。さあ食べましょ」



 ハンバーグが完成した。アリスはエプロン姿のままワンプレートに盛り付けたハンバーグを俺の前に置き、水まで注いでくれる。何から何までやってくれるからつい色々と甘えちゃうんだよなぁ。

 俺とアリスは向かい合わせに座り、



「「いただきます」」



 で同時に食べ始める。



「うん。今日もおいしい」



「当然よ。あたしに作れない料理はないんだから。(小さい頃ら花嫁修業してきたんだもん)」



「小さい頃から?」



「な、なんでもない!」



 アリスは何故かまんまるほっぺを桃色に染めた。よくわかんないけどハンバーグがおいしいからなんでもいいや。



 ご飯が終わったら皿洗いだ。とはいえ使った食器を全部食洗機に入れて30分くらい待ってれば洗浄も乾燥も完了してるんだけどな。

 その間にお風呂にお湯を張って順番に入る。日替わりで一番風呂を交代しているのだが、今日はアリスが一番風呂の日だ。

 アリスはバスタオルと着替えのパジャマと下着を持って脱衣所へ向かう。

 しばらくしてアリスがパジャマ姿かつ髪の毛を下ろした状態でリビングに戻ってくる。子どもっぽいパジャマにしっとりとした長い黒髪、火照る頬や桃みたいに甘酸っぱくてフルーティーな匂い……そのすべてが小学生みたいでものすごく庇護欲を掻き立てられる。

 次は俺が風呂に入る番なのだが、アリスの次に入ると毎回不思議に思うことがある。それはお湯が一番風呂よりも柔らかく感じるということだ。これはどういう原理なんだろう? アリスのダシが出てるからか? ダシでお湯は柔らかくなるのか? なんか変な感じがするから考えるのはもうやめよう。いやまあアリスの出汁ならべつにいいんだけどさ。



 風呂上がりはリビングでくつろぐ。2人でソファに座ってテレビを見たりユーチューブを見たり、ゲームをしたり宿題をしたり……まあ色んなことをする。俺とアリスはそれぞれ小部屋があるが使うのは寝るときくらいで、2人とも普段はリビングにいる。

 夜12時になったら歯を磨いておやすみ。それぞれの部屋のベッドに入って寝る。俺の場合は大抵スマホを見てダラダラしているうちに1時とかになっててそのまま寝落ちするんだけどな。



 朝6時30分、アリスは起床して朝ごはんを作ってくれる。そして7時になるとエプロン姿のまま俺を起こしに来てくれる。肩を揺すられれば起きるのに、アリスは「起きなさーい!」と言いカーテンを勢いよく開けて太陽の光で起こしてくる。

 これが地味にストレス。それでも起きないときは馬乗りになって体を揺らしてくれる……のはマンガやラノベだけで、現実では腹を殴られて無理やり起こされる。朝から腹パンは最悪だけど、こうして毎朝起こしてもらえるのは素直に感謝だな。

 あれ……? 今気づいたんだけど俺とアリスって子どもと母親もしくは夫と妻みたいな関係じゃね? これ絶対幼なじみの関係値を超えてるよね!

 そんなことを考えながらベントレーを走らせていると、



「ほら青になったわよ」



 助手席のアリスに注意されてしまった。



「あ、おう」



 俺はあわてて車を発進させる。車の運転中に考えごとは禁物だな。事故の原因だ。教習所の適性検査でもそんなことを注意されていたな。

 さて、今日から本格的に拳銃と刀の特訓期間が始まる。まずは拳銃と刀を最低限扱えるようになって、色んな職業のインターンを体験できるようにならないとな。

ご閲覧ありがとうございます!

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