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第5話

 午後は魔法学と魔術実践の授業だ。

 魔法学に関しては正直何をやってるのかさっぱりわからなかった。体内由来の魔力粒子を構成する素粒子がどうとか、魔力源由来の魔力粒子に比べてこうだとか……知らない単語が多すぎて板書すら放棄してしまった。

 それもそのはず、魔法学は中等部1年生から習ういわば数学のような積み重ね科目らしいからな。中等部の3年間がない俺にはわからなくて当然だ。

 魔術実践は座学ではなく実際に魔術を使用した実践的な科目なので、知識がない俺にも楽しめた。魔術はルーン文字に動物の血を付着させてることで展開され、ルーン文字を8つ並べたルーンユニットが術式の展開に必要な最小単位だそうだ。今日はルーンユニットを3つ組み合わせて術式を作り、それに豚の血を付着させることで魔法を発動させた。

 俺は今日生まれて初めて魔法を使ったんだがめちゃくちゃ楽しかった。ハワイの射撃場で初めて銃を撃ったときと似た感覚だったな。

 そして魔法は案外誰にでも簡単に使えるものということがわかった。魔法は他の異能力のように先天的な才能や後天的な努力は必要ない代物らしい。

 そういえばこの学園を卒業したら軍人になるか一般人に戻るかって言ってたけど、具体的にはどんな進路なんだろう。

 午後の授業も終わり帰路を歩く俺は隣のアリスに話しかける。



「なあアリス。模擬戦前にもちらっと話したけど、魔術学園を卒業したらどんな職業に就けるんだ? 具体的には」



 アリスは帰り道に買った今川焼きをもぐもぐ頬張りながら、



「そうね、まず7割は専門職に就いて3割は一般人に戻るわ。専門職のうち30パーセントが魔法管理機関――通称MMOに就職して、20パーセントが民間の警備会社に、同じく20パーセントが警視庁、17パーセントが自衛隊、13パーセント海上保安庁に就職するわ」



 と。そして俺が抱える大量の今川焼きが入った紙袋から両手に今川焼きを取り、再びあむあむもぐもぐ……。どうして俺が荷物持ちなんだ? この今川焼き全部アリスのなのに 。

 学校のカバンもでっかい紙袋も俺が持ってやってるんだし、それに30個も買ってたんだから、1つくらい食べる権利はあるよな? そう思って片腕で紙袋を支えつつ逆の手で紙袋に手を突っ込もうとすると、



「バカ!」



 アリスにケツを回し蹴りされた。

 俺は前につんのめって紙袋を持ったままコケそうになるが、なんとか耐えて今川焼きを1つも落とさずに済んだ。



「っぶねぇな! 何すんだよ!」



 叫んでアリスの方を向いた瞬間、口に何かを突っ込まれた。ほんのり温かく、噛むと柔らかくて中にはあんこが入っている。今川焼きだ。



「食べたいならそう言いなさいよ。あたしが食べさせてあげるから。だから両手でしっかり持って。1つでも落としたら……落とした倍買ってきてもらうわよ! で、どう? おいしい?」



 俺はリスみたいにもぐもぐ……、



「めっちゃおいしい」



「よかった。あたしのお気に入りなの」



 あれ? そういえばアリスは両手に食べかけの今川焼きを持っていたよな? なんか1つない気がするんだけど……まさかな? まさか今俺の口の中にあるのがアリスの食べかけなわけないよな? さすがに咄嗟に1つを食べて新しいのを口に突っ込んでくれたんだよな? じゃないと俺たち……間接キスしたことになっちゃうぞ! ……いや何を今さら間接キスごとき気にしてんだ。小さい頃は散々間接キスくらいしてきてただろう。



「毎日こんなに食べてんのか? 太るぞ?」



「今日はあんたがいるからいっぱい買っただけ! いつもは(半分くらいしか)……買ってないから! 全然!」



「本当か? きのうの夜も今日の朝も今日の昼もめちゃくちゃ食べてた気がするんだが……」



 小学生みたいにチビなのに俺の3倍は食ってたからな。その体のどこにそんな量が入るんだ。



「あ、あたしは食いしん坊じゃない! むぅ」



 アリスはほっぺをぷくぷく膨らませる。なんだよその仕草……ちょっとかわいいじゃないか。

 俺はアリスのまんまるほっぺを両側から押し潰しながら、



「あんなに食べても縦にも横にも大きくならないの、ほんと羨ましいよ。俺すぐデブっちゃうからさ」



「縦にもは余計よバカ! これでも毎年1ミリは伸びてるんだから! てかあたしが食いしん坊だったらなんか文句あるわけ!? (もしかして……隆臣は食いしん坊が嫌いなの?)」



「え? なんて?」



「なんでもない!」



「いてッ!」



 アリスはまた俺のケツを蹴ってきた。イライラしたらすぐに俺のケツ蹴るのやめろマジで。



「あんたのせいでだいぶ話が脱線しちゃったわ。えーと、就職の話よね? まずはMMOから説明するわ。警察の特殊部隊が武力をもって武力を制圧するのと同じで、魔法管理機関も異能力をもって異能力を御するの。東京支部の戦闘員はおよそ3000人で、みな高い戦闘能力を有しているわ。学園からも毎年10名推薦されてる。全員が戦闘員になるわけじゃないけど」



 3000人の戦闘員って多いのか少ないのかよくわからないけど、その3000人のおかげで平和な暮らしが保たれているってことか? いつもありがとうございます!



「次は民間の警備会社ね。魔術学園の生徒は基本的に誰でも異能力を使えるから警備には向いているわ。けど仕事場によっては異能力の使用が禁止されている場所もあるから、魔術学園の生徒だからといって一般人より就職に有利になるとは限らないらしいわよ」



 街中の至るところで見かける警備員ももしかしたら魔術学園のOB・OGかもしれないな。



「最後に警視庁、自衛隊、海保なんだけど、魔術学園を卒業した異能力者は特殊部隊に配属されるわ。警視庁なら特殊事件捜査係のSIT、特殊急襲部隊のSAT、公安零課。自衛隊なら陸自の特殊作戦群SFGpや陸上魔法作戦部隊GMFU、海自の特別警備隊SBUや海上魔法作戦部隊MMFUがあるわ。海保は特殊警備隊SSTと魔法特殊警備隊MSSTよ」



 今まで存在すら知らなかったけど、これらの職業が俺の進路選択肢の1つになるんだもんな。特殊部隊ばっかだけど、裏の世界ではそれほど異能力者が必要とされているってことなのか?



「アリスは何になりたいんだ?」



「あたしはMMOかなーたぶん。それよりもあんたのことよ。何になるにしても自動車の免許と銃刀ライセンスだけは取っときなさい。そしたら車の運転と銃刀類の所持及び使用が認められるから」



 アリスはそう言って俺のブレザーの胸ポケットから端末型学生証を勝手に取りだし、



「明日から2週間で普通自動車の限定免許を取ってもらうわ。それと並行して1週間で銃刀ライセンスも取ってもらうから。詳しいことはあとで見といてね」



 ポチポチポチ……。勝手に操作してライセンス講習の予約を入れられてしまった。けど転校して早々何をすればいいかわからなかったからまあいいか。

 アリスは俺の学生証を胸ポケットに戻しニッコリ笑って、



「じゃあこっから家まで競走よ! よーいスタートっ!」



 とか言って走り出してしまった。



「ちょおい!」



 こちとら2人分の荷物とデカい紙袋持ちだぞ! 走れるわけねーだろ!



「ったくあのチビ」



 俺は今川焼きの紙袋を落とさないように小走りでアリスの背中を追いかけた。

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