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【六:肩の荷が降りたので油断しました】

午前の授業が終わった。昼食の時間だ。自習時間に決意を固めたからなのか今はすこぶる機嫌がいい。

 ……だって「悩み」がなくなったのだから。

「(あ〜!気分最高!これで晴れて自由の身‼︎)」

 もう主人公とか攻略キャラの行動にビクビク怯えなくて済むんだ!私(俺)は適当にお嬢様として振る舞っていればいいんだ!ふっふっふ足取りが軽い。肩の荷が降りたからな!

 ルンルン気分で食堂へ向かう。アイリッシュたちと待ち合わせをしているのだ。今から普通の学園生活を送るのだ。何にも縛られない生活。

「エカチェリーナさん!こっちですよー!」

 奥の席の方からアイリッシュが手を振っている。いい席取れてるじゃないか。彼女の隣にはジンも座っている。

「ありがとう、アイリッシュ。……あら、マリスがまだみたいね。授業が長引いているのかしら。」

「さっきマリスくんのクラスを覗いたんですけど、マリスくん先生にこき使われてました。多分次の授業で使う道具を運ぶように言われたんでしょうね。」

「マリスは僕を普段から『お人好し』って小馬鹿にしたように言うけど、マリスも結構お人好しな所があるね。」

「ふふ、本人には可哀想だと思うけど……人から頼られる存在って思われてるのは悪い気しないわね。」

 ーーーだって原作のマリスは『お人好し』なんて単語が似合わないぐらい性格が悪いのだから‼︎……でも性格云々で明らかになってる部分ほとんどがエカチェリーナ(悪役令嬢)の前でだからな…。「読者には見えていても登場人物には見えないモノ」を提示されてるような。原作アイリッシュの前では…確か「適度な距離で話してくれる後輩」を「演じていた」奴だった。けしてアイリッシュを敵視していたけどそれを隠していた、じゃなくて「敵の身内だけどそれだと警戒されるから事実を隠して接していた」のである。

 隠し攻略キャラは謎も秘密も多いモノだ。


「…ごめんごめん!うちの担任人遣いが荒すぎて困るよー……!もうみんなお昼食べ始めてるよね!ほんとごめんね!」

 休み時間が始まって十分ぐらい経った辺りでマリスが私(俺)たちの席にやってきた。まあ十分ぐらいしか経ってないから大丈夫だよ。というか十分遅れで済んだ義弟はすごいな、と素直に感心してしまった。原作じゃアレだけど。

 

 ……ダメだダメだ。いいか朝比奈ナツメもといエカチェリーナ・アイリス。もうこの世界は「愛の鎖」の世界じゃないんだ。「舞台」と「登場人物(のガワ)」と「声」がある「別世界」なんだ。だから「〇〇(キャラ)は原作じゃああでこうで」なんて考えても無駄なんだ。不毛だ。

 私(俺)はこの食堂にくる前に決めたじゃあないか。

「原作のあれこれに縛られずに第二の人生を楽しもう」

 ……って。

 

 全員揃ったところで新しい話題が挙がった。

「そういえばエカチェリーナさん。今好きな人って居るの?」

 ……⁉︎……っぶふっ⁉︎

 突然こっちに話題を振られた所為か飲んでいた紅茶を前方(マリスの席)にぶっかける所だった。危ない危ない。

「アイリッシュ……いきなり何を言い出すの…?」

「前々から気になっていたので。だっていつも有耶無耶にして何処かへ行ってしまうでしょ?」

 ねぇ、ジンさん。……とアイリッシュはジンにも声をかける。おいコラ婚約者(だった)ジン。この場を何とかせんかい…おっとはしたないことを口走ってしまいました。

 ジンは額に少し汗を浮かべながら、頷いている。貴方って人はねぇ……。

「そうだね、気にならない……って言ったら嘘になるかな。だって僕との婚約が解消になってから君の恋の話なんてめっきり聞かないモノだから。」

「そ、そうね……貴方たちの仲睦まじい様子を見るととっても羨ましいのだけど私(俺)には難しいみたい…。」

 

 どうやら婚約は円満に解消されているらしい。いや円満と解消は果たして繋げていいモノなのか。だから私(俺)は今フリーの状態なのだ。

「私は平民の出だから分からないんですけど、やっぱり貴族の結婚って難しいモノなの……?」

「とっても難しい所もあるんだよ。アイリス商会は結構な規模の組織だから相手は引くて数多だろうけど家柄や人物に関しては物凄くハードだろうね。」

 ジンがアイリッシュに貴族の婚姻について簡単に説明する。そうなのか……と自身のことについて語られているのに他人事のように頷く私(俺)。……何だかお昼にする会話じゃなくなってきたな…うら若き!とか青春!みたいなノリに持っていけないだろうか……。

「じゃあエカチェリーナさんはクラスメイトとかで気になる人とかは居ませんか?この前エカチェリーナさんのことが気になるって言ってた男子が居たんですよ!」

 パッと明るい笑顔で私(俺)のことを気にかけている男子が居ることを教えてくれたアイリッシュ。優しいなぁ。やっぱり主人公属性って強い。主人公なんだけどな、彼女。

 このまま硬っ苦しい貴族の婚姻とかの話題を他所にやって花がいっぱい飛ぶような会話を楽しもう……

 

 ザンッ。

 

 ……としていたが…。

 

 ザクザクッ……ズンッ‼︎

 

 え……?

 前の方で……すごい音が……。

 音の正体は、マリスがフォークでサラダのレタスをフォークで滅多刺しにしている音だった。

「マリスくん⁉︎レタスが無残な姿になってるよ⁉︎」

 いやいやアイリッシュツッコミ微妙にズレてるぞ⁉︎いきなりどうしたんだ…?マリス……。

「……姉さんのこと好きな奴って……居たんだ…。」

 え?レタス滅多刺しの原因私(俺)を好きな奴が居たからなのか⁉︎しかも俯いて影背負ってる!なんで私(俺)の恋話で影背負ってるんだ⁉︎そして不機嫌!

 ……若しかして。私(俺)みたいな悪役令嬢がモテるわけないだろうが……って思ってるのか⁉︎

「マリス落ち着いて!私(俺)みたいな嫌な女が好きな物好きが居るっていうおかしな状況に怒っているのは分かるけれど!」

 私(俺)がマリスを必死に止めようとすると、マリスは私(俺)の言い分に心底呆れたのかマリアナ海溝ぐらい深いため息を吐いてしまった。

 アレ……?更に不機嫌になっちゃった…?

 

 ……こうして気まずい空気の中昼休み終了十分前のチャイムが鳴ったのであった。 

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