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第4話

 闘技場を離れる直前に代々木先生にあるものを投げ渡された。それは魔術学園の生徒であることを証明する大事なもの――すなわち学生証である。

 この学園の学生証は電子端末で、これ1つで学生情報や時間割、行事予定表や学園からのお知らせを確認したり、ライセンス講習の予約や食堂や校内コンビニの商品の購入をすることができる。この端末は学園内にいれば自動で充電がされるらしい。魔術学園なのに超ハイテクだよな。

 どんなライセンスがあるのか気になったから見てみたんだけど、各種車両運転ライセンスとか爆弾処理ライセンスとかがあった。そしておそらくアリスは銃砲刀剣類所持ライセンスを取得していたため拳銃を持っていたんだと思う。



 8時30分に朝のホームルームが始まるので、それまでの約1時間、アリスに高等部の校舎内を案内してもらった。一般教室棟、特別教室棟、体育館、図書館、講堂、食堂、コンビニ、文具店などなど。

 その後俺は一旦職員室へ向かい代々木先生と共に教室に入り、自己紹介をしてA組のみんなと初対面。男女比は半々で、人数は俺含めてちょうど30人。かわいい子もいればブサイクもいるし、イケメンもいればデブもいて、インテリ系もいればオタク系もいる。人数は少し少ないけど前の高校となんら変わらない至って普通のクラスって感じだ。

 俺は後ろの席の京篝みやこかがりという男子生徒とすぐに打ち解けて仲良くなった。彼は初等部からの入学で魔術学園歴はアリスよりも長い。見た目はバカっぽいけどAクラスにいるくらいだからかなり優秀なんだろう。

 転校で一番不安だったことの1つは友達ができるかどうか。俺は普通の高校から来たけど他のみんなはエスカレーター的に上がってきた人がほとんどだから、上手く馴染めないんじゃないかと思っていたが、みんな優しいしそんなことはなさそうだ。実際最初は母さん譲りの水色の髪の毛と青色の瞳にみんな驚いていけど、みんな外見で人を判断するような人ではなく気さくに話かけてくれた。

 午前中の4時間はどんな高校でもやらされるいわゆる必修科目の時間。転校しても相変わらず俺は勉強が苦手で板書を写すのがやっとだった。

 さて昼休みだ。昼休みはアリスと食堂で食事をしながら色々話をする予定。



「行くわよ」



「おう」



 アリスと俺が一言ずつのやり取りをしただけなのにクラス全体が急にどよめき始めたぞ。

「アリスちゃんから男子に話しかけるのって珍しいね」「え? アリスちゃんと隆臣君って知り合いだったの?」「冴えない感じなのに……神代さんはああいうのがタイプなのかな?」と女子たちが。

「おいあの転校生、神代から話しかけられてんぞ!」「ずるいぞ転校生! 神代さんと飯食うなんて!」「神代告んのか?」と男子共。

 え、なに? 男子からも女子からも大人気じゃん。アリスはクラスのマドンナ的な存在なのかな?

 すると篝が、



「まさか神代さんとそんなに仲良くなっていたなんて。お前も隅に置けないなぁ」



 と。



「いやどうか隅には置てくれ。俺とアリスはただの幼なじみなんだ。付き合ってるとかじゃないから勘違いしないでくれ」



 そう。俺とアリスはただの幼なじみ。だから一緒にご飯だって食べるし、頻繁に会話もする。それは幼なじみならば当然のことだ。



「幼なじみ!? ちょ隆臣、耳貸せ」



「ん?」



 篝は小声で、



「(いいか隆臣。この学園には神代さんのファンクラブなるものが存在する。彼らは神代さんの熱狂的なファンで、神代さんが鼻水をかんだティッシュを採取したり、神代さんが使用したストローを採取したり、神代さんの残り香を採取したりしているんだ)」



「(ただの変態じゃねーか。むしろ犯罪者に近いぞ)」



「(ああ、ヤツらは危険なんだ。神代さんには今まで一切の恋沙汰はなかったが、今日幼なじみであるお前が転校してきて、2人はまるで恋人のように親密。何が言いたいかわかるな?)」



「(つまり、アリスのファンクラブに襲われる可能性があるからあんまり親しいように見せるなってことか?)」



「(そういうことだ)」



「(忠告ありがとう)」



 篝の忠告を心に留めつつ、



「行こうアリス」



 俺はアリスと共に食堂へ向かった。



 食堂は既に激混みだった。席が空いてればいいが。

 アリスはクラスだけでなく高等部全体でも有名なのか、絶世の美少女が冴えない男子生徒と一緒にいるのが不思議らしく、好奇の目が向けられている。

 料理受け取りの列に並び学生証端末で好きな料理を注文。受け取り口手前にある機械に端末をかざすことで厨房にオーダーが行き、料理が作られる。あとは受け取るだけ。

 俺は420円のソースカツ丼、アリスは1000円のステーキランチをお盆に乗せて席に着く。てか昼からステーキかよ。金持ってんなぁ。まあ南麻布に家持ってるくらいだから当然か。



「「いただきます」」



 3年空いても幼なじみ。息ぴったりでいただきますをして昼食を開始する。

 午前中は授業があってまったく話せなかったけど、聞きたいことは山積みなんだ。

 何から質問しようか迷っていると、逆にアリスから質問を受けた。



「朝の模擬戦、あんたどうしてあたしの攻撃が避けられたの? マグレ? それとも第六感?」



「マグレでも第六感とかいうのでもないよ。声が聞こえたんだ。頭の中に直接」



「声?」



「女の子だった。その子の指示に従っていたら俺はお前の攻撃を躱せたんだ」



「ふーん。そういうこと」



 アリスは自分から聞いといてあんまり興味なさそうだ。



「どういうことだよ。アレは一体なんだったんだ?」



「教えない」



「なんで!」



「まだ教えない。教えたくないんだもん……」



 ステーキもぐもぐアリスは不機嫌そうに言った。自分で質問しといて勝手に不機嫌になるなよ。精神年齢も小学生のままなのかコイツは。



「まあいいや。今度は俺からの質問だ」



 この学園に転校が決まってから……いや、生まれてからずっと気になっていたことだ。



「魔法って……なんだ?」



 俺の中で魔法は時間や空間と同じように漠然とした概念でしかなかった。だがここは魔術学園――日本で最も魔法に精通した場所。アリスならきっと判然とした言葉で説明してくれるだろう。



「難しい説明をしてもどうせわからないと思うから簡単に説明するわ。大前提として異能力は魔法、上級感覚、特殊体質、ガイストの4つに大きく分類されるわ。まずは魔法の説明から。魔法ってのは魔術により導かれる超常現象――つまり結果のことで、魔術は魔法を導くための方法……つまり原因のことを示す言葉なの。魔術を行使すると魔法が発生する。これは大原則だから覚えておくように」



 魔術が原因で魔法が結果ね。科学でいうところの「水素に火を近づける」ってのが魔術で「爆発が起こる」ってのが魔法ってわけか。うん、なんとなく理解した。



「上級感覚には第六感覚、第七感覚、第八感覚、第九感覚の4つ種類があるわ。第六感はすべての人に潜在する五感を超えた感覚のことで、直感や霊感がこれに当たるわ。他の上級感覚に比べて地味だけど、極めれば目を瞑ってでも敵の攻撃を避けられるわ。ちなみにあたしの第六感は一般人並なの。どう頑張っても上達しないのよね。

 んで第七感覚はチャネリングとも呼ばれていて、霊獣、神霊、宇宙的存在などと交信する能力のこと。交信の際にはその相手の能力を一時的に借りることできるわ。第七感覚でチャネリングした相手と同化する能力を第八感覚といって、第七感覚よりも強力な能力を発動することができるの。ただし第八感覚を使用するには交信相手と契約を結ぶ必要があるし、契約相手が自分の体に降臨して同化するまでにある程度の時間を要するわ。ちなみにあたしは朱雀と鳳凰とフェニックスと契約しているの。だから”不死鳥”の性質であたしはどんな傷でも一瞬で治癒することができるのよ。

 そして第九感覚は五感が発達した最もシンプルな上級感覚で、特殊体質と混同されやすいけど第九感覚は”超望遠”とか”超聴力”みたいに発達部位が限定的なものなの。だから高IQとか完全記憶も第九感よ」



 これでも簡単に説明してくれたんだろうけど……、



「すまん。あんまよくわからなかった。もっと簡単に説明してくんない?」



「そうねぇ。第六感は直感、第七感と第八感では神の力さえ使えて、第九感は異常に目がいいとか異常に耳がいいとかそんな感じ。こんなんでどうかしら」



「おう。最初からそれでよかった」



「あれでも十分簡単に説明したわよ。今のは簡単ってよりは単刀直入っていうのよ」



 アリスは顔を引きつらせて不機嫌になりつつも説明の続きをしてくれる。


「次に特殊体質ね。これは霊媒体質だったり耐毒体質だったり、ショートスリーパーとか体が異常に軟らかいとかも特殊体質に含まれるわ。特殊体質はその異常性が体全体に及ぶものもしくは体全体に関与するもののことを云うの」



 特殊体質はわかりやすいな。てか特殊体質も異能力に分類されているのは初耳だった。



「最後にガイスト。これは……いずれあんたのガイストが実体化したときに説明してあげるわ。上級感覚くらい複雑だから今日説明してもあんたの頭ならパンクするでしょ?」



 いやもう半分パンクしてますがな。特に上級感覚が複雑すぎてよくわからんかった。けどこの程度のことは初等部の子たちですら知ってる基礎中の基礎だもんな。俺も頑張って覚えないと。

 そして今質問したいことを思い出した。



「そういえばアリスってなんでそんなに金持ってるんだ。ヨーロッパにいた3年間で一体何があったんだ?」



「あたし、めちゃくちゃ器用だったみたいなの。たぶん特殊体質。フランスのおじいちゃんの仕事の手伝いで銃弾の加工をしていたんだけど、世界でも片手で数えられるくらいの職人しかできない”発射直後に展開する術式を弾頭に刻み込む加工”ができちゃったの。それで色んな特殊な銃弾を作って売って大儲けってわけ。おかげで”バレットスミス”っていう二つ名まで頂いたわ」



 アリスは胸さえ張らなかっけど少し誇らしげな表情で言った。まあ張る胸もないけどね。



「本当に変わっちまったな、お前。なんか……遠く感じる」



「……」



 おそらくアリスはこの3年間努力してきたんだろうな。バレットスミスとして特殊銃弾をハンドメイドで量産したり、学校生活でも成績上位10パーセントのみが所属できるAクラスに中等部から4年間連続で所属したり……これを努力なしでできるものはいない。

 それに対して俺は何をしてきた? ろくに勉強もせず家でアニメ見たり漫画読んだりゲームしたり。自分の才能を見つけようともせず、ただただ寝て起きて学校行って遊んで寝てを繰り返して毎日を浪費したきた。高校ではサッカー部に入ったがその目的も女子にモテたいから。

 アリスという優秀な幼なじみと並んで初めて自分の3年間が空虚なものだと自覚できた。

 もし俺が通り魔に刺されたいなかったら(もしくは謎の少女に殺されていなかったら)……アリスと再開できていなかったら、俺は一生あんな生活を続けていたのか?

 ああ、アリスにまた会えて本当によかった。この転校は過去の俺との決別を意味している。もう時間を浪費するのはやめよう。俺はアリスに追いつきたい。もう一度同じ地面に立って同じ景色を見たい。俺たちは幼なじみなんだから。

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